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心がわかるDKとわからないJK  作者: 碌寺紫葛
第3章 夏休み~文化祭後

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第38話 夏休みが明けた高校生たち

心がわかるDKとわからないJK

第3章 夏休み~文化祭後

第38話 夏休みが明けた高校生たち

 いつもより話し声が大きい気がする。もしくは、約1ヶ月ぶりに人だかりが近くにあるから大きいと感じているのか。

 恐らく両方だ。久しぶりに制服姿で登校した人たちの「夏休みどうだった?」という世間話が、あちこちで発生している。

そしてこの夏休み中、30人以上の人だかりが近くにいることがなかったので、殊更大きく感じてしまっている。

あたしの夏休みは、静かに、時々ワイワイする程度がちょうどいい。


「お待たせ!」


その声は覚えている。さすがに顔を覚えたと信じたい。


「この度は、ありがとうございました!柏原ちゃん」

「いいえ。お役に立ちましたか?高倉くん」

「そりゃもう」


 高倉くんに貸した夏休みの課題を、今日、2学期始業式の朝に返してもらうことになっていた。それを藤くんから聞いていたし、少し早めに登校して教室の外に立っておけば、問題なく事が終わると思っていた。

思っていたのに。


「……藤くん、なにか用でも?」

「いや、あの、大したことでは」


 この課題の件について連絡を受けたときは、高倉くんだけが来て返してくれるものだと思っていた。

 なのに今、高倉くんのすぐ後ろに藤くんが立っている。

 高倉くんは、あたしたちが付き合っていると思っているのだから、他人行儀にするのは不自然だ。もっとも、合コンに参加した者同士という情報があるから、苗字で呼んでもおかしくない。

藤くん相手だけど、愛想笑いを忘れずに。


「大したことないって~?」

「あんま大声出すなよ」

「分かってるって。ほら、さっさと用事すませろよ」


用はあるのか。なにかあったか?

 海で撮影した後も、会って遊ぶことはなかったけど連絡はしていたし、通話もした。わざわざ会う必要があるのなら、とっくに機会はあったはずなのに。


「あの、これ、どうぞ」

「?これって」

「お礼。チョコの」


 小声で話してきた。

チョコ?……あぁ、海で撮影した帰りに、藤くんから借りた資料集を返すとき、紙袋の中に資料集と小さいチョコ菓子を入れておいた。お礼のメッセージを短く書いて渡したアレのことを言っているのか。


「わざわざありがとう。おつかれさまみたいな意味だったし、お礼されると思ってなくて」

「こっちも、お礼しようって思ったけど、ちょうどいいやつが見つからなくて遅くなったし」


遅くなるような代物なのか。

 改めてもらったものを見てみた。これは、クッキー?小分けというには大きめのサイズのクッキーが2枚入った個包装だ。なにか練りこまれてる。なんだろう。


「紅茶フレーバーだって。柏原さん、アイスティー好きでしょ?」

「……廊下に誰もいなくてよかったね」


 きつい言い方にならないように。でも指摘はしたい。廊下にいなくても教室には生徒がいるし、教室の扉がいつ開くか分からないんだから注意しなさい、と。


「あ、そうですね」

「くくっ」


 高倉くんが笑うのを堪えている。気分は良くないけど、教えたのはあたしたちの判断なんだから、怒るのはお門違いだ。

 それより、この個包装を渡されたときから気になっていたことがある。


「あたしの真似ですか?」

「!?……えっと」


 手のひらで受け取ったとき、パサッと個包装からは感じ取ることのない感触があった。小さい紙かな?メモのようなものをあたしの手のひらに当て、クッキーが入っていることだけを示したようだ。


「ここで見ない方がいいわけ?」

「で、できれば」

「みんなに見られないほうがいい?」

「見せつけること、しないと、思ってます」


 歯切れが悪い。

もちろん、「カレシにもらったぁ」なんて浮かれたことは言わないし、言いたくもない。


「わかりました。……うん。課題も全部返ってきてるし、大丈夫だと思う」

「変なことしてるよな、2人とも」


はい。変なことをしています。高倉くんに指摘されなくても分かっています。


「ま、いいや。1組って文化祭何すんの?」

「駄菓子屋だったかな?」

「2組はお化け屋敷だから、楽しみにしといて。なんなら2人で入る?」

「「しません!」」


 なんていうお誘いだ。思わず声を荒げてしまった。お化け屋敷というもの自体に興味もなければ、文化祭で藤くんと行動するときなんて、作戦のためだ。


「こういうときに揃うんだよな、マジで不思議」

「もういいだろ!教室戻るぞ」


 藤くんが高倉くんの腕を掴み、2組の教室の方向へ引っ張っていく。

 結局騒がしくなったな。さて、もらったクッキーを確認しようか。たぶん、藤くんに送ったチョコ菓子みたいに、なにかメッセージが書かれているんだろう。クッキーの個包装に直接かけなかったから、メモを貼り付けて。


「……ふふ」


思わず笑ってしまった。


「クッキー、割れてんじゃん」


 2枚入っていたクッキーの内1枚が3つに割れていた。恐らくだが、クッキーの個包装にメモを貼ってからメッセージを書き、筆圧やらでクッキーが割れてしまったんだろう。

 『☆がんばろう!』

やっぱり、あたしの真似をしたんだ。


「壱華ー!終わった?」

「終わった。教室戻る」

「はやくぅ」


 坂下ちゃんが呼びに来た。貰ったクッキーはスカートのポケットに入れて、始業式が始まる前にカバンに移しておこう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「かじわらー!」

「行きます!」


 夏休みが明けても、八乙女ちゃんがあたしを呼びにくる習慣は終わらなかった。


「あ、みつちゃん!」

「はいー?」

「コラージュよかった。ありがとねぇ」

「いえいえー」


 夏休み中に、八乙女ちゃんが作ったコラージュをあたしが受け取り、それを坂下ちゃんに送った。その日中に感想が来たので、そのまま八乙女ちゃんに送った。それでも直接感想を言うあたり、友達が多い証拠なんだろう。

そこに絆されたわけでもないなのに、坂下ちゃんの友達に収まっているあたしはなんなんだろう。


「あいだとはまべのやつ見にいこー」

「それはいいんだけど」


一応釘刺しておこうか。言わなくても気を遣ってくれるかもしれないけど、藤くんに問い詰めた件があるし、ちゃんと言っておかないと後でトラブルが起きたときに面倒だ。


「あのさ」

「なにー?」

「カレシのことは内緒で。必要だと思ったらあたしが言うから」

「はいはい。勝手に言いませんよ」


よし。言質を取った。

 今のところ、高倉くんと八乙女ちゃんは知っている。あと知ってほしい人っているか?合コンに参加したメンバーにはバレやすいだろうけど、坂下ちゃんにバレたらめんどそう。相田ちゃんと濱辺ちゃんにはどうしよう。写真見せるなら、男子2人が写ってるものもあるし、いちいち誤魔化すのもおかしなこと。今日言うことになるんだろうか。


「そーいえば聞いたー?」

「なにを?」

「3年生が卒業したときに送る色紙に乗せられる写真を集めてるんだって」

「……色紙に写真?」


 卒業する先輩に寄せ書きを渡すのは定番だと思う。ただ、ペンでメッセージと名前を書く、イラストがあるならまだ分かる。でも写真?


「ちなみに、誰からの情報?」

「萩之せんぱーい」

「だと思った」


 あの先輩は、練習会に付き合ってくれたり、選んだ写真を貼るときにみんなの希望をまとめたりと先輩として頼りになる。でも、後輩のことをぬいぐるみみたいに思っていたり、部長に軽口を叩く様子から陽キャ寄りの性格をしている。

 卒業記念にもらう色紙に自分の写真が貼られていて嬉しい人は、この写真部にどれくらいいるんだろう。


「再考してくださいって言うべきだと思う」

「やっぱ?でもさ、色紙がスッカスカだと寂しくない?」


 その寂しい色紙をもらったことがある。後輩に限らず、人間関係が希薄な中学を送った自覚はあるが、あれが寂しいものだと名言されると少しはダメージがあるもんだ。


「カメラ役に手を挙げるような人が、カメラに写っていると思う?」

「それな」

「もれなく卒アルと同じになると思うよ」


 表情が硬く、笑顔か真顔か分からない、そして直立不動。


「ふふふ」

「え、なに?」


八乙女ちゃんまで、よく分かんないタイミングで笑い始めた。これは、あたしが悪いのか?

 高倉くんは見当もつかないみたいなことを言っていたし、そうなってくると、笑わせているあたしに原因がある?なんだ?視てもらうか?いやダメだ。笑う代表格の人に、驚くほど正確な答えを教えてもらっても、あたしが信じられない。


「かじわらさ、私たちが3年になったら部長にならない?」

「いや」

「即答すると思った」


 思ってたのなら聞かないでほしい。あたしは部長なんて似合わない。


「相田ちゃんじゃない?部長やるなら」

「わかる。私たちの中だったら、リーダー向いてるのあいだで、はまべは年下ウケ良さそうだから、役職はないけど相談役だよね」

「で、八乙女ちゃんが副部長、あたしが会計」

「唯一の理系だもんな。そこがいいか」


 部活の会計なんて大したことはしないだろうけど、数字を扱うことに不安がない方がやりやすいだろう。でも、あたしたちは4人だし、高確率で役職を持つことになるのか。


「あ、はまべー!どしたん?」


 話しながら歩いていたら、いつの間にか部室まで来ていた。濱辺ちゃんが部室の前で立っているけど、入らないのか?いや、入れないのか。


「やっほ。部室が開いてなくってさ。先輩が鍵取りに行ってる」

「珍しいね。先輩たち、忙しいのかも」

「かもねー。3年生が忙しいのは分かるし、ここ開けてくれるの2年の先輩になること多いらしいよ。新学期だし、バタバタしてんじゃない?」

「……2年の先輩が開けてくれてるの?」


 たしかに、入部してから部室の鍵を取ってきて開けるという行動をしたことはない。部室から物理的に近いのは2年生?いや、掃除当番とか、課題とかやることはあるだろうから、特定の1人というわけじゃなくて、2年生が開けることが多いってことかな。


「ほら、写真部は文化祭大事じゃん?もしかしたら顧問が来るかもよ」

「スマホ見れなーい」

「廊下で言わないで。通りかかったらどうするの」

「写真部ジョークってことで」


 連帯責任でスマホを取り上げられたら、どうしてくれんの。


「あ、1年ズ。ごめんね。遅くなっちゃった」

「いえ。鍵、ありがとうございます」

「慣れてるからいいよ。来年はよろしくね」


 なるほど。今の先輩の発言ではっきりした。代々2年生は鍵を開けることが多いんだ。

じゃあ、部長と確実に会うために鍵を保持しておくのはナシだな。絶対に部長がやらなきゃいけないことを探して、自然に接触しないと。こっちから待ち合わせを提案してもいいんだけど、なるべく他の人がいない状況で。難しいな。


「先輩。聞きたいことがあるんですけど~」

「なに?」

「文化祭で写真の展示と販売をするっていうのは知ってるんです。この部室でやるんですか?ちょっと広すぎませんか?」

「去年はね、あの、使ってない教室だったよ。ほら、昔は8クラスとかあったらしいけど、今は4クラスになっちゃったから使われていないとこ」


 1年生の棟にもある。横並びで4つの教室があるのに、なんで2階と3階に、2クラスずつに分けるんだろうと思っていた。実際に過ごしていれば、1学年全員が同じ階の狭い廊下にいるなんて、空気中の酸素が少なくなって頭がクラクラしそうだと思える。


「じゃあ、体育館近いんですね」

「そうだね。イベントの音は届いていたよ。あんがい賑やか」

「職員室とかには近寄らないようにするんじゃない?警備の問題というか」

「警備って言ったって、いすに『立入禁止』って書いた紙貼り付けて、置いとくだけでしょー?」


 あれだけで人が入らないようになるなんて、平和だと思う。でも、文化祭っていうイベントでわざわざ高校に侵入して、欲しいものなんてあるんだろうか。だいたいは迷子にならないように「ここは文化祭の範囲ではありませんよ」と言いたいだけだろう。


「実際、生徒がそこを通り抜けて、必要なものを取りに行くっていうことはあったよ。たぶん、イチャイチャしてる人もいただろうね」

「わー、うらやましー」

「八乙女ちゃん、少しは気持ち込めてよ」

「だって、隠れてイチャイチャしたいなら、カラオケにでも行けって話じゃない?」


……それ、使えるかも。文化祭当日になってしまうけど、クラスという単位から外れる行動をしても怪しまれない。部長の動きは、ある程度なら把握しやすい。そして、外部からのお客さんが来るから、目撃情報が錯綜しやすい。

あたし、藤くん、部長の3人の行動が、他の人にバレにくい。


「かじわら」

「は、はい」

「何か考え事?」

「いや、なにか口挟むことあった?」


 八乙女ちゃんの顔が、思考する顔からニヤついた顔に変わった。


「大丈夫だって。職員室の近くじゃなきゃバレないんじゃない?」


 あたしの肩に腕を回し、小声になったかと思ったらこれだ。

違います。カレシとイチャイチャしたくて考え事をしていたわけはありません。

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