第24話 夏休みが始まる高校生たち
心がわかるDKとわからないJK
第2章 体育祭前~合コン後
第24話 夏休みが始まる高校生たち
「1年なのにね。すごいよね」
「どっち応援する?」
スポーツ大会2日目。今日は主に、各競技の準決勝と決勝を行う日程になっている。
今あたしたちは体育館を囲うようにに存在する半2階のような観客席にいる。体育館のカーテンを閉めるためにしか上ったことがない。こんな自由に動いていいんだ。
「負けちゃったよぉ」
隣では、準々決勝まで進めたのにぃ、と口をとがらせている女子。
「どうせなら1年生だよね。相手側の3年生、知ってる人はいなさそう」
「だよねぇ」
「残ってる1年ってあそこだけでしょ。じゃあ1択じゃん」
別の隣では、どちらを応援するか写真部1年生が話し合っている。
今男子バレーボールの部の準決勝で、1年2組の男子は注目の的になっている。藤くん、また目立ったことしてる。持って生まれた運動神経のせいか、悪運なのか。
「あのさぁ」
口をとがらせている子に話しかける。
「なあに?」
「カレシさんは?あたしより、よしよししてくれる人の方がいいんじゃない?」
「うーん。やめとく」
意外な答えだ。あれだけ人前でイチャイチャしてたのに。……ん?してたのに?
「なんか、スポーツ大会めんどいって教室にいるって。あつくなれないから体育館には近寄らないようにしてるってさ」
カレシの方は2組のはず。だったら今は自分のクラスメイトが準決勝を戦っているのだから応援やら好奇心で観に来るのはおかしくない。でもいないんだ。まあ、探しても見つけ出せる自信はない。
「そっか。自分から離れてるだけ大人なのかもね。自分のせいで盛り下がることがないようにって」
「うん」
なんか、気の抜けた返事だな。昨日もそんな感じだったけど。
「あ、ねえねえ」
「なに?」
顔がパッと明るくなった。そしてあたしの耳元に明るくなった顔を寄せる。
「合コン、場所決まったから後で教えるね」
「ほんとにやるんだね」
「本気だよ!」
耳から距離をとったと思ったら、頬を膨らませている。表情がころころ変わることで。
「あとでグループ招待するね。そこに連絡するから」
「はいはい。行きますよ」
合コンは夏休みに入って最初の日曜日。1学期の終業式が金曜日だからあっという間に当日を迎えることになるんだろう。その前に藤くんと打ち合わせしておかないとな。
「あ、ねぇ、かじわらとおともだちー」
「はあい、なに?」
「かじわらが撮った写真で、えっと」
「あんなって呼んで。杏と南であんな」
八乙女ちゃんは、1組の応援団だった子としか認識はないはずだ。なにを聞きたいんだ?
「実はさ、写真部で撮った写真を加工してコラージュ作ろうと思ってんの。で、かじわらが撮った、杏南ちゃんの写真を使いたくなったんだけど、いい?」
「え?なにそれ。おもしろそぉ」
「個人の趣味で作るけど、どっかに投稿はしない。欲しかったらあげるよ」
「ほんとぉ?気になるなぁ。壱華にも渡すの?」
「うん。素材提供者だからね。じゃあ、かじわら経由で渡してもらおうか」
「壱華、よろしくぅ」
あたし抜きで話がポンポン進んでいく。コミュ力高い陽キャを一身に浴びるのは疲れる。
「わかった。夏休み中に作るんだっけ?」
「そう。本当は期末テスト前に完成する予定だったんだけど、課題多すぎた」
「わかるぅ。すごかったもんね」
「そんなわけで最近は素材の見直しからしてて、可愛く撮れた杏南ちゃんの写真を見つけちゃったから、使いたくなったんだよね。今日、本人に確認とれてラッキーだよ」
「壱華の写真ぜんぶかわいかったよねぇ」
そうだったか?可愛いのか?まあ、昨日の部長の会話を根拠にするなら、この子も「顔を知っている人」に入るだろうから、それではっきり撮れたんだろうな。
「話はそれだけ。邪魔してごめんね」
「ううん。わざわざありがとねぇ」
「……」
「壱華はそういうの作るの?」
「作らないよ。技術がない」
それより、上手く写真を撮れる方法を見つけたい。
「また撮るんだったら、呼んでね」
「夏休み中、部活それなりにあるんでしょ?」
「そうだけど、壱華に撮ってもらいたいから頑張る」
「頑張っても予定は変わらないでしょ」
そう。今あたしがどう頑張っても、好きな人が目の前に現れるわけでもないし、合コンがキャンセルされるわけでもない。
藤くんに頼りっぱなしの状況を変えることは、一瞬で出来はしないんだ。
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「「「かんぱーい」」」
複数個のグラスがぶつかる音。そのグラスの中で氷がぶつかる音。そして、全員と乾杯しようとする人はもう数回グラスをぶつける。
ここは高校から一番近いカラオケの一室で、うかれた学生による合コンが開催されている。
「今日はお集りいただき、ありがとうございまーすぅ」
元気な挨拶だこと。
「乾杯したので、まず自己紹介していきましょぉ。ウチは坂下杏南です!1組です!主催です!そしてぇ」
「主催の空井です。2組です」
テンション高めのカノジョと、変わらずマイペースなカレシの方。空井っていうのか、忘れてた。カレシがねぇ、としか聞かないから頭からすっぽ抜けたのかも。
「じゃあ、男子から。お願いしまーす」
「何言えばいい?」
「クラスと、苗字?あと部活とか?名前は言いたかったらどうぞぉ。」
名前まで言われても覚えられる自信がない。苗字と座っている席の場所でどうにか乗り切ろう。まあ、誰かを名指しで呼ぶことなんて、そうそうないと思うけど。
「はい。野沢です。1組です。陸部やってます」
「次、高倉でぇす。2組。テニス部」
「えっと、藤です。同じく2組。サッカー部です」
1組の人がいる。覚えがないな。やば。
「つぎ女子!おねがいしますぅ」
「はーい。石川でーす。3組。男バスのマネやってまーす」
「深守です。3組。女バスです。マネじゃないです」
「か、柏原です。1組。写真部、です」
浮いてる。あたしだけ文化部では?主催の2人の人脈なんだから、そりゃ運動部だよね。
「はーい。来てくれてありがとぉ。で、ちょっとみんなにご報告ぅ」
なにする気だ?
「共同で主催してる坂下と空井は、別れました!」
「……え」
「「「えーーー!!??」」」
「お前ら分かれたのかよ!?」
「あんなに部活中でもイチャイチャしてたのに?」
部活中でもイチャイチャしてたのかよ。
本当にそうだと思わなかった。スポーツ大会前後で、坂下杏南からカレシの話を聞くことが激減した。やけに合コンの話をしてくる。そして今、この2人は隣に座ることなく、完全に男子4人と女子4人が並んで座っている。推測できる程度に情報はあったけど、付き合っていることを隠す気すら見えない様子だったから、まさかと思ってた。
「というわけで、ウチらも本気で合コンに参加しまーすぅ」
「マジなんだ……」
「マジだよ。次のカノジョ見つけるよ」
「お前がガチで参加するとか、事前に言えよ!」
めんどくせー。早くあの子には次のカレシを作ってもらって、あたしに構ってくる時間が増えることなく、2学期を迎えたい。最近話しかけてくることが多かったのって、カレシと話さなくなったからだよね。同じクラスの友達で時間つぶしてたんだよね?
「ねえ、杏南?自己紹介終わったけど、他に何かするの?」
「え?決めてない」
だと思った。合コンを開催することがゴールなんじゃないかと薄々感じ取ってはいた。あと、段取りを決めて司会をするなんて几帳面さは持ち合わせていない子だ。
「なにする?雑談?カラオケだからなんか歌う?」
「歌ってもいいよねぇ。でも最初はお話しよぉ」
だったら話題くらいは用意してるんだよね?こちらとしては、適当に話にのっかって、藤くんが誰かと会話しているところを観察したいんだけど。
「こーいうときって好きなもの話すんじゃね?趣味とか?」
ナイス。藤くんの隣に座ってるし、あの人がたかくらくんだよね。こういう場に慣れているのか?他の参加者に臆せず話している感じ、空井くんに強めに言い返せる性格、陽キャ寄りだな。藤くんの友達の時点で陽キャか。そりゃそうだ。
「俺はラノベ好きなんだよね。みんなはそういうの読むかんじ?」
情報を追加。この人はオタクである。
「読まない。でも多いよね。本屋さんとか行くとさ」
「恋愛もの読みたいんだけど、学校で読むの恥ずかしくてぇ」
おぉ、会話が続く。この手の話題はどうしようか。適当にミステリー読むとか言っちゃえば乗り切れるかな。
相槌して、メインは藤くんの観察。この場でカレシを作る気はない。ここにいる人で「あたしを好きな人」がいるのならば話は別だけど、藤くんにみる余裕がない気がする。
「おれは、適当な小説読んでる。話題作とか、なんかタイトル聞いたことあるな、みたいな」
あたしとの会話でも「おれ」って言うけど、「ぼく」の方がよく聞く。それだけ本音を話してくれているだろう。そういう人は、あたし以外にはここにいないのかもしれない。
「ていうかさ、気になってたんだけど」
話題をぶった切ったのはカレシ、いや、もう違うのか。空井くんだった。
「いちかちゃんって、こういうとこ来るんだね」
「え、あたし?」
「うん。誘ってるのは聞いたけど、ほんとに来るとは思わなかった」
同意です。まともな脳を持っているなら、こんなメンバーのこんな会合なんて来るのは場違いだと判断できた。
「早めに誘われてたし、そこでドタキャンするのも悪いかなって」
「数合わせってこと?」
「それでもいいよ。全然話したことない人ばかりだし」
嘘は言っていない。
「実はびっくりしたんだよね。同じクラスだけど、そういう人だと思ってなかったし」
「野沢くんと、杏南と、柏原さんて1組か。そういうつながりで来たの?」
「壱華はウチが呼んだけどぉ、野沢くんはどういう感じ?」
「空井に呼ばれて。中学一緒で、元々陸部だったんだよ」
「え?空井くん、今はバスケやってるじゃん。めっちゃ上手いから経験者だと思ってた」
このままあたしから話題をそらしてほしいな。サポート役だと思われるように、注文とかを引き受けられるように、電話の傍に、わざわざ扉のすぐそばになるように席についたんだから。
「てかクラスで思い出したんだけど、2組の男子ってさ」
「あ、ねぇ。バレーボール準優勝!」
スポーツ大会の話か。その試合はあたしも観ていた。1年生のクラスが決勝に進んでいると、校内がざわついたのだ。準決勝戦から観てたからそのまま流れるように居座った結果、藤くんたちが3年生に負ける姿を観ることになったのだ。
「それ、俺たち出てたんだよ。ヤバくない?」
「自分で言うのかよ」
「そうなの?え、ガチで出場メンバーだったってこと?すごお」
たかくらくんも出てたのか。それは分からなかった。今日ようやく顔を認識したからだ。中間テスト前の勉強会で会ったことがあるらしいが、記憶にないのと、その後の印象が強すぎて吹き飛んでいるんだろう。
「俺らも同じ中学で、あ、空井たちとは違うとこね。で、俺らはそりゃ見事な連携で勝利をおさめたってわけですよ」
「おまえはガンガン攻めすぎるから、ブレーキ役として連れまわされたんだよ」
へぇ。男子の会話してる。やっぱり、あたしには対女子というか、フランクな言葉使いはしてなかったんだな。あれは信頼関係があると思うけどな。何かに不安を抱いているのか?
「優勝ほしかったなぁ。あそこまで行ったんだからな」
「普通にすごいことだと思うけど。1組のバレーは、女子の方が活躍してたよね」
「準々決勝に参加しただけだったもん。もっと頑張りたかったのにぃ」
「杏南って意外とイベントで勝ちたがるよね」
「勝ちたいでしょ。トロフィーって何個あってもいいじゃん」
貪欲。あたしにはない、そんな欲。




