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フェムユートピア-女性完全保護国家  作者: 小田原 純


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「朱音、玲。あなたたちも配置について」


広場を見渡しながら篝は命じた。


しかし二人は動かなかった。


朱音は苦しそうに首を振る。


「篝さん、このままでは暴動になります。もうやめさせましょう」


玲も前へ出た。


「やりすぎや、篝。罪のない男まで捕らえるんは違うと思う」


その言葉に篝の肩が震えた。


「……あなたたちまで」


ゆっくりと振り返る。


その瞳には怒りと悲しみが入り混じっていた。


「女性たちを守らないというの!? 私のやり方が間違っているって言いたいの!?」


篝の声が広場に響く。


「あなたたちも反乱分子に唆されたのね……」


朱音は何も言わず、一歩ずつ篝へ歩み寄った。


篝は自嘲するように笑う。


「そう。私を否定するのね」


ゆっくりと両手を広げた。


「久我や父と同じように」


その笑顔は泣いているようだった。


「殴るのなら殴りなさい」


次の瞬間。


パシン――


乾いた音が響いた。


篝の頬が赤く染まる。


周囲が息を呑んだ。


体勢を崩した篝だったが、その身体を朱音が支えた。


そして――そのまま強く抱きしめた。


「……え?」


篝の瞳が揺れる。


真琴だけが状況を理解したように静かに微笑んだ。


朱音は震える声で言った。


「あなたを否定する気なんてありません」


その腕にさらに力が入る。


「今のあなたよりずっと小さな体で、想像もできない苦しみに耐えてきたんですよね」


篝の身体が強張った。


「私は弟を失った絶望に飲まれて、久我と……あなたを殺そうとしました」


朱音の目に涙が滲む。


「でも真琴さんに止められました」


静かに首を振った。


「今なら分かります。憎しみのまま復讐しても、啓太は喜ばなかった」


篝は俯く。


「違う……」


かすれた声が漏れた。


「あの頃の私は無力だった……何もできなかった……」


「いいえ」


朱音は即座に否定した。


「過去のあなたがいたからこそ、女性たちに寄り添う改革ができたんです」


篝が顔を上げる。


「多くの女性が救われました。それは紛れもない事実です」


だが朱音は続けた。


「でも――」


言葉を慎重に選びながら、まっすぐ篝を見つめる。


「憎しみを罪のない人へ向ければ、また新しい憎しみが生まれる」


篝の瞳が揺れた。


「今の天宮篝は使命感で動いています」


朱音はさらに抱きしめる。


「でも、本当のあなたはどうですか?」


その問いに世界の音が遠ざかる。


「小さい頃の天宮篝が、また傷つくのを私は見たくありません」


――本当の私。


篝の意識は遠い記憶へ沈んだ。


そこには幼い少女がいた。


震えながら膝を抱えている。


幼い篝だった。


『私はもう戦いたくない』


少女は涙を流していた。


『お父さんもお母さんも好きだったのに』


嗚咽混じりの声。


『どうしていなくなっちゃったの……?』


篝の胸が締め付けられる。


そして思い出す。


父の大きな手。


母の温かな笑顔。


家族で囲んだ食卓。


失われたはずの幸せな日々。


(そうだ……)


涙が溢れる。


(私が欲しかったのは……)


権力ではない。


支配でもない。


復讐でもない。


(こんな家族の温かさだった……)


気付いた瞬間。


篝は朱音の胸の中で崩れ落ちた。


「う……あ……」


堪えていた感情が決壊する。


子どものように声を上げて泣いた。


朱音は何も言わず、その背をさすり続けた。


広場を包んでいた怒りは静かに消えていく。


やがて篝は涙を拭き、群衆へ向き直った。


「……もう終わりにしましょう」


その言葉に、人々は静かに耳を傾けた。


遠くから輝義が歩み寄る。篝は手錠の鍵を外し輝義に向き直った。


そして輝義が何かを告げると、篝は驚いたように目を見開いた。


そして穏やかな笑みを浮かべる。


「そうですか……」


かつてないほど優しい表情だった。


その顔を見て、朱音もまた静かに微笑んだ。


長かった戦いは、ようやく終わりを迎えようとしていた。

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