第40話 近寄りたい女子
心がわかるDKとわからないJK
第3章 夏休み~文化祭後
第40話 近寄りたい女子
夏休みが明けて学校が始まった絶望が薄れて、約3週間後にある文化祭に向けて時間を使うことが多くなった。
「前日準備の金曜日は、午前中で教室を飾り付けて、午後からは生徒同士で出し物を見せ合う時間になります。午後でも準備をしていていいですが、土曜日の当日に回る余裕があるかは保証できません。生徒だけで回れるときに回って、出し物を改善していくのがいいでしょう」
朝の全校集会で、文化祭を運営する生徒代表が、全校生徒を前に説明をしている。ご丁寧に時間の使い方まで話してくれているのは、代表さんが優しいからだろうか。まあ、先生がいるからって堅苦しい説明になるより、するっと頭に入ってくれるからありがたい。
あ、お尻痛くなってきた。やっぱ早く説明を終えてください、お願いします。
「前日準備の金曜日に、文化祭への来場者に配るパンフレットを生徒全員にもお配りする予定です。そのパンフレットにも記載しますが、文化祭は基本的に教室棟と体育館で行われます」
これは写真部の先輩から聞いたな。今年も同じようなやるって確認ができたのはよかった。前日に配られたパンフレットを見て、作戦を変えなきゃいけないなんてことにならなくてよかった。
「午前中の準備が終わり、お昼ご飯を食べ終わった後に、体育館に集合し、クラス毎、部活毎にどのような出し物にするのかを3分以内に説明してください。説明が終わり、連絡事項を伝えたら、午後の自由時間になります」
もしかして、前日準備でも部長と話せるチャンスがあるかも?いや、生徒側は前日準備の金曜日で準備を終えなきゃいけないから、1組と2組と写真部の準備を完ぺきに滞りなく進めて、なおかつ予想外のトラブルも起きない場合にしか上手くいかない気がする。
ましてや2組はお化け屋敷をすると言っている。準備に時間がかかるのは、他クラスであるあたしでも想像しやすい。そんな状況で藤くんを借りるのはマズイ。クラスのためにも、あたしと藤くんの目撃情報を増やさないためにも、お互いに教室にいたほうがいい。
「説明は以上です。なにかありましたら運営委員会までお願いします」
終わった。お尻が痛くて仕方ない。
「全員起立。1年から移動ー」
ぞろぞろと立ち上がり、4組の名簿順で後ろになる人から自分たちの教室に向かっていく。
「壱華!」
「え?」
まさか名前を呼ばれるとは思わなくて声が出た。
「壱華ぁ、一緒に回ろうよぉ」
「……前日にってこと?」
「うん!時間ありそうだし」
めんどくさー。てか、あたしに回れる時間があるのか?
「あたしが分かんない。写真部の展示をいつするのか、そもそもあたしたちの出し物ってなんか飾り付けとかするの?」
「一応するらしいよ。でも、そんなにやることなさそうだって、1日でどうにかなりそーみたいなこと聞いたよ。係の子に」
係の子というと、クラスで数人、文化祭のことに関して中心になるように任命されている生徒のことか。1組の係って誰だっけ?覚えてない。名前を憶えていても、顔を覚えているわけがない。
「だとしても、写真部のことがあるから難しいと思う」
「そっか。残念だなぁ」
「……カレシと一緒に行けばいいんじゃないの」
「え、無理だけど」
一応、気を遣って小声で言ったのに、いつも通りの声の大きさで返事してきやがった。
「なんで?」
「いないもん」
「……は?」
今、この子、なんて言った?
「いないよ。カレシいなーい」
「……初耳」
「えぇ?言ったよ。結局かっこいい人見つかんなかったって」
あの、人の目なんて気にせず、隣のクラスの男子とイチャイチャしていた、恋愛中心に生きていますオーラを放っているはずの、坂下ちゃんに、カレシがいない?
そんな話聞いたっけ?覚えてない。受け流した可能性を捨てきれないけど、早くカレシを見つけて、あたしから離れてほしいとまで思っていたんだから、覚えていておかしくないはず。
「いなくて、いいんだ?」
「いないんだったら仕方ないんじゃない?適当な人と付き合っても時間が無駄になるだけでしょ」
それはそう。
「のぼるくんがかっこよすぎたのかなぁ。でも、あのまま付き合ってても、悪くなったと思うんだよなぁ」
「へぇ」
「合コンさ、だーれも付き合ってないんだよ。主催したからには誰か付き合い始めてもおかしくないって思ってたんだけどなぁ」
「へ、へぇ」
ここに、仮初ではあるけど、付き合い始めた合コン参加者がいます。
「イベントとか、中学の友達と会って、その子が通ってる高校の男子とか紹介してもらったんだよ。でも、なーんか惹かれなかったんだよねぇ」
「……」
「壱華はさ、中学のときの友達とかと会った?」
「ううん。行くの面倒だったし」
これは、坂下ちゃんと遊ぶことを断るために使った理由と同じことを言うべき。あたしの行動方針が変わっていないことを伝えなきゃ。そう思わせなきゃ。
「ウチ以外もそうやって断ってたんだ」
「まあね。案外、写真撮ったりして予定があったし」
「それでも仲良しな子とかいたでしょ」
「……卒業式で、連絡先、聞くの忘れて」
「そっか。連絡したい子いたら、ウチも協力するからねぇ」
そんなことは起きない、と言いたかったけど口を閉じた。余計なことは喋らないようにしないと。
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文化祭まで、あと 19 日!
トロフィーが収められているショーケースというべきだろう、あたしの背より大きいガラスの箱に、デカデカと、そう張られていた。
入学して少し経ったころに、どうしてトロフィーを飾るケースにセロハンテープの跡があるんだろうと思っていたが、少なくとも去年もこうしていたんだろう。
「壱華ぁ。まだぁ?」
「ごめん、選んだ」
今は、クラスの文化祭係の人にクラス毎に配布される物資を取りに行ってくれないかと頼まれた坂下ちゃんに巻き込まれている。
「なあにえらんだ?」
「アイスティー」
「いっつもそれじゃん」
ちょうど教室までの帰り道で自販機を通ることができると思い付き、飲み物を買わせてほしいとお願いしたのだ。巻き込まれたんだから、これくらい許せよと念を込めながら。
「紅茶好きなの?」
「いや、アイスティーは好き。あったかい紅茶はそこまで」
「そうなんだ。あったかいミルクティーとかいいじゃん」
「うーん、別に、飲まないかな」
実を言うと、始業式のとき、高倉くんから夏休みの課題を返してもらったときに、藤くんからもらった紅茶フレーバーのクッキーは、大好きなものではない。
食べられるし、もらうことを断るようなものでもないから受け取ったけど、あたしはアイスティーが好きなだけで、紅茶が好きなわけではない。コーヒーより紅茶を飲むことが多いだけで、慣れ親しんでいる味を選んでいるだけだ。
「なに見てたの?」
「あそこの、カウントダウン」
「あれ?今日登校したらあったよね」
「トロフィー見えなくなるのにいいんだって、思って」
ガラスケースの全面に貼っているわけではないし、ぱっと見でトロフィーは9割程度目に入れることはできる。問題にするほどでもないとは思うけど、学校としては自慢したいであろうトロフィーを隠す行為を許すんだと、大人たちの思考を疑っている。
「生徒からしたら見慣れてるし、当日なかったらいいんじゃない?」
「来場者には見えるように?」
「自慢したいでしょ」
ガタンっと自販機からアイスティーのペットボトルがはき出された。
「でも、見てる人なんているのかなぁ?」
「該当する生徒の親とかなら見るんじゃない?」
「……自分のものみたいに飾ってるよね」
「え?あぁ……実際、学校のものなんでしょ。知らないけど」
万年文化部のあたしには、トロフィーを受け取るチャンスなんて早々ない。あるのかもしれないけど、突出した才能もないし、大会というものに興味がないから、このケースの中にあたしの名前が入ることはない。
そして、トロフィーがどう扱われるかなんてことは知らない。選手やら個人に贈られる分はあるのか、今あたしたちが見ているものはただ1つのトロフィーなのか。
「結局、大人でも自慢したいんだね」
「どうかした?」
「ううん。分かるなぁって思っただけ」
「……飾っていたい?」
「いっぱいあった方がよくない?」
ものすごく曖昧な言い方で会話を進めている。いつも坂下ちゃんとの会話は、断定するような言い方を避けているつもりだけど、今は、あたしが曖昧さを強要されている。
「いきなり、どうしたの」
「壱華と、今思ったことを共有したいなぁって思っただけだよ」
「あ、そう」
「壱華は、トロフィーほしい?」
なんて返すのが正解だ?今この場におけるトロフィーってなんだ?
「……収集癖みたいなものが、ないから分かんない」
「一つの物に執着しなそうだよね。ウチはぁ、たくさんあるものを眺めてたい」
「たくさん、何が欲しいの?」
「うーん、色々?」
はぐらかされた。どうしたらいい。何の話をしてるんだ?
「トロフィーは何個あってもいいんだって」
「……そのトロフィーって、人も含んでるわけ?」
「トロフィーになるんだったら」
「……」
何かを引き出したいのか?シンプルに考えるなら、仲良くしたい人の考えを知りたい。でも、あたしが偶然見ていたものをわざわざ引き合いに出さなくてもいいだろ。それに、もし、トロフィーが示すものが家族とかカレシとか、他の人と比べたら大事になりやすい人を含んでいるしたら、やっぱりあたしは、収められるものが少ない。それを、はっきり口に出していいものなんだろうか。
「でも壱華は、飾られてくれる人じゃないよね」
「え」
「壱華は、一緒に見てくれる人」
あたしは何を言われているんだ。そして今、この子は、一度はあたしを、飾る側においた。
「ねえ、壱華」
「……はい」
「壱華は気づいてないんだろうけどさ、みんなは壱華のこと、好きだったんだよ」
「……みんな?」
これは、もしかして、罠にはまった。
「みんな、壱華と会いたがってたよ」
「そう言った方が、良い子に思われるでしょ」
「高校生になって、冷静になったのかもね。あの空気おかしかったもん」
「……知ってて、声かけたわけ?」
「うん。知らない子の方が少ないよ」
突かれたくない所を、ツン、ツン、ゆっくり、触られている。これ嫌いなんだよ。
「知ってるなら、掘り返さない方がいいことだって、分かるんじゃないの」
「みんなが謝りたいと思ってたら、会ってくれる?」
「嫌」
もう会いたくない。
「だから、夏休み中遊んでくれなかったの?」
「……」
「それだったら正解だね。結構中学の時の友達と遊んだし、会ってたかも」
「……遠いから面倒だって、嘘ついてたことを謝れと?」
要求はなに?
「ううん。でも、文化祭には呼ばない方がいいかなって確認だけ」
「坂下ちゃんの一言で、近寄らせないことができるわけ」
「できないかな。全員と友達じゃないし」
「……坂下ちゃんとは、販売の当番で一緒にならない」
会いたくない。
「分かった。ほんとうに知ってほしかったんだよ。怒らないで」
「怒りたくもなる」
「ごめん。ただ、謝りたい子も、あの時からずっと好きな子もいるってこと、知っておいてね」
そんな人なんかいない。謝ってきても、二度と会うなとしか言わない。
「……もう、掘り返さないで」
「うん。ごめんね」
「……教室、戻るよ」
「はーい」
頼まれていた物資を持って、ペットボトルはスカートのポケットにねじ込んで、静かに自分たちの教室に戻ったら、午後の授業が始まるチャイムが鳴った。
あたしに、良い子の面を被っただけで満足する奴らを相手にする時間はない。
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「うわ、どうしたん?」
部活がある日の放課後は、この声がする。
「ちょっと、いやなことがあって」
「へー、今日先輩たちの品評会あるけど、だいじょぶそ?」
「行く。強制的に学校と違う風景見る。それに集中したい」
「おーけー」
先週から品評会自体は始まっているけど、体育祭のときと比べたら、比較する写真の数と選ばなきゃいけない写真の数が圧倒的に多い。そして、部活に来ることが難しい先輩から優先して写真を選んでいるから、あたしたち1年の出番はまだ先だと思う。
でも、白い壁に写真を映してくれるので、先輩たちがどんな写真を撮ったか見れるのが、案外楽しい。一応持ってきたカメラを手に持って、八乙女ちゃんについていく。
「壱華ぁ!」
「……なに」
「壱華が許してくれるまで謝るよ。で、謝るときに、どうやろうか一緒に考えよ」
「……まともなやつ持ってくるまで、お昼以外で話しかけないで」
「うん!まともだと思うやつ持ってくるね」
話が微妙にかみ合っていない。でも、途端に話すのを止めたら、周りから見られるだけだ。会話をする機会を減らすのが、妥協案だろう。
「なに?けんか?」
「けんかにしちゃ、向こうが一方的に悪すぎる」
「へー、かじわらって怒るんだね」
「……そんなに怒ってた?」
「うん。ピリピリしてる」
ピリピリしてるのは止めとこう。せめて、部室にたどり着く前にいつも通りにならなきゃ。
「おぉ、近寄りがたいねー」
「八乙女ちゃんには怒ってないけど」
「知ってるよ」
八乙女ちゃんはいつも通りの距離で、一緒に部室に向かってくれた。




