25.「4箇所目」かつての勇者とかつての魔王とアルジ
この作品はフィクションです。
「はっはっはっは!実に倅らしいことよ!それでこそ勇者の血を継ぐもの!」
「何が、それでこそ、だ。ただの無謀ではないか。あるいは、蛮勇、と言うべきか?」
「ほほぉ、なかなか言うではないか。だが、無謀も蛮勇も、さらなる高みを目指すためには必要なものだぞ?」
「どこがだ。」
「勇者たるもの!他人が挑まぬ無謀に片端から挑むべし!」
「…相変わらずだな。勇者たるもの、を付けるその口癖。」
「はっはっはっは!これは我が一族代々の口癖よ。我が父も我が倅も、挨拶代わりに毎日使っておるわ。」
「…暑苦しい一族だな。」
「おまちどおさま。」
「お!来た来た。やはりアルジのうどんは、かき揚げと卵乗せに限る!」
「……………。」
「おいおい、命への礼もなくいきなり食べ始めるんじゃあない。魔物の世界じゃそれが当たり前なのか?」
「…魔物の世界は、食うか食われるかの世界。いちいち礼など述べていては、その隙に他のやつに喰われるだけだ。」
「それになんだ。相変わらずの赤一色だな。他の食べ方をしたりはせぬのか?」
「…お前の倅が、ワシの息子に同じようなことを言ったそうだぞ。」
「はっはっは!そうかそうか。さすがは我が倅。それでこそ勇者の血を継ぐもの!」
「だから、何が、それでこそ、なのだ。」
「勇者たるもの!他者に気を配れる存在であるべし!」
「お前のは、いらぬお節介、というやつだと思うがな。」
「…体調悪いのか?」
「…なんだ?急に。」
「以前よりも唐辛子の量が減っているように見えたものでな。なんだ?健康診断に引っ掛かったか?」
「魔物の世界に健康診断など無い。」
「ないのか?」
「無い。」
「ならば健康診断を導入すべきだ!魔王のお前が一言言えば、すぐにでも実施されるのではないか?」
「魔王だからといって、なんでもかんでも思い通りにできるわけではない。それに、魔物の健康の基準は種族ごとに異なる。そんなに簡単に健康を測ることなど出来ぬ。」
「そんなに種族が多いのか?」
「…かつて多種多様な魔物たちを屠ってきたであろうが。」
「はっはっは!戦いから離れて久しい故、すっかり忘れていた!」
「…まったく。浮かばれんな、我が同胞たちも。」
「何を言うか。殺し殺されるのは、人と魔物の古より続く当然の営みであろうが。」
「…まぁな。それを知っているのは、魔王と勇者の一族のみだが。」
「で、そんな営みに疲れ果てて、今は世俗を離れ、屋台を引いて洞窟や迷宮を放浪しているのが、我らの目の前にいる、このアルジ、というわけだな。」
「…茶化してやるな。それも選択だろう。」
魔王も年を取れば、味の好みが変わるもの。




