五年後のとある日
生まれてすぐに母親からの絶縁宣言のようなものを受けた私だが、特に不便なく暮らしてきた。一番の理由は父の存在だった。
「お前は本当に呑み込みが早い。もう少しゆっくり成長してもいいのだぞ」
「でも、これすごく面白いんです!」
生まれてから五年間、私は実家を離れて王都にあるタウンハウスと呼ばれる場所で過ごすことになった。実家には母と双子の姉。タウンハウスには父と私。もとより王都――しかも王城に勤務している父は通常時はタウンハウスで暮らし、長期の休みの時にだけ実家に戻る生活をしているらしい。しかし私が生まれてからは仕事以外の時間は極力このタウンハウスで過ごしているようだ。だから私はちっともさみしくなかった。
「ベル様、お菓子が焼けましたよ~。ってあら、公爵様、またここでお仕事を?」
「ダメか?」
「いいえ?では公爵様も召し上がってください」
タウンハウスには必要最低限の使用人が住み込みで働いている。私に声をかけてくれたのがメイドのシュガー、とても威勢がよく、はっきりとモノが言える性格の人だ。父の執事であるメープルの娘で、彼女は特に私の面倒を見てくれている。
「シュガーのお菓子!」
「はい、今日はチェリーパイですよ」
「美味しい!」
「まだ食べていませんよ~」
前世では20歳まで生きたけれども、0歳から産まれ直したせいかちょっと言動が子供っぽくなっている気がする。父は私のことを大人びているとか言うが、全然そんなことはない。……いやこの世界の他の子供のことは知らないが。
「……そうだ、ベル」
「んむ!?……、……はい!」
「ちゃんと飲み込んでから喋る、素晴らしいな」
「普通の事です!……それで、どうしましたか?」
父はソファに優雅に座り、シュガーの淹れた紅茶を優雅に飲んでいる。生まれたときは全く見えなかったが、うちの父はめちゃくちゃ美貌が整っている。
コール・アセロラ公爵。この国で王家の次に実権を握ると言われている公爵家の現当主で王宮で宰相のような仕事をしているらしい。まさかそんなえらい人の子供に生まれるとは思っていなかったが、だからこそ奥さんにも重圧と言うものもあったのだろう。
侯爵家から嫁入りをした奥さんは、毎日のように公爵に手紙を送ってくる。ほとんどが公爵にお伺いを立てるような内容だった。盗み見た内容は、『次はいつ公爵領に戻りますか』、『私たちもタウンハウスに行きたいです』、『ルルも会いたいと言っています』、などなど。子供を理由にして情を誘おうとするのは卑怯だと思うが、五歳くらいの子が父に会いたがるのは仕方のないことだろう。それに私が父を独り占めしているとあちらは思っているかもしれない。自分は父の奥さんの愛情を独り占めにしているのはわからないだろうし。
現に姉ーールルが手紙とともに送ってきた絵には、大人の男性と大人の女性、それと子供が一人しか描かれていなかった。離れて育っているから私のことを知らないのは仕方ないが、奥さんが私のことを教えていない可能性がある。あの時かなり取り乱していたからなぁ、と思って、でも私も奥さんなどと呼んで見限っているのでどっこいどっこいにした。
「明後日、五歳時の魔力測定がある」
「……もう五年経ちました?」
「経っている。くそ、子供の成長が早すぎる。仕事辞めたい」
生まれてすぐの魔力測定から五年も経っているのは驚いた。だって本当にあっという間だったからだ。
しかしそう思うのも仕方がないだろう。歩けるようになってからはタウンハウスのあちこちを歩き回るのに忙しかったし、大きくなって文字が開読めるようになってからは父の書斎にある魔法に関する本を読むのに夢中だった。本当に魔法があるのだと嬉しくて毎日ワクワクだったのだ。
魔法に対して興味津々な私に、父をはじめとするタウンハウスの人たちは、よく魔法を見せてくれた。私の安全に配慮された些細なものであったが、それでも私の興味は惹かれた。私にも少しなら使えるようだし、今からでも知識を増やしたいのだ。
「その魔力測定の結果によって、子供に勲章が与えられる」
「勲章?」
「ああ、この世に生まれてくれてありがとうと言う意味を込めて」
まるでそれが、日本の文化の七五三とかお七夜のようだと思った。もしかしたらこの世界では五歳までは神様の子供なのかもしれない。いやそこまでは知らない。いろいろな本を読んだが、子供に関するものは読んでいないなとそこで気が付いた。
「……お前は、どの色だろうな」
勲章には色があるらしい。父が言うには、上から紫、青、赤、黄、白。普通の貴族は赤か黄、すごい人は青。この色はこの五歳時の測定の魔力量で決まるらしい。紫は特殊で、唯一無二の存在に与えられるらしい。きっと王族とかえらいさんの事だろうと思う。
「何色でも、私はお父様の子供ですか」
きっと、私は白なんだろうなと今からわかる。生まれたときから体の中の魔力みたいなものが増えている様子はない。せいぜい体に合わせてちょっとあるかなと思うくらいだ。だから、きっと奇跡は起きない。
今は!
「もちろんだ、俺のお姫様」
お姫様と言われるのはくすぐったいが、父が私を教会や孤児院に投げようと言わないだけでも安心できた。異世界に転生できて、魔法に触れていいことだらけだが、小さい子供では何もできない。親の庇護があることで、ようやく安心できる。
「えへへ!すごい結果出しちゃうかもしれませんね!」
父は私の言葉に目を丸くしたが、すぐにふっと笑ってくれた。私の言葉で少しでも父の懸念が払しょくできたらいいな。そう思っていたためシュガーが泣いているのに気が付かなかった。
「うっ、うっ、私もベル様のお付きやめませんからね!」
「なんで泣いてるの!?」
五歳時の測定では、魔力測定以外の項目も調べると聞いた。特にスキルに注目するのだと。きっとそこに私の異世界転生ライフを完璧にして見せる何かがあるはずだ。今はわからないけれども、期待して明後日を待つことにした。
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