第十一話:ただ、生きるだけ
「俺たちは――お前の実験材料じゃない」
その一言が、空気を裂いた。
ダイゴの一歩。
それは、すべてを変える一歩だった。
床に残っていた光の制御は、完全に消えている。
「あり得ない……!」
白衣の男が後ずさる。
「ナノ制御を……力で破った……?」
キイチが笑う。
「こっちは“実験済み”なんでな」
ミナもナイフを構える。
「想定外ってやつ、でしょ?」
三人が同時に動いた。
キイチが正面から突っ込む。
槍の一撃。
男は慌てて後退する。
ミナが側面へ回り込む。
死角からの斬撃。
だが――
ガキンッ!
見えない壁に弾かれる。
「防御フィールド……!」
ミナが舌打ちする。
「当然だろう」
男が呼吸を整えながら言う。
「私は戦う必要がない」
その瞬間――
床が再び光る。
今度は、部屋全体。
「今度は出力を上げる」
男の声が冷たく響く。
空間そのものが、押し潰すように圧をかけてくる。
重い。
立っているだけで限界。
「ぐっ……!」
キイチが膝をつく。
ミナも動きが鈍る。
だが――
ダイゴだけが、前に出た。
「なんで……動ける……!」
男が叫ぶ。
ダイゴの視界。
あの島の記憶がフラッシュバックする。
飢え。
痛み。
恐怖。
そして――
仲間。
「慣れてるからだよ」
静かな声。
「こういう“地獄”にはな」
次の瞬間――
ダイゴが走った。
圧を無理やり押し切る。
床が軋む。
男が装置に手を伸ばす。
だが――遅い。
ダイゴの拳が、フィールドに触れる。
ビキッ――!
亀裂。
見えない壁に、ひびが入る。
「馬鹿な……!」
もう一撃。
ドンッ!!
ガシャァン!!
フィールドが砕け散った。
「終わりだ」
ダイゴが言う。
男は後退する。
だが、逃げ場はない。
背後には培養カプセル。
「やめろ……!」
初めての“恐怖”。
キイチが立ち上がる。
ミナも構える。
三人が並ぶ。
「人を弄ぶのは、ここまでだ」
キイチ。
「これは“実験”じゃない」
ミナ。
「現実だ」
ダイゴ。
その言葉とともに――
三人が一斉に踏み込んだ。
――衝突。
数秒。
いや、もっと短い時間だったかもしれない。
そして。
静寂。
白衣の男は、床に倒れていた。
動かない。
完全に、終わった。
ミナがゆっくり息を吐く。
「……終わった……?」
その瞬間。
警報が鳴り響いた。
【中枢システム崩壊】
【全施設、自己消去開始】
「は!?」
キイチが叫ぶ。
「お約束かよ!!」
天井が崩れ始める。
火花。
煙。
揺れ。
「逃げるぞ!」
ダイゴが叫ぶ。
三人は走った。
来た道を戻る。
崩れ落ちる通路。
追いかけてくる爆発。
「出口は!?」
「上だ!」
非常階段を駆け上がる。
一段一段が重い。
だが止まらない。
そして――
屋上。
夜空。
風。
自由な空気。
その瞬間――
背後で巨大な爆発。
施設が崩れ落ちる。
炎が空を染める。
三人は、その光景を見つめた。
長い沈黙。
やがて。
キイチが言う。
「……終わったな」
ミナが小さく笑う。
「うん……たぶんね」
ダイゴは、空を見上げた。
完全に終わったとは思えない。
あの男の言葉。
「一つじゃない」
だが――
それでもいい。
「また来たら……」
キイチが言う。
ダイゴは頷く。
「その時は、また潰す」
ミナが笑った。
「ヒーロー気取り?」
「違う」
ダイゴは静かに言う。
「ただ、生きるだけだ」
風が吹く。
夜が明け始める。
新しい一日。
だが――
もう“普通”には戻らない。
それでも。
三人は歩き出した。
自分たちの意志で。
無人島漂流は終わった。
だが――
彼らの物語は、まだ続いていく。




