第35話 知ってみたくなったJK
心がわかるDKとわからないJK
第3章 夏休み~文化祭後
第35話 知ってみたくなったJK
「あった」
「よっしゃ!」
全力で自転車を走らせ、目当ての場所にたどり着いた。ここは、釣具店だ。店に入ったことはないし、あたしの周りに釣りが好きな人はいない。品ぞろえを想像して、ここならバケツがあるかもしれないと、あたりをつけてみた。
「やば!マジであるじゃん!」
「この大きさでいいかな?」
「充分じゃね?マジ助かったよ、柏原ちゃん」
「いえ、そんな」
勢いに流されたはいいけど、高倉くんと2人になってしまった。早く買って他の2人合流したいな。でも全力で自転車走らせたくない。疲れる。体力ない。
「現金あるー?」
「ある。割り勘する?」
「そーしよ。ていうか、支払いが現金とカードだから、現金しかないわ」
「これだから地域密着型は」
コンビニや大手のチェーン店だったら色んな支払い方法を選べるし、財布にジャラジャラ小銭が入っている状況は好きではない。いざと言うときのために少し現金はある。出番はない方がいいけど。
「ありやとーございましあー」
ガキ2人に丁寧な接客なんてしないよね。すみません。このバケツが欲しかっただけなので、すぐ帰ります。
「はあ、流石に疲れるな」
「高倉くんでも?」
「そりゃ、頑張ったからね」
「思い付きに巻き込んでごめんなさい」
「いいよ。花火提案したの、俺だし」
それもそうか。じゃあ、おあいこってやつ?
「俺の自転車かごないから、任せていい?」
「うん。それくらいは全然」
バケツを預かり、自転車のかごにいれる。高倉くんの自転車にはかごがない。よく登校でカバンを落とさないで走れるな。
「帰りはゆっくり行こうよ」
「うん」
ゆっくりなのは別にいいけど、道中なにか話した方がいいのかな。
「あいつには聞かれたくないことあるし、そっちもなんかある?」
「え。いや、あたしは特に」
藤くんに聞かれたくないこと?高倉くんは藤くんの交友関係の中でも一番仲が良いんじゃないの?あれだけ話せないことに悩んでいたし、高倉くんも藤くんのことを信用しているように見えたのに。
「そ。じゃあ聞いてよ」
そういって自転車にまたいで、すぐにでも出発できる姿勢になった。
なんだろう?聞かれたくないこと?
近くの信号まで走り、青になるまで待つ間に話が始まった。
「俺びっくりしたんだよ。あいつって、あんなに爆笑するんだぁって」
「爆笑?……高倉くんと八乙女ちゃんが調べてくれているとき?」
「それ」
あたしと藤くんで、気を遣われているだの、イチャつくなら友達の前でやるなだの、話してた時だよね。確かに藤くんは笑ってたけど、今更なんで?
「藤くん、笑わないの?」
「あそこまで爆笑はしないってこと。冗談抜きで初めて見た」
「え?」
声が大きいわけでもないし、リアクションも大きいわけじゃない。ただここ1カ月くらいは、藤くんが笑っていることは多い。笑いを抑えようとして肩が震えていたりすることはあった。そういうこと、高倉くんの前ではないの?あたしより付き合い長いでしょ?
「あいつ、よく笑うの?」
「それなりに?」
藤くんが爆笑した瞬間に、八乙女ちゃんも高倉くんもこっちを振り向いて驚いていたけど、いきなり笑い出した人がいるって驚きじゃなくて、藤くんが爆笑しているという事実に驚いていたのか。
「まったく笑わないわけじゃないけどさ、なんかこう。常に小さくしか動かないっていうか、なんて言えばいいのか、わかんねぇな」
「……感情の振れ幅が狭い、みたいな?」
「それ!え、言語化うますぎない?やっぱ、頭の中みえてるでしょ?」
「何も視えてません」
そうだった。高倉くんはこの話知ってる人だった。藤くんからも聞いてたのに、忘れてた。
「それで、マイナスにもならないんだけど、めっちゃ喜んでるなっていうのも見たことないからさ、マジでびっくりした」
「たぶんだけど、藤くんのツボが変なんだと思う」
「へぇ、例えば?」
「……あたしが何かやらかすと笑う」
細かいことは言えないけど、大まかに言えばそうなんだろうな。高倉くんには作戦のこと言えないから、どう隠そうか。
「なにしたの?」
「えっと、こっちの事情だけで判断しちゃったから謝った時とか、相談されて考えてるから藤くんのこと放置しちゃったときとか」
信号が青になった。べダルに足を置いて走り出す。
「別にやらかしてなくね?てか笑うとこじゃなくね?」
「ほんとに分からないの。なにか知らない?」
「えー?知ってることー?」
知らなそうだな。仲が良さそうな割には、あんまり込み入った話はしてなさそう。まあ、藤くんの場合、バレたくないっていう条件があるから、ハードル高いのかもな。
「知らないなー。あ、でも」
「でも?」
「頭が良い子が好きって言ってた」
「え?」
いきなり何の話?藤くんが好きなタイプのこと?
「それがツボに繋がってるんじゃねってこと」
「……頭が、良い?」
学力のこと?それとも頭の回転が速いってこと?前に藤くんから、頭が良い人って言われた気がするな。でもあれは、自分と比べた相対的な意見としてってことだし、あたしが頭が良いから、相談先として選んだ訳でもないだろうしな。あのときは藤くんが天然なだけだと結論も出したから、ツボの話とは違う気もする。
「そういう意味じゃ、柏原ちゃんって当てはまってるよね」
「なんの話?」
「かずの好きなタイプ」
「……ん?」
「頭が良い子」
高倉くんもそういう感想なんだ。あたし、頭が良い行動したか?
「わ、わかんない」
「なんで付き合ってんの?」
「……ガツガツこないから?」
「どうやって付き合い始めたんだよ」
なんでだろうね。
「藤くんが原因?」
「ガツガツ行かないかずが原因で、付き合い始めた?マジ?」
「マジ」
高倉くんの自転車が遅くなった。ちょうど自転車一つ分の距離を先に走っていたのに、半分くらいに近づいた。
「あでも、かずから告りはしたんだ?」
「告?きっかけはそうかも?」
「付き合い始めるきっかけというのが告白じゃない?」
そうです。仰る通りです。
「ガツガツ来ないかずがいいと思ってるけど、きっかけはかずで、告白はしてない?どいうこと?」
「改めて言われると不思議だね。でも、全部事実なんだよ、ね」
嘘は言ってない。神様に誓います。普段信じてないけど、こっちの都合で信じます。
「柏原ちゃんってさ」
「なんでしょうか」
「中間のときにかずと何話したか教えてくれる?」
「……初めて藤くんと1対1で喋ったときのことを知りたいの?」
「そーいうこと」
絶対に話せない。内容は話せない。でも高倉くんは、あたしと藤くんが話したことを知っている。これを覆すことはできないから、話した内容とどう隠していけばいいのかを考えなきゃ。今日の撮影が終わったら藤くんにも共有しないとな。
「藤くんに聞いたの?」
「いーや、ごまかしてきやがった」
「じゃあ言えない。藤くんが言いたくないなら、あたしは言わない」
「初対面の女子に何話してんだよ、あいつ」
本当にそう。とんでもないことを言ってきたよ。まだ16年しか生きてないけど、あれは一生忘れられない出来事に入るだろうな。
「ダメかぁ。あいつ口割らなそうだから、柏原ちゃんから聞けないかなーとか思ってたのに」
「今日来てくれた理由それ?」
「60パーくらい」
「……課題を写したい以外に何かある?」
「はははっ。いいよ、柏原ちゃんがそこまでしなくていいって」
元をたどれば、藤くんが高倉くんに大切なことを言えないから。それをあたしがどうにかしなくていいという意味なんだろうけど、あたしだって話してほしくないから、なにかする価値があると思ったんだよ。でもこれ以上やってもしつこいだけだろうな。
「待って、あげてくれない?」
「え」
「藤くんは、嘘をつきたいとか、人を騙したいみたいなことはあまり考えないと思う」
「……」
高倉くんもそのあたりは分かってるのかな。あたしより知っていることもあるだろうし、男子同士でしか話せないこともあるだろうし。
「複雑だな」
「なにが?」
「俺と同じ結論を、柏原ちゃんが出すんだって」
「……待つつもりだったけど、あたしから聞けるならそれでも良かったってこと?」
「そう。みえてんじゃん」
視えません。高倉くんは後ろにいるあたしの方を振り返らないで、真っすぐ前をみて自転車に乗っていてください。
「利用されない振る舞いしてごめんなさいね」
「いいよ。利用しようとしてる奴の方が悪いっしょ」
「……じゃあ、答えられないっていう返事でもいい質問をするね。これでチャラ」
「質問だけ聞くよ」
もしかしたら答えてくれるかも。中学から知ってるなら、高倉くんが知らない可能性は低い。でもプライベートであることには変わりないから、答えてくれるかは定かじゃない。
「藤くんって、中学のときカノジョいた?」
「いない」
「答えてくれるんだ」
「それくらいはいいよ。今カノだったら気になるじゃん」
気になるものなのか?分からない。
「あいつ、好きになった子がかずじゃない奴好きだったとか、カノジョが欲しいから付き合うのは不誠実だ、とかで柏原ちゃんが初カノ。間違いなく」
「……へぇ」
「だから、かずがきっかけってのも正直びっくりしたわけ。ガツガツいかないからさ」
てっきり1人くらいいるものだと思ってた。じゃあ余計に、妙に優しくて、女子との付き合い方に慣れている雰囲気がある理由が分からない。ほんとに、あたしを大事にしたいってだけで、あれだけ優しくできるのか?どんな聖人だよ。
「なんか解決した?」
「謎が増えた」
「じゃあ、なおさらチャラでいいじゃーん」
あたしだけ疑問が解決した状況にならなかったのがお気に召しましたか。
元カノがいない件は、藤くんに共有しないでおこう。
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「難しいわ、城」
八乙女ちゃんが笑顔で、城の建設に失敗したことを報告してきた。
その報告に違わない、ボコボコの砂の山ができていた。
「むずいわ」
「アニメで、自分の身長より大きいやつ作ってるのは、アニメだったからか」
買ってきたバケツの半分程度の高さに海水が確保されていて、砂の山の色も、砂浜と比べれば少し暗い色をしていた。水分を含ませて砂の塊を作っていたのか。
「かじわらはどおー?」
「藤くんが手伝ってくれたおかげで、それなりに。今度は八乙女ちゃんが撮ってきたら?」
「そうしよっかな。かじわらが作ってみる?」
「え、いや、自信ない。藤くんは?」
「作ったことないよ?」
あたしも作り方調べてみる?
「ていうか、歩き疲れてない?わりと時間たってるよ」
城を制作する八乙女ちゃんと高倉くん。砂浜を歩き回って撮影するあたしと藤くんに分かれて30分は超えた。1時間は経ってない。
「柏原さん、休憩したら?ずっとカメラかまえてたよ」
「アイスティー、飲んでなかった」
「熱中症きをつけよーぜ。八乙女ちゃん、日傘もとうか?」
「ついでに足のモデルもおねがいしまーす」
この2人仲良いな。見てるものの趣味が合ったのか。
「じゃ、ふたりとも」
「「え?」」
「引き続き、仲良くしろよ」
やっぱりこの組み合わせが気遣いの結果だったのか。そりゃ、カメラ役とアシスタントの組み合わせという合理的な理由ではあった。だが今の顔は明らかに、余計なこと考えてる顔だった。
一言文句を言おうか、この流れに乗った方が「所謂カレシカノジョ」なのか、思考している内に愉快犯たちは足早に去っていった。
「いい加減、文句の一つでも言うべき?」
「言ってもいいと思う。花火やるまでこのままってだいぶ辛い気がする」
「帰ってきたら言うか。きつめに」
「柏原さん、顔も声も怖い」
怖くもなる。仲を深めたいとか、イチャつきたいこと言ってないじゃん。ていうかイチャつきたいからってお願いしてくる友達なんて面倒この上ないでしょ?
「一番話しやすい人を選んだつもりだけど、ぼくたち、人選間違えたのかな?」
「……それより気になることがあるんだけど」
「お、おれですか」
「バケツ買って合流してから、なんか隠してるよね?」




