ep.20-3 犠牲
「この野郎ぉ!!!!」
遅れてきた爆音と共に、優月の怒号が飛ぶ。溢れんばかりの怒りがスピーカー越しでもわかる。
「聖堂!待て!」
「止めないでよ!神谷くん!」
「あいつのバリアは隙がない!外からの攻撃は尽く弾き返す!」
智からの報せは絶望的なものであった。自らの攻撃のみを通し、外部からの攻撃は跳ね返す。
それは、倒す方法がないことを意味していた。
「だったら!どうすれば!」
「いま分析してる!だからもう少し……」
だが、智の言葉を遮るようにオウランの背部が駆動した。私は白龍をオウランから離すべく胸部スラスターを動作させた。
――今度はなにを……!?
距離が500mになった時、オウランの背中からなにかが発射された。長方形の形をした、筒のようなものが上空に打ち上げられる。
白龍のモニターが筒を拡大する。筒の中には、さらに小さな円形の模様が何十も刻まれていた。
「あれは……!」
智の声が凍えて聞こえた。驚きと震えに満ちた声だ。
「あれはミサイルポッドだ!」
「ミサイル!?」
その単語を理解した瞬間、背筋が凍った。
次の瞬間、ポッドの表面が一斉に開いた。花が咲くみたいに、いくつもの蓋が外側へ開いていく。その内側に詰め込まれていた無数の小型弾頭が、陽の光を受けて鈍く光った。
モニターの地図上にミサイルの弾道予測が表示される。元の地形を埋め尽くすように、白線が東京湾を満たしている。
数十、いや数百ものミサイルがいまに発射されようとしていた。
「散開!散開!!」
智の声とほぼ同時に、ミサイルは四方八方へ散った。雲が青空に描かれる。数十本が市街地へ。また数十本は私たちへ。
「各機へ通達!自機の回避行動を最優先にしてください!」
中津川さんの命令が耳へと刺さる。『自機へのミサイルをかわすように』という命令。
つまり。
「街へのミサイルは!?」
「自分の命が最優先です!」
私は耳を疑った。こんなにも簡単に命を見捨てていいのか。
他人を殺して、いいのか。
その時、警告音が鳴った。見ると、ミサイルが3発向かってきている。
「……っ!」
私は操縦レバーを左に捻った。白龍のボディがスライドする。ミサイルが右肩を掠め、機体の後方で爆発した。
「きゃあぁあっ!!」
悲鳴が口を飛び出す。コックピットが震える。
――あれをまともに喰らったら!
ふと、頭の中に全く別の思考が流れる。これと同じミサイルが街へ向かっているという事実が。
何万もの人命が犠牲になろうとしている事実が。
――キィン。
「……やれるの?」
――キィン。
「……ならば!!」
再び操縦レバーを捻る。白龍のスラスターが叫び、市街地の方向へ急加速する。
「橘!!」
「白龍が!できるって!!」
「できるって、なにを!?」
「街を!守れるって!!」
ジェネレーターは100パーセント動作していた。速度計が振り切れ、ミサイルの速度をも超えていた。
私は、見捨てることはできなかった。街を、人々を。
いままでの私には守る力はなかった。ただ漫然と生活し、従うままに白龍に乗っていた私には。
でも、いまの私は違う。いまの私と、白龍になら。
「できる!!」
海沿いの団地群の上空で白龍を回転させる。街へと襲いかかろうとしている無数のミサイルがモニターをジャックする。
「お願い、白龍!!」
――キィン。
私の思考と白龍の視界が重なっていく。世界が、ひとつになっていく。
白龍は両腕を大きく広げた。瞬間、光が機体の各部から漏れていく。関節、肩、手、脚部。ありとあらゆる部位が発光し、光で空間を満たしていく。光は空中で輪を描き、円を形成した。
「なにっ……これ!?」
白龍の前方に、街を覆い尽くすほどの巨大なバリアが作られていく。
「橘!お前、なにを……!」
「わからない!でも!!」
――これなら、守れる!!
ミサイルがバリアに衝突し、爆発が起きる。1発、また1発。爆発の華が開き、空を満たしていく。
すり抜けたミサイルは、なかった。
「凄い……!」
ラグールの驚嘆がスピーカーから流れる。その間にも、ジェネレーターの出力は上昇し続けていた。
180、190、200。
限界値はとっくに通過していた。
「杏子ちゃん!大丈夫!?」
「だいじょば……ないかも!」
コックピットは常に揺れていた。数多の爆風が白龍ごと私を揺らす。
――持って……!
バリアは次第に縮小していた。白龍にも迫ってきている。
「ねえ、白龍!私たち、上手くやってるよね!?」
――キィン。
「私たち!守れるよね!全部!」
――……。
「ねえ!白龍!!」
私は狭いコックピットで声を張り上げた。さっきまで聞こえた白龍の声が、聞こえない。
モニターに赤字が表示される。『ジェネレーター出力低下』と。
「白龍!頑張って!!白龍!!!!」
けれども、その声は通らなかった。バリアに穴が空いていく。
「杏子ちゃん!!」
「白龍!!!!」
コックピットに叫びが響いた、その瞬間だった。バリアの穴を潜り抜けたミサイルが、白龍の頭部に直撃した。モニターが赤く染め上げられていく。
「きゃああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!」
乱れていくモニターに白龍の簡略図が表示される。右アイカメラ大破。その文字と共に、白龍は工業地帯へと落下していた。




