第39話 準備をするJK
心がわかるDKとわからないJK
第3章 夏休み~文化祭後
第39話 準備をするJK
「いいじゃーん。海いいじゃーん」
すごくテンションが上がっている相田ちゃん。
「やっぱ海は映えるねぇ。山もよかったけど、どうせなら秋に撮りたいよねぇ」
精密機器であるカメラと一定距離を保ちながら、お菓子を食べている濱辺ちゃん。
今あたし達、写真部1年は、夏休みの成果を褒め合っている。
「緑もよくない?確かに海よかったけど、逆光やばかったよー」
「そうだね。夏の昼間は日差しが強かったし、色んな意味で大変だった」
日傘をさしてもらっていたから、日焼けはほとんどしていない。藤くんの言葉を借りるなら、「日陰を持ち歩ける」状態だった。
それにしたって、波に反射する日差し、空を飛ぶ鳥を見上げた瞬間の眩しさ、定期的な水分補給、気をつけることはたくさんあった。自然のレフ板とか言っている場合じゃない。
「はまべが言ったさ、秋に撮りたいってやついいね。行く?行っちゃう?」
「紅葉撮るってこと?いいじゃーん」
「……11月の話にならない?わりと先のことだけど」
「別にいいんじゃない?連休とかに予定ある?」
「……ないと、思う」
2カ月先の予定を立てるなんて、やったことなかった。人間関係をおろそかにしている弊害だな。慣れていかないと。いつまで中学生気分なんだよ、あたし。
「それにしても、うちら1年はりきったみたいだね」
「だねぇ。先輩たち、あんがい近場で撮ってるんだもん」
そう今日は、3年の先輩はほとんどいなかった。でも2年の先輩から去年の文化祭の様子を聞くがてら、展示用の写真の話題になった。そこで判明したのは、写真を撮るために遠出した先輩がいないということだ。美味しかったご飯の写真とか、学校行事に便乗して撮ったものを展示するらしい。だから、去年の文化祭で撮った写真は、今年の文化祭で展示するために撮り溜めたものなど、夏休みに遠出して写真を撮った1年生たちに初耳の話を聞いてしまったのだ。
「家族旅行で撮ったやつとかはあるらしいね。でも、テーマパーク系はなんかルール的にヤバいらしいから、使えるもの少ないって」
「海はセーフでしょ。自転車で行ける距離なんだしー」
「セーフアウトの話じゃなくて、張り切ってるねってことじゃないのぉ」
「あたしも、夏休み中に頑張れってことなのかと思ってた」
というわけで、海やら山やら、近場にあるとは言えない場所での撮影をしたのは1年生だけのようだ。
2年の先輩たちはいじってくることはあれど、頑張っている後輩をかわいがっているだけだった。出る杭になっていなくてよかった。
「でもいいじゃん。うちらが先輩になったら、合宿できなくても、どこかに遠出して撮影会とか企画しようよ」
「日帰り撮影会?いいねぇ。あたし絶対行く」
「私たち全員参加でしょ。言い出しっぺで、特攻隊だもん。ねー、かじわら」
海での撮影を提案したのはあたし。日程を決めたりしたのは八乙女ちゃん。海は遠いけど、山なら近いからそっちに行こうと行動したのは相田ちゃんと濱辺ちゃん。あたしたちは言い出しっぺになった。
「……うん。来年ね」
「来年ちゃんとやるためにもさ、紅葉は撮りにいこうよ。私らで行ったとこ、道がきれいに整備されたからいいと思うんだよね」
「紅葉してるかって調べれば出てくるのかな?」
「ホームページとか?SNSとか?去年がどういう感じだったか調べよー」
そう言って、自分たちのカメラではなく、スマホを取り出して調べ始めてしまった。あたしはどうしようか。情報まとめるためにノートとシャーペンでも取り出しておこうか。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「文化祭当日に部長と話してみる、ていうのが現状最も成功しやすい作戦だと思う」
『うん。確実に会えるんだったらいいと思う』
早速、放課後の帰り道で藤くんに連絡を取った。部長と接触して作戦を進めるための情報を得たので、軽く段取りを決めて、その内容を早々に共有しようとした。
家に帰ってベッドでゴロゴロしていると返事が来た。
こっちも情報がある
裏付けみたいなやつ
その情報のことも気になったので、時間を合わせて通話をしているのが、今だ。
「一応、段取りはメモしておくよ。また紙で用意しようか?」
『うーん。まだいいんじゃないかな。変更とかあるかもしれないし』
「それもそっか」
現段階だとおおまかになるが、文化祭当日の流れはこうなる。
①文化祭当日の販売担当の振り分けの中で、部長とあたしが空くタイミングで行う。
②部長を部室に呼び出す。部室は外部のお客は立入禁止の範囲に入っていたそうだ。
③呼び出す前に藤くんには隠れてもらう。
④あたしから部長に告白する。 この場面であたしを視てもらう。余裕があれば部長も。
⑤その場は、部長と一緒に出る。
⑥後で藤くんから視たものを教えてもらう。
「部室で隠れる場所と、藤くんを部室から出す方法を具体的にしておこう」
『そうだね。……事前に作れるものかな?』
「そこはどうにかする。あと大事なのは、あたしと藤くんが自由に動ける時間を確保すること」
『まだどういう内容になるのかも分からないから、決められないか』
1組は駄菓子屋。教室内を飾り付ける意味はあまりない。まあ、寂しくない程度にはするだろうし、販売担当として割り振られても、そこまで長い時間は拘束されないだろう。
写真部の販売の方が未知数。1組の人数より明らかに少ない部員でどう回すのか。
あとは2組。たしか、お化け屋敷って言ってたよな。驚かす役とか、案内役のことを考えると、きっかり時間で区切るのが難しそう。
「なるべく、午前中になるようにするとか?」
『あぁ、午後に部長さんを呼び出すってこと?』
「うん。それくらいしかできない気がするし」
『まったく同じ時間に担当をするなんて、できないよね』
あたしたちは違うクラスだから、その当たりの意思疎通は難しい。それに、今日2学期の始業式があったばかり。まだ文化祭の具体的な内容を、クラスメイト全員が把握しているわけじゃない。たぶん、この企画主やら担当のクラスメイト数人が把握してるかも怪しい。あたしたちは高校生だ。そんな1カ月先のことなんて思い描いて過ごしている人の方が少ないと思う。
「あ、ここに共有する用のメモ作るから、藤くんが知ったことを教えてくれる?」
『うん。正直、大した情報ではないんだけど、ずっと気になってたんだよね』
なんのことだろう?気になっていたこと?藤くん自身に関わることか?
『一番最初に、中間テスト終わったころに、見つけた時のこと覚えてる?』
「サッカー部している時にみつけてくれた人のこと?そういえば、まだ特定できてなかったね」
おそらく実験室すぐの廊下にいたであろう「あたしのことを好きな人」はまだ分かってなかった。部長だったのかな。
『それ、部長さんだったんじゃないかなって』
「え?」
『ていうのも、放課後に実験室を使うことってそうそうないんだって』
「……逆に、使っていた人たちが絞れる」
あれから一応確認はしておいた。うちの高校に科学部とか、実験室を使いそうな部活はなかった。内容に化学だのが関係ない部活が使っている可能性も考えたけど、薬品とか使う道具は特殊なものが揃っている場所で、関係のない人たちを集めておくのはリスクがある。高校側はそんなことを許すとは思えない。
『今日、3年の先輩が話しに来てて、放課後にやってる進学補習の愚痴になったんだよ』
「……うん」
『それで、実験室の椅子って背もたれないからそわそわして、補習の内容が頭に入らないって言ってたんだよ』
「……補習に参加してたってことか」
『部長さんって、進学補習に行ってる?』
そういうことか。部長は進学補習に参加していた。あの日は進学補習を実験室でやっていて、補習が終わったかなんかで実験室から出たら、グラウンドが見える。そこには運動部に紛れて、制服姿でカメラを構えている女子たち。そりゃ目立つだろうな。しかも、その女子の中に好きな子がいる。そうなれば、それなりの時間グラウンドを眺めていて、その間に藤くんが見つけた。筋が通っている。
「行ってる。だから、部活には毎回いない。受けている教科までは分かんないけど」
『そうなんだ。やっぱり、あのとき見つけたの部長さんだったのかな』
「……あれ?」
思わず、メモを作る手が止まった。見つけてくれたのって、5月後半だよな?体育祭に向けた練習会がまだ、部員全員を巻き込んだイベントになる前。
「部長、いつからあたしのこと好きだったことになるんだ?」
『それは……ちょっと、なにも言えない』
そりゃそう。藤くんに聞いても意味はない。でも、不思議に思わないわけがない。
「これって、部長が、一目惚れしてた可能性ある?」
『あるんじゃないかな?1年と3年の接点なんて、部活か、委員会とか?』
「委員会同じじゃないし、部活だね。うそだろ。気づかないのー、あたし」
『……そ……いや』
ん?なんか言った?
「なに?」
『……なんでもないです』
「いいよ。今のあたしは何でも受け入れます。共感でも、叱咤でもなんでも」
『ちょっと、それは、えっと』
言い淀んでいる藤君の顔が思い浮かぶ。解像度の高い顔が思い浮かぶ。
「怒らないよ。今は、ただただ自分に呆れているだけ」
『……無理だったんじゃないかな』
「理由は」
『……気づけるなら、ぼくに頼まないと思います』
「そーですねー」
ベッドの上で壁に背中を預けていたけど、力が抜けて横に倒れた。枕には届かない。
「はあーーーーー」
『あの、そんなに落ち込まなくても』
「落ち込んでるから、藤くんに協力してるんだよ」
『それは……ありがとうございます』
気が抜ける。部長に好かれることなんてしてないはずだけど?でも、それが分かんないから、今藤くんと通話することになってるんだよな。
「はあ。考えても仕方ないことなんだろうね」
『考えてくれる柏原さんに助かっているけど、今は考えることから離れた方がいいんじゃないかな』
「……何も考えないって、難しくない?」
ボーッとするというのは、あたしには難しい。ベッドに寝転んで天井の模様を見ていても悩み事で頭が埋め尽くされる。勉強をしようとしても集中できない。
だから海に行って、ただ波を見る。いつ波が来るのか、波によってどこまで濡れるのかと予測をすることに集中して、考えることを波に集中させる。それでいくらかマシになる。
でも夜の時間帯にこれができない。夜中に出かけるなんて家族が許さないし、単純に危ない。やろうとしたこともない。
『じゃあ、別のこと考えるとか?』
「例えば?」
『……文化祭終わってすぐに中間テストがあります』
「うわー、別の考え事として最高なんだけど最悪」
『自分で言っといてあれだけど、また気分落ちた』
なんで2人して落ち込まないといけないの。まあでも、部長のことの代わりとしては、悪くないか。
『たかと一緒に年間行事表みたときに、最悪だなって思って』
「そうだね。最悪だよ」
『すごい日程だよね。余韻とか、そういうのないんだってたかが言ってた』
「まあ1学期が3カ月ちょいって考えれば、妥当な日程だよね」
『それで納得できるの、柏原さんだけだと思う』
前に坂下ちゃんに言われたことを思い出した。
「なんで高校って3学期制なんだろぉ。中学みたいに2学期制にしたらよくない?」
こうして始まった雑談は、高校のシステムに不満があるのではなく、もっと子供っぽい悩みだった。「2学期制だったら、テストの回数減るでしょ?」。1つの学期に2回のテストがある。ならば、学期の数を減らせばいいと。テストを減らしたいだけの雑談に呆れたが、あたしの反論によって終わった。
「テストが減ったら、1回のテストの範囲が増えるよ。期末の範囲でヒイヒイ言ってるのに、これ以上増えていいの?」
これで、坂下ちゃんは雑談を終えてテスト勉強をした。黙らせたい意図はあったけど、あたしは3学期制に文句はない。夏休みと冬休みで区切りになってるし、イベント事を考えれば、合理的な分け方だと思う。ただそれだけだったけど、この考え方が珍しいのだろうか。今の藤くんにもそんな感じで言われている気がする。
「なんか、前にも似たようなこと言われたなぁ」
『柏原さんは大人っぽいよね。性格とか、なにかの判断をするときとか』
「誉め言葉として受け取っておきますよ」
『褒めてるよ。それに助かってるからね』
調子狂う。藤くんは今までに関わったことがないタイプだと常々思っていた。まあ、人間関係が希薄なあたしなら、関わったことがない人の方が多いだろうけど。
『少しは、切り替えできた?』
「……できたかも」
『よかった。ぼくも柏原さんの助けになれた』
「……ありがと」
割と話をしていたことに気づき、今日の課題を進めて、藤くんにおやすみの挨拶をした。




