第26話 勢いで行動したDK
心がわかるDKとわからないJK
第2章 体育祭前~合コン後
第26話 勢いで行動したDK
「あはははははは!」
「そこまで笑わなくても!」
今ぼくは、柏原さんを爆笑させてる。
「そ、そんなことで、髪、ぼさぼさで」
「心配だったんだよ!今日だって、空井のこと分かってなかったでしょ!?」
「そうだけどさ、そうなんだけどさ、くく、ははは」
結論から申し上げると、ぼくの心配は杞憂だった。
柏原さんは、顔を覚えるのが苦手であることを、ぼく以上に理解していた。この海に来る人が使う駐輪場を回り、自転車にとあるシールが貼られているか確認したそうだ。とあるシールとは、高校の名前となんらかの規則性に則った数字とアルファベットが書かれていて、高校に入学したときに自転車に貼ることを強制されるシールだ。ほとんどの高校生が貼っているはず。この地域だったら大体の高校で採用されているため、コンビニやらカラオケなんかのお店で見かけることもある。夏休み中で、制服姿の人はそういないだろうと踏んで、自転車を調べていたそうだ。顔を見て判断するなんて、そもそも選択肢になかったそうだ。
「いいよ、心配してくれたんでしょ。ふふふ」
そんな探し方なんて思いつかなかったので、急いで自転車を漕ぎ、うちの高校のシールが貼られている自転車を見つけ、この近くにいるんだなとあたりを付け、ここまで走ってきた。2回ほど来たことがあるベンチまで走ったら柏原さんが優雅に座っていた。
「そろそろ笑うのやめてくれませんか」
「わかってる。やめたいけど、やめたいんだよ。ふふ」
身なりなんて構わずに走ったので、髪が乱れた。適当に直しておこう。あ、買ったやつも取り出しておこう。
「満足しましたか?」
「うん、大丈夫。はぁ……ん?なに買ったの?」
「話し合いだから、一緒に食べられるものあってもいいかなって」
「……ごめん、そういうこと考えてなかった。ありがと」
「いいえ」
一気に真面目な顔に変わった。はやくこれを取り出していれば、笑いが収まったのかな。
「本当に、柏原さんっておれの前だと取り繕ったりしなくなったよね」
「取り繕う意味がないでしょ。愛想笑いもしないよ」
ていうことは、さっきのは本当に心の底からの爆笑だったのか。恥ずかしいな。
「座ってよ。報告するから」
「はい」
高校の帰りとは違って、小さいボディバッグに最低限のものしかない。コンビニの袋をくしゃっと丸めてバッグに入れて、話を聞く姿勢になろう。
ぼくが座ると、柏原さんは少し大きめに咳ばらいをした。
「藤くんがたかくらくんにみえることを言えないのはなぜか、ということへの推測から。状況はそうシンプルじゃなかった。期末前にカフェで勉強会をした時点で2つの可能性を考えていました」
「うん」
「1つは、伝えたいから。仲が良いんだし、信頼しているなら伝えられるはずだっていう、期待と願望が優先された考え方」
改まった表現だけど、要は信じられる相手だから話したい、ということかな。
「もう1つは、伝えたほうがいい。精神的負担を減らすためか、藤くんに協力できる人材として、今打てる手で最善の手という考え方」
たしかに、柏原さんに出会わなかったら、たかは協力相手として第一候補だったと思う。
「で、どちらなのかを判断するために、藤くんの中でたかくらくんがどういう位置にいるのかが重要だった。親友みたいなレベルなのか、長く時間を共有しているから情が強いだけなのか。藤くんの主観じゃ分かりにくいでしょ?」
「そういうことだったのか。うん、で?」
「結論。『伝えたほうがいい』6割。『伝えたい』3割かな」
「……ん?残りの1割は?」
「それは知らない。藤くんみたいに10割全部わかるわけじゃないよ」
9割わかっているのも、すごいのでは?
「ここから要素が増えて、シンプルじゃなくなっている要因を話すね。藤くんは、たかくらくんをそこまで信じていない」
「……え」
ぼくって、たかを、信じていない?
「別に、たかくらくんという人物全てを信じていないわけじゃない。むしろ、なにかやらかすことへの信用はあるんじゃない?」
「あ……」
あります。
「わざわざブレーキ役になりやすいポジションを確保して、その役から降りることもしてなさそう。つまり、止めなきゃ危ないんでしょ?」
そうです。
「友達としては楽しいこともあったんだろうし、悪い人じゃないことも重々理解している」
だから分からないんだ。たかを信じてないっていうのもすんなり飲み込めないし、“視た”こともあるから大丈夫だって、そう思ってたのに。
「勘だけどさ、たかくらくんって約束はちゃんと守るタイプでしょ」
「……そうだね。ドタキャンもないかな」
「でも、本人の不注意でなにかやらかすことはあるんでしょ」
「うん」
「つまりそれって、藤くんが『言わないで』て約束したら守ってくれるけど、悪意やら意図があってかまをかけられたときに、ポロってこぼしちゃうんじゃない?」
かまをかけられる状況ってなんだろう?でも、あり得そう。
「あり得そうって顔だね」
「はい。……なんでわかった?」
「勘です。あり得そうって思ってるなら、無自覚だったんだね」
「ん?」
「伝えられなかった原因って、それでしょ」
……あ、ん?それ?それって、ポロってこぼすってこと?
「藤くん、みたものをそのまま信じていい環境だったから、たかくらくんをみたときの情報を鵜呑みして、信じられるはずなのになーって考えてたんじゃない?」
「……パズルのピースだけ、凝視してたってこと?」
「繋げなかったんだね。繋がるとも考えてなかったんじゃない?」
「それだ!」
今しっくり来た。たかのことは悪いやつどころか、良いやつだって思えるのに、信じていないということにも納得できる。そっか。視えたものだけを鵜吞みにしてたんだ。それ以外の事実は別の場所に置いてたんだ。本当に、パズルのピースだけをじぃっと見て「分からない」って言ってたんだ!滑稽じゃないか!?
「頭抱えてどうしたの」
「すごい、今、自分に向かってバカって叫びたいのに、叫ぶことも、叫ばれることも空しいことに気づいて、どうしていいか分からない」
「叫んだら目立つからやめてね」
冷静な言葉が響く。抑えよう。もう1回カラオケに戻ったら大声出してもいいのかな。
「ふふ」
「また笑ってる!」
「これでも抑えてんの」
恥ずかしい。下唇を噛んで無理やり口を閉じているが、痕がつきそうだ。
「ま、あのさ、結論とか言ったけど全部推測だからね。あと、推測が全部正しいなら、伝えない方が賢いと思うよ」
「……そうだね。はい。言いません。決めました」
恥ずかしい思いはしたが、悩みは解消された。たかには言わない方がいい。なんか、10年後とかなら言えるチャンスが来るかもしれないな。
「はあ。合コン疲れてたけど、ここまで笑えるなら、今日は無駄じゃなかったな」
「はい。無駄にならなくてよかったですね」
「拗ねないでよ。これで保留分はチャラになったわけだし、楽になったよ。ほんとだって」
「……合コン、ぼくのために時間使ってくれてたの?」
本来なら、合コンでカレシの候補を見つけるチャンスだったはずだ。それをぼくのために潰してしまったのかな。
「あたしには合コン合わないなって、ちゃんと分かったから収穫はあるよ」
「柏原さん、本当にカレシ欲しい?」
「……そのはず」
そのはず?
「だって、好きな人を探してほしいんじゃ」
「分からないの」
え。分からない?
「男子の行動も見てたけど、女子でトイレに行った時にさ、『誰狙い?』て聞かれた。狙いなんていなかったし、藤くんのことが主目的だったから、いないって答えたの」
「柏原さんっぽいね」
「かな。でも、他の女子は明確に答えたの。消去法だったかもしれないけど、ちゃんと、空気読みながら被らないように、でも自分の狙いは明確に。あたしにはできないなって」
まあ、今回の男子の中で言ったら、柏原さんと話が合いそうな人っているかな。野沢はあんまり接点ないみたいだし、たかは楽しいかもしれないけど、柏原さんがどう思うかは分からないな。空井は……あ。
「空井が、柏原さんと話したがってたよ」
「え!?」
「なんか、坂下さんから話は聞くけど、直接会話をしたことはないし、あんまり周りにいないタイプだから興味あるって」
「あたし、珍獣かなにか?」
「ちゃんと“視た”わけじゃないけど、そう、かも?」
やっぱり、柏原さんのことを言及したときに“視て”おくべきだったかな。候補に入るかもしれなかったのに。
「あの、てきとうな人が?……えぇ」
明らかに嫌そうな顔してる。候補にすら入らないかも。
「そりゃ、探してるけどさ。そらいくんは、ちょっと、長続きしなそうだな」
「長く付き合いたいの?」
「いや、そういうわけじゃない。けど、こう」
「……柏原さん」
“視てない”。そのはずなのに、なんとなく、そう感じ取った。
「本当の目的はなに?」
「……」
「柏原さんが、悪意をもってかまをかけようとしてる?」
「ちがう。でも、その」
柏原さんの本当の目的が「自分が好きな人を見つけたい」なら、どうしてぼくに「自分のことを好きな人を探してほしい」なんて言ったんだろう。だって、この行動は柏原さんにとって必要なはずだ。なのに、今、柏原さんは、どうして?
「……藤くんがやってくれたことは否定しないし、あたしにとって、必要だよ」
「じゃあなに?」
「ただ、分からない」
分からないって、それだけじゃん。あんなにぼくのことを説明するときはきちんとしてたのに。どうして。
「分からない、以外の言葉は思いつかない。でも、藤くんが無駄なわけじゃない」
「そこは疑ってないよ。柏原さんの目的が知れたら、それでいいんだよ」
「……ごめん。言えない」
これは、言いたくないから言えないのか、言葉が思いつかないから言えないのか。“視て”いいのかな。聞いてもいいのかな。
「みないで」
「あ、はい。なんで分かるの?」
「分かりやすいよ」
今度は勘でもなかった。表情に出たんだな。
「じゃあ、探すのは続けていいんだね?」
「うん。まあ、夏休みの間は特に動かなくていいと思う。作戦もお休みってことで」
「そうだね。関わる人は、同じ部活の人だろうし、サッカー部にはいないし」
「お休みして。あ、でも、心境の変化とか、気づいたことがあれば連絡してくれていいから。時間あわせて話そう」
そうか。体育祭で頑張れたし、もっと候補を見つけられると思ってたけど、夏休み中は動きたくても動けないんだ。合コンで頑張らなくても、夏休み中は柏原さんの出番が多くなるんだから、どうしてチャラにしたかったんだろ。
「……柏原さん」
「はい」
「カレシを作るだけだったら、柏原さんのことを好きである必要がないのって、理解してる?」
これは合コン中の空井の発言で思い至った。カレシという存在が必要なのであれば、適当に付き合ってしまえばいいんだ。柏原さんのことを好きであることは絶対に必要というわけではない。
「分かってるよ。でも」
「でも?」
「……あたしのこと特に何とも思ってないのに、あたしに付き合うって、相手の時間奪ってるじゃん」
あ、そうだ。柏原さんは、対等がいいんだ。
「すぐに貸し借りをなくしたがるのも、カレシ候補の条件に自分のことを好きだって条件を入れるのも、柏原さんが相手を利用している自覚があるから?」
「……うん」
対等がいい。印象的なことを忘れていた。
体育祭からもう1カ月以上経ってる。なのにぼくに借りがある状況が嫌だったんだ。早く自分が持っている借りを手放して、互いに貸し借りがない状況を作りたかったんだ。
それと同じことがカレシの条件にも起きている。柏原さんはカレシという存在が必要。でも自分には何にも関係がないのに、柏原さんのために行動することになる人は、何も得ていないのではないかと考えたんだ。たぶん、そんなことないのに。
だからせめて、柏原さんのことが好きであれば、カレシカノジョという関係を維持していても罪悪感がない、もしくは少ないんだ!
「なるほど、うん」
「なにか納得できた?」
「うん。できた」
「そう。それが正解かは、あたしには判断できないと思うから、留めておいて」
さっきから「分からない」って言っているからね。
「言わないけど、質問はしていい?」
「どうぞ」
「部長さんに今すぐ行動を起こさないのはなんで?」
「ちゃんとあの部長があたしのことを好きだと分かってから行動したほうがいい。確実に動きたいのと、変なことして最有力候補を手放すなんてバカにはなりたくない」
たしかに、最有力ではある。ぼくがちゃんと顔を認識しないで見つけて、その情報を元に柏原さんが推測した結果、最有力候補になっているだけだ。これだったら、夏休み前に部長さんを“視て”おいた方が、柏原さんのためだったんじゃないかな。あ、でも合コン前だったから、柏原さんにとっては「ずっと借りがある」状況だったからか。
「文化祭が始まれば、写真部っていう集団で動くことになるだろうし、その時にでもみてもらえたら、あたしはそれでいいよ」
「貴重な休みを全部放り投げてもいいんだ?」
「部長に時間がないよ。3年生は大学進学のための補習があるんだって」
嫌な話を聞いた気がする。うちのサッカー部は夏休み前に引退することが多いらしいし、そもそも部活を理由に補習を断ることも難しいそうだ。3年になったらそうなるのか。
「言ったでしょ、夏休みは休みになるの」
「……でも、カレシの存在は必要なままなんだよね」
「まあ、そうですけど。無理したって意味ないでしょ」
「利害の一致があれば、柏原さんも納得できるんだよね」
「そうね。でも、そんな雰囲気もない契約みたいなこと、してくれる人がいるわけないし」
たしかに雰囲気の欠片もない。
カレシが必要なの、それ相応の報酬は用意します。
これじゃ……あれ?なんか、身に覚えがある。
「なら、ぼくは?」
次のお話で第2章完結です。
お話の続きと、登場人物まとめを投稿します。




