雷光
ピシャアアーーーーーン!
雷が、さつきと彼女を飛ばせているかぎたろうに直撃しました。
「ぎゃあああああああああああ!」
ふたりは絶叫してしまいました。
全身の毛が逆立ち、脳のてっぺんから足の下までが、光り、しびれるような衝撃でした。
雷神が、さつきの頭に手を触れて、なにやら不思議な言葉を言っています。
たぶん、それは、さつきが前にあの図書館で読んだ本で覚えたのと同じことばでした。
雷神は、さつきが大きな図書館から持ってきたひとつの文字のペンダントに気がついてそれをぐっと握りしめて、
「これだ。
きみの胸にかけているこのことばに、雷はやってきたんだ!」
と。
さつきは、いたくって、しびれて、
だけど、なぜか嬉しくて、わんわん泣きながら、胸のペンダントを握りしめます。
いまだに電流はさつきの前身をながれています。
それは、表面だけでなく、さつきの自分でも気が付かなかったお腹の奥底の、おへその奥から、さらに骨の奥までに流れてくるのでした。
雷には雷の「ことば」があるみたいで、
雷神はその雷の「ことば」を雷と一つになって口に出しますが、
さつきも、なぜか、その「雷のことば」が、意味は分かりませんが、はっきりわかるのです。
そして、雷に打たれているうちに、その不思議な雷のことばをさつきもしゃべれるようになっているのです。
というよりも、雷の光が舌にとどまって、それを言わせているのです。
「雷は」
と雷神が言います。
「疲れ果てるということを知らない。
倦むことを知らない。
雷が光を発して、そして消えてゆくのではない。
ちがう。
光。光なのだ。すべては。
星が光を発しているのではない。
星と星の間にあるものは光で、
光以前に満ちているものも光なのだ。」
雷神は、そんなことをいきなり言い始めて止まらなくなります。
でも、さつきにはそれが何となくわかるし、心地がいいので、彼の独りがたりをそのまま聞いてあげることにしました。
ええ、もうそれは、滝に打たれ、川に流れるように、
いや、温泉につかりながら流されるようなそんな勢いで。
「一切のものの間にあるものはただ光で、
そして、あらゆるものも光で、
諸君たちひとりひとりの心の奥底のほんとうの姿は光そのものなのだ、ということに気が付くことだ。
ところが、光であることを忘れて、ある星に生まれ落ちたものは親や社会と暴力的に『合意』を結ばされ、光であることを忘れて、いや、抑えつけられ、隠すようにされ、見ないようにと、様々な手段によって、繰り返し繰り返し張り巡らされた『恐れ』『不安』の植え付けによって、あたかもそれを真実だと思い込むようになる。
それは幻想にであるにも関わらず。」
「そんなこといったって、うちの星では、あの幻想は、間違いなく現実そのもので、心や存在そのものだって、その中に圧縮パックのように閉じ込められ、呼吸すらできないわ。」
思わず、さつきは思い出してそういいます。
さっきまでのあの衝撃はどこへいったやら。
「それを、さっきのようにそうハッキリ感じる時もあって、怖いものはないと思う。
でも、他方で、ちきゅうにいる人がそこからは抜け出すことだとか、は難しい。
いつもそんなちきゅうのひとに確認できないこころの奥のかんじをどうやって生きればいいのってちょっと思っちゃうのね。」
とそこまでいって、
もうひとこと、さつきは付け加えました。
「でも・・・ちょっとは何かが、動く。
見えないところでも、
たとえ、誰にも気が疲れなくても、確実に、は。
すくなくとも、自分自身にとっては、だけれどもね。
意味のないように思えるかもしれないし、力のないことだと思えるかもしれないけれども。」
さつきの身体からは、もう電気は放電していませんでした。
ですが、さつきは知っています。
その光のもとは、いつもどこかで、流れていてつながっていることを。
わからないものは、わからないままでふってきます。
でも、わからないものは、わからないままで、そのまま受け止めたら、いいのではないか、
とさつきは思うようにしましたし、
なにか言いたいことがあれば、言えばいい。
やりたいことがあれはやればいいし、行きたいところがあれば行けばいい。
「電気いっぱい」になったさつきはふと重さを感じて、雷神に別れを告げて、空の下へ下へと降りていくことにしました。
かぎたろうのしっぽを掴んで、ふわりふわりと風船のように、星の間を漂います。
「あ」
さつきはふと思いました。
「うちゅうせんに、ともだちのこと。
そらくんに、うみちゃん・・・
あと、にいちゃん・・・
全員おいてきちゃったまま、なんだかいろんなところを遊び回っていた気がするわ。
皆覚えているかなあ。
いやあもう覚えていないかもしれない。」
さつきのこころに痛みが走ります。
どれだけ、うちゅうで自由になったとしても、
寂しさとか、心の痛みとか、そして、後悔や恐怖・・・
こうしたものって、消えないのでしょうか?
いつ消えるのでしょうか。
「もうダメかもしれない」
なんていうチクチクした心の痛みがさつきの胸や心臓を締め付けて、頭の中を灰色にしていきます。
「どうしよっかな」。
さつきは、誰にも相談せずひとりで考え続けました。
「これからどこに行くんだろう・・・。
本当は、りゅうがくをしに行く予定だったのに、こんなことになっちゃって・・・。
これからどこに行っても、どうなっても、だいじょうぶ、っていうことは〈知っている〉んだけれども、さ。」




