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迫真の演技

「君、音泉くんっていうんだね。俺、後藤って言うんだ。よろしくね。」

「うん。よろしくね。後藤くんは演劇やったことあるの。」

「まぁほんの少しだけね。全然演劇とか経験ないから緊張しちゃうな。」

話し方からして後藤は爽やかイケメンであった。

気配りもでき、仮に共学だったら女子生徒から話しかけられるほどモテそうである。しかし、演劇だけに注目すると、俺の敵ではないと思った。俺は小学生の時、大きなカブのカブ役という大役を成し遂げた。その評判もよかった上、俺はリアクションが人一倍大きい。「演技の基本はリアクションだ」とも思っている。「そんなの後藤より俺の方が演劇できるに決まっている」と思った。


演劇部の部長から軽く説明を受け、発声練習から始まった。母音を強調して繰り返し話す練習だった。「おはようございます」だったら、「おあおうおあいあう」と話す。練習の意図は、恐らく遠くの観客にまで声を届きやすくする目的なのだろう。この練習は父親が何度もテレビで見ていたため、初めてながらなんとかできた。


その練習が終わると部長は聞いたことない単語を話し始めた。「それじゃあ、エチュードやろうか。」

俺は聞いたことがなかった。

後藤は待ってましたと言わんばかりに目を輝かせている。

俺は恥ずかしながら先輩部員にエチュードとは何なのか聞いた。エチュードとは場面のみ設定し、アドリブで演技するというものだった。アドリブ力に加え、表現力が向上するらしい。

まずは俺の番。狭い橋、俺とその反対から先輩部員が渡り、どっちが道を譲るかという設定だった。シンプルな設定故アドリブが難しそうである。

始まった瞬間、頭が真っ白になった。先輩社員はアドリブをきかせるも俺はしどろもどろになり、橋の上で項垂れるだけであった。そこで、頭の回転がそこまで早くないと実感した。先輩部員は「初めてにしてはよかったと思うよ。」とフォローをいただいた。建前なのかわからないが少し褒められそこそこ満足した。


次は後藤の番。「後藤は俺と違って演劇初心者と話していたのだから、俺よりもその場で固まってしまう」と思った。しかし、そんなことはなかった。後藤は先輩社員のアドリブに瞬時に答え、アドリブを利かせた。さらに自分のキャラクターをはっきりと主張していた。終わった瞬間、部員全員が感動し拍手がなりやまなかった。

ある先輩部員が「これは大型新人の登場だな。」とまで話していた。

後藤からよく話を聞くと中学の時から演劇部で活動していたようで、そこでエチュードを何度かしていたようだった。俺みたいな小学生のとき大きなカブの株役という声とリアクションでなんとかなる素人役者とは住む世界が違っていたのだ。

俺は、後藤に演技力で大敗しただけでなく、謙虚さでも大きく負けていたのである。顔、態度、性格全てで劣っているように感じた。

恥ずかしくなった俺は演劇部体験を終え、苦笑いしながら先輩部員に挨拶をし演劇部の扉を閉めた。


演劇部体験でとても恥ずかしい思いをし今すぐにでも学校から帰りたかった。すると陸上部長距離の部員達が、トラックの周りを汗水垂らして走っていた。何の練習をやっているのかわからないが、そこまで早くなく、遅すぎず一定のペースを保ちながら走っていた。手や足のフォームにブレがなく、いつまでも走ってしまいそうなくらい美しかった。その姿は、帰りたくて仕方のない俺の足を止めさせた。しかも、遠くから見ているからかペースは俺の中学時代のサッカー部の練習にあった長距離走と比べ少し遅く見えた。この練習の意図はわからない。

何故陸上部なのにサッカー部の時より速くないのか、今何キロ走っているのか、何故ゼイゼイしながら肩で走っている部員がいないのか、頭の中がクエスチョンでいっぱいになり全てが気になった。


元々俺は中学も編入先に陸上部がなかったため、入部していなかったが、サッカーより陸上の方が何故か興味があった。

実際、俺はサッカー部の中でも長距離走は早い方であった。中学のサッカー部で、10キロ走った後にいろんな種類のリフティング(ボールを足元・頭などでバウンドさせる練習)する練習があった。そこでは長距離走は60人中12位くらいと早かったが、リフティングが絶望的に上手ではなく、その練習が終わったのが最後から二番目というのもよくあった。それくらいサッカーは得意ではないが、長距離走は少しばかり得意と思っている。


演劇部も今すぐ帰って練習すれば上達し今以上に輝けるかもしれない。しかし、この走りを見てしまった以上、練習の意図、なぜこんなにも美しいフォームで走り続けられるのか気になってしょうがない。同時にどうやったらこのフォームで走り続けられるのかこの部活で速く走れるようになるにはどうしたら良いのか自然と考えていた。

ほんの少しの間、練習風景を見ただけなのに頭の中で陸上のことで頭がいっぱいになっていた。


その疑問と野望を解消するために、明日俺は陸上部長距離部の体験にいくと決めた。












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