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御姉様なんて、私にはハードル高すぎます!  作者: 東雲草
■番外編■

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奥さまの専属メイド

※メイドのメリル視点での回想がメインになっています

 私の名前はメリル。

 ご縁があって、モンティーヌ伯爵家で働いております。

 前モンティーヌ伯爵は、とても気の優しい方で、騙されて多くの資産を失いました。

 傾いた伯爵家を継いだのは、当時まだ18歳の息子のアルヴィン様でした。


 そして同じ頃、当時資産家とされていた、ファンデル子爵家のご令嬢と結婚されることになりました。


 お二人の間に、どのような話がなされたのかは分かりません。

 嫁いでこられたはずのグレイス様とは、初日から明らかにおかしい関係でいらっしゃいました。

 夫婦は別々の階で、それぞれの部屋を持ち、接触することなく過ごせるように、全て整えられていました。


 グレイス様は、評判通り確かに美しい方でした。

 しかし目付きは鋭くて、人を寄せ付けない雰囲気があり、実際声をかけようものなら、使用人が勝手に口を開くなと、罵声を浴びせられました。


 第一印象は、最悪の奥様でした。

 旦那様のアルヴィン様は、若くして苦労されながらも、使用人にも、心配りしてくださいます。病気の子を持つ者には、医者を紹介して治療費も負担してくださり、私の家も借金がありましたが、相談に乗っていただき、おかげで返済する目処ができました。


 なぜ、そんな心優しいアルヴィン様が、あのような性格の悪そうな令嬢を妻に迎えないといけないのか、いくらお金のためとは言っても、喜べるものではありませんでした。


 執事のランドルさんから言われたのは、奥様の恋愛について、口出し無用の他言禁止ということでした。

 ひどい話だと思いましたが、実際に生活が始まると、それはもっとひどいものでした。


 毎晩のように出掛けて、朝方帰ってくる奥様。よく分からない男が送ってきて、馬車の中で楽しげにキスを交わして、当たり前の顔で出てくることもありました。

 相変わらず、誰からの言葉にも耳を傾けず、我が儘で、癇癪持ちの気分屋。みんないつ怒鳴られるかとびくびくしていました。


 そして、愛人からのプレゼントを身に付けて、過ごしている姿を見ると、頭にきて仕方がありませんでした。


 旦那様はそんな奥様の姿を見ても、何も仰いませんでした。仕事が忙しかった時期もあり、完全にすれ違いで、たまに言葉を交わすことはありましたが、業務連絡のようなもので、奥様は嫌そうにすぐにお部屋に戻っていきました。

 旦那様はそんな奥様の姿を見て、少し悲しそうな顔をされていました。


 ある時、腹に据えかねて、解雇を覚悟で奥様に意見を言おうと、意気込んでいたことがありました。

 今思えば、無謀なことでしたが、専属メイドとして使えていくには、どうしても納得出来なかったのです。


 朝方帰って来た奥様は、その日はとても静かでした。

 どうやら、愛人から別れを告げられたようで、プレゼントにもらった、安っぽくて趣味の悪いドレスを着て無言でベッドに腰かけていました。

 着替えを申し出ると、もう少しだけ、このままでいたいと言われました。

 その姿は、やけに小さくてか弱い女性に見えました。傍若無人で、旦那様を傷つける最低の女主人なのに、なぜか、とても寂しそうな横顔で、私の意気込んだ気持ちは萎んでいきました。


 しばらくすると、また新しい愛人ができて、連日連夜のように遊び歩く生活に戻りました。

 他の使用人達は、白い目で見て、よくあんなのに仕えられるねと同情されました。

 嫌な気持ちは変わりませんが、ほんの少しだけ、奥様を見る視線が変わりました。

 みんなに嫌われている奥様は、本当に心の底からそれを望んでいるのか。やっていることは変わりないのですが、そんな疑問がいつも付きまとうことになりました。


 そして旦那様との結婚生活が、もうすぐ5年を迎えようとしていたある朝、奥様は生まれ変わったように、まるで別人になってしまいました。


 最初はびくびくと怯えて、訳の分からないことを言って、またふざけた遊びでもはじめて、困らそうとしているのかと思い、カチンと来て旦那様に報告しました。


 様子を見に行ってくれた旦那様は、同じく訳の分からないという顔で戻ってきました。

 それでも、仕事をしないと行けないので、心を無にして戻ると、やはりよく分からない奥様が、ぼんやり立っていました。


 まず、目付きが違いました。いつものつり上がった目で、睨み付けるようなことはなく、怯えた小動物のような目をしていました。


 ちょっとした騒動があり、怪我をおった奥様は、よけいにおかしなことになりました。

 心を入れかえるなどと宣言して、使用人達はみんな戸惑っていました。とうとう、頭がイカれたと笑っている者達もいました。


 しかし宣言通り、その日から奥様は変わりました。誰にでも挨拶をして、反応を見ながら、話しかけてきました。

 当たり前のことでも、ありがとうとお礼を言って、笑いかけてきました。

 夜出歩くこともなく早起きして、庭を走り回って、使用人達と気さくに話して、よく笑ってということを繰り返していました。最初はみんな気味悪がっていましたが、それが、毎日続くと当たり前になって、だんだん打ち解けていきました。


 癇癪持ちで気分屋の奥様のイメージは、キラキラとした目をして、好奇心旺盛で誰とでも分け隔てなく、楽しそうに笑って話すというものに変わっていきました。その姿は、まるで純粋な少女のようでした。


 その影響は、旦那様との関係にも変化をもたらしました。

 ずっと、大きな壁があって、近づくことがなかった二人でしたが、その壁は完全に消えて急速に距離が近づいていくのが分かりました。


 旦那様の言葉や態度に、一喜一憂して、旦那様の話を聞いたりするときは、顔を赤らめてまるで恋する少女でした。

 恋する少女過ぎて、旦那様もある意味踏み込めず、もやもやとされている様子が分かりました。


 そして、決定的な出来事が起こりました。

 奥様のご実家、ファンデル子爵との争いです。


 もともと、旦那様とは不仲でしたが、町中での言い争いから始まり、テレシア様が入ってくると、騒動は一気に加速して、ついに奥様はご実家に話し合いに行かれた際に、捕らえられてしまいました。私は、離縁状をぼんと渡されて、家に帰るように外へ追い出されました。


 旦那様は、この事態を考えていて、監視の者達を付けていました。すみやかに、その事態は報告されて、奥様奪還のための準備は、あっという間に整いました。

 もともと、色々な悪事の証拠を集めていて、何かあれば告発できるようにされていたらしいのです。


 旦那様は、サイモン公爵の助けを借りて、見事に奥様を連れ戻しました。

 この事で、二人のお気持ちは完全に結ばれたようで、もう誰が見ても間違いなく、仲の良いご夫婦になることができました。


 そして、騒動も落ち着いた頃、お二人はやっと同じ寝室になり、これまでの距離をうめるように、四六時中一緒に過ごすようになりました。


 それはもう、見ていられないくらいのラブラブぶりで、旦那様はいつも、蕩けた目で奥様を見ていらっしゃいますし、屋敷では所構わず、キスをして、そのまま、しばらく消えてしまうことも。

 使用人達は、またかと言いながらも、あのひどい状況を知っているので、今は皆とても幸せな気持ちでお二人の姿を見ています。


 ただ、執事のランドルさんだけは、大変そうです。旦那様にお仕事の報告をするだけでも、探し回らないといけないし、見つけたとしても、とても声をかけられる状態でないことが多いらしく、気を使うしやることが増えたとこぼしていました。

 ランドルさんは、とても優秀な方なので、その辺りは旦那様も信頼して任せているのでしょう。

 メリルも大変だよね。お互い気苦労が多いねと、言われてしまいました。


 でも私は、なんとなく気づいているのです。モンティーヌ伯爵家に新しい幸せが訪れるかもしれないということを……。


 なんだか最近食欲が止まらなくてと言って、ため息をついた奥様。月のものを数えていた私は、たぶん間違いないだろうと思いました。


 旦那様に報告して、屋敷は待ちに待った慌ただしさで、包まれることになるでしょう。


 私は、もう一つだけと、ミートパイにかぶりついた奥様に近寄りました。


 口のはしに食べかすがついた奥様が、この後どんなお顔をされるのか、旦那様が慌てて医者を呼べー!と大騒ぎするところも想像できて、思わず笑ってしまいました。


 不思議そうな顔をされた奥様に向かって、私はおめでとうございますと言って微笑みました。






 □完□


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