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心がわかるDKとわからないJK  作者: 碌寺紫葛
第3章 夏休み~文化祭後

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第32話 ラブコメの常識なんてない高校生

心がわかるDKとわからないJK

第3章 夏休み~文化祭後

第32話 ラブコメの常識なんてない高校生

「おまたせ」

「うん。……つけないの?」

「うーん。どうしよ」


 選び抜いて買って、小さな紙袋に入れてもらった。今つけられるものではあるけど、どうしようかな。たしか、小さい鏡ならあったはずだけど、あれ?どこにあったっけ?


「鏡とかある?」

「一応、手鏡は。でも、大きいやつでみたいな」

「じゃあ、トイレは?あそこにあるよ」

「待ってくれるの?」

「自分に似合うか、試したくない?」


 試したいけどさ、お昼ご飯のときも、さっき選んでるときも待たせちゃったし、そんなに時間をかける気はないけどさ、通知の確認も全部できないような短い時間だしさ……そんな短いなら、待たせてもいいのかな?


「……じゃ、じゃあ、いってきます」


 ニコニコしながら「いってらっしゃい」と言ってくれた。早く済まそう。トイレが混んでいないことを祈っていたけど、微妙に混んでいた。列はできていないけど、鏡の前にはズラッと人で埋まっている。こういうときの運はないんだよな。最悪ってわけじゃないけど、最高からはほど遠い感じ。早く戻りたいのに。


「お、おまたせ」

「はい。おぉ、似合ってる!」


 列ができているわけじゃなかったから、誰か1人が鏡の前から動くのを待つだけで済んだ。待っている間に紙袋を開けておき、タグがついていないか確認。1人が動いたらすばやく鏡の前に立ち、買ったアクセサリーを取り出す。子供の頃に遊びでつけた以来だから、似合っているかもよく分からない。正しくつけられたことを確認し、藤くんの元へ戻ったのが今である。


「ほんとに?耳元でなにかが揺れ続けるの、慣れない」

「いいね。きれいな石だし、派手すぎないから、使いやすいんじゃない?」

「一応誕生石を選んだ。緑茶みたいな色だよね」


 誉め言葉がスラスラ出てくる。元カノにも同じことをしていたんだろうか。

あたしが買ったのはイヤリング。大きすぎず、パワーストーンの主張が激しすぎない、そして学生のお小遣いでも買いやすいものを選んだ。


「へぇ。……あのさ」

「なに」

「柏原さんの誕生日っていつ?」

「8月3日」

「……え」


 お店の商品メモをそのまま鵜呑みにして、8月の誕生石がついているものを選んだ。石の効果に興味はないが、どの石が好きかと言われると何も答えられないので、誕生月だからという理由でこれにした。


「8月の誕生石てペリドットらしいよ」

「あ、あの」

「?」

「もう、誕生日過ぎてるんだ」

「うん。16歳になりました」


 合コンが終わってからというもの、あたしの誕生日を知っている人から遊びの誘いが増えた。祝ってくれる友達がいるのかと思えるようになったのが成長なのかな。でも、坂下ちゃんからの誘いが本当にしつこかった。向こうも合コンが終わって、次の遊びの目的が欲しかったんだろう。誕生日を過ぎたらとんでもない勢いのメッセージはどこかに消えた。それでいいんだけど、夏休み明け怖いな。でも、あの子と遊ぶ予定立てるの面倒。


「藤くん?どうしたの」

「えっと、ぼくに、誕生日で連絡した?」

「なにも」

「あ、そうでしたか」


 藤くんは知らないよね。話すこともなかったし、メッセージのプロフィールに書いてないし、聞かれない限り答えないよね。いきなり「自分の誕生日は~」なんて言うわけない。


「別に、カレシだからってお祝いする必要ってあるの?あたしたちって所謂カノジョカレシの常識が通用しないでしょ」

「カレシを抜きにしたって、お世話になってる人の誕生日はお祝いしたいよ!?」

「え、あ、そう?」


 そういうものか?誕生日を知ってるならお祝いしないと友達じゃない、みたいなノリは好きじゃない。それに、あたしがお祝いされたい気持ちがない。


「ぼくの誕生日知ってたら、なにかしようと思わない?」

「……覚えてたら?」

「ぼくはその機会すら与えられなかったんだよ。なにかさせてよ!」

「えぇ、急に言われてもなぁ」


 とっくに過ぎてるし、なにもされなかったからと言って怒るなんてこともしない。でも藤くんは、「なにかしたい気持ち」をどうにかしたいんだろうな。どうしたらいいんだ?


「な、なんかおごるとか。アクセ以外にあった候補のやつとか」

「お金あるの?」

「……来月分を前借すれば?」

「手持ちギリじゃん。いいよ」

「でも」


 律儀だな。別にいいのに。


「ほんとにいいんだって。今日こうやって出掛けただけで充分だよ」

「……いいの?」

「うん。こうやって買えたものもあるし」

「うん……。わかった」


 全然わかってなくてもおもしろ。律儀っていうか、いい人なんだな、根が。


「納得してなさすぎでしょ」

「そんな簡単に納得できないよ」

「……じゃあ、1つある」

「なに?」


 さっきまで顔のパーツが中央に寄ってたのに、急に明るくなった。ちょっと難しい提案なんだけどな。


「あたしのために時間をくれる?」

「……え?」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「発車まで、しばらくお待ちください」


 電車のアナウンス。ここが始発だから、5分前にはホームに電車が来ていた。乗り込んでみたら、他に誰もいない。ゆっくり対面の席に座れた。目の前で緑茶色の石が光る。


「なんか、遠出した意味あったような、なかったような」

「お互い収穫はあったんだし、よかったんじゃない?」

「そういうことにしておこう」


 サングラスは上手くいかなかったけど、お守りを買えたし、柏原さんの誕生日を知れたのはよかったかな。来年はちゃんとプレゼントを渡せるかな。

……来年は、柏原さんが、柏原さんを好きな人と付き合っているのかな。

 「好きな人できたらすぐ別れる関係じゃない?」

 「あたしの心配してくれるのは嬉しいけど、自分のことも考えときなよ」

 カノジョが欲しいとは思えない。自分のことを知りたい。柏原さんが目的の人を見つけるまでに分かるといいな。


「どうかした?」

「……ちょっと、考え事」

「作戦に関係ある?」

「微妙」


 あると言えばある。ないと言えばない。


「無理しないでいいよ。あたしがそういう状況だったら言わない」


 知ってる。カレシが欲しい理由を教えてくれなかったのも、同じことでしょ?実際に自分がそういう行動をしたから、今は無理強いしないんでしょ?


「じゃあ、言おうかな」

「へぇ。当てつけ?」

「かもね」


 大事なことを言わない柏原さんへの当てつけにもなる、けど、ぼくの場合は、ちゃんと伝えないと柏原さんが判断できない。だから言う。


「今、心配ごとがあってさ」

「うん」

「夏休みの間はないんだろうけど、柏原さんがちゃんとカレシを見つけたら、ぼくはどうしたらいいんだろうなって」


 話していても不思議じゃないように装うために、ぼくたちは付き合っている。

なら、柏原さんがぼくじゃない人と付き合い始めたら?柏原さんのことだから、ちゃんと方法を探すなり、解決策を考えてくれるんだろうけど、今こうやって話せる時間が減るのかなって思ったら、少し心配になった。自己中心的な心配。


「いや、止めないよ?だって、どちらも結果を得られないなら対等じゃないでしょ?」

「そうだけどさ、今ぼくたちが付き合っているのって、作戦のことを隠すカモフラージュ的な意味もあるんでしょ?」

「うん」

「だったら。柏原さんが今後付き合うかもしれないカレシから見たら、なんか親し気に話す男子って、最悪じゃない?」

「うん?……浮気を疑われるかもってこと?」


考えてなかったの!?


「浮気か。別に友達と話すくらいはいいじゃんって思うけど、トラブルは種であろうと避けておいた方がいいよね」

「な、納得してくれた?」

「うん。じゃあ、直接話すならちゃんと場所を考えないとね。それか、あたしの目的が達成される前に、藤くんの目的を達成させとく」

「時間かかるんじゃないの?」


 前に、最低でも半年はかけるって言ってたよね?あ、でも、想定より早く候補になりそうな人が見つかったから、最初に考えてたより早くなりそうってことかな。


「そもそも、文化祭あたりで事が動くと思ってたんだよ。候補が見つかるとかね。それが、実際にカレシなってもらう所までできるなら、区切りとしては想定内だよ」

「柏原さんって、参謀みたいな人だよね」

「さんぼう?」

「計画とか、全体の動きを見て指示する人。でもリーダーじゃない」

「……荷が重いな」


 リーダーじゃないってちゃんと言ってるのに、荷が重いんだ。目立ちたくないのかな。ちょっと分かる。


「あと、時間がかかると思ってた理由はまだあるよ」

「なに?」

「藤くんがここまで自分のことを話してくれるとは思ってなかった」

「……信じてなかったってこと?」

「平たく言えば?」


 さらっとすごいこと言ったな。目の前の人を信じてない、じゃない、信じてなかったって、はっきり言った。


「今は違うよ」

「そうなの?」

「信じられないくらい天然で、信じられないくらい行動力の使い方がおかしくて、妙に優しい」


褒められて、ないよな?


「えっと、つまり?」

「そんなに勘ぐらなくてもいいなら、藤くんの言ってることをそのまま考えればいい。だったらそこまで時間はかからないだろうって。最低半年は覚悟してるってやつは、本当に手間がかかって仕方ない状況での最低だから」

「うん。……うん。うん?」

「え?なんか疑問でも?」


 柏原さんが思っていた最悪より、現状は良いってことだよな?……ちょっと質問してみるか。


「妙に優しいってなに?」

「特に付き合い初めてから。こっちの要求は全部OKって言うし、自分勝手な発言になーんにも文句がない」

「自分勝手……?」

「はいはい。気づいてなかったんですね。天然ですもんね」


 飽きれた顔は窓を向いてしまった。頬杖ついて、ぼくと話すのを止めたくなったのかな。

……止めていいのかな?ここで柏原さんの思惑通りに喋らなくなったら、ぼくたちは協力関係でしかないってことかな?それでいいのかな。


「天然、なのは、どうにもできないよ」

「当たり前じゃん」

「だから、ちゃんと説明してくれないと分からない」

「……それで?」

「説明するのはいやだったらそれでもいいよ。でも話せなくなるくらい我慢させてるなら、その前に言ってほしい」


 柏原さんの目的を達成するため、それ以前に話ができなきゃ、ぼくのことも分からない。コミュニケーションに問題が起きれば、何もかも上手くいかなくなる。


「……そういうとこだよ」

「え?」

「妙に優しい」

「……ん?」


 優しい、だけなら分かるんだけど、なんで「妙に」って言葉があるんだろう?


「まあ、今のは作戦の心配があったんでしょ。答えておくと、我慢はしてない。でも、話さないことを選んでも、黙認できる関係がお互いのためじゃない?」

「それはそう、なんだけど」

「話したい部分だけ話せばいいってことだよ」

「そうじゃなくて!」


 この車両にいるのがぼくたちだけでよかった。


「いろんなことが上手くいくためにも、か、柏原さんの、モチベーションのためにも」

「なんであたしなの?自分のことは?」


 窓を向いていた顔が戻ってきた。話してくれるんだ。


「この話を持ち掛けたのは、ぼくだから」

「元をたどればね?今となっては、だいぶ藤くんを頼ってると思うけど」

「……頼ってくれてる?」

「うん」


よかった。


「怯えてる?……臆病になってる?」

「なんの分析ですか」

「今の藤くん。……今の関係が続いてほしいの?」


 それは分からない。いずれ終わるものだと思うし、いつまで続けられるんだろうとも思う。


「分からない。分からないけど」

「けど?」

「協力してくれるなら、乗り気でいてほしい。無理させたくない。急がせたりしたくない」

「お気遣いどうも」


 今、頭の中にある言葉を言うべき?ちょっと重いよな。柏原さんは、「所謂カノジョカレシの常識が通用しないでしょ」って言ってたし、恋愛っぽい会話はしなくていいって意味なんだろうな。でも、でも、言った方がいい気がする。


「柏原さんのこと、大事にしたいのは、変わらないので」

「……恥ずかしい?」

「恥ずかしいよ!」


 言っちゃった。言っちゃったよ!告白じゃない?そういう意味で言ってないんだけど!でも、これ以外の言葉が見つからない。


「少女漫画みたいだね」

「これ以上はやめて。分かってるよ。そういう意味にも捉えられるって分かってるよ」

「早口だね。本当に恥ずかしいんだ」


 クスクス笑ってる。緑茶色の石が揺れる。


「顔赤いね」

「そんなに?」

「うん。ゆでだことは言わないけど、藤くんのそういう顔初めて見た」

「……」


 赤いんだ。熱くはある。夕焼けが窓から差し込んでるからそのせいにしたい。


「……藤くんの言いたいことは分かってる」

「本当に?」

「うん。大事な相談先を失くしたくないんでしょ」


 笑ってる。クスクスでもない、爆笑でもない。笑っているというか、微笑んでる。


「……うん」

「今日行きの電車で話してくれたじゃん。あれ、踏み込みすぎたって反省してたんだよ」

「ぼくが話したんだから、気にしなくてよかったのに」

「話させたんだよ」


 確かに、柏原さんから質問されて答えたような?でも、言うことを決めたぼくだから気にしなくていいのにな。


「あたしは、話すの苦手だし、聞く方が楽だから、我慢してるかどうか分かりにくいんだろうね」

「そうだね。いつも聞いてくれるよね」

「話してくれるなら聞くから。だから協力して。そんな難しく考えなくていいの」

「……なんか、心強いね」

「難しく考えるのは、あたしの役割。盗らないでよ」


盗れないよ。ぼくにできないから、頼っているんだよ。

 今日分かったことは、ぼくの役割は視ることと話すこと。それだけで、ぼくたちは隣にいることができる、ということだ。

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