5. トゲ持つ毒草!? 木の巫女、茂木みどりの激怒!
上白きずなから渡された、焦げ茶色な『おむすび神社』のお守り。土居ヤマトの髪色と同じその中に、『土』の『神様勾玉』が入っていた。お守りを首に下げ、大地の巫女に覚醒した少女が他の三人と歩く。
行き先は学校、現在登校中。これで全員、色違いのお守りをお揃いで首から下げているという形だ。個性豊かな4人が歩く光景は、仲が良いのだなと微笑ましく思われるだろう。
「で、次の巫女をアタシが選べばいいのか?」
「そう。ヤマトに話を持ちかけたのも、しずくちゃんが提案したのが理由からだったからね。あの人なら適正があるかもしれないと、アナタが思う人に巫女の話を持ちかけるつもり」
「そっか、そのあたりはボスに任せるさ。巫女の勧誘はアンタのが適正だろうからよ。ただ――」
ボス猿気質の土居ヤマトは、神社の娘である上白きずなを妖怪退治においては専門家だと認めている。御ムスビ様や霊能力に関することで、一番詳しいのは彼女であると判断している。なので、上白きずなの方針に異論はない。
だがそれはそれとして、通したい我欲があった。
「どうしたのヤマトちゃん、しずくちゃんのことジッと見ちゃってさ」
その様子を見かねて、赤城ほたるが尋ねた。
「みんな分かってんだろ? あたしとしちゃあ、同じ秘密を共有してる巫女仲間ってことで、いつでも天才サマと喧嘩れそうだからッつーのも仲間に入った理由なんだからな」
「…………」
「うわぁ。しずくちゃんったら、これぞ100匹単位で苦虫を噛み潰してる顔。ヤマトちゃん、あんまり無茶を言ったらダメだよー?」
「けど実際問題、あたしらはこれから戦っていくんだろ? だったら実戦経験は積むだけ損にならねぇ。特に能力的に、ほたる以外の全員が前で戦う近接格闘家だ。組み手、練習、稽古。そういうのの相手として、合理的に天才サマと戦えるとも思ったから、『神様勾玉』に手を伸ばしたのもある。バトルの経験をとにかく増やすってのは、あたしらの使命とやらにふさわしいんじゃねーの?」
「それはそうかもだけど……」
ヤマトとほたるの会話を聞きながら、間違ってはいないと、きずなは思う。これから先、戦いは続いていく。ならそれを見据えた行動は悪いことではないはずだ。
だからそのまま、苦虫を噛み潰した表情でいる、しずくに尋ねた。
「しずくちゃんはどう? アナタが嫌なら、代わりに私が組み手するけど」
「……いえ、やりますわ。わたくしもヤマトさんも、きっと拳を交えることで得るものがあるでしょうから。ただし天才サマと呼ぶのはやめてくださいまし、わたくしその呼ばれ方は嫌いですので」
「そうこなくっちゃだ!」
そして放課後、上機嫌な土居ヤマトに導かれるままに、少女たちは彼女が挙げた巫女候補がいる場所――すなわち園芸部を訪れるのだった。
☆☆☆☆☆
日本語には、緑の黒髪という表現がある。この場合の「緑」とは色の緑ではなく、緑という言葉の由来である新芽のことだ。つまり、生えたばかりの若い芽のようなみずみずしさのある黒髪、という意味である。
土居ヤマトに紹介された少女の髪が、まさにその緑の黒髪であった。
ツヤのある髪をお団子状にまとめた、おしとやかな雰囲気をもつ糸目の少女。
彼女ははんなりとした笑みを浮かべながら――土に汚れたジャージ姿で、力強く鍬を振っていた。ここは園芸部の部室のすぐ側にある、学校の花壇だ。畑も兼ねているため、野菜の花が普通に混じっている。
そんな中、少女は畑仕事をがんばっていた。首にはタオルが巻かれ、顔の汚れでも拭ったのか土色のしみがある。ツヤやかな緑の黒髪も、汗に砂ぼこりが付いたのか少しだけ汚れていた。
そして、4人に気づいた少女が頭を上げる。
「何のようですのん?」
はんなりとした、関西圏のなまりがある口調であった。
ヤブ
「コイツが園芸部の部長、茂木みどり。トリカブトのような女だ」
「……あいかわらず、ヤマトはんはヤブから棒に失礼やなぁ」
端的に失礼な土居ヤマトに、糸目の少女は躊躇なくクワの先を向けた。
腰の入った使い慣れている姿勢で、いつでも振りかぶれるよう構えている。
つまりは、涼しい顔で凶器を構えていた。
(ヤマトが気に入ってる時点で大人しいのがくるとは思ってなかったけどさ!)
(早速なんか強烈だなぁ。うちの学校って、こんなにアクの強そうなのが多かったんだー)
(これはまた、大概そうな同級生が来ましたわね。いえ、妖怪が相手と考えるとナシではないのでしょうが……)
糸のような細目をさらに細めて、笑顔のままにじり寄る茂木みどり。
軍手をつけてあるその手は、グッと鍬を握りしめている。
「ヤマトはん。あんた、ホンマにうちのことを何やと思てますの?」
「虫も寄り付かないような女」
「それを褒め言葉やと思っとるところが、あんたがうちと分かり合えんとこや。昨日サボった分の仕事、キチンとやってもらいすえ」
「分かった分かったやるやる。ただ――ちょっとコイツらの話を聞いた後でもいいだろ?」
アナタ、園芸部だったの!?と他の三人が驚く中、部長と部員のかけ合いは進んでいった。一応、これも友人間でのじゃれ合いと見れば、可愛らしいやり取りに見えるかもしれない。それ以外の見方では全く可愛くないとも言えるが。
「せやなぁ、ヤマトはんが肥料を運び終わるまではちょぉっと暇やろし、そのぐらいの時間でええなら付き合いましょ」
どうやら、話がまとまったらしい。するとヤマトが提案する。
「よし、じゃあ天才サ……じゃなくて、しずく。ちょいと向こうでバトろうぜ」
「何故にそういう話になるんですの!?」
「だって昨日無断欠勤した分これから働かなくちゃいけない。つまり今日はもう今しかバトれる時間がない。どうせ説明はボスがいりゃできるんだ、向こうでやろうぜ♡」
「……思い出しましたわ。たしか前回も根負けして、強引なアナタを折檻しようと勝負を受けたのでした。いいでしょう、少々お待ちなさい。体育着に着替えたら付き合って差し上げますわ」
「いえーい♡」
「ではどうぞ部室へ、粗茶ぐらいしか出せまへんが」
そして2人が離れていき、茂木みどりが部室へと案内を始める。大丈夫なのかと思いつつも、上白きずなは巫女としての話をするため、みどりの後に続いた。
☆☆☆☆☆
「――ハッ」
そして、鼻で笑われた。
「お茶飲んだらもう帰ったほうがよろしいのとちゃいます?」
嫌みまで言われた。
「むぅぅ、本当のことなのに……」
「いや、そりゃ正直に伝えたらそうなるでしょ。普通は信じられないって。というかアレだね、きずなちゃんは真正面からしかぶつかれないタイプだね」
ビル妖怪、鉄アレイ妖怪、マッチ妖怪、川妖怪との戦いと、巫女の覚醒。
そして、謎の少女とソウリュウを名乗る竜人の妖怪。
実際にお守りから『神様勾玉』を取り出して見せても、みどりの反応はかんばしくなかった。
「あんましハッキリ言うのもなんですけど、そないなこと急に言われても困りますわぁ。うちみたいな一般商社マンの一人娘には、とてもとても。雲の上のように、遠くのお話やと思いますえ」
「やんわり話を切り上げようとしないでよー! 学校で思いっきり暴れられたときもあったのに!」
「浄化した時点で、一ツ目妖怪が世界に与えた影響は消えちゃうからね。霊能力がない人の記憶からも消えちゃったんだろうね」
「ううう、いつもだったら色んな術が使えたのに。この世とあの世のバランスが崩れてるせいで、パッとわかりやすい霊能力が使えないんだよなぁ……」
「え、そうなのきずなちゃん。その話もっと詳しく」
「話がそれてってまへんか?」
初耳である、きずなが巫女になる前から使えたという霊能力に興味を示す赤城ほたる。そのやり取りにお茶をすするみどりの細目が一層細くなった。関西圏のなまりから、冗句混じりの皮肉が飛び出し始める。
「なんやツッコミでも待っとるんか、お二人さん? ぶぶ漬けいかがどすか、ぐらいならサービスで言いますえ」
「ううん、ちょっと待って。もう少しだけ話を聞いて。私も最初はヤマトの紹介で大丈夫なんだろかって疑問だったけど――今はそうじゃないから。
だって気づいちゃったもの。あなた、御ムスビ様を知ってるでしょ」
「そりゃまぁ、うちかてこの町にずぅっと住んどるわけですから、御ムスビ様の名前ぐらい知っとります。万葉箱の隣、畑のお近くにも、五穀豊穣を奉る御ムスビ様の祠があります。学校の備品であるそれを清掃するのも、うちら園芸部のお役目です」
「だから私はあなたは巫女に向いてると思ってる。私はおむすび神社を管理する一族の跡取り。そしてみならい巫女の一人として、入学してから何度も学校の祠も確認してたけど――ずっと小まめに手入れされてた」
「……当然でっしゃろ。見守っていただいとる以上、敬意は払わんと」
「それが大事なんだよ。見えないものを大事にすることが、当たり前であること。その心が、すごく大事なんだ。未来がどうなろうと不思議は常に私達の側にある。それを忘れない人が、妖怪ともきっと向き合えるんだ」
「…………」
真剣そのものな、きずなの顔。さっきまでなら鼻で笑えたが、今の彼女がまとっている空気では出来ない。そういう、人に自分が本気であると伝えられる気迫を、少女は有していた。
「茂木さん。これだけは言っておくね。今、私達の目の前にも御ムスビ様はいるよ」
「へぇ、それはそれは」
受け流すような、みどりの返答。
机の上には御ムスビ様がいて今も喋っているが、彼女には見えていない。
しかしそれでいいと、この時きずなは思っていた。
「目の前にいるよと言われる前と後で、あなたの態度は変わらなかった。それがいいの。実際にいるいないに関係なく、見えない不思議へ敬意を抱く。そういった尊重の心がある人こそ――きっと、八百万の神々の器に適してると私は思うから」
そして。
「また来ます」
それだけ言い残して、きずなは部室を後にした。
その後ろを、ほたるが追いかける。
「……なんとも、まぁ。――狐につままれた気分やわ」
残るみどりは、一人お茶の湯のみを手にただそう呟いたのだった。
☆☆☆☆☆
一方その頃。
「うぉぉぉ! パロ・スペシャルですわぁぁぁ!!!」
「ちくしょー!! まけたー!!!」
2人の組み手は、プロレス技の関節技で決着していた。
※2人は特殊な訓練を受けています。しずくは天才なので技術をマスターし、ガタイの良いヤマトはそもそも頑丈な体質です。そうでないと怪我をするので、絶対に真似しないようにしましょう。
☆☆☆☆☆
そして次の日、早朝。
強い雨が振り、校庭に泥のぬかるみが広がっていく中、呪文が唱えられた。
「怨・切切・婆沙羅・吽・張。――畏レ、奉ル!」
「!? 場所は――学校!?」
傘をさして登校していたきずなは、この瞬間に妖怪が出現したことを察知。
「どうしたの、きずなちゃん?」
「まさか」
「さっそく来たか!」
その隣には、ほたる・しずく・ヤマトも揃っていた。
だから、四人の声が重ねられる。
「『変身、月の白兎』!」
「『変身、命の不死鳥』!」
「『変身、海原の姫』!」
「『変身、お山の大将』!」
そして陰陽五行の巫女たちの内、覚醒を終えた四人が校庭へ降り立った。
強化された身体能力による、跳躍からの着地である。
「宙まで届く純白の決意。 陽の巫女、『ラビットホワイト』!」
「燃え盛る、命の炎。 火の巫女、『ザ・フェニックス』!」
「ふり注ぐ、恵みの雨。 水の巫女、『アクア・レイン』!」
「荒ぶる大地の乙女! 土の巫女、『我威亜』!」
「よう、今日こそ勝たせてもらうぜェ」
不敵な笑みを浮かべる竜人の姿をした妖怪、美しき爪のソウリュウに、四つの名乗りが堂々上げられた。この世には、言霊というものがある。強い意思が込められた宣言は、ただ口にするだけで力となる。
それが日の本の国におわす、八百万の神々の力だった。
「いいかよく聞け! 今日の妖怪は、すでにお前らの下にいる!」
だからこそ、ソウリュウも声を張り上げる。その言葉もまた、場を支配しようとする言霊の一種だった。そして次の瞬間、ぬかるんだ大地から泥を押し上げるように巨大な一ツ目が開かれた。ぬかるみはそのまま波をうち、校庭の端から巫女たちが立つ中央に向けて盛り上がり出す。
「出てこい泥妖怪! 奴らを地中深く、引きずり込んでやりなぁ!!」
つまりは開戦。雨の中の戦いが始まった。




