第41話 確認したい高校生たち
心がわかるDKとわからないJK
第3章 夏休み~文化祭後
第41話 確認したい高校生たち
文化祭まで、あと 15 日!
マメな人がいるんだな。ちゃんと毎日、数字が変わっていく。
「あれ?藤くん?」
「ん?……八乙女さん、どうも」
「やだなー、警戒しないでよ」
ぼくはただ、飲み物を買いに自販機の前にいるだけだ。もちろん、他の生徒がこの自販機を利用していておかしい点は一切ない。でも、ここで八乙女さんに出会うのは、なんか、緊張する。
「よかった。聞きたいことあったんだよねー」
「え!?」
デジャブですか!?
「あの子はかんけー……ないとも言い切れないな」
「な、なんでしょうか」
「そう怯えなすんなって」
怯えさせている自覚は、八乙女さんにあるのかな。
「ブレスレットの写真、どうだった?」
「……え」
「そりゃメッセージでお礼はしてくれたけどさ、撮影者としては、直接感想を聞いてみたい気持ちがあるわけ。どおだった?」
「そ、そのことか……」
夏休みの、撮影アシスタントとして海に行った日。港にいた時にふと思いついたことがあったけど、柏原さんには言えないなと判断して、八乙女さんにお願いをした。
「今おれがつけているブレスレットを撮ってほしい。花火を優先して大丈夫」
八乙女さんは驚いてたけど、快諾してくれた。実際に届いた写真は、花火がメインではあるけど、手首にあるブレスレットが写っていることが確認できるような、さりげないアングルだった。お世辞なんて含まない「きれいに撮ってくれてありがとう」と返事をしたはず。でも、直接聞きたい感想ってなんだ?
「具体的に、なにを聞きたい?」
「うーん、あのブレスレットって、カノジョからの誕プレ?」
「ちがいます」
「違うんだ?へー」
本当に違うのですぐに否定できた。あれは、柏原さんが提案してくれて、自分で買ったお守りです。
「わざわざ私にお願いしてくるんだから、あの子には隠したいのかなーって思って、なんも言ってないけど正解だった?」
「すごく正解です。ありがとう」
「でも、カノジョから貰ったものじゃないと?ふーん」
疑われてるなぁ。あの場は、柏原さんの噂について話してどうにかなったけど、また交渉されたらどうしよう。
「で、写真は何かに使う?」
「いや、特にそんな予定はない。ダウンロードして、フォルダにまとめてあるだけ」
「観賞用?」
「……そんなところ」
「うーん、分かんないなー」
分かってほしくないけど、八乙女さんが引いてくれるのは、分かったときじゃないかな。
……今なら、”視て”も大丈夫か?
「じゃあ、ダウンロードしなかった写真はある?」
「なかったと思うよ。全部きれいだった」
「ありがとー」
そんなに多くなかったので、まとめてダウンロードしたし、その後消したものはなかったはず。さりげなく写っていることがいいけど、さりげなく写ったものは少なくなるのは当然だから。
「それで、フォルダの名前は?」
「うん?」
「私が撮ったブレスレットの写真をまとめたフォルダの名前。なに?」
「それは、プライベートすぎない?」
「気になるじゃーん」
ガンガン踏み込んでくる。柏原さん、いつもこんな調子のを躱しながら会話してるの?
「名前は……つけてない」
「そーなの?」
「なんてつければいいかも分からないし、フォルダの作成日のまま」
「そー、へー」
今かな。
ブレスレットはかじわらからもらったわけじゃない。
なら、かじわらと一緒に買った?
プレゼントじゃないにしても、大事なものであることは確実だよねー
すごくバレてる!予想が当たりすぎてる!すごいな、柏原さんくらい当たってる気がする。
「あ、そっか。一緒に買ったのか」
「へ!?」
「あれでしょ?デートしたんでしょ?」
「……言ったんだ?」
「うん。デートするって日のちょい前くらいに会ってんの、私たち」
電車でショッピングモールまで行ってサングラスを探しに行った日のことかな。八乙女さんにデートするって話してたんだ。そういえば、電車を待っている間に、友達にカレシの件を話したって言っていた。八乙女さんが話してるのは、そのことか。
「一緒に行って、選んでくれたとか?」
「……そんなとこ」
「やっぱりぃ。なるほどねー」
もう1回。
当たってたな。満足満足ぅ
よかった。満足してくれた。
「おけおけ。十分だよー、ありがとー」
「そんなに気になるんだね」
「そりゃそうじゃん」
八乙女さんが、ぼくを真っすぐ見てくる。
「本人には嫌われたくないけど、知りたいでしょ」
「……好奇心旺盛ってこと?」
「そーいうこと。はあ、何買おっかなー」
満足して、ぼくじゃなくて自販機を見ている。よかった、終わった。ぼくも買おう。
ガタンっ ガタンっ
飲み物が2回はき出された。
「じゃ、お幸せにー!」
バタバタと走り去っていく八乙女さん、“視て”なくても分かる。楽しそうだ。
「どっと疲れた」
八乙女さんに追いつかない速さで教室に戻っている間、肩が凝った気がしてならなかった。
写真をお願いした理由は、実は自分でもよく分かってなかった。ただ、柏原さんが教えてくれたお守りをつけて遊んだ時間を、自分も使うかもしれないタオルを差し出してまで大事にしてくれた気遣いを、忘れたくなかった。
だから名前をつけるのは難しい。自分でよく分かってないから。
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文化祭まで、あと 11 日!
最近、放課後の教室は騒がしい。部活に行くためにバッグを持ち上げてると、コロコロとはさみやのりなんかを床に放り投げ、黒い紙を広げて作業をする生徒がいる。
ぼくのクラスではお化け屋敷をするから、日光を遮ったり、真っ暗な印象を強くするためにやることがたくさんあるらしい。なんなら、文化祭前日の午前中に準備をし、午後からは他クラスの出し物を生徒だけで見て回る時間があるらしいけど、うちは午前中だけで終わるかギリギリだそうだ。
ぼくは前日準備の金曜日に、こういった準備に関わるだけでいいし、なるべく柏原さんとの作戦に集中したい。今日は部活に行って、またあの先輩が来たら、進学補習のこと聞いておこうかな。限りなく写真部の部長さんだと思うけど、確定したわけではない。
できれば本人を“視て”判断できたらいいなぁ。
「藤ー」
「うん?空井?」
「ちょい時間ある?」
「え?まあ、部活に遅れない程度に」
「だいじょうぶ」
空井から話しかけられるなんて、何が起きてるんだ?文化祭関係か?
「壱華ちゃんとどーいう感じ?」
「はあ?」
いきなりどうしたんだ?てか、ぼくが柏原さんのこと知ってる前提の話をしてきてる!?
「ど、どういうこと」
「とりま、一番近くにいた、壱華ちゃんの知り合いに話しかけた」
「いや、そんな、知らないというか」
「そーなん?合コンの時から知り合いっぽい雰囲気あったじゃん」
どういうことですか!?合コンのときから?ぼく、あのとき柏原さんと話したっけ?
「違った?」
「気のせいじゃないかな?」
「……そっか。まいいや、おつかれー」
ぼくの動揺なんか気にしてない感じで教室を去ろうとしている。え?何を話したかったんだ?もしかして視るべきだった?今からでも、いやだめだ。顔が見えない。
「壱華ぁ」
「ダメ。却下」
「良くないぃ?」
「アイディアも使い方も、それを伝えようとここを選んだなにもかもがダメ。帰る」
ん?柏原さんの声?
「だって今さっき思いついたんだもん。言いたくなるでしょ?」
「あたしは帰るし、そっちは部活があるでしょ。じゃあね」
一緒にいるのは坂下さん?坂下さんにも、きつい言い方すんだ。
「はあ……あ」
「あ」
やっちゃった!柏原さんの声ばかり気になって観察しちゃって、柏原さんのこと凝視してた人になっちゃった。
「……通っても大丈夫ですか?」
「あ、はい!大丈夫です!」
柏原さん、「なにがあったの?」っていう顔してる!“視て”ないのに分かる!
「……またあとで」
「へ」
それだけ言って、柏原さんはぼくの横を通り過ぎてしまった。
あとで?なんのことだ?ていうか、ぼくにも愛想笑いするんだ。
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「大丈夫?」
「大丈夫です。待ってくれてありがとうございます」
「別に。いったん家に帰ったから荷物は軽いし」
ぼくと柏原さんは今、自転車で20分くらい走らせるとある、ショッピングモールに来た。といっても夏休みで行ったショッピングモールと比べたら小さいものだし、近隣住民からしたら、1つの大きな建物の中に商店街があるくらいの感覚だ。
「いいの?ここ、うちの生徒も来るよ?」
「その言い訳のために付き合っているようなものでしょ」
「付き合っていることは隠さなくていいの?」
「大っぴらにはしない。目的が遠ざかるから。でも、その場しのぎの言い訳にはなる」
最近思うことがある。柏原さんは「誰かと付き合う」ことを軽く考えている気がする。
「あたしは物を探すけど、藤くんは気にせず喋って」
「え?」
「廊下でばったり会った時に、ものすごく動揺してたから」
「あ」
なぜショッピングモールにいるか。それは、部活が終わって、自転車をひきながら校門を出て、習慣のようにスマホの通知の確認をしたとき。柏原さんからメッセが来ていた。
隠れる用の布を探したい
実際に藤くんに被ってもらいたいんだけどいい?
今ここ
マップを共有され、すぐに行くと返事をしたので、すぐに向かった。
「あー、今日の放課後のことかな?」
「うん。なんか面倒なことに巻き込まれてどうしていいか分かんないみたいな顔してたから」
一語一句正解なのはなんでだろう。
「うーん、言うべきなのかな」
「……言いたくないならいいよ。こっちは言うことあるから、聞いてくれると嬉しいんだけど」
遠慮した、そう思った。たぶん、サングラスを探すために出かけたとき、電車の中で踏み込みすぎたと、柏原さんが言っていた。それを気にしてるんだな。
「心配しなくていいよ。言いたくないんじゃなくて、柏原さんに把握してもらった方がいいのか微妙だなと思って」
「ん?」
「柏原さんが今後関わりそうなんだけど、どう関わるのかが分からないというか」
「……藤くんは、面倒ごとにつき纏われる才能でもあるの?」
そんな才能は今すぐにでも放り投げたい。
「なんか、悪いことしてるのかな」
「天罰の類は信じてないけど、トラブルの中心人物と腕組んで鍵でもつけてるんじゃない?」
「鍵は、つけられたんですかね……」
「誰かにつけられたとしても、腕組もうとした時点で藤くんの負けだよ」
敗北宣言された。よりにもよって、私情とか挟まず公平に審判しそうな柏原さんに。
「……じゃあ、言うね」
「はい」
「空井が、柏原さんとのことを聞いてきた」
「……うん?」
驚くよね。ぼくも驚いた。空井が柏原さんに用事があるとは思えない。
「合コンより前から柏原さんと知り合いだって、勘づいてたみたい」
「へー、意外と周り見てるんだ、あの人」
「あれじゃないかな?合コンのときに、一番気になるのは柏原さんだって言ってたし」
「そんなこと……あー、珍獣扱いの件?」
まあ、空井は、好きな人っていう意味じゃなくて、初めてのものを体験したいみたいな意味だった気がするし、柏原さんから接触しなくてもいいんじゃないかな。
「具体的に、何を聞かれたの?」
「付き合ってるんじゃないのかーみたいな?」
「それだけ?」
「うん。おれが慌てて否定したら、そのままどっか行った」
正直、八乙女さんみたいにグイグイ質問されなかっただけ楽ではあった。でも、また聞いてきたらどうしよう。もしかして、ぼくを飛ばして柏原さんの方に聞いてくるとか?
「藤くんは、あたしと付き合っていること、隠しておきたい?」
「うーん、考えたことないっていうか、全部柏原さんの都合だから、柏原さんに合わせるよ」
「……それでいいわけ?」
「うん」
今のところ、カノジョが欲しいという気持ちはない。むしろ、柏原さんのことを叶えて、ぼくのことも叶えられるようにする方に集中したい。カノジョを作る余裕はない。
「……早くどうにかできるようにするから」
「うん」
「空井くんの件は、判断しにくいな。隠しきれないって思ったら、付き合ってますくらい言っていいと思う。あたしもそうする」
「うん」
さっきから布を探す手が止まってる。腕を組んで小さく唸ったりしている。ぼくが話したことを考えるのに集中してくれている。それでいいんだ。
「いっそのこと、空井くんも候補に入れてしまう?いや、上手くいかない気がするな」
「今度、“視て”みようか?あでも、柏原さんのこと考えているタイミングってあるのかな」
「難しい。授業とか移動でも空井くんとすれ違ったことはないと思う。……ないと思う」
空井の顔、覚えてないのかな?それか、覚えていない自分に自信があるのかな。
「チャンスだと思ったらでお願い。無理しないで」
「分かってます。無理しません」
「とりあえず今は文化祭に集中。最有力候補だからね」
「はい」
ここでやっと、布を探すことを再開した。ぼくより背が小さいはずなのに、すごく、
「頼りになるなー」
「……」
あれ?いまチラッとぼくの腕を見た?
「ここには布ないみたいだし、他の場所行こう」
「うん」
結局、布は見つからなかったし、探す道中で見つけたパーティー用サングラスをかけてみたけど期待した効果はなかったし、そのサングラスをつけているぼくを見て笑いをこらえている柏原さんは、愛想笑いじゃなかったことしか収穫はなかった。




