第34話 視線は遮れないDK
心がわかるDKとわからないJK
第3章 夏休み~文化祭後
第34話 視線は遮れないDK
さすがに1つの日傘に4人が入るのは色んな意味で苦しかったので、男子と女子で歩いていくことになった。後ろでは女子2人が日傘の中で撮影について話し合っている。
「かず」
「ん?」
「柏原ちゃんって、あんなに声出すんだな」
さっきのおれが笑ったときのことだよな?そんなに大声だったか?
「自転車置き場でちょっと話したときは、ちゃんと怒るタイプなんだって思ったけど」
ちゃんと怒るタイプなんだ、てなんだ?柏原さんはちゃんと指摘してくるし、驚いたら声に出るよな?黙ってるときって、おれに飽きれてるときだよな?
「中間のときとか、合コンのときは愛想笑いてほどでもないけど、少し笑ってるイメージがあったんだよ」
「……あ」
そっか。おれが早々に変なこと頼んだから、愛想笑いする相手として認識されてないんだった!?
「なに」
「……」
「え、お前なんかした?」
「……なんか、したかも」
「はあ?」
あれだ。おれが視えること話すまでは、それなりに取り繕ってくれてたんだ。会ったその日からもう、柏原さんはおれに愛想なんてないから、怒ってたり飽きれてるイメージが強すぎて、たかとか他の人には笑うってこと忘れたんだ。
合コンのときって、柏原さん笑ってたっけ?思い出せない。
「かずって百面相する奴だったか?」
「どういうタイプだよ」
「表情が賑やかすぎて落ち着けって意味」
「おまえが諭すなよ……」
たかに諭されるって、今おれの顔どうなってんだ。
「コンビニ着いたぞ。早く顔戻せよ」
「……お面かなにかか?」
自動ドアを通過したら、寒いと感じるほど冷えた空気が纏わりついた。落ち着こう。
「バケツなんて売ってる?」
「コンビニだしあるんじゃない?」
「海の近くのコンビニだしさ」
「2人ともてきとーすぎるよ。……どこにあるって?」
入り口付近には見当たらない。棚は、家の近所にあるものとそう変わらない品ぞろえだ。
「……ないな」
「コンビニだからってなんでも売ってるわけじゃないでしょ。ほら、飲み物は買おうよ」
たかは諦めずに探してる。柏原さんはまっすぐ冷たい飲み物のところまで歩いていく。八乙女さんは柏原さんについて行ってるけど、キョロキョロしてるな。
「たか、諦めろ」
「花火売ってる!」
お目当てはバケツじゃないのか?
「え、女子―!花火やらない?」
「いいじゃん!映えそー」
「昼間にやるの?」
「夕方まで待てばいいんじゃね?」
たかと八乙女さんはやる気だな。柏原さんは……腕組んでるから考えてるのかな。
「安全対策、火消しの水は?」
「そりゃ、バケツに水組んで……あ」
「海?」
「環境破壊しないで」
いつもの柏原さんだ。冷静で、はっきり言ってくれて、こうしてる間も色んなことを考えているんだろうな。
「……藤くん、なに?」
「うん?」
「なんでこっち見てるの?」
「へ!?」
そんなに見てた?
「カレシさんは、カノジョさんに賛成ですかー?」
「カノジョの顔はずっと見てたいんですか?」
「違う、そうじゃない!」
恥ずかしい。見惚れてたとかじゃないんだよ。感心してた?安心してたって言うべき?
「藤くんは花火に賛成?」
「きれいな写真は撮れそうだよね」
「……」
また腕組んでる。きれいな写真は撮りたいのかな。
「みんなを長時間拘束する気はなかったし、今から夕方までって相当待つよ?」
「案外あっという間じゃない?撮影してると、時間忘れるしね」
「はいはい。そうですね」
あれ。今、八乙女さんが柏原さんのこといじった?撮影に集中して、時間を忘れたことでもあったのかな?
「花火やる?」
「やろうよ!せっかくアシスタントするんだし、俺たちがやるから、カメラに集中してもらっていいしさ!」
「……じゃあ、2手に分かれよう。自転車で来た人は?」
全員が低めに手を挙げた。
「あたしだけで行くか。日傘は預けて、あとは」
「柏原さん、バケツ売ってるところに心当たりがあるの?」
「確証がない。もしかしたらってやつ」
「それは、徒歩より自転車を使った方がいいくらい遠いんだね?」
「うん。ここで飲み物と花火を買うグループと、バケツがありそうなところに行く人で分かれた方がいい」
これは、柏原さん1人でバケツを探しに行こうとしてるな。ついて行った方がいいかな。でも、おれがこのあたりに詳しくないし。そうだ。
「たかなら速く行けると思う」
「は?」
「こいつ、登下校するだけなのにかっこつけてちょっといい自転車使ってんだよ。たかの方が海に来ること多いし、なんとなくの場所を言ってあげたらすぐに行けるよ」
「できるの?高倉くん」
「ま、まあ?女子よりは速く行けるかもしれないけど」
運動部のたかと、写真部の柏原さんだったら、体力的にたかが勝つ。任せればいいんじゃないかな。
「じゃ、自転車のとこまでダッシュ」
「のみもんは!?」
「おれが買っておく。花火も」
「……柏原ちゃん、目的地は?」
「え、えっと、あっちの屋外ホールの方向に。イベントとかやるスペースの」
前に行ったことあったような?あんまり覚えてないな。自信ない。
「おけ。一応柏原ちゃんも来て。無理に追いつかなくてもいいから」
「あ、うん」
「かず、炭酸ならなんでも」
「いつものな」
「八乙女ちゃん、アイスティーで。あと日傘使って!」
せわしなく2人がコンビニから出ていった。
「よし。これでいいか」
「へぇ」
左斜め後ろにいた八乙女さんの声だ。
「あ、えと、八乙女さんのこと、放置したわけじゃないんだけど」
「分かってるよ。あの場じゃ、私は活躍できないもん」
「ご、ご理解、ありがとう」
「ねえ」
これは、何か聞きたいことがあるときの声だ。いつもこの調子の声には警戒してしまう。バレてないか、何か言われるんじゃないかって。
「随分かじわらのこと理解してるんだね」
「……え?」
「テンポすごかったもん。かじわらがみんなの自転車の有無聞いただけで、あそこまで話進むんだって感心しちゃった」
八乙女さんは振り返って、飲み物がある方向に歩いていく。
「私、なんで自転車?って思ってたのに。この中じゃ、かじわらと付き合い長いの私だと思ってたんだけどな」
「付き合いが長いのは八乙女さんで間違いないと思うよ」
「そう?初めてみたよ。あんなかじわら」
あんなってなんだ?
八乙女さんはジュースを1本持った。
「かじわらって、アイスティー好きだよね」
「らしいね。家に紅茶が、いつもあるんだって」
「そっか。そうなんだ」
続いてアイスティーのペットボトルを持つ。あれと同じの、おれの家に来たときも持ってた気がする。
「自己紹介のときに言ってた合コンって、いつやったの?」
「夏休みの、最初のほう」
質問攻め。おれが頭の中が視える話ではなさそう。でも明らかに、柏原さんに関わることを聞いてくる。
「じゃあ2週間は経ってるのか。あ、藤くんも飲み物取りな」
「うん」
たかがいつも飲む炭酸と、おれも炭酸にしようかな。あ、花火取るの忘れてた。
「会計しちゃお。袋一緒にできるかな」
「うん。花火、取ってくるね」
「よろしくー」
なんだろう。詰め寄られてるっていうのかな。なにか気づいてるんだろうけど、なにに気づいたんだろう。おれのことではなさそう。柏原さんのことを聞いてくるのが引っかかる。
花火をとって、レジに行こう。
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「ごめんね、日傘に入ってるのがカノジョじゃなくて」
「大丈夫。日傘がどんなものなのか、気になってたし」
飲み物も花火も買えた。コンビニを出れば直射日光が強くて、隣で日傘を開いた八乙女さんが手招きした。柏原さんが試してみればいいと言っていたから、入ってみたけど。
「でさ」
「はい?」
「続きなんだけどさ」
「ん?」
なんの続きだろう。
「体育祭くらいから知り合いだったでしょ」
「はい!?」
どうして。体育祭?合コンのときに仲良くなったのは嘘だって話かな。そっか。八乙女さんは、いつからぼくたちが知り合いだったのかが気になってるんだ!
「体育祭、ですか」
「うん。藤くんって、最後のリレーに出てたでしょ」
「は、はい」
覚えてるんだ?同じクラスじゃないから、軍も違う。自分の軍じゃないのに、リレーの選手を覚えていたなんてこと、あるのか?
「かっこいい写真だった、てのもあるし、なにより、かじわらが撮ったんだもん」
「……あ」
あれだ!柏原さんが撮ってすごく謝ってきたあの写真だ!高校の玄関で声かけてきたし、印象的だったのか。そっか。なるほど。
「ああ、うん。教えてもらったよ。偶然撮れたって」
「偶然ねぇ」
怪しまれてる。
「撮れたのが偶然なのは別にいいんだよ」
「いいんだ?」
「うん。だって、体育祭より前にかじわらのこと知ってたでしょ」
これは、完全にバレてる。一応、合コンをきっかけに付き合い始めたことになってるし、実際にそうなんだけど、八乙女さんはずっと「知り合いになった時期」を聞いてくるから、合コンをきっかけに、て言っちゃうと嘘になる。今この場に柏原さんがいれば、どうにかなるかもしれないのに!
「……隣のクラスだし、名前くらいは」
「そういうのじゃなくて」
「本当にそうだよ。主に女子がさ、柏原さんのこと話してた時があったんだよ」
「なにそれ」
知らないのか?坂下さんが言いふらしていた「考えていることが分かる女子」の話。女子なら知ってるって思ってた。
「春ぐらいに、すごい子がいるって、それでなんとなく名前を聞いたことがあった」
「え、なにそれ。マジで知らない」
「そうなの?2組の女子も話してたのに?」
「あれじゃない?3組と4組は階が違うから、そもそも聞こえてないとか?」
そっか。棟は同じだけど、1組と2組が3階、3組と4組が2階だから、話し声すら聞こえないんだ。それで知らなかったのか。写真部の1年生って1組は柏原さんだけなのかな。他の人が2階にあるクラスの人だとしたら、噂話を聞いたことがない人で構成されるんだ!
「そっか。聞いたことないな。どんな噂?」
「えっと、あんまり本人が嬉しくないらしくて、今話すのもちょっと」
「ふーん。嬉しくない、ね」
よかった。これ以上の追求は避けられたかな。柏原さんが「考えていることが分かる」のは不思議な力でもないし、ネタにされるのも好きじゃなさそうだし。知らないところで自分の話をされるのも好きじゃなさそうだしな。勝手に話すのは気が引ける。
「かじわらには言わないって約束するから、教えてよ」
「え!?でも、うーん」
「それ答えてくれたら、これ以上知り合いになったのはいつ?て聞かない。どお?」
交渉してきた!?すごく乗りたい。でも、柏原さんのことを勝手に話すのはどうなんだろ。でも、知り合いになった時期については誤魔化しておきたい。でも、でも、でも!
「……本当にこれ以上の質問は、ないですか」
「うん。約束する」
とても美味しい話だ。……ごめん、柏原さん。
「本当に言わないでね」
「うん!」
「……柏原さんの友達が悩んでることあって、悩みていうのが、プレゼントで何が欲しいか分からないってやつで、柏原さんが相手が喜ぶプレゼントを提案したら、見事に喜んだんだって。それで、柏原さんが」
「うん」
「……相手のこと、人が考えていることが分かるって、噂になってた」
これは春ごろに本当に聞いた話。廊下で話している女子の声が聞こえた。これが聞こえなかったら、今頃ぼくは、一人で悩んでいたんだろうな。
「マジで知らない話だった。ありがと」
「どう、いたしまして」
「大丈夫だよー、言わないから」
「お願いします」
自分を守るために、柏原さんを盾にしちゃった。本当にごめんなさい!
「罪悪感に押しつぶされてるって感じの顔だね」
「本当にその通りです」
「ふふ、かじわらは良い人と付き合ってるね」
「え?」
今ここでぼくを褒めるの?
「いじわるしてごめん。かじわらって、何が好きなのか分かりにくいからさ」
「……柏原さんのこと、知りたかった?」
「うん。だって、私より知ってそうだったんだもん」
悪意はなかったってことかな。
「……柏原さんは」
「うん?」
「柏原さんは、八乙女さんのこと、信じてると思うよ」
「その心は?」
本当に思ってる。だって、
「八乙女さんの前でも、笑わないでしょ」
距離を空けておきたい人には愛想笑いをする。なのに、たかの前で眉間にしわを寄せることがある。そこまで気を遣わなくていいと判断したら、柏原さんは愛想笑いをしなくなるんだと思う。
「ちょっとむかついた」
「え?」
「八乙女さんの前でもー?藤くんの前だと笑わないのがデフォなんですかー?」
「……そうかも」
愛想笑いされてた時間が短すぎる。信頼されてるんじゃなくて、単に隠す必要がないと判断されただけだと思う。
「あーあ、爆発しろ」
「なにが?」
「かっこいいカレシ」




