表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フェムユートピア-女性完全保護国家  作者: 小田原 純


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/18

8

ホテルの一室。


玲がカードキーを通して扉を開ける。


「先客がおるって言うたら、一人しか思い当たらへんのやけど……」


部屋へ入った瞬間、朱音は目を丸くした。


ソファに座る女性が、あんぱんを頬張りながら牛乳パックを傾けていたからだ。


「あ、おお。来た来た」


片手をひらひら振るその姿に、玲が即座にツッコむ。


「やっぱあんたか! その組み合わせは刑事やっちゅうねん!」


「さすが関西人。けどね、糖分と炭水化物は脳を回すんだよ」


真琴は悪びれもなく言った。


「大体、高級ホテルであんぱんと牛乳て!赤ちょうちんでマカロン食うくらい浮いとるわ!」


朱音がその例えもどうかとと首をかしげる。


「玲ちゃんよ、本来の自分の力を出すにはルーティンが必要なの!だから私は大スクープ取る時はあんぱんと牛乳なのさ」


「ジンクスかいな!?」


朱音は思わず小さく吹き出す。


「紹介するわ。うちの期待のホープ、羽村朱音ちゃんや」


「へえ」


真琴の視線が朱音を真っ直ぐ射抜く。


「あなた、篝の“狂信者”ではなさそうだね」


「え……?」


朱音がきょとんとしていると、真琴は肩をすくめた。


「私、篝は好きよ。女性たちの安心を作ろうとしてるのも分かる。でも――」


「全部を正しいって、盲信しちゃいけない危うさがあります」


朱音の返答に、真琴は目を見開いた。


篝の周囲には、賛美か敵意しかない。


だがこの少女は違った。


理解しながら、距離を失っていない。


その事実に、真琴の目が興味で輝く。


「いいね、朱音ちゃん。あなたみたいな子がいれば、篝の“もしも”を止められるかもしれない」


「そ、そんな……!」


朱音は慌てて首を振る。


だが玲もまた、どこか安堵したように笑っていた。


一方その頃。


篝は上品な笑みを浮かべながら、久我の隣でグラスを傾けていた。


清楚で、控えめで、少し頼りなさそうな女子大生。


男が最も警戒を解きやすい仮面。


「久我先生のお話、もっと聞きたいです」


篝は潤んだ瞳で見上げる。


「応援したいから……先生のこと、もっと知りたくて」


酒も入り、久我は完全に気を良くしていた。


「はは、困ったな。そんなに熱心な支持者に来られると」


「……奥のお部屋で、お話聞かせてもらえませんか?」


篝がそっと囁く。


久我は迷いなく頷いた。


その背中を見ながら、篝は微笑む。


だがその瞳だけは、凍えるほど冷たかった。


(やっとだわ)


(やっと、こいつに返せる)


(今まで奪われたもの全部――その何倍にもして)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ