五歳時の魔力測定の日②
「……え、っと」
ルピス神官に転生者であることを言い当てられ、私は固まってしまった。実は自分がここと違うところから転生してきた人間であることを、誰にも……父にも言っていないのだ。
「……ご、ごめんなさい」
もしかして言った方がよかったのだろうか。転生者ってこの世界ではあまりよくない意味なのかもしれない。神様が選んだ転生先だからと安心していたが、五年で言葉の意味が変わるなんてものはざらにある。怖くなってしまった。
「……何を謝っているんだ」
「そうですよ!<転生者>であるというだけで、この国ではたくさんの保証を受けれます!勲章も紫ですよ!」
「えっ、紫!?」
父に聞いていた勲章の色がきっと白だと思っていたものから紫になると聞いて動転した。それほど転生者ってすごいのだろうか。
「<転生者>とは、前世に善行を行ったものが神によって保護され、加護を授かった者。また神より与えられたスキルのことを言います」
ルピス神官の説明に耳を傾ける。隣の父は真剣な顔をして、それでいながら嬉しそうにしていた。
「おそらくベル様も神に加護を与えられてここに降りてきてくださったのですよね。ほとんどの方は前世の記憶があるようですが……ベル様も、もしや」
「……はい、私は、前世があります。こことは違う世界から、転生してきました」
だからこんなにも大人びていたのか。隣の父がつぶやくのを聞いた。子供らしからぬ子供で申し訳なかったが、しかし同時に希望が見えた。きっと、転生者……いやスキル<転生者>には特別な何かがある。魔力がなくてもここに期待をするしかないのだ。
「ありがとうございます、教えてくださって」
ルピス神官は私の手を優しく握って話を続けてくれた。
「ベル様は<転生者>の他に<守護者>、<聖騎士>のスキルをお持ちです」
「……<守護者>に<聖騎士>だって!?<守り手>と<剣士>のハイエンドじゃないか!?」
「はい、生まれながらにしてこのスキル……きっと神は貴女の善行に心から感謝したのでしょう。貴女に授けるにふさわしいスキルであると……」
私は思ったよりも立派なスキル名が出てきたことに驚いていた。しかしそういうものはジョブじゃないのだろうか、とも思うが、ハイエンドとも言っていたし、修行で身に付くスキルもあるのだろう。私にとって過度なスキルだと思ったが、けれども、あの日幼馴染を守った功績だと思うと、胸を張れると思った。
「そして<転生者>の特典も付与されていますね」
……ん?特典?
「特典とは何だ?」
「<転生者>には神より自由に振り分けることのできるステータスポイントが付与されます。このステータスポイントは前世での善行に応じて付与されるのですが……いやはや、ベル様の魔力値の理由はここですね」
そう言って、ルピス神官が私の目を見た。
「ベル様、今から私のいう事を真似してください。ステータスポイントの付与の仕方をお教えしますね」
私の魔力値の理由?と首を傾げてから言葉には頷いた。いったい何があるのだろうか、そう思って私はルピス神官の言うとおりにした。
「神の意のままに 我が心のままに 力を解放する」
「か……神の意のままに 我が心のままに 力を解放する」
言うと、私の目の前に、何か黒い板のようなものが出現した。それに目をぱちくりとしていると、隣にいた父が驚きの声を上げた。
「い、一万!?」
え、とおもってその板を見る。想像上のステータス画面のようなそれには、いくつかの文字が書かれていた。生命力はおそらくヒットポイント、魔力はそのままでしいて言うならマジックポイント、運は最大値だからあげれないが、あとは瞬発力とか、自由にステータスを追加できそうな空欄もあった。そうして父が見たであろう箇所、すべての項目の一番下。
残り一万ステータスポイント。
……多すぎない?
「私も数人<転生者>に付与されたステータスポイントを拝見しましたが、多いです。とはいってもやはり皆さま善行を行わているので……今までの最高値はたしか八千でしたね」
「……それはどんな方でした?」
「ええと、前世ではお医者様だったとか」
「なんで私こんなに……?」
いや、そもそも私は最終的に幼馴染を救ったことで得たことなのだ。彼女を守ったことで得られたこと。それは確かに誇らしいが元々凶刃は私に向けられたものだ。助かった人だって、幼馴染のおかげなのに。
いいのかなぁ、神様。流石に多いと思いますよ。
「もらえたのだ、もらっておきなさい」
父の手が、優しく頭を撫でてくれた。
「そうですよ、これは神がこのくらいは渡さないといけないと思った分だけ数字に表れます。神は、貴女を大切にしていたんでしょうね」
それはよくわからないけれども。でも貰えるものは確かに貰うべきだ。そう思って安心したのか、私は大きなあくびをしてしまった。急に、眠気が来た。
「少し長引きましたね。ステータスポイントの付与の方法はまた後日改めて説明しましょう。一応申し上げておきますが、ベル様」
「はい」
「先ほどの呪文は私の前以外では出さないようにしてください。それと、スキルがどんなものだったのかも話してはいけませんよ」
「だめなんですか?」
なぜだろうか、と思ってルピス神官と父を交互に見れば、父はさっきも見たような難しい顔をした。
「貴女は五歳です。スキルがあっても、大人には勝てません」
つまり、私がこんな立派なスキル持ちであることがばれたら、誘拐されてしまうかもしれないという事だろう。私は怖くなって何度も首を縦に振った。ルピス神官は安心したようにゆっくりと立ち上がった。
「ではまた後日、公爵様とベル様の時間に合わせます」
「ふむ、明後日きてもらえるか?きっとベルは疲れただろうし。しかし早い方がこの子も安心する」
「わかりました、そのように」
父と私はルピス神官を門の外まで見送った。父に抱きかかえられた私は、ぎゅうと父の首に腕を回した。
「どうした、ベル」
「……貴方の奥さんは、私が<転生者>だとわかったら、どうなると思いますか」
そう言うと父はああとつぶやいたのちに私の背中を撫でた。
生まれたときの測定でああもいった父の奥さん。きっと、私の方が優れたスキルを持っていると分かったら、私に鞍替えするかもしれない。自分が言ったことなんて水に流して。そうしたら、父の奥さんの庇護下にいる双子の姉が、どうなるだろうか。
「あれには、どのような結果が出ても伝える気はなかったよ」
父のその言葉に、私は少しだけ体を離した。父の顔がよく見える。私を安心させるまなざしをしている。
「それにあれにはルルがいる。それで十分だろう」
きっと、父と奥さんはそこまで仲が良くない。政略的な結婚だったのだろう。貴族のいる世界だし、そういうものなのだろう。
ただ、私は姉と仲良くできたらしたいと思ってる。前世ではきょうだいかいなかったから、きょうだいをしてみたい。そんなワガママを今は言えなくて、私はまた父の首にしがみついた。




