第28話 選択的愛想笑いをするJK
心がわかるDKとわからないJK
第3章 夏休み~文化祭後
第28話 選択的愛想笑いをするJK
クーラーの効いた涼しい部屋。着なれた服。たまに音楽を流す程度の空間に、定期的に鳴る通知音。
「今度はなに?」
スマホを開けば、メッセージを受信した、という内容だった。
『金曜日はどう?』
うるさーい。合コンが終わってから1日に10回はこの子からメッセージが来る。
『どこに行く?』
『部活なくなったんだよね』
「知るかよ」
誰もいないことをいいことに、愚痴を声に出してみる。誰からも返事はない。なんて快適なのでしょう。この子からのメッセージがなければ、もっと快適になる。
「金曜日は別件がある、と」
メッセージを送った瞬間に返事が来る。早すぎない?
『部活終わりは?』
「家族の用事がある、昨日も言ったよね?」
昨日も言ったことは言及しない。どうせ向こうは無視する。
『なんで予定合わないの』
かわいいキャラクターがかわいいと思える範囲で怒っているイラストのスタンプ。この子らしいチョイスだ。ごめん、とスタンプを返しておこう。避けていると思われるのも面倒だし、この子が本気で敵意をもったら、と考えたらそちらの方が面倒だ。
「お盆までに課題終わらせたいから遊ばない」
真面目なことを送っておこう。一緒に勉強とか言い出すかもしれないけど、お互いの家が遠いから移動が面倒。
『じゃあ今度いっしょに勉強しようね』
予想通りの返事。行動が読みやすいときと読みにくいときの差が激しいんだよな。疲れる。
「今度ね、いつでしょうねー」
1回くらいはつき合うことになるんだろうな。……あれから、藤くんと会っていないな。あたしたち、本当に、付き合ってるんだよな?
なにか、行動すべき?向こうから何かしてくるなんて、何もないよな?ていうか、何かすることが難しいよな。普通のカノジョではないもんな。
やっぱり、カレシ役を引き受けてもらうなんて無茶だったよね。あの時は、いいアイディアだと思ったけど、藤くんには荷が重いというか、藤くんに好きな人ができたときに邪魔になるだけじゃないの?頭足りなかったな。今からでも止めてもらう?
「……」
メッセージアプリを、あの子との個人チャットからひとつ戻って、友達の欄に移動する。頻繁にメッセージを送らないから、藤くんを見つけるのは簡単。メッセージの履歴は、合コンが終わってからだ。海で待ち合わせをしたときのやり取り。そう、付き合ってから何も連絡をしていない。まずいのかな。分からない。なにかすべきなのか?わからない。
自分に失望している。
藤くんに協力してもらっている事柄が増えたこと、あれから何も話していなかったことに今気づいたこと、こんなに良くしてもらっているのに好きになれそうにないこと。
本当に、嫌になる。
「合コンから……3日経ってるの?!」
マジか。怒ってるかな?……藤くんって怒るのかな?
「……はあ」
特大のため息が出た。体育祭の前々日だったかな?藤くんがメッセージを送るか悩んで1週間経った話に飽きれていたけど、こういう感じで悩んでたのかな。今度、謝ろうかな。
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日差しが照りつけるグラウンド。この夏で更に汚れることになるんだろうなと予想できるジャージ。たまに掛け声を出すだけの1年生たち。そこに紛れて、柏原さんから一切連絡がこないことに緊張しているぼく。
あれから4日経ったんだよな。本当にカレシになったんだよな?まあ、あの柏原さんのカレシだから、普通とか常識とかが通用しないんだろうなとは思う。でも、あまりにも連絡がない。ぼくからすべき?なんて?付き合い始めた人たちってなにするんだろ。参考にできるのか?何を参考にするんだ?誰を参考にすれば、柏原さんと連絡できるんだ??
「ふじー、大丈夫か?」
「え、あ、うん」
「疲れてんの?」
「ちょっと、昨日、寝れなくて」
最近できたカノジョから連絡がないんです、なんて言えない。
「おー、気をつけろよ」
「うん」
そんなに暗い顔してたのかな。暗くもなることに遭遇してはいる。
なにか、なにかできることはあるんだろうか。
「時間だぞー!撤収ー!」
顧問のでかい声が耳に入った。もうそんな時間か。撤収撤収。
今日の部活は午前中で終わる。13時には別の部活が使うスケジュールになっているから、それまでに片付けしてサッカー部の部員は全員グラウンドから出ていかないといけない。
片付けといっても、普段やっていることとなんら変わりはない。放課後に部活をやっていた時より少しだけ時間的余裕があるように思う。てきぱき終わらせて、昼飯どうしよう。帰りの算段をつけていれば、片付けなんてあっという間だった。汗だらけのジャージから制服に着替えて、自転車置き場まで歩いていく。夏休み中なのに自転車が置いてあるのは、3年生たちの進学補習と、部活をしている人たちのものだろう。夏休みだけど生徒はいるんだな。……ん?あそこにいる女子って。
「柏原さん?」
「え?……藤くん」
え?なんで柏原さんがいるんだ?補習?いや、期末テストはどうにかなったって言ってたはず。暑くて変な幻でも見えてる?
「サッカー部、あったんだ」
幻が話しかけてきた!?
「あ、うん。午前中だけ」
「暑いのにおつかれさまです」
「……柏原さん」
「はい」
ちゃんと会話できてるな。本当に、柏原さんなんだ。
「なに?」
「えっと、あの、なんで、高校に?」
「写真部の部活。毎日はないけど、夏休み中に数回集まりがあるの」
そっか。写真部もあるんだ。……教えてもらってないのは、なんでだ?付き合い始めた方が幻だったとか?
「あのさ」
「はい!」
「声大きい。……ごめんなさい」
「へ!?なにに?」
指摘と謝罪が一緒に来た。その前に、なんで謝ってきたんだ?少ないとはいえ、人目があるかもしれないのに。
「ずっと、連絡できてなくて、ごめん」
「……ふ」
「え?」
「ふふ。そっか。そうだね」
笑いを抑えられない。爆笑はしないけど、これは、ちょっと、
「柏原さん、真面目すぎない?」
「はい?」
部活中の緊張はどこに行ったのか。今は、目の前の真面目な謝罪を見ていたい。
「なんだ、おれだけじゃなかったんだ。はは」
「藤くんこそなに?体育祭くらいから、あたしのこと笑うよね?」
「だって、笑いたくなるよ。うん。連絡ほしかったな」
「……1週間連絡できなかった藤くんに飽きれてた自分を思い出して、悪かったなって」
あ、そういえばそんなことあったな。すごく飽きれてる柏原さんの顔、インパクトあった。
「だから、謝りたかったんだよ」
「うん。面と向かって言いたかったんでしょ」
「……みて」
「視てないです!」
柏原さんのことは“視ない”。許可がなければ“視ない”。食い気味に否定しなきゃ。
「そう。天然ってわけね」
「これも、天然?」
「みてないのに、みたようなこと発言しちゃう天然さん」
「はは。カノジョに言われると、信じられないことも信じそうになるね」
「……」
あれ?なんか変なこと言ったかな?柏原さんの顔が、曇った?
ん?後ろからなんか音がしたな。通行の邪魔になったか、な……やべ。
「お、おい」
「た、たか。いたんだ」
「かず、おまえぇ!!!」
後ろにいたのは、肩から下げていた部活用のかばんを落とした、高倉だった。
「おい、かず!なんて言った!?」
「え、なにを」
「ちょっと、たかくらくん」
「壱華ちゃんなんだ!?」
うるせぇ。まさか、たかがいたなんて。一緒に帰るみたいなこと約束してなかったし、部活の予定なんて、特定の日にあるかどうかだけ確認できればいいから、今日会うなんて思わなかった。
「説明しろ」
「……柏原さん、どうしようか」
「なにをどうしたらいいんですか」
「こいつに、言うかどうか」
柏原さんが腕を組んで悩んでいる。ちゃんと考えてる間、おれはたかに胸ぐらを掴まれて続けている。
「いいよ。ていうか、言いたい人じゃないの?」
「うん。そうだね」
「なにこれ?仲良すぎない?」
「手離してくれない?説明するから」
数秒睨まれて、ゆっくり手を離してくれた。たかの目が鋭くなっている。
「じゃあ、はい、カノジョです」
「はぁぁあああ!!???」
何をいまさら驚く必要があるんだ。おれにカノジョが出来たと疑ってたから来たんじゃないのかよ。
「どうも。カノジョです」
「あ、やっぱりぃ!?そうじゃん!」
「やっぱり?」
愛想笑いモードだ。すごい、すぐ切り替えられるんだ。
「あれじゃん、中間のときに話しかけに行ったじゃん。やっぱ気になってたんじゃん!」
「あれは、本当に野暮用で」
「?」
愛想笑いモードなのに疑問が出ている顔ということがわかる。これは付き合いの長さがなせる技?あれ?おれたちって別に仲良くないんだっけ?
「あれ。中間テスト前の勉強会の帰りにさ、話しかけたでしょ」
「あぁ。初めましてのとき?」
「そう。あれ、こいつと帰るの蹴って話しかけたからさ、たかには見られてたんだよね」
「……」
「か、柏原さん?」
あれ?愛想笑いモードがどこかにいなくなった。これは、苦言を呈するときの顔だ!
「そんな甘いことしてて、アピールがどうのこうのほざいてたわけ?」
「うっ」
「もっとさ、視線というものを考慮して」
「はい」
甘いってなんだ?たかには言うつもりだったし、一番バレやすい友達だから、そもそも言いたくない人にカウントしてない。
「尻に敷かれてるじゃん、オモロ」
「たかくらいしか知らなかっただろ。誰かに言ったりした?」
こいつが誰かに言う可能性はあり得る。それこそポロっと悪意なく。
「いいや。かずってカノジョほしくないみたいなこと言ったから、ガツガツ行ってないんだろうな、て思ってたし。別にプライベートを侵害する気はなかった」
「常識人ぶってないで、本音を言え」
「かずを狙ってる子の情報が全くなかったので、誰かに言っても面白くねぇなって」
「ガツガツいかなくて悪かったな」
理由は最低だったけど、言いふらしていないならいいや。
「……あの」
「なに?柏原さん」
「たかくらくんはたかで、藤くんはかずなのどうして?かずは和葉って名前からでしょ?たかは苗字から?」
「こいつ、高倉善豊」
「たかたかなんで、わりとみんなからも『たか』て呼ばれてる」
そう言いながらバッグから財布を取り出し、学生証を柏原さんに見せた。
「あぁ、そういうこと」
まじまじとたかの学生証を眺めている。名前覚えようとしてくれてるのかな。
そろそろ切り上げたい。柏原さんは部活あるっていうし、帰り道で質問は聞くから。
「なあ、もういいだろ」
「えー、もうちょい」
「絶対ちょっとじゃない」
こいつの声が大きいから、早く切り上げたいんだけどな。
「かずのどこが好きなん?」
「え」
「やめろよ!」
いきなりキツイ質問するなよ!柏原さん困ってるじゃん。だって、柏原さんは、おれが好きだから付き合っているわけじゃない!
柏原さん、すごい悩んでる。明らかに動揺してる。ごめん!
「……ガツガツしてないとこ?」
「どんな気持ちよ」
「複雑」
「なにが正解だったの」
もう愛想笑いモードしてない。たかの前なら大丈夫だって判断したのかな。
「まあ、こいつは優しさが売りだよな」
「はいはい。柏原さん、たかの言うことは半分以上流していいから」
「流す判断ができるのは藤くんだからでしょ」
それはそう。まだ知り合いになって3カ月?いや、実質2日くらいなものか。柏原さんなら流す判断もできそうだけど、こいつと柏原さんだけで話をさせるのはマズいかな。
「あのさ」
「はい?」
「そっちこそ、苗字呼びなわけ?」
「「あー……」」
柏原さんと目があった。そっか。付き合ってるなら、もう少し、こう、親しみのある?呼び方をしてもいいのか。
「か、和葉くん?」
「い、壱華、さん?」
「昭和感あるな。自分の名前だけど」
「正直こそばゆいから、名前呼びしないでほしい」
柏原さんから「和葉くん」て違和感がすごすぎる。「藤くん」がいいです。しばらくはそれでお願いします。
「うん。あたしも、その顔見たら『藤くん』て固有名詞が出るようになってるから、しばらく名前呼びは無理」
「おまえら、高校生らしさはどこにやったんだよ」
そういうのとは無縁なんだよ、とは言えず。
「あの、ごめん。あたし、移動していい?」
「そうだよね。部活だよね」
「え?マジ!?ごめん」
「いいよ。余裕もって来たから遅刻とかではないよ」
たしかに中途半端な時間だ。12時半は過ぎてるし、じゃあ13時集合?なら早すぎないか?
「なにかあったの?」
「うん。化学基礎の資料集を忘れたっぽくて。廊下にあればいいんだけどな。教室って鍵かかってるでしょ」
「開いてないよ。ロッカーにあるといいね」
「はぁ。やったかなぁ」
「無理そうだったら貸すよ?」
うーんと唸り始めた。これは、なにかお返しができるのか考えているんだろうな。
「……最悪、借りるかも」
「気軽に言ってくれたらいいよ。見つかるといいね」
「うん。じゃ、2人ともおつかれ。気をつけて」
「そっちも頑張って。じゃあね」
おれたちを背に、高校の出入口に向かっていった。そして、恐らく声が届かない距離まで離れたであろう瞬間に、おれの首回りは1本の腕によって固定された。
「詳しい話をきこーじゃねぇか、和葉くんよぉ」
「ヤクザみたいなことすんなよ」
「なに?おまえってそっちなの」
「たとえ話だよ!」
こうして、今日の家までの帰り道は、たかからの質問地獄となっていた。
柏原さん曰く、甘いことをしたのだから、おれだけでこの状況をどうにかしておかないといけないな。
第3章 開始です。
しばらく夏休みしてます。




