第九話:帰還
崩壊の中を、三人は走り続けた。
背後では爆発音が連鎖し、施設が音を立てて沈んでいく。
「こっちだ!!」
キイチが叫ぶ。
崩れかけた通路を抜け、外へ――と思った瞬間、足元が抜けた。
「うわっ!?」
三人はそのまま下層へと叩き落とされる。
激しい衝撃。
視界が白く弾ける。
――だが。
「……生きてるか」
キイチの声。
「……なんとか……」
ダイゴは体を起こした。
ミナも無事だった。
そこは、まだ崩壊を免れている区画だった。
静かすぎる空間。
まるで、ここだけ時間が止まっているかのように。
「……まだ施設の中だな」
ダイゴが周囲を見渡す。
壊れかけた扉。
倒れた機材。
だが――
「電源……生きてる?」
ミナが指差す。
奥に、小さな部屋。
わずかに光が漏れている。
三人は警戒しながら近づいた。
扉を開ける。
そこは――通信室だった。
「……マジかよ……」
ダイゴが息を呑む。
卓上には、古いが動いている無線機。
ノイズ混じりに、かすかな電波が生きている。
「使えるかもしれない」
ミナがすぐに操作に入る。
「周波数……これで……」
ザザッ……ザ……ッ……
ノイズ。
だが――
「……誰か、聞こえますか」
ミナの声が、空間に響く。
返事はない。
もう一度。
「こちら……遭難者……位置不明……救助を――」
ザザッ……。
数秒の沈黙。
そして――
『……こちら、沿岸警備隊。応答を確認した』
三人の動きが止まる。
「……!」
『繰り返す。こちら沿岸警備隊。現在位置を送れるか』
「つながった……!」
ダイゴが思わず声を上げる。
ミナの手が震える。
「送る……送るから……!」
必死に座標を入力する。
古い端末が、ゆっくりと信号を送信する。
その間も、遠くで崩壊の音が響いていた。
時間がない。
「頼む……」
キイチが低く呟く。
やがて――
『座標を確認。救助隊を向かわせる』
その一言で。
三人は、その場に崩れ落ちた。
助かる。
本当に――終わる。
――そして。
数時間後。
ヘリの音が、現実として空に響いた。
光。
風。
差し出される手。
「大丈夫か!?」
「……ああ……」
ダイゴは、その手を掴んだ。
現実へと、引き上げられる。
――
数日後。
三人は救助された。
外の世界へ――帰還した。
だが。
「……なんか変じゃない?」
ミナが呟く。
街。
人。
空気。
すべてが、どこか“違う”。
「……ああ」
ダイゴも感じていた。
視線。
ざわめき。
ニュースが流れる。
画面の中。
見覚えのある構造物。
「新型環境適応研究施設、稼働開始」
ダイゴが、ゆっくりと画面を見つめる。
そのロゴ。
あの男がいた施設と――同じだった。
キイチが、低く言う。
「……終わってねえな」
ダイゴは、拳を握る。
もう一度、選ぶ時が来る。
逃げるか。
戦うか。
そして――
三人は、同時に歩き出した。
無人島は終わった。
だが――
“実験”は、まだ終わっていない。




