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ep.20-4 犠牲

「白龍!白龍!!」


 墜落していく機体の中で、私の叫びが反響する。いまや、白龍はまともな推力を得ることもできず、落ちていく一方だった。


 モニターには危機的状況が何重にも表示されている。さっきまで200パーセントあったジェネレーター出力は、40パーセントを切っていた。


「スラスター……!海に行かないと!」


 だが、そんな願いも儚く散った。機体は石油コンビナートの方向へ向かっていた。背部スラスターもまともに作動しない。


 無限にも感じられた時間の後、白龍は地面に激突した。白の石油タンクが轟音と共に押しつぶされ、大爆発が起きる。


「きゃあああああ!!!!」


 爆発はコックピットを包み込んだ。モニターが大きく乱れ、ノイズが盛大に走る。


 赤い太字が視界を支配する。


『背部スラスター2、4、5大破』

『右肩部動作不良』

『胸部装甲第一層損傷』


 一面の赤が占める空間の中で、私はその文字を頭にインプットする。理解したくない文字の羅列を。


 操縦レバーを必死に動かす。バリアを張った時のような細かい動作は最早できなくなっていた。


「白龍……なんで……」


 しかし、モニターに再び映った無数のミサイルを見た時、私の思考は停止した。


 ミサイルの弾道は、全てこちらに向かっていた。


「白龍!バリアを……、バリアを!!」


 ジェネレーター出力が30パーセントを切ったいま、それは無理な要求であった。


 ミサイルが徐々に大きく映る。死へのカウントダウンが始まった、そんな気すらした。


 そして、時は来た。ミサイルは白龍の周囲に建っていた石油コンビナートに相次いで着弾した。ドォンという爆音が重なり合い、鼓膜を破りそうになる。


 私は悲鳴をあげたが、それすらも掻き消すほどの爆音がありとあらゆる物を支配する。爆発が至るところで起き、熱が装甲越しに伝わってくる。


 数分前まで平和だった工業地帯は、地獄絵図そのものへと変貌を遂げた。石油タンクはひとつ残らず破壊し尽くされ、廃墟が広がった。


 白龍も無事では済まなかった。幸い直撃は避けられたが、炎と高熱は機体のコンディションを狂わせた。


 『ジェネレーター出力10パーセント』という文言と共に表示された機体の簡略図は、不具合アリの黄色と破損アリの赤色で染められていた。


「杏子ちゃん!!杏子ちゃん!!!!」


 優月の声すらも掠れて聞こえる。それほどまでに、機体の状態が不良であるという証拠だ。


『出力低下のため、セーフティモードに入ります』

「え?え!?」


 一方的に告げられた自動放送に合わせて、コックピットのモニターが暗くなっていく。


「ちょ……ちょっと!待って!!」


 気づけば、真正面の一部を残してコックピットは暗黒に墜ちていた。


 ――こんな状態でもう一度攻撃されたら……!


 その予感は的中した。僅かに表示されたモニターの中央で、オウランが動いていた。


 こちらに砲門を向けながら。


 ――いやだ。


 こんな場所で死ぬなんて。


 こんなところで死ぬなんて。


 なにひとつ、守れないで死ぬなんて。


「いやだ……!!!!」


 その時だった。ピンクの光が砲門を満たした時、光を遮るように1機の機体が立ちはだかった。それを見つけた私の中で、時間が、音が止まった。


 そこにあったのは、漆黒の機体、黒鉄壱式。


 ラグールの機体だった。


「杏子……あなたと……会えてよかった……」

「ラグール……?」


 彼がなにをしようとしていたか。頭ではわかっていた。


 わかりたくなかったのに。


 理解したく、なかったのに。


「やめろおおおおおおおおおぉぉぉぉ!!!!!!」


 瞬間、桃色のビームが発射され、黒鉄壱式に真っ直ぐ刺さった。コックピットを中心にシルエットが崩れ、海に向かって墜ちていく。


「ありが……とう……この世界を……守って……」


 ラグールの言葉と共に、黒鉄壱式は爆散した。華が咲き乱れ、音声が途絶える。


「ラグール!!!!!!!!」


 ただ流れる雑音の中で、私は声を荒げた。


 モニターに向かって手を伸ばした。届くはずもない手を。


 その対象すら喪った手を。


「うぅ……うっ……」


 大粒の涙が溢れ、視界が乱れる。


 守れなかった後悔が、喪ったことへの悲嘆が、次は自分の番という恐怖が、私の心を大いに乱す。


 混乱という一言では、単語では言い表せないほどの、自分でもどう形容すればよいかわからない感情がごちゃ混ぜになって、口から吐き出されそうになった。


 喉の奥が熱い。息がうまく吸えない。胸の中に詰まったなにかが、声にならない悲鳴になって暴れ回っている。


 ラグールは私を守って、死んだ。その事実だけが心に残った。


 私は目をかいた。涙を拭うべく、現実から逃げるべく。


 けれども、完全に光の無くなったコックピットの中で、何回も目を擦った末に、私の目の前にとある人物が現れた。


 私と同じ制服を着て、私と同じ顔をして、私と同じ体格をした人間。居るはずのない、居てはいけない人間。


 もうひとりの私が、眼前に立っていた。

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