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5. トゲ持つ毒草!? 木の巫女、茂木みどりの激怒 後編


挿絵(By みてみん)


「オソレロ!」


 泥妖怪の巨大な手が、巫女たちを取り抑えようと校庭の底から襲いかかる。これを白兎の巫女はジャンプで躱し、不死鳥の巫女は炎の翼を作り出して回避した。雨の巫女と大地の巫女も、不死鳥の巫女の足をそれぞれ掴むことで共に逃れている。


「どうする? アイツ、けっこう厄介な感じするけど――」

「泥の体なのが面倒だよな。この前の川妖怪と同じで、下手に近づくとまた飲み込まれそうだぜ」


 そして、唯一自由に空を飛べる不死鳥の巫女の背中に、白兎の巫女が着地したことで作戦会議が始まった。しかしこれでは一人が他の全員を支えているも同然。炎の翼にかかる負担が大きすぎた。


「じゃあわたしが! 『浄火炎』!」


 しかし、唯一空を飛べる不死鳥の巫女は、同時に唯一遠距離での攻撃手段を持つ巫女である。なので彼女は炎を操り、火炎放射として泥妖怪に浴びせかけた。


 だが――


「無駄無駄ァ! 雨が降る中、貯水量は十分。炎の耐性は万全! だからわざわざ雨の日を狙ったんだ!」


「だったら次はわたくしが。水の巫女として、雨を通してこの青いオーラを……『青気功・伝導雨』!」


 雨を乗り越えて熱波が肌に伝わる、不死鳥の巫女の攻撃を受けても動じない泥妖怪。これに対抗するため雨の巫女は、雨粒に対し青いオーラをまとう拳を叩きつけた。


 これにより、降り続ける雨を伝って青いオーラが、衝撃波を伴うままに多角的に泥妖怪を襲う。だが、同時にその攻撃は分散していた。それが理由なのか、青気功を受けた泥妖怪にダメージを受けた様子はない。


「効かないねぇ、世の中には相性というものがある。特にコイツは泥。水を濁し、また吸収し、溜まれば激流をもせき止める泥の力を持つ!」


「どっ、どうしようラビットホワイト! 近づけないのに遠距離攻撃が効かない! どうやって倒そう!?」


「落ち着いて。どんな妖怪だろうと、あれが(まじな)いによって生まれた以上は必ず解呪できる。そしてあの一ツ目妖怪の場合は、墨で書かれたみたいな一ツ目が弱点なのは分かってる!

 あそこに浄化技さえ当てられれば倒せるの。たとえ私達だけでも絶対に勝てる! 例えば私を飲み込んだアイツの体内で、『神威陽光波』を爆発させるとか――」


 そう、リーダーとして白兎の巫女がみんなを励ましている時だった。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッ!!!

 雨が泥を叩く音よりも濁った、濁音まみれの声が空間を支配した。



 ☆☆☆☆☆



 茂木みどりの朝は早い。それこそ、農家の朝が早いように。

 そして彼女にとって、もはや習慣となった早起きはあまり苦ではなかった。


 平凡な一般商社マンの父と、工場でお弁当を作っている母。

 そして、忙しい2人に変わりよく面倒を見てくれた、近所に住む祖父。農家であった祖父の畑で遊んでいるうちに、次第に土いじりが好きになり、やがて実際に育てることに興味を持った。


 父は商社マン。つまり、売る人だ。

 母はお弁当を作る人。つまり、売れるように加工する人だ。

 そして自分は、加工するものを育てる人。家族3人でのバトン渡しのような、そんな連鎖的な関連性に茂木みどりは愛着を持った。


 誰かが作るものを自分が育てる。

 誰かが売るものを自分が育てる。

 誰かが消費するものを――自分が育てる。


 その連鎖が、不思議な繋がりであるように少女は思った。

 その繋がりを、絶やしてはもったいないと幼いながらに思った。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッ!!! うちのッ!うちの家庭菜園がァァッッ!!」


 だから、朝早くから登校していた茂木みどりは激怒した。

 泥妖怪の流動する体の揺れが波及したことで、一部が壊れた花壇のレンガ。それを見た瞬間、あの怪物め許しておけぬと彼女の細目が開眼した。


「いや、家庭菜園ではねーだろ」

「ナチュラルに公共の花壇を私物化しない。学校の土地を何だと思ってるの」

「ひょっとして花壇の野菜ってみどりちゃんが勝手に植えてたりする?」


 思わず空中で、大地と白兎と不死鳥の巫女がツッコんだ。

 理不尽だとは思う。可愛そうだとも思う。

 しかし、確かに花壇のレンガは壊れていたが、農作物自体にダメージはない。戦いはまだ序盤で、被害も広がってはいない。この段階で髪と(くわ)を振り乱すほどに怒られては、逆に冷静になってしまうというものだ。


 さらには本人が誰よりも激怒し、泥の巨体をもつ妖怪相手に単身クワをつかんで突撃しようとしているのだ。まずはその蛮行を止めねばと、白兎の巫女が動こうとした時だった。


「むむっ! この感じ、『神様勾玉(カミサマガタマ)』が反応しているッ!?」

「このタイミングで!?」


 白兎の巫女の衣装の、袖のたもとから現れた御ムスビ様。少女の感情の高ぶりに応えるように、その中から緑の『神様勾玉』が飛び出した。そのまま光り輝く勾玉は真っ直ぐに、茂木みどりの(くわ)を握っていない手に見事収まった。


 そして、御ムスビ様の説明すらなく、円環をなす五行の力のひとつ、『木』の属性が少女を覚醒へと導いた。みどりは勾玉を握ったその時点で、全ての覚悟を決め言霊を口にしていたから。


「『変身、一粒の種』!」


 種が芽吹き(クキ)が伸び、葉が開いて花が咲く。

 一粒の種が成長することで、新たに万粒の種が生まれ森が広がっていく。

 それが命の連鎖、世界の循環。


 少女の変身は、それを個人で再現したものだった。


 緑の黒髪は本当に緑色へと染まり、常磐――時の流れによって色あせないものを意味する、長寿と繁栄の濃い緑――色へと移り変わる。お団子状の結び目から開放された黒髪は、重力に逆らうことなく末に広がり美しい扇の形となった。そんな髪ツヤの輝きを、柊の髪飾りが謙虚にいろどる。


 そして彼女の心、彼女の魂から生まれた一粒の種が広がり、そのまま枝葉を伸ばしていく。育つ枝葉の全てが少女を覆い尽くすまで時間はかからず、やがて彼女の全身を隠す植物は繊維となり服となった。色は段階的な森の色。それは木々の葉が重なるように、同じ形の衣服をいくつも重ねた十二単(じゅうにひとえ)だった。


 自身から生まれた服を着込む姿は、まるで平安貴族のお姫様のような雅なもの。

 しかし、その手にはクワが握られていた。

 彼女の精神性が変身後の『巫女装束』に組み込まれていた。


 茂木みどりにとって、汗と泥にまみれた自分は恥じるものではない。土を割り大地を耕す(くわ)を、何百年も人類が愛用したその形状を、合理的な美しさを持つかっこいいものとすら思う。


 製品の流通。命の連鎖。知識の伝承。

 そういったバトンの受け渡しを尊いと考え、守りたいと考えるのが彼女だった。


 よって(くわ)を握ったその姿、守られるだけのお姫様ではない。


 そんな、アスファルトをも突き破る植物の力強さを有す、種子の巫女が堂々の名乗りを上げた。


「はえ渡る緑の可能性。――木の巫女、『万葉種子(まんようしゅし)』!」


挿絵(By みてみん)


「また追加戦力かよォォォッッ!!!」


 変身を終えた少女の体から光がもれた。緑色の、種子の形をした光だ。

 それらは泥妖怪の巨体を超えて、校庭中に広がっていく。そのまま光は花壇の茂みや植樹に溶け込み、葉全体に淡い『木』属性の色が灯った。


「芽吹きなはれや。『木霊招来(コダマしょうらい):根しばり』」


 すると、彼女の言葉に呼応するように、人を縛り上げられるほどの巨大な根が大地から飛び出した。『木』の力を宿す大いなる根が、雨でぬかるんだ校庭を突き進み泥妖怪の体へからみついていく。


「だから何だ! 引きちぎって振りほどけ!」

「オソ!」

「――無駄やで」


 直後、引きちぎることには成功した。

 だが、それで根の勢いが治まることはない。引きちぎられた部位もそれ以外の部位も、どちらも伸び続けるままに泥妖怪の体へからみつく。


「それに実体はないんやからな。木霊(コダマ)言うて、植物にかて魂はある。うちはその魂を、強化して引き出して使役できるみたいや。せやから今、あんたを襲っとるんは根の形をした霊体や。うちの力で強化しとるから、切ろうがちぎろうが痛ぁないで。――コンクリも壊す植物の生命力に、あんたは負けるんや」


 根の形をした霊体、強化された植物の魂の一部、すなわち『木霊』が泥妖怪の体へ深く侵入していく。それに応じて根の輝きは増し、同時に泥妖怪からは抵抗の力が失われていった。


「御ムスビ様、これは――」


「植物の根っこが持つ力、つまりは養分の吸収だ。木の巫女『万葉種子』は、使役する木霊を通じ妖怪の『陰』の力を吸い上げる。そしてそれだけじゃない。生命の円環の力で、『陰』の力を『陽』の力に変換しているんだ!」


「てこたぁ、敵の力を自分のにするエナジードレインか! 強いな!」


「お、オソ……」


 御ムスビ様が解説する中、体に根を張られていく泥妖怪が、みるみるうちに力を吸われていく。

 同時に、力を吸い上げる根はどんどん太いものへと変わっていった。それに応じて、泥妖怪の体を突き進む速さも、力を吸い取る勢いも増していく。


 やがて全身に根を張られたことで、泥妖怪は動けない。とうとうその力の源である、『陰』の力がこもった呪いの一ツ目にまで根が届いた。


「性も根も尽き果てなはれ、『奇樹怪解(ききかいかい)』!」

 そのまま泥妖怪の一ツ目が消滅。結果として浄化が終了した。


「あーもう、瞬殺かよ! 相性が悪いんだからそりゃそうだよなぁ! 今日は厄日だ、もう帰る!」

 そうしてソウリュウが影の中に沈んでいったことで、雨降る早朝の戦いは終了したのだった。



 ☆☆☆☆☆



 普通の地面に戻った、校庭に降り立った巫女たち。しかし一粒の巫女はそちらの方ではなく、水たまりの泥で巫女衣装の十二単衣が汚れるのも無視して、花壇の前でひざまずき壊れたレンガを確認している。

 心配ない。浄化がなされたことで、泥妖怪が世界に与えた影響は消え去り、どのような傷も残っていなかった。


「攻撃手段が植物を植え付けてのエナジードレインって……」

「性格がめっちゃ反映されてるな。ウケる」


 変身を解いた少女たちが、彼女の戦法評を価しながら近づく途中、土居ヤマトがケラケラと笑った。そして、見返り美人を形にしたかのように種子の巫女が振り返った。


「まさかほんまやったとはなぁ。疑って失礼なこと言って、えろうすんまへん。ごめんなさい」

「いいよ、気にしてないから。そしてこれは――あなたの」


 そして、上白きずなは「おむすび神社」のお守りを渡す。

 変身を解いた茂木みどりは、緑色のそれを確かに受け取ったのだった。


「ほな皆はん、成り行きでこないになった訳やけども。よろしゅうお願いします」

 残る勾玉は、あと2つである。

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