第30話 隠し事がある高校生
心がわかるDKとわからないJK
第3章 夏休み~文化祭後
第30話 隠し事がある高校生
「ねえ、藤くん」
「なに?」
「藤くんって、目ぇ悪い?」
勉強会は午後になっても続いた。借りた資料集を広げて、一緒に化学基礎の課題をしていた。あとは自分の考えをまとめるだけで、静かな時間が流れていたのが、あたしの頭を余計に動かしていた。藤くんのシャーペンが動いていないところを狙って、質問をしてみた。
「ううん。視力検査とかで困ったことはないよ」
「そっか。じゃあどうしよう」
「いきなりどうしたの?」
「いや。視力落ちたら、視えなくなるのかなって」
「あぁ……どうなんだろ」
課題を進める手を止めさせてごめん。藤くんのためだから許して。
「なんで視えるのかって不思議だったんだよね。目の機能を低下させたらどうなんだろって」
「両方とも裸眼で2.0です」
「下げるにはもったいないね」
あたしもメガネとは関係のない視力をしている。試しに~みたいなことがしづらいけど、気になることは気になるんだ。
「暗い中、近距離で動画とか見たらいいのかな」
「いっそのこと度がきついメガネをかけるとか?」
「まあ、下げることに成功しても、メガネで補正かけたら見えるんじゃないかな」
「そうなんだよなぁ。視ることができなくなっても、日常生活に別の問題が発生しちゃうから、ナシなんだよなぁ」
度がきついメガネを健全な視力の持ち主に強制するのは、何かしらの法に触れる気がする。
「考えてくれてたんだ」
「それが役割だもん」
「ありがとうね」
役割だからお礼は不要です、なんて言っても感謝を伝えることは忘れないんだろうな。
「……あ」
「なに?」
「サングラスは?」
「なるほど?」
あたしはかけたことはない。かけている人は知っている。その人曰く、見える景色が変わる。嬉々として伝えてきた光景を忘れることの方が難しい。
「かけたことないから実際の視界がどうなるかってわからないんだけど、邪魔なものがあったら阻害されるとか、あるのかなって」
「試したことないな。サングラスをかけたことあるけど、かけたまま“視る”ことはしてないから、どうなんだろ」
誰かのものを試したことはあるんだな。着けることに抵抗ないんだったら、実践してみればいいか。
「……見に行ってみる?」
「え」
サングラスの値段って知らないな。視力を矯正する用途じゃないから、そこまで高くないのかな?オシャレのためだけのやつって売ってるよね。学生が買えるものかな。
「だから、サングラスの実物を見に行ってみる?」
「……売っているお店に行くってこと?」
「うん。実際にかけてみて、あたしでも店員さんでも視てみる。それで効果があるかどうか試すんだよ」
「……いいの?」
「いいんじゃないの?あたしが提案したし、結果は気になるよ」
あたしを視るときは許可を得てから。これを徹底してくれてるから、いざあたしがいいよって言っても確認したくなるのかな?
「いや、あの」
「懸念点でも?」
「……デートに、ならない?」
「……あ」
一緒に買い物。デートの内容として定番なもの。まあ、今やってることも家デートみたいなものでしょ。藤くんから誘ったのに、買い物は躊躇するの?
「一応、おれたち付き合ってるから、問題はないと思うけど、どう?」
「いいんじゃね?」
「軽いな」
「そういう経験も含めて、付き合うところから始める、じゃない?」
デートになるという可能性は、サングラスを見に行く提案をした時点では考えていなかった。でも、一緒にどこかにでかけるというのは、いい経験になるんじゃない?
「じゃ、じゃあ、サングラス見に行ってみようか」
「どこに行く?電車とか乗ってショッピングモール的なとこにでも行っちゃう?」
「デート感すごいな」
「緊張するの早くない?」
「自分で気づいちゃったから、ちょっと恥ずかしいだけ」
そういえば、藤くんて今までカノジョいたことあるのかな?もしかして、やたらと優しいのって、慣れてるから?あるかもな。聞いていいものかな?
それは置いといて、自転車で行ける範囲でサングラスを売っているお店?あるの?
「嫌だったら後ででも断ってもらっていいけど、この周辺でサングラス売っているところ知らないから、電車で移動したほうが手っ取り早い可能性あるよ」
「たぶんそうだし、メガネ屋で売っているのって、度が入っているものだよなぁ」
「メガネ屋に伊達メガネは売ってなさそうだよね」
行ったことないから分かんないな。……いや、わざわざあの人に聞くことでもないか。
「一応、売ってそうなところはおれが見ておくよ。なかったら、一緒に行く?」
「いいよ」
「柏原さんの方がおれより男気あるよね」
「お褒めいただき感謝します」
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「で?どうだったよ」
「……手ごたえナシ」
部活帰りに柏原さんとたかに出くわしてから、たかと帰った。その帰り道、とにかくこいつはしつこかった。どっちが告っただの、いつから気になっていただの、なんで好きになっただの。適当に答えたものはお気に召さなかったようで、自転車を止めようとしてきた。しつこい質問に答えていると、柏原さんから「資料集なかった」と連絡がきた。
それをのぞき見したたかからこう提案された。「そのまま勉強会して仲良くしろよ」と。
「ナシってマジかよ」
「マジです。まあ、次のデートが決まったけど」
「いつ?」
「教えねーよ」
今週の土曜日。丸1日部活がないし、休日だし、という理由でデートの日は決まっている。
念のため、自転車で行ける範囲の中に良さそうなサングラスがないか探している最中で、そこにたかが勝手についてきただけだ。
「お前、柏原ちゃんに手だしてないだろ」
「は?」
「やっぱり~」
「な、何言ってんだよ!いきなり家に呼んだのも心臓バクバクだったんだぞ!」
たかの言った「仲良くしろよ」は、2通り考えられる。優しく考えれば、カノジョと信頼関係を深めろよ、になるだろうな。こっちの意味だと思って行動してはいた。けど、違う意味もあったんだろう。そちらは無視した。徹底的に無視して、柏原さんの信頼を得ようと頑張った。次のカレシのことを言われたときは驚いたけど、そりゃそうだよな。柏原さんは、おれが好きで付き合っているわけじゃない。
「声大きいですよ~」
「っっっ」
まあ、たかのことだから「違う意味」でしかなかったんだな。
「で?今度はなに?」
「探しもの」
「だからなに」
「言わない。たかに言っても碌なことにならない」
勉強会の提案を受けて昨日実行した以上、たかは感想を求めてきた。部活の帰りが一緒だったし、自転車で追いかけるのも簡単だっただろうし、逃げることもしなかった。けど、近場でサングラスを探すという目的は伝えずに、たかがついてくる状況ができあがった。
「おまえさ、おれに何期待してるわけ?」
「初カノジョにうろたえる様子」
「高校生活3年間ずっとカノジョができない呪いにでもかかっとけ」
たかが面白がっているこの状況をどうにかしたい。でもサングラスが見つからない。どこにあるんだよ。この商品ジャングルで見失っているだけなのか。
「ないのかな」
「探すの手伝うぞ~?」
「今隣にいることを許しているだけでもありがたいと思って」
「今日が語気が強いですな~?」
「黙ってくれ」
ずっとこの調子だ。サングラス探しを止めようか。買い物に行くことは決まったし、ここで探さなくてもいいんだろうけど、売り場の目星くらいはつけておきたいんだよな。
「わかったよ。冗談はおいといてさ」
「はいはい」
しびれを切らして、別の質問をするつもりだな?どうせ聞きたい内容は変わらないだろ。
「なんで柏原ちゃんなん?」
「っ」
いきなり核心ついてくるんだよ。こいつも勘鋭いのか?柏原さんみたいに。
「なんでって……」
「接点があるのは知ってるよ。でもおかしいじゃん。なんで中間のときに声かけに行った?その後に話ふったけどさ、一目惚れって風にも見えなかったし」
「……中間のときは、ほんとに、気になることがあっただけ」
「それがなんだって話だよ」
「……しょ」
「しょ?」
「しょ、小学校のときの、同じクラスの子に、似てるなぁって」
噓である。
「……おまえさ」
「小学校のときは割と女子とも遊んでたんだよ。柏原って名前の友達はいなかったし、人違いではあったんだけどさ」
たかとは中学からの付き合いだから、小学校のことを引き合いに出せば、真っ向から否定することも大変だろ。小さいころは女子とも遊んでたって部分は嘘じゃないし。
柏原さんから「天然」と言われ、たかがうっかり秘密を言ってしまう可能性を教えられてから、少し考えていた言い訳を今活用している。
「……おまえが言いたくことがあることがよぉぉく分かった」
「え」
「嘘つくの止めとけよ。下手なんだからさ」
「はい……」
ダメでした。2日くらい考えたんだけどな。
「帰るわ」
「お、おう」
「しばらくしたら、もっかい聞くから」
「やめて」
「じゃーな」
こちらを振り返らずに、横に振っている手は見せながら、出入口の方向に歩いていってしまった。
「……ごめんて」
届かなくてもいいから。信じられることは嘘じゃないから。今は、言える勇気が、ぼくにないだけ。
「はあ。サングラス探そ」
この調子で、10年なんてもつのかな。
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「かじわら、夏休み暇なん?」
「はい?」
交友関係のある人の中じゃ近いところに住んでいる八乙女ちゃんから、理系教科の課題を助けてと救助要請が来たので、ついでに古文を教えてもらおうとファーストフード店に来た。お互いにシャーペンが進んでいたはずなのに、八乙女ちゃんからシャーペンの音がしなくなったなと思っていたところに、これだ。
「陽キャの友達もいるんだし、忙しく遊んでるんだと思ってた」
「陽キャの友達……いるにはいるけど、遊びに行くのめんどそう」
「断ってんだ!?勇気あんね」
「毎日しつこいよ。あと、家遠いから待ち合わせとか色々考えるとやだ」
「家知ってんだ?」
やっちゃったな。余計なこと喋ったかも。どこまで喋ろうかな。
「……八乙女ちゃんが話してる陽キャの友達って、応援団にいた子?」
「うん」
「あの子とは、中学が一緒なんだよ」
「へぇ。……家遠いの?学区の端と端みたいな?」
やっぱ気づくよな。全部喋らないようにしよ。
「ううん。あたし、中学の途中で今の家に引っ越したの。それで学区からは外れたんだけど、別の中学に行ってもめんどそうだったし、お母さんが車で送ってくれるってことで、変えなかったんだよね」
「大変そー」
「大変だったよ。変えても変えなくても、どちらでも大変だったと思う」
「かもね。で、高校は近くなんだ」
「もちろん」
車で通うなんてもう御免だから、自力で通える範囲であることは必須条件だった。電車通学も考えたけど、電車を使ってまで行きたい高校もなかったし、今の家って田舎の中じゃ栄えてる方だから、自転車での行動範囲でどうにかなったんだよね。
「新しい家いいね」
「いや?祖父母の家のリフォームだから、まあ、見かけは新しいかも?」
「モダンみたいな?いいじゃーん」
家の設備で困ったことはないけど、祖父母とうちの二世帯住宅だし、常に家に誰かいるから、部屋に鍵が欲しいとは思う。
「私の家にもばあちゃんいるよ。手すりとかついてる」
「うちも介護目的だと思うよ」
そもそもの完成予定より遅れたのもあって、中学生活の途中で引っ越しになっちゃった訳だけど、前の家よりは良いから文句は言わない。
「じゃあ、陽キャちゃんは車?」
「電車だって。3駅分くらい」
「自転車じゃ無理だね」
「あと、向こうだけじゃ高校の選択肢狭いから、駅は制服姿でごった返すらしいよ」
あの子とお昼を食べ始めたときの雑談でそんなことを言ってた気がする。ごった返すほど学生がいるかは審議の必要がある。過疎地域だぞ?誇張表現だったな、あれは。
「あ、話もどすんだけどさ」
「うん、どうぞ」
戻す?他に聞きたいことでもあるのか?あ、アイスティー飲みたい。
「友達と遊びに行かないのはわかったよ。正直、遊びに行ってても家でゆっくりしてても解釈一致ってかんじ」
「解釈、一致?」
「うん。でもさ、カレシとかいないの?」
「げほっ」
やばいむせる。気管にアイスティーが入る。落ち着け。
「ごめん!吐く?」
「飲食店で、吐く?とか、言わないほうが、いいよ」
口から出るのは言葉か空気であってほしい。
「冷静だね。いちおー、はい。ナプキン」
「……大丈夫、です」
「え、話続けていいやつ?」
「……大丈夫です」
八乙女ちゃんは信じていいい。口は厳重ではなくても軽くはない。写真部の1年生たちには話しておいていいのかも。高倉くんの次は八乙女ちゃんなのか。
「いるんだ?」
「はい、一応」
「デートとかしなくていいの?」
「いや、運動部、夏休み中も活動してて、1日遊ぶとかはそんなにできない」
「カレシ運動部なんだ」
これくらいはいいかな。……八乙女ちゃん、リレーの写真、覚えてるかな。
「そう。あ、でも、土曜日はデートだよ」
デートって単語言い慣れないな。初カレシなんだから当然か。
「そーなんだ。ハッピーで終わるといいね」
「なにその不穏な言い方」
「ラブコメだったら、トラブルを乗り越えて仲が深まるか、決定的な亀裂を生んで気まずい空気が流れるかの二択でしょ」
「そんな常識知らない」
結局、八乙女ちゃんも野次馬になるのか。いや、坂下ちゃんに比べたらマシな方か。ズカズカ聞いてくるか、黙って見られるか。どっちも嫌だな。
次回はデート回その2です。
長くなってしまったので、お覚悟を。




