空の中で
さつきはかぎたろうにのって、
はるかはるか大空をとびまわります。
まわりには、トンビたちがクールクルと円を描きながら、歌を歌うように飛んでいます。
雲の上には、ただ、青色以外の何もなく、そこで、さつきは自由と戦慄の両方を覚えました。
「ああ、青だけでなにもない空がひろがっていて、そこを自由に飛び回れることはいいことかもしれない。
何の障りもなく、邪魔する者なんて何もない。
そしてそれは、ああ、かぎたろうで飛んでいるさつきには可能なのだということを知ったのだけれども・・・」
「俺の身にもなって考えて見ろニャ。まあどっちでもええけどさ。」
とかぎたろう。
さつきは続けました。
「このどこまでもどこまでも果てしなく広がる青の自由さの中で、自由に飛び回ることの以外にできることと言ったら何があるのでしょう。」
「まあ、それはきみの自由さ。」
とかぎたろうは言いました。
「こんなことは・・・」
「どうしたの。さつき。」
「こんなことは、役には立たない。」
「役には立たない、って一体全体どういうことやねん。」
「うちゅうは、無限の自由。絶対的な自由。
それは、きっと、人間が・・・とりわけちきゅうじんのすべての人が望んでいること。
自由・・・自由になるためにちきゅうじんたちはみんなみんな生きてそれを現実のものにしようとしている。
みんなみんな結局のところ、自由に生きたい。
じゃあ、『自由』ってなあに?
どうしたら『自由』になれるの?
いま、私がどれだけ自由かということを、ちきゅうの人たちは誰一人だに想像できないし、分からないかもしれない。
さつきは、おもうだけで、何でもできる。
何光年離れた場所だって思い通りに行ける。
何でも創造することができる。
想像したことのすべては形になっていく。
ここには、何の制限もない。」
「そりゃそうやな。
いいことやないか。」
「ほんとうのこと・・・。
きっと、ほんとうのことは、こっちだと思うの。
なんどでもなんどでもね。
でも、じゃあそれがわたしたちの星で『何か』になるかと言ったら、結局何にもならないのよ。」
「何にもならないってどういうことや。ちょっとわからへんな。猫やからしらんけど。」
「私たちの星では・・・そうね・・・」
そう、さつきが言いかけた時、
急にゴロゴロと雷が鳴り始めました。
無限に広がっていた青のなかに、一滴、タバコの灰を落としたようなグレーが広がって、見る見るうちに空ぜんたいに混ざっていきました。
空はその暗いグレーに真っ暗闇になって、その中を時折、全身を痺れさせるような轟音が叫びます。
轟音と共に、血管のような稲光が繰り返し繰り返しさつきたちの間を突き刺すように四方八方から襲い掛かります。
「どうしたのどうしたの。
これまではほんとうに限りなく透明に近い青が広がっていたのに、こんどはいったいどうしたことなの。
誰かがこの空間をかき混ぜているのかしら。」
「はにゃはにゃ。まったくにゃ。」とマイペースなかぎたろう。
そこに現れたのは雷神でした。
「ああ、あなたね?
この空をこんなことにして、私たちに稲光を落とそうとしているのは?」
近頃の雷神は、すごくイケメンで、電気を帯びた冠に、おしゃれで宝石の散りばめられた剣を持っていて、近代的なファッションをしていて、雲も高級車を乗りこなすように洗練された移動をしているわけであります。
雷神は、いいました。
「そんなことは迷信だ。」
「ああ、そうなの。」
「うちゅうも自然も、そうかもしれないが、起こるものはただ起こり、そしてそのすべてのことには原因があって理由があるのだよ。
私たちのすべきことは、雷を起こしたり、嵐を生じさせたりすることではない。
ただ、あらゆる起こってきて存在して消えてゆくすべてのことには、いのちがあって、すべてのことの奥には・・・」
「奥には・・・?」
雷神は少し考えこみました。
「君たちが知っていることさ。」
「知っていること?どういうこと?」
「ともあれ、うちゅうはありとあらゆる『気まぐれ』が、互いに手を取って遊んでいるように見える。
すべてが偶然のように思える。
そして、目的も意味もないように思える。
私たちは、その偶然をちょっとだけ、ひっつけたり、必要と思うことに働きかけたり・・・
そんなことを、風に乗りながら、いろいろとやっているわけだ。
とにかく・・・雷も嵐もおおきなエネルギーだ。
君たちには制御しきれない。
それは、時に大変だけれども。
だけれども、荒ぶるエネルギーは、時にいのちにとって大きな力になる。
壁を突破する大きな大きな上昇気流を生み出す。」
「へえ。」
嵐は、あいかわらず吹き荒れ、
稲光はステージのスポットライトのように、鳴り響きます。




