15.「3箇所目」アルジと上から目線とうんざり〜その2〜
この作品はフィクションです。
「遅かったな。」
「………。」
地底湖のほとり。我は屋台を引く男と相対していた。
この男とは、初対面ではない。どういう関係性かと問われれば、来訪を厳命する我と、命に従い屋台と共に現れる男。そういう関係だと答えよう。
が、今日。本来到着していなければならない時間に、この男は現れなかった。
理由は知らぬ。聞くつもりもない。どんな事情があろうと、我が指定した定刻に遅れてくるなど、他の有象無象であれば、一瞬で灰燼に変えているところである。
だが、
「我は貴様を許そう。」
きらびやかな宝石を散りばめたマントを翻し、我は男に慈悲を与える。
「そいつはどうも。」
なんとも素っ気ない、そして、敬意の欠片もない言葉。他の有象無象であれば、原型を留めぬ程に切り刻んでいるところである。
だが、
「うむ。では、料理にかかるがよい。」
大粒の金剛石を取り付けたロッドを床に突き、我は男に指示を与える。
この男の無礼も不遜も、全てを許しているのは、この男の料理の腕を買ってのこと。加えて、我の懐の深さの為せる業、というものだ。
この地底の世界に、いかにして我らが生まれいでたのかは、定かではない。
自然発生的に生まれたという説もあれば、人為的に生み出されたという説もある。
もっとも、我に言わせれば、我らがいかにして生まれようと、それは大した問題ではない。
大事なことは、今。そして未来。我ら、「輝石の一族」の繁栄と栄華を、未来永劫のものとすること。
そのために有要なものは、他種族のものであろうと、良きものは勧んで取り入れる。その視野の広さである。
「おまちどおさま。」
「うむ。」
屋台に備えられた鍋から湯気が立ち上っている。料理の準備ができた合図だ。
「それで、何にするんだ?」
「そんなもの、聞くまでもなく決まっておろう?」
「…はいよ。」
それにしても、何度考えても不思議なものだ。
手際よく動く男を見ながら考える。
何故、我が、料理というものに惹かれたのか。
我ら「輝石の一族」には、味覚というものがない。
さらに言えば、嗅覚というものもない。
身も蓋もないことを言えば、空腹という感覚もないから、料理を食べる必要もない。
この男と出会うまで、料理に対する興味など、まるでなかった。
そんな我を振り向かせた、この男の料理。
「さすが、我ら輝石の一族のお抱え料理人よ。」
「…そんなもんになった覚えはねぇよ。」
料理の味や香りは大切。
でも、料理の楽しみ方は生き物それぞれ。




