第42話 仕掛けてきた男子
心がわかるDKとわからないJK
第3章 夏休み~文化祭後
第42話 仕掛けてきた男子
文化祭まで、あと 4 日!
もう文化祭は今週末になった。そして、あの子からの提案はまだ却下し続けている。
「近寄らせない?高校に?うちのクラスに?うーん」
夏休みが明けた直後は、お昼を食べて雑談に付き合って、次の授業が始まるギリギリまで席に座らされているから、廊下に置いてある教科書を取りに行くのが遅くなる。
でも最近は、ずっと一人で考えてブツブツ独り言を言っているので、教科書や辞書やら、余裕を持って自分の席に持ち込めている。
「……あたし、当番は午前中にするから」
「いきなりどーいうこと?」
助け船出してやってんだから頭使えよ、とは言わない。言ってしまったら、お昼のとき以外で話しかけないでと言ったあたしの言葉を、あたしが否定することになる。
「午後に写真部の当番を入れてもらったから。今日の6限にやる当番決めは融通してもらえるようにしたから」
全て事実である。でも、写真部の当番は午後一番の時間で決まっているから、そこから文化祭の終了時間まで藤くんと動くことは可能だし、1組の出し物に戻ってこないつもりで動くから、午後は1組に近づかない。それに気づけさえすれば、人を誘導しておくなんて簡単だろ。
「うん?うーん……あ、そういうこと?」
やっと気づいたか。
「え、待って。それ決まったのいつ?」
普通に話しかけてくる。口約束とはいえ、ちゃんと返事してたよな?都合よく解釈されている予感しかしない。
「元々そうするつもりだった」
「じゃあ、ウチがこうやって考えなくても、壱華だけでどうにかしてたのぉ?」
「そうですけど?」
ムーと唇を前に突き出してむくれている。あざといとは思うが、かわいいとは思わない。
たぶんこの子は、「自分が踏み込んだ話をする前から、対策を練っていた」と考えているんだろう。現実はそこまで賢くない。この子に、中学の子の話をされるまで、この文化祭に来ることを考慮していなかった。だからあの時、自販機から教室までの帰り道に、やることが増えたなぁと頭を動かしていたが、実際にやることは変わらないのだ。
あたしと藤くんが午前中に当番になるようにする。
当番が終わったら「午後からは部活の方の当番なんで」という理由で教室を出ていき、お昼を食べておく。
午後一番、出来れば午前中に部活の方に顔を出し、部長の動向を確認する。
そこからは、事前に藤くんと打ち合わせした通りに、あたしが部長に告白する。
この午前中の当番から作戦まで、極力、目撃情報は減らしておきたい。生徒もしくは外から来るお客に紛れて動き、写真部の当番ではちゃんと動いて、「ここにいましたよ」と印象付けたい。
「中学のときって、部活はなんだった?」
「あの中学に写真部なんてあった?」
「なかったよね」
「今あたしがどこに所属しているか知っている且つ、同じ中学に通っていた生徒は坂下ちゃんだけ。つまり?」
「ウチが情報を漏らさないようにしたらいいんだぁ!」
大声を出すな。うちのクラスメイトに知られたら、元も子もないでしょうが。
柏原壱華が、坂下杏南と同じクラスで、坂下ちゃんから聞き出せなかったとしても、うちのクラスの親切心と記憶力を兼ね備えた生徒が「柏原さんなら写真部だよ」とか言っちゃえば、坂下ちゃんの誘導だけじゃどうにもなくなるでしょ。
「うん!頑張る!」
「声おおきい」
「頑張りたいもん」
「答えになってない」
ほんとに答えになってない。声が大きいのは頑張りたいからだ?気合い入れるためか?今週末とはいえ、せめて前日から気合は入れてくれ。
「早く教科書取りにいきな」
「うん!ありがとぉ」
勢いよく椅子を蹴って立ち上がり、ルンルンと廊下の方に歩いていった。
まあ、ここまで考えたとしても、完璧に物事が進むわけではない。あの子は知らないだろうけど、本当に謝りたいと言いそうな子は思いつく。でもあたしの中では、その子も例外なく、良い子の面を被っているだけの、会いたくない人だ。
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文化祭まで、あと 2 日!
流石に、生徒たちが浮足立っていることを隠さなくなってきた。だって、あと2日だ。
だんだん、胃がキリキリする間隔が短くなってる気がする。緊張しているのかな?
「で、いつになったら紹介してくれる?」
胃がキリキリするのは、間違いなく目の前の奴のせい。
「いい加減口割ったらいいじゃん」
「教室でやるなよ、バカ」
「た、たかぁ……」
「いい加減にしてやれよ、空井」
自分の席に座っている自分。その前に座ってこちらに笑顔を向けている空井。そして、自販機から帰ってきたたか。
たかが救世主みたいに見える日が来るなんて思わなかったけど、今は助けを求めるしかない。
「高倉に止められるなんて、しんがーい」
「何が心外だよ。じゃまだからどけって言ってんだよ」
そう。たかが自販機に行くと言って席を立ち教室を出た瞬間、空井が目の前に現れた。柏原さんに作ってもらった作戦のメモを見たかったのに。
「高倉も気になるでしょ」
「なにが?」
「藤と壱華ちゃん」
「……やっぱ教室で話すことじゃねえな」
あれ?たかが冷静に、気遣ってくれてる。教室であろうとどこであろうと「カノジョ欲しい!」と言いふらしているはずなのに。
「どいたどいた」
「ここ高倉の席じゃないだろ」
「昼飯中の暗黙の了解だよ、バカ」
暗黙の了解を声に出していいのか?
「そっかぁ。もう仕方ないか」
「まだ聞いてくんの?」
「ううん。もうやめた」
「はい?」
あっさり諦めてた。どうして?
「もう直接聞きに行く」
「!?」
「え、なんの話?」
どうしよう。直接聞きに行くって、つまり、柏原さんに直接聞きに行くってことだよな。それはマズイ。柏原さんは文化祭のことに集中したいはずだから、ここで他の問題を持ち込むわけにはいかない。それに、空井のことは後回しにして、文化祭に集中って言ってた。
おれが、止めなきゃ。
「わかった。でも今はなし」
「やっぱりね。いいよ。放課後は?」
「空いてる」
「空いてていんだ?」
たかが「何の話してんだよ」と口を挟みたがってるけど、空井に集中。
「じゃあーね。すっぽかすなよ」
「そっちこそ忘れんなよ」
空井は満足げに後ろを振り向いて、自分の席に移動していく。疲れた。
「なにがあったんだよ」
「……大声だすなよ」
「がんばりまーす」
「……空井にカノジョのこと気づかれたっぽい」
重くなった頭を右手で支えて、買っておいた炭酸入りのペットボトルを左手で掴む。
「うわー」
「疲れた。なんであんなにしつこいんだよ」
「そーいや、最近絡まれてんよな。いつから」
「先週。ほぼ毎日2回くらい」
「しつこ」
本当にしつこい。顔を合わせれば聞いてくる。柏原さんも、付き合ってますくらいは言っていいって、そう考えてくれたけど、空井から、柏原さんをカノジョにしたい意図が“視え”なかった。だから言ってない。でも、しつこすぎて、負けてしまった。
「はああ」
「……俺もついていっていい?」
「えぇぇぇ」
「喉締めつけられてんな」
たかは面白がってるだけだと思うし、柏原さんとの作戦を話す気はこれっぽちもない。だったら、たかが知ってることは空井にも話しておく?どうしようか。
「一応、連絡しておこう」
「おう。あと5分もねえぞ」
先生たちに隠れてスマホを起動させていたので、柏原さんとのメッセージはすぐにできる。返事がほしいわけじゃないけど、共有しておいた方がいいかも。
もちろん、問題にならないように頑張る。
「てか、隠すんだ?」
「空井がなにしたいのか分かんないから言ってない」
「……柏原ちゃんって、関わり薄い人には笑ってるもんな」
「はい?」
「空井には愛想笑いしてるから、いい子くらいに思われてんじゃね?」
そっか。おれはともかく、たかや八乙女さんにも、笑うんじゃなくてムスッとしている顔を向けることは多かった。気遣いしていない顔だ。
でも、まだ空井には気遣いをして、距離を保とうとするから愛想笑いをしている可能性は高い。柏原さんと空井が話しているところを目撃したことはないから、推測だけど。
その推測が正しかったら、空井は柏原さんがうっすら笑っているところしか見たことないことになる。それに合コンで気になると言っていた。柏原さん、狙われてる?
「守んなきゃなー?」
「ニヤつくなよ。ついてきてもいいけど、テニス部が終わるまでは待たないし、余計なこと言うなよ」
「へーい」
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待たないはずだったのに、放課後の校門前に2人はいた。
「一番遅いのかずじゃん」
「おまえはノリ気すぎるんだよ」
「で、どこにする?」
空井はマイペースすぎる。でもどうしよう。場所を決めてなかった。
「公園のベンチ」
「店にすら入らないわけー?」
「お前との会話に払う金はない!」
すごい言われようだけど、正直賛成してしまいたい。
「じゃあそっしよ。自販機あったよね」
「てか、電車は?」
「んー?間に合わせてくれる?」
前言撤回。迷うことなく、空井との会話で払う金はない。
「ムカつく言い方すんなよな」
「え?……へぇ」
ぐちぐち言いながら、高校から近くの公園まで自転車をひきながら、空井はフラフラと歩きながら向かう。途中で自販機によって、これまたマイペースに飲み物を選んでいく。
「ベンチ空いてるか見てきてよ」
「へいへーい」
まだ選んでいる空井を置いていき、自転車をひきながらベンチまで歩いていく。この公園は使ったことないな。でも登下校で見たことはあるから、ベンチまで迷うことはない。
「ちょい打ち合わせ」
「え?急になに」
「柏原ちゃんと付き合ってることは隠しておきたい?」
「あぁそういうこと。……場合によっては言うと思う。でも、空井の狙いが何なのかがはっきりしたら、判断したい。おれが言うから、たかは言うなよ」
「わかってますってー」
狙いが分かんないのは、たかもなんだよな。面白がってるにしては真面目だし、おれを助けたいにしては頼りない。柏原さんが教えてくれたみたいに、約束事は守るけど、うっかりポロッとこぼす可能性が高い。
ここまで分かった上で柏原さんに助けを求めなかった理由はひとつある。うっかり柏原さんを“視ない”ようにしたいから。視界に入ったら事故で柏原さんの頭の中を“視て”しまうかもしれない。だから、柏原さんがいないこの場なら、“視れる”。
「おまたせー」
「どうぞ」
「どうもー」
ベンチのひとつを指さして座ってもらう。その隣におれも座るけど、たかはどうしよう。
「仲良く男3人で座る趣味はねえから、俺はここ」
ベンチの近く、おれと空井の話し声が聞こえるような範囲には遊具も柵もない。だから、自転車に跨ったまま、ハンドルに腕を重ねて話を聞くらしい。
「で、聞きたいことってなに?」
「壱華ちゃんと付き合ってんの?」
「……もう検討ついてんじゃないの」
「まあね。でも、本人から聞いときたいじゃん」
“視て”おくか。
壱華ちゃんがどっちなのか気になるんだよな
「はあ?」
「え、なに」
「あ、いや、その、ムカつく言い方だなーって」
「……」
思わず声に出してしまった。え?狙いは柏原さんのことを聞きたいであってる。でも、どっちってなに?
「別に怒ってないよ。例え合コンのときから付き合っていたとしても、2人はドタキャンとかしなそうじゃん」
「まあ、はい」
合コン終わってからカモフラージュの意味で付き合い始めたし、ドタキャンもしない。
「主催としては人が集まっていれば、なんも問題なかったし。で、オレが気になってんのは、壱華ちゃんのタイプ」
「はい?」
「ぷっ」
おい、たか。今笑ったよな?
「合コンに参加した女子の中じゃ、一番タイプが予想しやすかったはずの壱華ちゃんが、予想とは違うヤツとくっついてんだもん。気になるでしょ」
「くっついてるのは前提なわけね」
「まあね。で、よく見てみれば、予想が間違っていたことも気づいちゃったから」
「……ん?予想できたんだ?」
「うん。壱華ちゃんって、大人で余裕があって、悩みとかを相談しやすい人がタイプかなーって思ってたんだよね」
おとなで、よゆうがあって、悩みを相談しやすい……、おれではないな。
「くくっ」
「笑ってんの抑えるなら、もっと頑張れよ!」
「ごめんごめん。がんばりまーす」
やっぱ、たかがついてくるの阻止すべきだったかな。
「それなのに同級生えらんでる時点でオレの予想は大外れじゃん。だからもうちょい考えてた。それと同時に、藤からもなんか聞けないかなーと」
「……狙ってんの?」
「まさか。カレシを目の前に狙ってる発言するなんて、トラブルを呼び込むようなことはしない。ましてや、カノジョにしたい子じゃないしね」
「そう」
よかった。……よかった?
「ただ」
「ただ?」
「……壱華ちゃんがカノジョになってくれたら、オレは嬉しいかな」




