次の日①
目を覚ますと、そこには眉目秀麗な男の顔があった。父である。
(びっくりした……そうだ、昨晩は一緒に寝ようってなって……)
昨日あったことをさかのぼりながら思い出す。父と一緒に寝た。美味しいご飯を食べた。魔力測定を、受けた。
まさか<転生者>であることまでわかるなんて思っていなかったけれども、逆に言ったらこれから先変に取り繕わなくてもいいのだと思うとほっとする。しがない大学生だった私の前世の世界の情報なんて微々たるものだけれども、ひょんな時に出してしまえば周りは可笑しいことしてみてくるかもしれない。父だって、そうなるかもしれない。
「……ん、起きたのか」
体を起こしてボーっとしていると、父も起き上がってきた。そうして父は私の頭を撫でた。
「よく眠れたか?」
「はい!」
私はいいお返事をした。父は私を撫でながら、目を細めた。口角も上がっているので笑っているようだ。
「おはようございます!……あら、公爵様、こちらにいらしたんですね」
「ああ。私は着替えに部屋に戻る。また後でな?」
「はい!」
そのまま父は部屋を出て行った。シュガーもにこにこ笑顔だ。
「さぁてお着換えしましょうね!」
私はベッドから降りて鏡の前に立った。大人用の姿見にうつる小さい子供。その子供の姿かたちは、前世の私の子供のころにそっくりだった。普通、転生したら別人になるものだと思っていたのだけれども、まさかおんなじ顔に生まれるとは思っていなかった。成長するにつれて毎日見てきた顔になるのだ。頭が混乱しなくて助かるがちょっと面白くないのかも、と思っているとシュガーがドレスを持って戻ってきた。
昨日魔力測定だったので今日は一日ゆっくり過ごすと話していたのに、どうしてそんな立派なドレスを?
「これもうちの友人から届きましてね……」
体に当てられたので鏡を見れば、淡い黄色の、フリルたっぷりなドレスだった。私の髪の色と相まって、似あっていると感じる。
「それにこれからは毎日誰かと会う約束ができるかもしれませんから、慣らしていくのもいいと思います」
そういうものなのだろうか。物語の中でしか貴族文化と言うものは知らない。歴史上のがちがちな貴族よりはだいぶ緩いとは思っているが、それでも堅苦しいと感じる時はある。まぁ、今は家の中くらいしか回っていないので他の意見など知らないけれども。
*
「お父様」
「ベル」
着替え終わってから廊下に出て食堂に向かうと、同じように食堂に向かっていた父と会った。父はおめかしした私を抱き上げ、そのまま歩き出した。
「身体は疲れていないか?」
「平気です」
「眠たくはないか?」
「大丈夫です」
異様に心配されているのでなんだろうかと思っていると、後ろからこっそりとメープルが近づいてきた。
「魔力測定の後、倒れてしまう子供が一定数いるのですよ。そのため旦那様も心配なさっているのです」
「……本当に元気なのよ?」
「親とは、子供本人にもわからない部分を見つけてあげたいと思うものなのですよ」
「メープルもそうだった?」
「今でもそうですよ」
確かに、子供と言うのは自分の知らない現象を言葉にするのは苦手だろう。子供にとっては走った時と同じように体が熱くても、走った時は体が熱くなるものだから熱を出しているなんてわからないから「平気」だと口にする。その言葉のまま受け取って後で倒れてしまったら親はどう返すのだろうか。「平気って言ったじゃない!」と言うのだろうか。「それは熱って言うんだよ」と教えてくれるのか。それは親次第か。
おそらく、父は後者か。なんとなくだが父の奥さんは前者な気がする。なんとなくだ、なんとなく。
「さて食事にしような」
「本日はベル様の好きなコーンスープもありますよ」
「やった!」
*
食事を終えて、私は部屋に戻ってきていた。父は仕事があるので執務室にメープルと一緒に向かい、私はシュガーとともに部屋に戻ってきた。食後の紅茶を入れてくる、とシュガーは部屋を出て行ったので、私はこれからどうなるのだろうかと考えた。
この世界は思ったより<転生者>がいるという話を聞いた。なのでまずは他の<転生者>に会ってみたい。そうして自分は何ができるかを探したいと思う。
神様は特に何かしてほしいとも、しろとも言っていなかった。おそらくご褒美的な意味合いでこの世界に転生させてくれたのだと考えている。そのため私はこの世界で何かを成し遂げる必要はないと思われる。勇者でもない。聖女でもない。ただ、生まれただけだ。
使命がないことは逆に困るときもあるものだ。ただ生きていくだけじゃもったいない。何かしたいとどうしても思ってしまう。魔法があるのだから魔法の練習したい。冒険もできるのかしら、戦えたりもするのかしら。しかし公爵家の人間である以上、勝手に家を出ていくわけにもいかないだろう。では家にいてできること。なんだろう。
「ベル様、悩み事ですか?」
「うん……ねぇシュガー、答えれないなら答えなくていいけれども」
「なんでしょうか?」
紅茶と少しのお菓子をワゴンに乗せて戻ってきたシュガーが首をひねっている私の顔を覗き込んだ。私はシュガーに尋ねた。
「シュガーはメイドの仕事楽しい?」
「はい、楽しいですよ!スキルも発揮できますし」
「……スキルを仕事に生かしているの?」
私は自分のスキルを思い出す。確か<転生者>以外にも<守護者><聖騎士>というスキルを持っているそうだ。このスキルがどういうものかはわからないが、あの時の父の反応からするととんでもなくすごいものだというのはわかっている。
「私の場合は<癒し手>と<料理>ですね」
「<料理>もスキルなの?」
普通の人間であればやる可能性が高い料理すらもスキルだとは。しかしシュガーは「はい」と答えた。
「<料理>のスキルがあると、料理をするときだけステータスが上がるんです。その結果手際が良くなったり、美味しいものが作れたりするんです」
<料理>のスキルを持っていなければ料理が出来ないわけではなく、料理をするときに<料理>のスキルが発動するという形らしい。今シュガーは紅茶を淹れている。ここでもスキルは発動しているらしい。
「味付けなんかも完成品を思い浮かべながら調味料を入れればたいていその味になって美味しくなります」
「万人が欲しいスキルなんじゃ」
「でも実際に料理するのは職業料理人や下町のお母さんくらいなので」
「そうか」
私は前世で一人暮らししていたけれども、料理が得意とまでは行かなかった。料理が上手かったらなぁと思った事はあれども、改善する気もなかったけれども。このスキルがあったら変わっていたのだろうか。
そういえば幼馴染は料理が得意だった。それを考えて、彼女の手料理はもう食べられないことを思い出した。少し寂しい。
「そういやお聞きしましたよ、ベル様は<転生者>でいらっしゃると」
「うん、そうだよ。……えっと」
「大丈夫ですよ。今のところは公爵様とベル様本人、使用人は私と父と母のみお話は伺いました。あちらには、伝えないようにと揉釘は刺されていますから」
安心してくださいねと笑うシュガーにほっと息をついた。




