五歳時の魔力測定の日①
「教会に籍を置いております、ルピスと申します」
「ルピス神官、久しぶりだ」
「アセロラ公爵様、お久しぶりです。本日もよろしくお願いします」
「ああ、よろしく」
待ちに待った魔力測定の日、私はシュガーにちょっとしたおめかしをさせられた。こんな風に着飾る必要はないが、父とシュガーが張りきったのだ。タウンハウス近くに住んでいるシュガーの友人が営むショップで作られたドレスは軽くてこのまま走れそうだった。
「こちらがベル様ですね。……やや、こんなにも大きくなられて……。時の流れは早いものですね」
その人の声に聞き覚えがあって、私はルピス神官を見上げた。この物言いからしても、私が生まれたときに測定した人と同じなのだろう。
「では先に軽く説明をさせていただきますね」
そう言ってルピス神官は執事のメープルに薦められたソファに座った。私は父の隣に座り、ルピス神官を見つめた。
「今日はベル様の魔力と一部のステータス、そしてスキルを調べます」
「はい!」
「魔力の測定は生まれたときにしたのと同じです。……とはいっても覚えていませんよね。おでこに私の手を当てて、全身にめぐる魔力の量を私が調べ、数値化します」
まぁ生まれたときも憶えているのだが、とは言わなかった。私は普通にこの世界を満喫するのに必要な量程度の魔力さえあればいいと思っている。生まれたときでも平民が普通に到達する量はあると言われていたし、もうちょっとは増えるはずだと分かるからだ。
「次に一部ステータスです。まだベル様は幼いので本来は調べる必要はないのですが、今回は特例として公爵様から運を調べるように仰せつかっています」
「運?」
「人は生まれてから死ぬまで、運の量に変動がありません。運と言うのはその人がどれだけ幸運に恵まれるかというのがわかる指針でもあります」
なぜそれをわざわざ調べるのだろうか、と思ったが、きっと魔力量が少ない私のためだと思う。以前読んだ魔法書には、運を人に譲渡する方法が記されているものがあった。その本は比較的新しいものだったから、もしかしたら私が生まれてから父が買ったものなのかもしれない。もしも運まで低ければ、自分の分を、なんて考えていそうだ。
「最後にスキル、貴女が今持っているスキルについて調べます。スキルはその人が得意なことだと思ってください」
私はふんふんと聞いた。隣の父が少しそわそわとしているのに気が付いて、私はルピス神官に申し出た。
「わかりました!では!よろしくおねがいします!」
何かはあるはずだ。だって、異世界転生したのだから。神様とだって会ったのだ。ちょっとだけ不安はある。もしも私からしたらすごい物でも、この世界だと大したことのない――外れスキルとかだったら、そう思ってしまう。ほしいものをあげるとは言われなかった。だから、少しだけ。
でも大丈夫。私には父がいる。使用人たちがいる。きっと、大丈夫。
「では早速、魔力測定から」
そう言ってルピス神官は立ち上がり、私の側に来た。紅茶の乗った机が動かされ、そっと私の前に立つ。
「大丈夫、一瞬で終わりますからね」
この柔らかな言葉遣いは、ルピス神官の優しさを表しているのだろう。前の世界の小児科のお医者さんみたいだな、と思いながら、私は目を閉じた。
「……魔力値は、25、です」
生まれたときより、5だけ増えた。ルピス神官の手が離れてから目を開けて、私は隣の父を見た。両手を握って、眉間にしわが寄っている。おそらく父は魔力値よりも運やスキルのほうが気になっているのだろう。私はルピス神官に、次をせっついた。
「ではお次に運の数値……っ!数値は100です、最高値ですよ!」
隣の父が立ち上がり、私を抱きしめた。不安だったのだろうと分かるほど震えていた。ああ、そういえば、私の幼馴染も、私の大学受験の時こうやって、私以上に喜んでくれたっけ。へへへ、と笑った。
「公爵様」
「はっ、す、すまない、次を」
「うふふ、では最後にスキルを、拝見します」
いちいちおでこから手を離してまたつけるのは、たぶんあの手で調べるものを選んでるからなのじゃないかなと思う。きっと全部のステータスを見るのはプライバシーに反しそうだ。私ももしもルピス神官のように誰かのステータスを調べれるようになったとしても、悪用だけはしないようにしようと心に誓った。
「えっ」
あれ、このつぶやき、前にも聞いたな。
「どうした?」
「あ、いえ、その、……あの、ベル様」
「え、はい?」
ルピス神官はちょっと困ったような顔をしている。もしかしてスキルが微妙だっただろうか。私は聞くのが怖くなった。運だけで生きていけるだろうか。いやでも運を極めれば冒険者とかになって薬草探しとかしたらいいのではないだろうか。そんなことを考えていた矢先、ルピス神官がこう聞いてきた。
「貴女は、<転生者>でいらっしゃるのですね……?」
……ん?<転生者>?そんなこともわかってしまうんですか?それはさすがに聞いてませんけれども?
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