8.おむすび神社の裏家業!? 博物館のさまよう鎧 後編
一ツ目の『お札』が貼り付けられた、いわくつきの西洋甲冑が巨大化。
甲冑妖怪として暴れだした。
「――オソレヨ」
重々しい甲冑の、古びて錆びついた関節部分。
そこが嫌な音を立てながら、鉄の拳で少女たちへ殴りかかる。
「「「「「「変身!」」」」」」
だが、すでに卍句は唱えられていた。
「月の白兎」「命の不死鳥」
「海原の姫」「お山の大将」
「一粒の種」「鍛造のひと振り」
少女たちの姿は、今この場、戦いの場にふさわしい衣装へと変化。
それぞれの名を、堂々と宣言する。
「『宙まで届く純白の決意』。 『陽』の巫女、ラビットホワイト!」
「『燃え盛る命の炎』。 『火』の巫女、ザ・フェニックス!」
「『ふり注ぐ恵みの雨』。 『水』の巫女、アクア・レイン!」
「『荒ぶる大地の乙女』! 『土』の巫女、我威亜!」
「『はえ渡る緑の可能性』。 『木』の巫女、万葉種子」
「『輝く一閃』! 『金』の巫女、ツール・ブレード!」
「――オソレヨ!」
正拳突きで繰り出された、甲冑妖怪の巨大な鉄の拳。
これを真正面から、大地の巫女が受け止める。
「来やがれェ!!」
受け止めた。
轟音が鳴りわずかに押されるが、確かに彼女はそれ以降、拳を進ませなかった。
この隙に他の巫女たちが散らばる。一塊は危険という判断からだ。
「『青気功・鎧通し』!」
最初に一撃を食らわせたのは雨の巫女。
流れる動きで、甲冑妖怪の脇腹に青い拳を食らわせる。
そこから発せられる衝撃は、青い気功の拡散に伴い増幅。
鎧を貫通し、その内側で反響した。
だが――
「オソレヨ!」
「残念、効いてないみたいー」
甲冑妖怪の肩にいつの間にかいた、謎の少女ミカゲが淡々とそう告げた。
同時に、一切のダメージを受けてない様子で甲冑の拳が振り下ろされた。
ただし流水のようになめらかに、激流のように速く。
そのように動ける雨の巫女にとって、巨体の拳を躱すことは難しくない。
「そのような大振り、当たりませんことよ!
そしてラビットホワイト、手ごたえなしですわ。あの妖怪には中身が有りません」
「了解、それが分かっただけで十分」
音波によって海底の地形を把握するソナーのように、反響する青気功を用いて、雨の巫女は敵の内部を把握していた。
その情報を、いち早くみんなと共有。リーダーである白兎の巫女に伝達。
そのための、様子見の初撃だった。
「――ここは、せまい。出ようか」
「オソ!」
そして、甲冑妖怪の攻撃対象が変更。
部屋全体、博物館そのものに対し、外に出ようと攻撃が加えられた。
「まずい、壁が壊された! 自分たちも行くよ、ツール・ブレード」
「うわーん、怖いよフェニックスー! あんなのデカすぎるよー!」
「いいから、早く武器をちょうだい」
おびえる一振りの巫女と、そんな彼女をつかまえ空中に逃がしてあげた、不死鳥の巫女。
「はい、『メタル・メタモルフォーゼ』」
「よしじゃあこれで――って、ダメだ! 炎で刃が熔けちゃう!?」
手渡らされた『金』属性の刃は、不死鳥の巫女の『火』属性で熔けてしまう。
五行思想においてはこれを「火剋金」と呼び火が金属を熔かす様を表す。
つまり、不死鳥の巫女と武器の譲渡は相性が悪かった。
「だったらこのまま、熔けるままにぶつけてやる! 浄火炎、赤銅の雨!」
だが、それはそれとばかりに即座に適応。
焼けて熔けた、真っ赤な『金』属性の刃。
これに炎の渦を混ぜ合わせたものを、不死鳥の巫女は甲冑妖怪へとぶつけた。
(あれ? さも常識人です、みたいな顔してるこの子が一番ヤバいのでは?)
熔けた金属を頭からかぶる甲冑妖怪。
その様を見て、一振りの巫女は端的にドン引いていた。
人体ぐらい簡単に焼く熔けた金属。
それをぶつけるという絵面のエグさに、少しだけ甲冑妖怪に同情した。
――だが、そんな2人の合わせ技では止められなかった。
「ダメだ、効いてない!」
「おかしいな。ちゃんと金属が灼けた感じはするし、甲冑にダメージも行ってそうなのに」
「――オソレヨ!」
焼けた金属の雨に打たれても、平然と歩く甲冑妖怪。
その巨体に見合った鉄の腕が振り回されただけで、部屋の壁は破壊された。
狭いこの場を離れ、外を目指す甲冑妖怪。
その肩では、謎の少女ミカゲが、赤銅の雨が効いていない様子でたたずんでいた。
「我威亜、ぶん殴りなさい! お客さんは帰ったかもだけど、外にはまだ従業員さんがいる!」
「もちろん、言われなくとも! というわけで『我流・我威亜拳』だオラァ!!」
これに対し、白兎の巫女が指示を飛ばす前に動いていた、大地の巫女が殴りかかる。
岩塊をまとう、巨人のごとき彼女の拳。
最重力にして最大パワーの一撃が、甲冑妖怪を吹き飛ばした。
「手応えあり!――何だが、ミスったな、これは」
「ですわね、利用されました。
アナタの拳が生み出す勢いを、甲冑妖怪が壁を壊す動きに加算されました。
結果、壁は壊れ脱出を許してしまいましたわ!」
部屋の外の、博物館内は薄暗い。
展示物のうち、絵画などは紫外線で劣化してしまう。
そのため、展示物に日光が当たらない間取りになっているのだ。
この場にある光は、展示物を彩る天井のライトだけ。
そのライトは、甲冑妖怪が暴れることで電源基盤が故障。
辺りは暗闇に包まれていた。
「にしてもこの甲冑妖怪――」
「すごいピンピンしてんな」
「少々、頑丈すぎる気がいたします」
上から順に、白兎、大地、雨の巫女の順だ。
結果的にまとまって行動している三人は、甲冑妖怪の頑丈さに疑問を持ち始めた。
「アクア・レインの『青気功』を受けて立ち上がるのはまだ分かる。
あれは鎧通し、内側を攻撃する技。中が空っぽなら、甲冑妖怪に聞かなくてもしょうがない。
けど我威亜、あなた手加減はしてないわよね」
「当たり前だろ、手応えはあった。確かにあたしの拳は、あいつの鎧をひしゃげさせたはずだ」
「しかし――立ち上がる甲冑妖怪に、そのような傷は見受けられませんことよ」
もうもうと、コンクリートの砂煙の奥から現れる甲冑妖怪。
雨の巫女の攻撃を受け、不死鳥の巫女から赤銅をかけられ、大地の巫女に殴られた。
その上で、その体は問題ない
「つま、り何か仕掛けあるんだ。たぶんそれを見つけないと、私達は勝てない」
「神威陽光波をぶつけてもか」
「やるだけやってみるけど、たぶんね」
そう語る白兎の巫女の全身から、白い光がほとばしった。
暗い博物館の中、彼女の姿だけがはっきりする。
「「「……?」」」
この時、三人の巫女は一斉に同じ違和感を抱いた。
しかしその違和感の正体にまでは至らなかった。
「神威、陽光――」
間合いに入った瞬間、発動できるよう、充填が完了したままに接近する白兎の巫女。
浄化技をいつでも発動できる状態で、動き回ることに初めて成功した。
「今だ、カウンターパンチ」
「オソ!」
「グワーッ!?」
そして、白兎の巫女は吹っ飛ばされた。
神威陽光波を維持しながらの移動であったため、思うように動けなかったからだ。
飛びかかった彼女に合わせる形で放たれた、甲冑妖怪のカウンターストレートパンチ。
機動のわかりやすいその攻撃でも、神威陽光波を維持するコントロールの最中では避けられなかった。
そして、だからこそ気づいた。
天井に叩きつけられ、全体を俯瞰できた白兎の巫女だからこそ真っ先に気づいたのだ。
「あーッ!!?? 影ぇ――ッ!!!」
「え、どういうこと!?」
他の巫女たちは突如張り上げられた“影”という言葉に戸惑うしかないが、唯一そうでない者がいる。
「ヤッベ、ばれた」
甲冑妖怪を生み出した謎の少女、ミカゲ本人だ。
無表情で無感情な言葉を吐きつつも、急に諦らめムードを漂わせ始めた。
そしてそんな中で、状況を変える白兎の巫女の気づきが告げられる。
「影を見て! フェニックスの炎で気づけたけど、アイツの影は灯りと逆方向!」
「ほんと!?」
咄嗟に、不死鳥の巫女が炎の翼を広げ光源を大きくした。
展示室内を埋め尽く炎の灯りにより、同時に影も生まれる。
巫女たちや展示物の影は当然ひとつだけ。
しかし、甲冑妖怪の影は二つあった。
光源の向きに応じた自然な影と、そうでないおかしな影。
そして、おかしな影は慌てた様子で、まるで生きているかのようにもうひとつの影に重なった。
「そうかあの野郎、影が本体だったか!」
「通りで手ごたえがあるのにないはずですわ。でしたら、『青気功』!」
巫女たちは、不死性のギミックを把握した。
よって次の瞬間には、雨の巫女が気功術で一気に距離を詰める。
強化した身体能力が必要としたのは、一呼吸分の時間だけ。
すると動揺したのか、甲冑妖怪の影に本体の証である一ツ目が浮かび上がった。
「よし、逃げろ。ボクも逃げるからさ」
「おそ!?」
すでに負けを察したのか、謎の少女ミカゲは影の世界へと帰っていく。
雑に撤退の指示だけ出して、少女は向こう側へ行き始めた。
使役されているだけの式神とはいえ、そうなってはたまらない。
戸惑うままに甲冑妖怪の本体、影妖怪は逃げ出した。
夜の文化ミュージアムの中、壁や床をつたい影から影へ移り渡ろうとしている。
「――させまへんえ」
それを阻止したのは、種子の巫女だった。
見れば展示室の出口が、芝生のような姿をした木霊で覆われている。
木霊。つまりは、淡い光を放つ植物の魂の一部。
これらが密集している以上、壁も床も天井も、影が通り抜けられるスペースはない。
「万葉種子! どこ行ってたんだおめー」
「それはもちろん、御ムスビ様と一緒に職員の皆様の避難誘導やわ。
あとは我威亜はんが暴れても崩れんように、建物全体に根っこを這わせておきました。
太い柱は補強してより頑丈に、脆そうな部分は別の支柱で支えとります。
つまり、うちの力はこの建物全域に及んどるっちゅうことや。――逃げ場があるとは思わんことやで」
逃げ場のない、甲冑妖怪の本体である影。
その上に、天井に叩きつけられていた白兎の巫女は降り立った。
「影踏み。移動を『禁』ず」
「オソ!?」
「踏みつけるという行為には、それだけで魔を封じるという意味合いがある。
――アナタはもう、動けない」
彼女の全身からは、白い陽光が漏れ出している。
「神威、陽光波――ッッ!!」
「オソ――――ッッッ!?!?」
こうして、博物館の激闘は決着したのだった。




