第十二話:助ける側へ
――三年後。
海の匂いがする街。
小さな港町。
観光地でもなく、特別に賑わっているわけでもない。
だが――静かで、穏やかな場所だった。
ダイゴは、その港で働いている。
荷物の積み下ろし。
船の整備。
時には漁の手伝いもする。
無口で、よく働く男。
それが、周囲からの彼の評価だった。
「ダイゴ、今日も頼むぞー」
「ああ」
短い返事。
それだけで十分だった。
だが。
彼の目だけは、どこか違っていた。
何かを見てきた者の目。
夜。
仕事を終え、海を眺める。
波の音。
風。
静かな時間。
(……平和だな)
そう思う。
だが同時に――
(本当に、これで終わりか?)
その時。
背後から声がした。
「やっぱり、ここにいた」
振り向く。
そこに立っていたのは――
ミナだった。
「久しぶり」
軽く手を上げる。
以前と変わらない笑顔。
だが、その奥には鋭さが残っている。
「……元気そうだな」
ダイゴが言う。
「そっちもね」
少しの沈黙。
そして――
「キイチも来てるよ」
その言葉の直後。
「おい、置いてくなよ」
聞き慣れた声。
キイチが歩いてくる。
相変わらずの雰囲気。
だが、以前より少し落ち着いている。
三人が、再び揃った。
「……なんでここが分かった」
ダイゴが聞く。
ミナが笑う。
「調べた」
「簡単じゃなかったけどね」
キイチが腕を組む。
「まあ、こいつがしつこかったからな」
「で?」
ダイゴが本題を促す。
ミナの表情が、少しだけ真剣になる。
「……見つけた」
空気が変わる。
「“あれ”の続き」
ダイゴの目が細くなる。
ミナは、ポケットから小さな端末を取り出した。
画面を開く。
そこに映っていたのは――
地図。
いくつもの赤い点。
「全部、関連施設」
キイチが低く言う。
「……やっぱり一つじゃなかったか」
「うん」
ミナが頷く。
「しかも――拡大してる」
画面をスワイプする。
新しいデータ。
新しい被験体。
「今も誰かが、あそこにいる」
沈黙。
波の音だけが響く。
ダイゴは、ゆっくりと息を吐いた。
「……だろうな」
驚きはなかった。
予想していた。
「どうする?」
キイチが聞く。
ミナは、ダイゴを見る。
あの時と同じ。
選択の瞬間。
だが――
ダイゴは迷わなかった。
「行く」
それだけだった。
キイチが笑う。
「だと思った」
ミナも頷く。
「私も同じ」
三人は、海を見た。
かつて、すべてが始まった場所。
だが今は違う。
流されたわけじゃない。
自分の意志で、進む。
「次は……助ける側だな」
キイチが言う。
ダイゴが小さく頷く。
「終わらせるまでな」
ミナが端末を閉じる。
夜が明ける。
空が少しずつ明るくなる。
新しい戦いが、始まる。
孤島漂流記――
それはもう、ただの“漂流”ではない。
これは――
反撃の物語だ。




