第33話 日差しに刺される高校生たち
心がわかるDKとわからないJK
第3章 夏休み~文化祭後
第33話 日差しに刺される高校生たち
ミンミン鳴くセミ。子供の笑い声。たまに車からピーッて音がなる。極めつけは、
「日差しってさ、ジリジリだよね」
「何の話?」
「かじわらが大きい日傘持って来なかったら、焼肉にされてたよなって」
「……日焼けなんだから、表面は焼かれてるんじゃない?」
「実際そうらしいよね」
ジリジリ、グサグサ、日光に音はないはずなのに痛々しい擬音が思い浮かぶ。
「待ち合わせ、ここだよね?」
「そのはずなんだけど」
「確認してくれー、傘もつ」
「はい」
カバンからスマホを取り出して、メッセージの履歴を確認する。
「……ワンチャンあるな」
「なにに?」
「こっちの伝え方がマズかったかもしれない。他に思い当たる場所があるからそこに行こう。砂浜歩くよ」
「お、はーい」
あたしの勘違いだったとしても、少し歩けば分かる。人がいることくらいは分かると思う。砂浜の入り口と、今思っている場所は高低差があるし、向こうも探してるかも。
「かじわらって、ここよく来るの?」
「まあ。天気が良くて、家じゃない他のところに行きたくなったときは」
「私は微妙に距離あるんだよね。でも、写真撮るにはいいとこだよね」
「そう思って、今日ここにしたんだけど……あ」
予想的中しちゃった。
「いた」
「どこー?」
「あの、なんていうの?簡易的な屋根とベンチがあるとこ」
「あれか。……たしかに2人いるね」
「あそこまで歩くよ」
いつも話し合いする場所にいるな。近寄らない方がいいと思って、この海水浴場の入り口にある屋根付きの場所を指定したんだけど、「屋根付き」ってとこで勘違いさせたのかもな。
「傘持ってもらったままでもいい?」
「ぜんぜんいいよ」
片手が空いた。急な高さの石階段を慣れたリズムで下りて、できる限りの高さで手を振る。伝われ!大声出したくないから、動きで伝われ!
「かじわら、動きかわいい」
「なんで八乙女ちゃんもはぎの先輩みたいになってるの」
「せんぱいそうなの?」
「ぬいぐるみでも見てるような、ペットを愛でるときみたいな」
はぎの先輩と八乙女ちゃんの「かわいい」は違うものではある気がするけど、「かわいい」と言われても困る。どんなリアクションとればいいんだろうって。
藤くんはあたしを「かわいい」と言わないから、そのあたりは楽。
「かじわらはぬいぐるみじゃなくて、かじわらがかわいいことするからね」
「嬉しくない」
高くあげていた手をゆっくり下ろす。また「かわいい」なんて言われたくないけど、向こうには早く気づいてほしい。
「ね、来てるよ」
「なにが」
「目的の屋根から一人くるよ」
「え?」
八乙女ちゃんの「かわいい」に返事をするために、階段を下り慣れてない八乙女ちゃんを見守るために後ろを向いていたから気づかなかった。
「柏原さん!待ち合わせ場所間違えちゃってごめん!」
「……だい、じょうぶ。藤くん」
「説明みて、いつもの場所かと思い込んじゃって」
「あ、だいじょう、ぶ」
「どうする?場所変える?」
甲斐甲斐しい。気遣っているのは分かるんだけど、背後から視線を感じる。八乙女ちゃん、気になってるんだろけど、ちょっと待って。
「ちょっと」
「はい」
小声にしよう。意味ないかもしれないけど。
「いつもの場所って言わない方がよかったと思って」
「え?分かりやすくていいんじゃない?」
なんでそっちは声の大きさを普通にしてるんだ?
「バレないように」
「……バラしてもいい人を呼んだんじゃないの?」
「そうだけど!」
結局あたしの声も大きくなってしまった。
「あんま、あたしが海に来ることは、言いふらしたくなかっただけ」
「それは、ごめんなさい」
「もういいです。説明したのはあたしだし、全面的にあたしが原因です。落ち込まないで」
「はい」
坂下ちゃんは花が萎れる感じだけど、藤くんは犬かな。忠犬寄りの犬。
「向こう行くよ。先に高倉くんのこと行きな」
「はい」
サンダル履いてる。いつも制服でここに来てたし、ローファーで砂浜を歩かせてたのは酷かったかな。あたしは気にしないから、考えたことなかった。
「かじわら!」
「なに?」
「あの人がカレシ?」
「ノーコメント」
八乙女ちゃんが階段を降り切ったので、持ってもらっていた日傘を受け取る。
「いい人じゃーん」
「カレシなのは確定なのね」
「だって、あんな感じで男子と喋ってるイメージないよ?」
実際あまり喋らない。必要以上は関わらない。席が近いとか、グループで作業するときくらいしか喋らない。
「……あれ?」
「……早く行くよ」
これ気づかれたか?八乙女ちゃんに話すことで壁があるとするなら、藤くんが「あのリレー選手」であると気づかれること。写真を撮った時点ではほんとにカレシじゃないかった。「体育祭のときから好きだったんだー」くらいのことは言われそうだけど、残念ながら現在進行形で好きじゃない。
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「まず自己紹介させて。あたしは柏原壱華。1組。こっちは同じ写真部の八乙女ちゃん」
「どーも。八乙女実です。4組です」
「どーりで見たことないわけだ」
結局「いつもの場所」に集まることになった。
「1組の人?」
「俺ら2組。高倉善豊。テニス部」
「藤和葉です。サッカー部。それと、おれがカレシです」
あ、階段下りてすぐの会話、聞こえてたんだな。隠すつもりがないことは共有済みだったし、あたしにカレシがいるという情報しか言ってないから、今日紹介する形になるかもと事前に連絡しておいて正解だった。
「かじわら何?塩顔すきなの?」
「しお?」
「こう、さっぱりしてるっていうか、優しい感じっていうか」
顔の特徴ごとに名称があるのは知ってる。でも毎回なにがいいんだろうという感想で終わってしまう。系統が違うくらいは分かるけど、それが良いみたいなものは分からない。
好きな顔って聞かれても困るんだよな。
「パッとしないってよ」
「はいはい」
「けなしてないよ!無害そうっていうか、一番好感度高そうじゃない?」
初対面だよね?この2人と1人。運動部と元運動部ってやっぱ陽キャなんだな。
「見た目で選んだわけじゃないよ」
「そうなんだぁ」
「ニヤニヤしないで」
ほんとに見た目で選んでないだけなんだよ。利害の一致なんだよ。
「ねぇねぇ、あのさ」
「質問よくない?さっさと撮影をさ」
「気になるじゃん。でも最後にするから!どうやって出会ったの?」
「結局は合コンじゃねえの?」
「かじわら、合コンしたの!?」
今日一番の大声を浴びた。はい、合コンしました。
「友達に誘われて。ほら、あの、応援団だった子」
「あぁ、あの可愛い子ね。杏南ちゃんだよね」
「俺もいたんだけどさ、正直いって、数合わせ同士で意気投合ってパターンだよ」
「ま、はい」
「へぇ」
「ニヤニヤしないで」
そういうことにしておこう。ここが「いつもの場所」になっていることはどう辻褄を合わせようか。いや、無駄に喋らない方がいいか。
あたしと同じく、どうしていいか分からない様子の藤くんが口を開いた。
「あ、あの。今日って何すればいいの?」
「えっと、写真部で課題があって。最低3枚写真を提出することになってるの。主に文化祭で飾る作品として使うものなんだけど、その課題の協力をしてほしい」
「俺らが撮られるわけ?」
「顔を乗せることはないと思う。綺麗な場所を見つけたとか、ちょっと後ろ姿だけ貸してほしいとか。被写体ってよりはきれいに写真を撮るためのアシスタントって感じ」
元々は、八乙女ちゃんと2人でやる予定だった。でも、砂のお城を作れる人とか、日傘を持っていたいとか、他に人がいたらいいのになと話していた。
そこに、あたしの誕生日を逃したと思っている藤くんからの提案。
我ながら、この2つを繋げたのは頭が回った方だと思う。
「俺は、別に撮られてもいいけど」
「部内にまでカレシだのどうのを持ち込む気がないだけ。あと高倉くんに関しては、何かお礼する」
「いいの?課題写させて」
「もしかして、まだやってない感じー?」
お盆ですけど?今月末までが夏休みですけど?
「こいつ、3日前にならないとやる気出さないから」
「わかるー。私も1週間前くらいで焦りだすけど、他のことしたくなるんだよね」
「今までの経験上、3日でなんとかなる」
ギリギリだったて言う人いるよね。冗談の人もいるし、ほんとなんだろうなって人も中学にはいたけど、こういう感じでいたんだ。大丈夫かな?
「夏休み終わるまであと2週間きったけど、大丈夫?」
「いいのいいの。で、課題はOK?」
「いいよ。藤くん経由で渡せばいい?」
「おねがいしまーす」
高倉くんへのフォローも完了。あとは撮影に集中しちゃえばいい。なにから始めよう。
「柏原さん」
「はい?」
「カメラ使うってことは、日傘持ってほしいってこと?カメラで両手ふさがるよね?」
「……はい」
視てないよな?
「それ!お願いしようとしてたんだよー!大きいから入ってもらっても大丈夫だし、休憩場所にしよって、かじわらと話してたんだよね」
「女子は大変だな。こういうときまで白くしなきゃいけないなんて」
「「え?」」
あたしと八乙女ちゃんがハモった。
「「え?」」
次は藤くんと高倉くんがハモった。
「え、日傘って、日焼けしたくないからじゃねえの?」
「それもあるけど、私はそこまで気にしてない。多少の日焼けは仕方ないかなって」
「じゃあなんで?」
「「暑いから」」
あたしと八乙女ちゃんで、日傘に対しての考え方がほとんど同じであることが証明された。
「直射日光を遮るだけでも気分いいよ。ここ海だから、風もあって蒸し暑さみたいなのも少ないし」
「……日陰を持ち歩いてるってこと?」
「それ!いいね。今度からそう言おっと」
八乙女ちゃんは藤くんの言葉遣いをいたく気に入ったようだ。
「日傘持ってくれてるときに入ってみればいいよ。うちの傘大きいから」
「柏原ちゃんのなんだ」
あれ?高倉くんって、あたしのこと苗字呼びだったっけ?
「うん。撮影中はどちらかが持ってくれたら嬉しいかな。でも、まずは何からしようか。準備もしてないし、いきなり始めても」
「撮りたいものはある?」
「波打ち際ってやつ、光がいい感じで反射してる海、遊んでる人、あ、顔は写らないやつ。あと砂の城?」
昨日話していた内容はそんなところだ。一応メッセージを見返したが、抜けはないはず。
「砂の城か。かず、作ったことある?」
「ない。たかも」
「ない」
「私もない」
「……全員作ったことないのか」
この中で海に来た回数はあたしが多いのだろうか。藤くんはイベントで来るくらいと言っていたし、砂浜で遊ぶことはしてなさそう。高倉くんも同じか?この3人は引っ越しとかを経験していないと仮定して、子供のころにこの海で遊んだとかもないのか。
「とりま、てきとうに作ってみる?」
「高く積んで穴開けようよ!やってみたい!」
八乙女ちゃんはカメラ役だけど、作る側に回るつもり?
「海イベだと定番だけど、どうやって作るんだろ」
「アニメだとスコップとか使ってるよね」
「え、八乙女ちゃんってアニメ見る人?」
「うん。なんでも見るよ。高倉くんも?」
あ、この2人は話合うのか。オタクを自称している八乙女ちゃんと、なんか、ラノベ読んでるんだよね、高倉くんは。
「あの2人、話合うのかな」
「分からない。高倉くんも、八乙女ちゃんもどういうものが好きかは知らないし」
「え、同じ部活なんだよね?」
「色々話してるし、たまにほんとに分からない単語使ってて、右から左で垂れ流してる」
高倉くんと八乙女ちゃんはスマホで何か調べながら喋ってる。
「ぼ、おれもそんな感じ」
「話聞くだけ?」
「うん。感想は言う。でも、あいつの熱意ていうか、テンションにはついていけないかな」
「初対面だからちょっと心配してたけど、八乙女ちゃんはなんとかなりそうだね」
「たかも大丈夫だと思う」
少し話し声が聞こえた。砂のお城をどうやって作るのか調べてる。あたしも調べたほうがいいかな。
「柏原さん」
「なに?」
「あの2人に気を遣われてるよね?」
「……あぁ」
あたしたちが付き合ってるから、2人の時間を作ろうとしてるのか。それで八乙女ちゃんが高倉くんに声をかけてるんだ。友達のカレシがどんな人か気になる気持ちを抑えて喋ってるんだ。
「しなくていい気遣いだな。どうしよう」
「困るよね。でも、おれたちから何か言っても効果なさそう」
「それなんだよな。友達の前でイチャつく頭空っぽとでも思われてるなら腹が立つけど」
「くっ」
え?笑うとこあった?
「く、くく」
「ちょ、なんで笑うの」
「だって、あたま、からっぽって、くく、あはははは」
出た。最近多い、謎の笑いが出た!高倉くんもこっち振り向いて驚いてるよ!?
「嫌そうだよね、そう思われるの。ははは」
「嫌ですがなにか?」
「ごめん、ちょっと、おもしろい」
「なにがおもしろいのか教えて!」
「イチャついてんじゃないぞー」
してません!思わず八乙女ちゃんを睨んでしまった。許して。
「お話いいですかー?」
「は、はい。なんでしょうか、八乙女ちゃん」
「城作るのに、バケツとか、水を運べるものが必要っぽいんだよね。あと、飲み物ほしいからコンビニ行かない?」
「あっちにあるから行かね?って話してたんだけど」
「い、いいね。そうしよっか」
ちゃんと話し合ってた。気遣いであることも含んでるんだろうけど、思ってたよりちゃんと計画してた。コンビニね。わかった。
「藤くん、動くよ」
「うん。だいじょうぶです、はい」
まだ笑ってるけど?
「はい行こー」
「かず、行くぞ」




