14.「3箇所目」アルジと上から目線とうんざり
この作品はフィクションです。
「おはようございます。」
ガタガタと、辺りに響いていた音が止まる。
音を響かせながら進んでいたのは、くたびれた古い屋台。これまで、どれだけの距離を歩んできたのか。木製の車輪に刻まれた傷と汚れが、それを物語る。
「………。」
そんな屋台の持ち主である初老の男は、あからさまに嫌そうな顔をしていた。
「………いいかげんにしてくれねぇか。」
「そうはいきません。」
ため息混じりのその言葉を、きっぱりと跳ね返す。
「これは、私に与えられた最重要ミッションですから。」
「…あぁ、そうかい。」
こちらを避けて先に進もうとする男。
「先に行く前に、お返事を聞かせていただけませんか?」
「………返事?」
「えぇ。」
「返事ならもう何度もしてんだろ。」
「いえ、しておりません。」
確かに、返事だけなら会うたびにもらっている。だが私が求めているのは、
「『私が満足出来る返事』をしていただいた記憶は、一度もありません。」
「当たり前だ。」
ぎろり
明らかに嫌悪感を含んだ男の視線が、こちらを直視している。
「そっちの満足できる返事なんざ、できるわけ無いだろ。」
「……。…本当、強情ですね。」
肩をすくめざるを得ない。何故彼は、こんなにも意地を張るのだろうか。
「何があなたをそこまで頑なにさせるのです?」
「お前には関係ない。」
「関係ないことはありません。このミッションを果たすためには、あなたのその頑なさを解きほぐさなければならないのですから。」
「お前には無理だ。」
「……………。」
取り付く島もない、とは、このことか。
「…いやはや、あなたも面白い人だ。料理人ならば、一も二もなく謹んで引き受けて然るべきことだというのに。」
「引き受けるつもりはない。謹むつもりもない。」
「…わかっていない。本当に、あなたはわかっていらっしゃらない。」
「何がだ。」
「よろしい、お答えしましょう。いいですか?この世界にいる数多の料理人の中でも、選ばれた、ごく少数の者にしか与えられない、栄誉ある役職。それが、宮廷料理人、なのです。」
「それで?」
「そんな栄誉を掴むチャンスが、今、まさに、あなたの目の前に、現れているのですよ?それも、何度も。」
「………。」
「そのチャンスを掴まない。さらには拒否する。そんなことがありますか?ありえますか?いや!ありません!」
人として生きるのならば、どんな職業を選ぶにせよ、高みを目指すのは当然のこと。その機が訪れたなら、逃さず掴む。それが、人として当然のこと。
だが、目の前のこの男は、その当然のことを拒絶している。それはつまり、
「つまり!あなたは人としてありえないことをしている!信じられない人間なのです!」
びしっ!!!
熱のこもった言葉とともに、男に指を突きつける。
「………、」
車輪のガタガタという音が遠ざかっていく。
男はいつの間にか来た道を引き返していた。
「ま、………待ちなさいっ!!」
「こう、だから、こうだ。」
「そうとしかあり得ない。」
思い込みと決め付けは、よくない。




