第36話 平等になった高校生
心がわかるDKとわからないJK
第3章 夏休み~文化祭後
第36話 平等になった高校生
「……それより気になることがあるんだけど」
「お、おれですか」
「バケツ買って合流してから、なんか隠してるよね?」
「……」
「あたしに隠し通せると思ってるわけ?」
高倉くんと今日の合流地点に戻ってみれば、足で砂を集めている藤くんと八乙女ちゃんがいた。八乙女ちゃんはいつも通りに「おかえりー」と声をかけてくれた。それに続いて「おかえり」と発してはいたが、顔が硬かった。あたしに向かった言葉ではないように思えた。
高倉くんがすんなり「ゲットした!」と成果物を見せるように促してきたので、そのまま会話が続いてしまった、そのあとの撮影も他愛のない会話で終わったが、歩き回っているのと、他に海で遊んでいる人もいたので、込み入った話は避けていた。
だが、今はツッコミをいれないと気がすまない。
「の、飲み物は?」
「飲むよ。あたしが飲んでいる間は、藤くんが喋れるでしょ」
「お、仰る通りです」
バケツを探す代わりに八乙女ちゃんが買ってくれたアイスティーを飲む。あ、水分足りてなかったんだな。沁みる。
「その、お互い家に帰ってからでもいいかなって思って」
「じゃあもっと隠してください」
「すみません」
「で、なんか話しちゃったとか?」
八乙女ちゃんとの会話で何か話した?こっちも付き合っていることとか藤くんのことを聞かれたし、同じようなことを話していてもおかしくない。
「その、八乙女さんに、柏原さんが頭の中が分かるって噂を」
「あぁ、知らないでほしかったけどなぁ」
「そうだよね。本当にごめん」
「3組と4組の子はあんま知らないっぽいんだよね。1組に友達がいる子とかは聞いてるかもしれないけど、写真部の1年は、1組の知り合いあたしだけみたいだし」
まあ、階が違う組にまで友達がいるのは、中学からの友達がいるとか、部活が一緒とかで交友関係があるかもだけど、そもそも坂下ちゃんが言いふらしていた時期が5月頭。部活が一緒だとしてもまだ信頼関係を作っている最中の時期だろうし、噂が広がる要因が少ない。だからあたしが言わなければ留めておけると思ってたんだけどな。
「ごめん。交換条件で言っちゃった」
「交換?なにそれ」
「……八乙女さん、ぼくたちが知り合ったの、体育祭より前だって予想してたよ」
「うわ、勘すご」
「リレーの写真のこと言われて、ちょっと、問い詰められて」
やっぱり気づいてたか。写真でコラージュ作るとか言ってたし、撮られた人たちの顔を覚えている可能性はある。そんなことできるなんて羨ましいけどね。
「それで、柏原さんのことを知り合ったのはいつかを聞かない代わりに、噂のことを」
「理解しました。まあ、賢明な判断だと思うよ」
「柏原さんから言われたわけじゃないけど、知られたくないことかなって思って、なのに」
「いいよ。一番小さい傷で済んだと思う。そっか。疑われてたか」
あたしが喋らなくても変わらないテンションで話してくれる友達だと思ってたけど、気になるものは気になるか。仕方ないな。人類みな噂好き。
「お、お咎めは?」
「ないでしょ。上手く立ち回った方じゃん?」
「そっか。よかった」
安心しきった顔。そんなに緊張してたの?
「まあいいや。こっちも、話しときたいことあったし」
「え?あいつに何か言われた?」
「なんて言えばいいか、うーん」
藤くん、本当に高倉くんのこと信じてる?本当に友達?
余計なお世話でしかない言葉がつらつら出てくる。もうちょっと、ベターな言い方は?
「藤くんって、あたし以外の人の前で笑ってる?」
「なにその質問!?え、笑えてると、思ってるよ?」
「そっかぁ」
「その顔は飽きれてるの?諦めてるの?」
「後者」
これは、藤くんが天然であるという情報は当てはまらない気がするな。本当に藤くんは日常的に笑うことはある。けど高倉くんの言う通り、爆笑はしていなんだろうな。どちらも事実。そう考えよう。
「本当に何聞いたんだ?あいつ」
「爆笑してる藤くんを見たことないって」
「?……え?」
自覚ないんだろうな。この人ほんとに自分のこと知りたいんだよね?
「高倉くんと付き合い長いんでしょ?」
「うん。中1から」
「長いね。そんな高倉くんが言うんだよ?信憑性はあるんじゃない?」
「そう、なんだろうけど、あいつの話で爆笑するのか?」
疑問そこなの?
「あいつがバカやって、あいつが笑うことはあるけど、おれ?うーん」
「まあ爆笑できるかは置いといて、あたしと話して笑ってたていう事実が衝撃的だったみたいだよ。こっちとしては、よく分かんないとこで笑われることが増えたから、せめて分かるようになりたいけどね」
「分かってもらえるのかな?」
「なにそれ」
「柏原さんが真剣だったら、なおさら分かってもらえないような気がする」
何を言ってるんだ?やっぱ藤くんのツボがおかしいだけでは?
「はーあ。何も交換できなかったか」
「たかに、何か言われた?」
「……言ってもらった?」
「なにを!?」
訊いてしまおうか。今までカノジョがいなかったこと、もしくは好きなタイプ。前者はプライベートすぎる情報かな。黙っておいた方がいいだろう、うん。
「藤くんの好きなタイプ」
「え?」
「頭が良い子が好きなんだって?」
「……そんなこと言ったっけ?」
それも眉唾物なわけ?高倉くんがあたしから情報を引き出せなかったのと同時に、あたしも高倉くんから情報を得られなかったわけだ。無駄な時間だったか?
「あれ?体育祭のときのやつか?」
「心当たりあるじゃん」
「いや、でも、あれは。あ!あいつの好きなタイプで『頭が良い子』って言ってたんだよ。それ聞いて、その条件自体は良いものだよねって返したんだよ」
「上手く伝わってなかったみたいだね」
「たかのやろぉ」
収穫なしであったことが確定してしまったわけだ。いやでも、高倉くんが何も得ていないなら、あたしの収穫がなかったことで、平等な結果になったのでは?じゃあいいか。
「……お城づくりやってみる?」
「そうしよう」
藤くんが自分の飲み物の蓋をしているときに、やっぱり目に入る。砂を扱うわけだし、訊いてみるか。
「あのさ」
「はい」
「ブレスレット、着けてきたんだね」
「……今、なんだ」
待ち合わせ場所ですれ違いが起きて、全力で謝ってきたときには気づいていた。それより八乙女ちゃんがリレーの写真のことに気づいているかが気になっていたし、ブレスレット着けてくるのは藤くんの自由だし。でも今から砂と水を扱うから、汚れるかもしれない。
「外さないの?汚れるかもよ」
「いや、着けておきたいかな」
「別にいいんだけど、なんで?」
「……今、暗示かけてる最中」
「……あ」
サングラスを買おうとしていた時に言っていた。
特定の物を持っている間は視ないようにする。そう練習することで、物を持っている間は安心できるとかなんとか?お守りっていうことで買ったし、着けておきたいのは当然だ。
「ていうことは、八乙女ちゃんを視てない?」
「うん。視てないし、視ても結果は良くならなかった気がする」
どういうこと?相手の考えがわかるんだから、それを利用したらいいんじゃないの?
「八乙女さんから、あんなに核心を突いた質問をされるとは思ってなかった。それと、柏原さんが知られたくないと思っていることを言うべきか考えている時点で、それ以上の情報が入ってきたら整理できなくて、もっと慌ててたかも」
「八乙女ちゃん、藤くんに何したんだよ」
「少しだけ怖かった」
八乙女ちゃんって怖くなれるんだ。知らなかったな。
「こういうこと、これからも起きると思うけど大丈夫?」
「慣れるしか、ないよね?」
止めるという選択肢はないのか?藤くんがカノジョ欲しいとかなら全然付き合うけど、そういう感じじゃないみたいだし。
「別れる?」
「それはダメ!」
力強い返事。あたしは別にいいんだよ?藤くんに負担がかかっているなら、止めるよ?
「それは、ダメ、です」
「無理しなくていいって」
「無理じゃないです!無理じゃない」
そんだけ言うなら、いったんその言葉は信じておきますよ。
「わかった。一応言っておくけど、別れても相談先として居続けることはできるよ」
「……ありがとう」
安心しきった顔しちゃって。今までいなかった相談先を失いたくないんだろうな。それなら別にいい。お互いに利用し合っていけるなら、それでいい。
「じゃあ今日は視ないんだね」
「頑張ってみる。あ、なんか気になることある?」
「いや?特には」
視てほしいことはないな。気になることと言えば……今日持ってきておいて良かったな。
「もし汚れたりとかしたらこれ使って」
「……タオル?持ってきてたんだ」
「バッグの中のクッションがてら。あと、素足で歩くかもしれないなって思ってたから、洗ったあと拭けるように。汚れる前提だから、気にしないで」
「すごい、アフターケアがある」
まあ今、藤くんはサンダル履いてるし、多少水に晒されても大丈夫だろうけどね。八乙女ちゃんと高倉くんも使うかもしれないから、バッグから出しておいていいものだ。
「ふふふ」
「ほら!またあたしが分かんないとこで笑ってる!」
「ごめん。あーでも、今のは説明できるかな」
「なに?」
準備万端だったこと?汚れるの気にするんだてきなこと?あとなんだ?そもそも分かんないんだよな。
「前に、おれの家で課題したときさ、女の子らしさみたいなのに悩んでたでしょ?」
「うん」
「今まさに、すごい女の子っぽいことしてるから、びっくりしちゃった」
「……タオル、用意してたことが?」
「うん。おれもたかもそういうの気にしないよ」
半分くらい予想が当たったか?こういうのが、女子っぽいって思うんだ。
「ただ、誘った側だから、準備しておこうってだけ、だった」
「バケツは用意しないんだ?」
「ほんとにお城作るとは思ってなかったのと、たぶん家にそういうのない」
「小さい頃はあった気がするけど、いつの間にか片付けられてるよね」
確かに、小学校低学年くらいまではあった気がする。使わなくなったし、あたしには弟も妹もいないから、お役御免だったんだろう。しかも引っ越しがあったから、そのタイミングで捨てた可能性もある。結局買うしかなかったな。
それからたぶん30分くらい、八乙女ちゃんと高倉くんが帰ってくるまで、真面目にお城を作ってしまった。
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「できてんじゃん、城」
遠くからこちらに歩いて近づいてくる人物が見え、2人が帰ってきたのかと思っていたら、その2人が大きくなっていくスピードが速くなった。距離が縮まると見える人影の大きさが累乗で大きくなっていく法則でもあるのかと考えたが、単純に2人が走ってきたからだと気づくのに、そう時間はかからなかった。
「柏原さんが丁寧にやってくれて」
「藤くんが熱心に砂を固めてくれたおかげでしょ」
「「イチャイチャすんなよ」」
この2人仲いいな。正直このお城は不格好ではある。でも、スコップもない、細かいことをするための準備が一切ない、自分の指で形を作ってこの出来だから、まあいい方か。
手についた砂をパッパッと払って、藤くんのブレスレットを見ておく。
「汚れてない?」
「いや、そんなに?払えば落ちるよ。心配してくれてありがとう」
「……いいえ」
「イチャイチャしてんなぁ」
してませんけど?高倉くんにはそう見えるってこと?
「写真は?良いの撮れた?」
「うん!めっちゃいいよ。周回しなくてよさそう」
しゅうかい?なんの話だ?いつものあたしが理解できない単語かな?スルーしとくか。
「一応、待ち合わせから1時間以上経ってはいるんだけど、花火って明るい時間にするもの?」
「そりゃ、暗くなってからでしょ。燃えてるのがはっきり見えるくらい」
「今3時だよ?あと3時間くらい待つわけ?」
高倉くんに言うにはちょっと強い言い方だったかな。藤くんと話しているテンションで話しちゃう。気をつけなきゃ。
「コンビニでお菓子でも買えばよかったねー」
「ていうか、どうやって火つけるつもりだった?」
「あ」
「家にライターはあるけど、借りれるかな?」
普通に話してる。高校生になったら、ちょっと強いくらいのことは気にしなくなるのかな?学校が変わっただけなのに?1年経つだけで、大人になれるもの?あたしが大人じゃないのに?あたしはかわいくないのに。
「かじわら!」
「え、ごめん。なに?」
話聞いてなかった。人前で考えるのはダメだって、学習しろよ、あたし。
「お城撮ったら、あっちの港まで行こうよ。で、ここに戻ってきてお菓子食べながら夕方まで待つってどお?」
「……いいと、思う」
「よっしゃ!城撮るのになんか手伝いいる?」
「エモい角度を見つけたいんだよ。バケツ入っててもおけ」
「エモい……?」
エモいってなんだ?




