第三話:共闘
地面を蹴る音と同時に、空気が裂けた。
最初に動いたのは――相手の男の一人だった。
「っ!」
一直線にキイチへ突っ込む。
手には粗雑なナイフ。
だが――
「遅ぇ」
キイチの声が、冷たく落ちた。
次の瞬間。
キイチの槍が、横薙ぎに振り抜かれる。
ガキィン!
金属と木がぶつかる鈍い音。
相手は咄嗟にナイフで受けたが、勢いを殺しきれずに体勢を崩した。
「――!」
そこへ、間髪入れずに突き。
槍の先端が、相手の肩をかすめた。
血が飛ぶ。
「ぐあっ!」
男が後退する。
その一瞬の隙。
残りの二人が動いた。
「囲め!」
女の声。
短く、的確な指示。
左右から同時に詰めてくる。
キイチの動きが止まる――
そう思った瞬間。
「ダイゴ!」
名前を呼ばれた。
「右を潰せ!」
「っ……!」
反射で動いていた。
怖い。
足が震える。
それでも――逃げるわけにはいかない。
俺は拾っていた槍もどきを構え、右側の男へ突っ込んだ。
「素人が!」
相手が笑う。
振り下ろされる刃。
避けきれない――
その瞬間。
思い出した。
キイチの言葉。
『正面で受けるな。ずらせ』
歯を食いしばり、体をひねる。
ギリギリで軌道を外す。
頬に浅い傷が走った。
だが――生きてる。
「うおおおっ!」
勢いのまま、突き出す。
当たるとは思っていなかった。
だが――
「っ!」
相手が避けきれず、脇腹に刺さった。
浅い。
それでも、確実にダメージは入った。
男の動きが鈍る。
「くそっ……!」
その瞬間――
「下がれ!」
キイチの声。
同時に、背後で何かが弾けた。
振り向くと――
キイチがもう一人を地面に叩き伏せていた。
槍の柄で首元を押さえつけている。
完全に制圧していた。
残るは、女一人。
彼女は動かなかった。
仲間がやられたというのに。
ただ、冷静に状況を見ている。
「……やるじゃん」
ぽつりと呟いた。
その目は、むしろ興味深そうだった。
「ねぇ、提案があるんだけど」
キイチは槍を向けたまま動かない。
「断る」
即答。
だが女は笑う。
「聞くだけ聞きなよ。損はない」
沈黙。
風が吹く。
木々がざわめく。
やがて――
キイチが、わずかに顎を引いた。
「……言え」
「この島、思ってるよりデカいよ」
女はゆっくりと言った。
「で、水場は限られてる。でも――まだ“見つかってない場所”がある」
「……何が言いたい」
「情報、持ってる」
その一言で、空気が変わった。
「その代わり――」
女の視線が、真っ直ぐにこちらを射抜く。
「私を仲間に入れて」
「ふざけるな」
キイチの声が低くなる。
「さっきまで襲ってきた奴を信用できるか」
「じゃあ、このまま消耗戦する?」
女は肩をすくめる。
「この島で一番怖いのはね、“戦い続けること”だよ」
言葉に、妙な説得力があった。
「いずれどっちも削れて――最後は別の連中に食われる」
沈黙が落ちる。
確かに、その通りかもしれない。
キイチは考えている。
俺も――迷っていた。
「……名前は?」
俺は思わず聞いていた。
女が少し驚いた顔をする。
そして――
「ミナ」
短く名乗った。
「……俺はダイゴ」
「知ってる。さっき呼ばれてたし」
軽く笑う。
その余裕が、逆に怖い。
キイチがゆっくりと槍を下ろした。
だが、警戒は解いていない。
「条件がある」
「いいよ、聞く」
「嘘をついたら、その場で殺す」
ミナは一瞬だけ目を細め――
すぐに笑った。
「フェアだね」
こうして――
俺たちは三人になった。
敵だったはずの相手と、手を組む。
それが正解かどうかは分からない。
だが一つだけ、確かなことがある。
この島は――
一人では、生き残れない。
そして。
人を信じることは――
生きることと同じくらい、危険だ。
その夜。
ミナがぽつりと言った。
「……この島、“出口”あるよ」
「……は?」
俺は思わず聞き返す。
キイチも、初めて明らかに動揺した顔を見せた。
「見たことがあるの。ここじゃない、別の場所で」
焚き火の火が揺れる。
「でも――」
ミナの表情が、ほんの少しだけ曇る。
「そこに行った人、誰も戻ってない」
静寂。
波の音だけが、遠くから響く。
希望か。
それとも――
絶望か。
俺たちの次の目標は、決まった。
その“出口”を探すこと。
そして――
そこに何があるのかを、確かめること。
無人島での生存は、次の段階へ進む。




