第37話 赤い夏で青春をする高校生たち
心がわかるDKとわからないJK
第3章 夏休み~文化祭後
第37話 赤い夏で青春をする高校生たち
足跡が残った砂浜。
太陽の光を跳ね返している波。
はるか上空を飛ぶ鳥。
乱雑に置かれたバケツと、砂の城。
漁船が停泊する港。
波を受けて濡れているテトラポット。
「撮れたねー」
「めっちゃいいじゃん!マジでもらっていいんだ?」
「欲しいなら。明日以降に渡すことになるけど」
「欲しい!背景にする!」
素人が撮った写真ではしゃいでくれている高倉くんは、良い人なんだろうな。でも自分の秘密を教えたい人かどうかで言うと、信用できない性格であることが、今日実感した。
あたしの勘は正しかったことが実感できた。変な日本語だな。
「あのさ、男子2人ー」
「八乙女ちゃん?」
「部活で提出するもの以外でコラージュ作りたいんだけど、2人ともいる?」
「コラージュ?」
いまいちコラージュというものが分かっていないようだ。画像を編集することがなければ、聞き馴染みはない単語だろうな。
「いろんな画像を切って貼ってして、1枚にまとめんの。あ、見本みせるよ」
かばんからスマホを取り出して操作している。そういえば、夏休み前に言ってた方のコラージュは出来たのかな。
「これ」
スマホの画面をあたしを含めた3人に見えるように渡してくる。とりあえずでもらっておこう。八乙女ちゃんが前に作ったものだよね。……ん?
「すげぇ。これ全部八乙女ちゃんが撮ったやつ?」
「うん。色々配置して、こことここは背景がマッチしそうだなーとか背中合わせになってんじゃーんとか考えて切って合わせるんだよね」
「……これさ」
「高校入ってから、私が撮ったものだけで作った」
わざとらしくウインクをしてきた。なるほどね。柏原壱華が撮ったものや、他の写真部が撮ったものは使ってないと。例のリレーの写真が使われていないことを伝えてくれた。
こういう気遣いはとても助かるんだけど、藤くんに質問した件があるから要注意だな。
藤くんが問い詰められる状況に慣れていない、そもそも避けてきた、という危機回避の経験が邪魔をしている。なにか対策するべき?
「いいじゃん!くれんの?」
「うん。かじわらはお礼考えてたみたいだし、私もなにかしたいなーって」
「作るの大変じゃない?課題とか、お盆で忙しいとかない?」
「とくに?趣味だし。かじわらが課題手伝ってくれたし」
肘で軽くつつかれる。あれはお互いに助け合ったから、あたしだけの功績ではないでしょ。
男子2人がスマホの画面から頭をあげたところで、そのままスマホを八乙女ちゃんに返す。
「これからやる花火の写真も?」
「入れるつもりー。提出用になるかもしれないけど」
「……」
藤くんが考えてる。何を思案する必要が?
「八乙女さん、少しいい?」
「うん、いいよ」
え?八乙女ちゃんに話があるの?藤くんと八乙女ちゃんが歩き出して、絶対に声が届かない距離まで離れていった。
「心配?」
「……高倉くんの顔がニヤニヤしてなかったとしても、特に言うことはないよ」
「ま、大丈夫だって。かずに浮気する度胸があると思う?」
「思わない」
度胸の話をするなら思わないけど、やっていいという許可の元だったらあり得る。
「即答?すげぇ」
「少し付き合いがあれば、そういう人だって分かりやすいでしょ、藤くんは」
「嘘つけないていう意味ではマジ。わかりやすい」
高倉くんにはバレるのか。藤くんの嘘というだけで、効力はそこまでないことは想像に容易い。それに、藤くんは高倉くんに嘘をついたことがあるという情報を入手できた。嘘を信じさせることはできなかった。でも、高倉くんは藤くんが「頭の中がわかる」ことを知らないはず。体育祭の時の話を思い出せば、高倉くんは知らない、ということで確定のはず。
本当のことを言わない、口が堅いということか。
「そういうことか」
「え、なに?」
「ありがと、高倉くん」
「だからなに?」
「貸す課題を増やしてあげるって意味」
解せないと言いたいんだろうな。でもこれ以上は言えない。藤くんのプライベートのためにね。
「お待たせ!急にごめんね」
「おぉ、かず、なに話してたんだよ」
「……内緒」
「はぁ!?カレシもカノジョも秘密主義ですかー!?」
秘密主義ってなんだ?得られたものを明確にしてないけど、ちゃんとお礼しているじゃん。
藤くんのものと一緒ではない。
「内緒にしてあげて、お願いしてきた藤くんがかわいかったという事実で許してあげて」
「ちょ、八乙女さん!?」
「男がかわいくても、なーんにも嬉しくない」
かわいい?藤くんがかわいい?いや、八乙女ちゃんの「かわいい」を鵜呑みにしても意味はない。かわいいから見てと言われて見たけど、よくわかんないものもあったし。
「花火の準備しよーよ。空が赤くなってきたし」
「火は?」
「マッチとか、ライターとか?コンビニ?」
「砂浜に帰る道すがらでコンビニ行けばいいでしょ。自転車のとこまで戻るよ」
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さっき空が赤くなったと思ったら、山の方が暗くなってきた。夕方って短いな。
柏原さん!と声をかければ、こちらを振り向いてくれる。柏原さんの顔にかかった影が暗くなっていく。花火、きれいに写りそうでよかった。
「藤くん。水確保できた?」
「うん。あと、飲み切ったペットボトルにも入れてきた」
「おぉ、ありがと」
バケツの8割くらいに水をいれて、昼間に買ったペットボトルにも入れて。これで火消しくらいはできると思う。
「八乙女ちゃんになにお願いしたの?」
「それは、ちょっと、内緒で」
「あたしにも?関係してないやつならそれでOK」
はい。作戦には関係してない。割と、自己満足です。
「試しに1本やってみる?どっちかカメラ構えて」
「すぐ行けるよー。高倉くんよろしくー」
「いきまーす!」
買った花火の中に自立できるろうそくがあったけど、砂浜でやってるからろうそくの足だけ砂に埋めて絶対に倒れないように気をつけることにした。
「きたきたー!撮れてる?」
「めちゃいい!」
勢いよく光っている花火を持ってろうそくから距離をとっていくたかが何をしたいのかは分かりやすい。花火が燃えて光っている間に1回転したいんだろ。
「動きまーす!」
はい予想通り。素早く1回転して、八乙女さんは困ってないかな。
「いいね!顔写ってるから絶対あげるよ」
困ってなかった。ノリが良くて助かるな。そういえば柏原さんは?
「……」
集中してた。邪魔しないようにしよう。
「……ふぅ」
「いいの撮れた?」
「どうだろ。久しぶりに顔撮ったから、下手になってるかも」
「久しぶりなんだ?」
体育祭のときに撮ってたし、部活でもやってるんだと思ってた。
「いつも、人は撮らないんだ?」
「うん。検証したいことはあるんだけど、ちょうどいいモデルがいるとも限らないしね」
検証?撮影の話だよね?
「でも」
「うん?」
「……撮り甲斐のある笑顔だね」
あ、笑った。
「なに?」
戻った。いつもの柏原さんだ。
「カメラ持ってればよかったなと思いました」
「どういうこと?」
「スマホでもきれいに撮れるかな?」
「いけるんじゃない?撮ってみれば?」
言ってしまったのだから、自分のスマホで撮影は試してみよう。
柏原さんの笑顔が見れたから写真に残しておきたかったと言ったら、柏原さんはどんな反応するんだろう。付き合ってるけど、お互いに恋愛感情はない。柏原さんがしたいことのために、ぼくの叶えたいことのために、今は隣にいるだけ。
お世話になっている人の笑顔を覚えておきたいって気持ちは、恋愛感情なんだろうか。
好きだから残したいんじゃなくて、「珍しいから残しておきたい」が近い気がする。
「お?案外きれい撮れたかも」
撮影した写真を柏原さんに見せる。
「……いいね。ヘッダーとかにしたら?」
「それはいいや。別に、SNSは見るだけだし」
「分かる。写真あげればいいじゃんとか言われるけど、自慢したいとかないからさ」
喋りながら撮影してる。器用だな。たかの方は……あれ?花火2本目じゃない?
「かず、お前もやるぞ!」
「はいはい」
スマホを後ろのポケットに入れて、一応声かけよう。
「いってきます」
「はい。顔は撮らないように頑張るよ」
軽く手を振ってくれてる。おれも花火を持とう。
「八乙女さんも撮影に集中する?」
「線香花火だけやりたい」
「じゃあ、アシスタントとして花火やらせてもらいます」
花火の先端に火をつけて。小さいころに家族とか親戚でやってたけど、中学生のときはやった記憶ないな。友達だけやるなんて、高校生らしいのかも。
「かず!クロスさせよう!」
「ガキかよ」
「写真映えと言え」
赤い空と黒が混じった空が半々くらいになってきて、花火がより光って見える。もう夕日も沈みきっている。
「いいよー!映えてるー!」
「字書いたら撮れるかも?」
「やってみる?」
「カメラー!字書いてみる!」
3本目に突入してもなお高いテンションで、なにか空中に書き始めた。
「なんて書いた?」
「バエ」
「映えるために『映え』って書くのかよ」
「カタカナならイケんじゃねって」
ひらがなも漢字も難しいな。でも、カタカナだと虫のハエだって勘違いされないか?
「かずもなんか書けよ」
「えー?なに書けばいいんだよ」
「テキトー」
「おまえのはテキトーだよ。知ってる」
簡単な文字で書けて、写真に残したいもの?なんだろ。
「……これでいいか」
2本目に火をつける。勢いよく光ったことを確認して、沈む前に夕日がどこにあったがら思い出しながら、書いてみる。
「なに書いた?」
「ゆ、夕焼けに見える、星?」
久しぶりに一筆書きで星を描いた。花火で描いたことは一度もないはず。
「はは!ポエムかよ」
「言葉が思いつかなかったんだって」
「藤くん!めっちゃいいよ!」
「ありがとう!」
カメラを構えている女子2人を見た。八乙女さんは声をかけながら撮影してるから、どんなテンションなのか分かりやすい。柏原さんは静かに撮ってる。どんな写真を撮れたのかな?あとで見せてもらえるかな?
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すっかり暗くなってしまった。花火のゴミを回収して、作った砂の城を崩して、買った飲み物の容器を軽く洗って、家に帰ろうとしていたはず。
なのに今、おれたちは柏原さんの家の前にいる。
「でかい家だな」
「2世帯住宅らしいよ。リフォームしたんだって」
「詳しいね、八乙女さん」
「今月の頭くらい?に聞いた」
おれの家で課題したくらいかな?そういう話をしたことはない。やっぱり、柏原さんは八乙女さんのこと信じてると思う。ちゃんと自分のことを話してるから。
「かずは知らなかったわけ?」
「うん。なんか、男子が女子の家に行くのはマズいかなって」
「「あぁ」」
察してくれてどうも。
「でもさ、逆でもそんな変わんなくない?」
「え!?ダメなの?」
大声出しちゃった。おい、たか!変な笑い方してんじゃねぇよ!
「男女で2人っきりがマズいとか、親に知られたくない的なサムシング?」
「あ、ごめん。後半の方しか、考えてなかった」
「え、藤くんて、男子だよね?」
それを疑われたことは、今までなかったな。なんか変なこと言ったか?
「かず、奥手も奥手だから、けしかけても無駄なんだよね」
「高倉くんがけしかけたことあるんだ?」
「面白くもなかった」
「……勉強会のこと言ってる?」
「そりゃもち」
あれを「けしかけた」と言うのか。一応正解か?いや、ありがたくもない迷惑だったけど。
「まだ付き合ったばっかだし、そういうのは別に」
「あれ?3の法則みたいなやつ守る人?」
「なにそれ」
「3回目のデートで告って、3カ月目で動き出して、3年目で結婚!」
本当に聞いたことがない。3回目のデートで告って?……「いつもの場所」で話し合いをした3回目で付き合い始めたな。あれ?法則に則っている?
「一応その通りじゃね?」
「え?」
たか、何の話してんだ?
「1回目は中間前、2回目は合コン、3回目で付き合い始めた」
……あ、たかの中では、おれと柏原さんが出会っているときってそこなのか。ちょうど3回だ!?
「そーなの?」
「そうじゃねぇの?」
ノーコメントで。
「やっぱ他のタイミングあるねー。話さなくていいけど、つつくなら藤くんなのは確定」
「それはそう。こいつ嘘がマージで下手だから」
助けて、柏原さん!おれ狙われてる!
「仲良しそうですね、3人とも」
柏原さんの家の玄関から、紙袋をもった柏原さんが現れた。助かった!
「藤くんいじめて楽しいですか?」
「この中でイジるならかずでしょ」
「……」
目をそらさないで。何か言って。否定してください!
「はいこれ。数学と化学基礎が入ってる」
「ありがとーございます!」
今日の撮影アシスタントのお礼として、たかは柏原さんから夏休みの課題を借りて、自分の課題を進めることになっている。それを渡しているのはいいけど、もう1つの紙袋はなんだろう?
「藤くん」
「え、おれ?」
「借りてた資料集。ありがとね」
「あ!いえいえ」
そういえば貸してた。ん?紙袋の中に、何か入ってる。
「もう暗いから気を付けてね。八乙女ちゃんもいいの?」
「いいよ。大通り通って帰るし、9時までに帰ればいいってさ」
「じゃあ、どうぞ」
「おじゃましまーす」
八乙女さんはこのまま、柏原さんの家で今日撮った写真を確認するそうだ。
柏原さんと八乙女さんの自転車は家の敷地内に、たかとおれの自転車は今立っているすぐそばに停めてある。これを受け取って、今日は解散だ。
「お疲れ様」
「2人ともありがとうね!」
おれたちが自転車に跨って帰路に着く前に手を振って挨拶をする。
まだ帰る道はたかと同じだからか、話しかけてきた。
「すげぇ1日だったな」
「そうだな」
滅多に起きないことだっただろうな。写真部員のカノジョのお願いで友達とアシスタントして、砂の城とか鳥追いかけたりとかして、暗くなるまで花火して。
課題を紙袋に詰めるにしては時間がかかったなと思ったら、紙袋の中にお菓子が入っていた。ちゃんと見れてないけど、何か文字が書いてあるように見えたし、それを用意していたのなら、すごい急いでやったんだろうなと想像できる。
「やっぱり、心配しなくても大丈夫だよ」
夏休みはここで終了です。
次からは、みんな制服を着始め、文化祭の雰囲気が濃くなっていきます。




