第23話 得意を知っている高校生
心がわかるDKとわからないJK
第2章 体育祭前~合コン後
第23話 得意を知っている高校生
「終了!中央に集まってください」
女子ドッジボール、1年1組は敗退。特に活躍せず、奇行もせず、ちょうどよく途中でボールが身体に当たり外野に移動できた。こちらとしては上々の出来だが、悔しがっているクラスメイトが何人かいるのを見ると、仲良くなれないなぁと邪推してしまう。
「ありがとーございましたー」
解散。さあて、今日はもうやることがないぞお。
「壱華ー!」
あ、この声は。
「お疲れ、壱華。負けちゃったね」
「あ、うん」
「一緒にバレーしてればよかったのにぃ」
「いいよ。あたし運動神経よくないから」
万年文化部のあたしにバレーボールなんて荷が重い。卓球より人数が多いとはいえ、一人ひとりの行動を認識されやすい。そんなの、あたしにとっては処刑台でしかない。
「こっちはねぇ、1回戦突破」
「おめでと」
「応援来てね」
「はいはい」
期末テスト前の競技を決める時間、あれは空気読みの時間だった。
卓球は、現卓球部員や中学で卓球をしていた人が集められた。それで規定人数に達した。残りはバレーボールとドッジボール。ここで体育が苦手である生徒はドッジボールに流れていく。あたしもその流れに乗ろうとしたのだ。そこで物理的に腕を掴まれた。
「ね!一緒にバレー出ない?」
無慈悲な一言。期末テスト中でもこんなに怖くなかった。
その時点で、メンバーの内訳が書かれた黒板にはバレーボールの規定人数まで残り2名の枠があった。まずい。しかもすでに書かれているメンバーを見てみれば、体育祭で応援団をしていた女子と、そのグループにいることが多い女子の名前が連なっていた。
場違いである。断らなければ。
今日ドッジボールに参加していたということは、断れたという意味ではある。なのに、今隣にいる子は、今この瞬間もあたしと出場したかったと意志表明してきた。怖すぎる。
「次いつなの?」
「えっとぉ、2試合分?待つことになるよ」
「時間よめないか」
スポーツというものは予定されている時間より超えることが多いイメージがある。2試合分か。トーナメント表だけでも見に行こうかな。藤くんとか、八乙女ちゃんのクラスの同行は気になる。
「表だけ見にいこうかな」
「誰か応援したい子いるの?」
「うん。同じ部活の子」
「そっか」
うん?なんか気の抜けた返事だな。
「体育祭みたいに写真撮ってくれないから、ちゃんと見てほしいのにぃ」
なるほど?あたしが記録係の役目を担ってないから、見に来る理由を用意しようとしてるんだな。友達なら来てくれるでしょ?てきな。
「実際に開催されて思ったけど、競技の展開なんて予想できないから確実に動ける時間が確保できないし、カメラを体育館の床に直で置くわけにもいかないよ」
「勝ったら写真を撮る時間がないし。いつ負けるかなんて、考えたくないもんねぇ」
「写真は諦めて。今日カメラ持ってきてないし」
「ね。ウチも今日のカバンすぅごく軽くてびっくりした」
よし。別の話題になってきた。
「あ」
「え、なに?」
え?もう別の話題になる?
「練習するって、言われてたぁ」
「は?なにしてんの。早く行きな?時間は?」
「な、南体の、11時、くらい?」
「あと3分じゃん!あの時計信用できないよ?もう」
どうせバレーボールのトーナメント表から見ようとしてたし、この子送るか。仕方ない。
「はい、行くよ。先輩があそこ使ってるから、それに乗じよう。いいね」
「壱華ぁ」
「なに?」
「一緒に謝ってぇ」
「謝る前にたどり着くの!」
なぜこの子が遅れたことに対して、あたしが謝罪しないといけないのか。絶対に嫌だ。
「ほら行こ」
「うん……」
花が萎れた様子。この子は1年で何回花を萎らせるのだろうか。
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謝罪は回避できた。練習とやらに間に合って、全身でありがとうを表現していたため、体育館内で大変目立った様子をお届けしていた。視線がこちらに集まった気がするが、気のせいにしておこう。トーナメント表を見よう。
「あれ?柏原ちゃん?」
「え?」
声を掛けられるとは思わなかった。この呼び方は同じクラス?いや、写真部の誰かだな。
「相田ちゃん?」
「どした?誰か見にきた?」
「3組と4組の状況を見に行た」
「自分のクラス見ないんだ」
たしかにそうである。あの子が出ているが、本人から大体の情報を教えてもらってるし、別にいいかというのが素直な意見である。
「うちは負けた。先輩たち強いねぇ」
「まだ出会って4カ月の集まりと、1年くらいは付き合いのある人たちで比べたらそうなるでしょ」
「正論。3組は今やってるよ。なんか接戦」
「……相田ちゃんはバレー?」
同じ部活で、同じ学年。期末テスト前には勉強会もして、それなりに仲良しに見えるはず。だが、スポーツ大会の出場競技は知らなかった。
「ううん。ドッジボール。1試合目で勝った」
「おめでと。こっちは負けた。応援しに行くよ」
「ありがとー。3組はどうだろ。濱辺ちゃんもドッジボールだったよ」
そっか。人も多かったし、決して広い体育館とは言えない。人が密集していたプラス、あたしの顔を覚えられないが悪い方向に働いて、誰がいるか分からなかったんだろうな。
「あれ?八乙女ちゃんは?」
「卓球」
「へ?」
「中学は卓球部だったらしいよ」
知らなかった。普段、推し活やら布教やら、そういう話が多いし、写真部は体育が好きな人が少ない印象があった。まさか元卓球部だったとは。
「見に行かない?」
「行く」
「即決ぅ。いこいこ~」
一人で観戦することにはならなそうだ。ぼっちのレッテルを避けられる。助かった。
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「どこの部活!?卓球部入らない?」
「見学にもいなかったよね!?」
人だかりの中心は見えないが、探し人が見当たらないため、あの中心にいる可能性が高くなっている。さあて、他に知り合いがいるか確認するか。
「あれ?その2人は珍しいね」
「濱辺ちゃんもここに?」
「うん。八乙女ちゃんが出てるからね。2人もそんなかんじ?」
「そ。で、当人あそこにいるよね」
濱辺ちゃんは静かに頷いた。話し声が大きいので大体の予想がつく。現在写真部の八乙女ちゃんは、卓球部に所属していない。だが今はスポーツ大会の競技として卓球に参加している。部活に入っていないのにできる人がいると、良い意味で目をつけられたのだろう。
「助ける?」
「どうやって」
「うん、ごめん。無謀だったかも」
柔らかい顔をしている濱辺ちゃんが、真剣な顔で言ってる。
「大丈夫かも。ほら」
相田ちゃんの一言で、再度あの人だかりを見た。隙間が見える。人が減ったのか。
「みつは強いねぇ」
「心配しなくてよかったね」
「うん」
羨ましい。八乙女ちゃんに対してそう思うのかと、自分で驚いている。
「八乙女ちゃんさ、こっち来てない?」
「え?つよ」
2人の会話でマイナス思考が途切れた。八乙女ちゃん、逃げてこれたのか。
「みんな!観に来てくれたのー?」
「写真部の絆よ。打ち合わせなし」
「まじでぇ!?うれしー!」
「てか知らなかったよ。4組の友達から聞いてさ、卓球なん?て来た」
あそこで相田ちゃんがいなかったら、あたしも知らないままにドッジボールとバレーボールの会場を行き来していただろうな。
「みんなドッジ?」
「もち」
「私もそれがよかったなぁ。道具が一式揃ってたもんでさ、やっちゃったよね」
「勝ったの?」
「勝っちった、えへ」
このまま優勝、なんてこともあるのだろうか。勝ったってことは2回戦目は観れるのかな。
「応援するよぉ。次いつ?」
「えっと、あれ見れば分かるけど、みんなは?大丈夫?」
「4組、ドッジボール勝ちました」
「3組ドッジボールは負け。3年生強かった」
「1組のドッジボールも負け」
相田ちゃんのところの1年4組のドッジボール、自分のとこの1年1組のバレーボール、八乙女ちゃんの卓球、行くところ多いな。
校内でスマホが使えないから、トーナメント表も時間も簡単に確認できなくて、試合開始の連絡すら簡単じゃない。あ、藤くんのところはどうなんだろ。
「卓球の方は暇だったら観に来て。現役部員にあっけなく負けてるところ慰めてよ」
「フラグですか?」
「え、負けフラグ?勝っちゃうフラグ?」
「準優勝フラグ」
「リアルすぎんかー?」
あ、いつもの写真部のテンションだ。
「そういうわけですー」
いきなり八乙女ちゃんが後ろを向いた。先ほどまでいた人だかりはまだ残っていたのか。
「写真部一筋なんで、浮気しませーん」
その一言で人だかりは消えていった。卓球部員はこれで諦めたようだ。
「かっこいいこと言うじゃん」
「だしょ?」
「……前に、推し一筋だから浮気しないって言ってたけど、八乙女ちゃんの一筋って何本あるの?」
「マジレスしないで!」
「壱華ちゃん、八乙女ちゃんの推しって20人はいるから、あたしらが入っても誤差だよ」
それで何を喜べばいいんだ?
「卓球さ、まだ時間あるしどっか行きたいんだけどなんかあるかな」
「ドッジボール観にいく?今どれくらいか知りたいし」
「さんせぇ。いこいこ」
「のど渇いた」
唐突に喉が渇いた。ここで一番近い水道ってどこだ?
「こっからだと……結局ドッジボールのとこまで行かない?」
「教室は?案外近いよ」
「そうする。先に行ってて」
他3人はドッジボールの会場の方向に歩き出した。あたしは教室に行こう。体育祭のときに藤くんを呼び出したところを通過し、自分の教室まで小走りになる。教室には誰もいない。サボる人いないんだな。お昼休憩まで時間あるし、ちゃんと水分補給をして、来た道を戻りたいけど、トーナメント表まで見にいくんだったら。別の階段まで言った方が近いか。じゃあ、来た道とは反対方向に行って、あぁ、まだ写真飾られてるのかな。
「あれ?」
人がいる。高校指定の体操着を着ているから生徒?てか、あの写真の前にいない?
「ん?」
しまった。他に誰もいないから、廊下にあたしの足音がめっちゃ響いた。気づかれた。お邪魔するつもりはなかったんです。
「……柏原さん?」
「部長?」
なんで部長がここに?写真見てるの?
「スポーツ大会、行かないんですか?」
「あ、うん。まだ、時間あるから」
これは、サボりかな。
「掲示された写真、ゆっくり見てなかったから」
これは本音っぽい。
「うーん。もうちょっと、多人数が写っているものを選べばよかったかな……」
真剣に評価している。あたし、お邪魔してますよね?
「柏原さんは、自分の写真に満足してる?」
意見をふられた、どうしよー。
「満足は、してないです。自分のレベルが低いことは分かってるし、結局きれいに見えるのは何故なのか、分からないままなので」
「そんな不安にならないでいいと思う。始めたばかりなんだし、これから、だよ」
励ましてくれてる。純粋に受け取ればいいんだろうけど、この人今最有力候補なんだよな。
「文化祭のときは、また頑張ろうと思います」
「そのときは何枚か選べるし、夏休み中にでも撮ってみればいいんじゃないかな」
体育祭の後の品評会は、練習らしい。写真部の目標として、文化祭の写真部の展示を行うことが含まれている。そこで飾る写真は、部活に入ってからの成果発表というわけだ。なので、文化祭の前はカメラを眺めながら「これ?いや、こっち?」と良い作品を選んでいき、他の人からの意見を仰ぐ機会が設けられるそうだ。それも品評会と呼ばれている。
「……あの、柏原さん」
「はい」
今度はなんだ。
「いくつか話したいことがあるんだけど」
いくつもあるの!?
「まずは、チョコ、おいしかったです」
「あ、好きな味でしたか」
「うん。ちゃんと袋が閉じるものを選んでくれて、助かりました」
「いえいえ」
体育祭前の練習会のお礼は、壁に飾られている写真を印刷し部室に持ち込んできたときに渡した。戸惑っているように見えたが、嫌いな味ではなかったらしい。
「期末テスト、もらったチョコ食べながら乗り切ったから」
「ちょうどよかったですね」
変なこと言わないように。ここで何か幻滅されたら、せっかく見つかった候補を手放すことになる。それは避けないと。
「それが、1つ目ですか?」
「うん。もう1つは」
部長があたしを見つけてからは、体ごとこちらを向いていたのに、壁の方に視線が動いた。
「さっき、満足してないって言ったこの写真さ」
写真のこと?アドバイスしてくれるのかな。
「写っているリレーの選手、知り合い?」
「え?」
なんでそうなった?同じ学年、いやクラス内でも接点があると思われていないはず。お互い気をつけているはずなのに。
「いえ。黄軍ってことは、隣のクラスではあるんですけど」
嘘を言うけど、事実も言う。でもこれ以上余計なことを言わない。
「そっか。少なくとも顔見知りだと思ってたんだけど」
「なんで、そう思ったんですか?」
「柏原さんたちの言葉を借りて、はっきり写っているから」
それと繋がってくるの?詳しく聞いておこうかな。
「やっぱり、知らない人と知っている人だったら、知っている人の方がきれいに撮れると思うんだよ。撮影しながら個人的な質問をして、相手を知っていくプロとかいるしね」
「へぇ。そうなんだ」
「たぶん、柏原さんも同じことが起きてるんじゃないかな」
そういえば、体育祭後の品評会で、相田ちゃんも同じこと言ってたような。
「だから、写っている選手も知り合いだと?」
「うん。でも違ったみたいだね」
ここで「実は~」なんて言えるわけない。偶然ということにしておこう。実際、偶然良い写真が撮れた可能性は大いにある。
「そっか。たまたまだったのかな」
「そうですよ。あたし、そんな上手くないですし。あ、でも部長に教えてもらったので、消したい写真自体が少なかったです。似たようなもののどちらか選ぶために消去したのが多かったので、基礎はできたのかと」
ヘマしない。ヘマしない。ヘマしちゃダメ!
「……そう。よかった」
よし、微笑んでる。たぶん大丈夫。
「あ、時間とってごめん。出番はある?」
「いえ、自分のは1回戦目で負けちゃったので、友達の観るだけです」
「そっか。ボクはまだここにいるから、友達と合流して」
「はい。失礼します」
後輩として失礼がないように、女子っぽくここを去ろう。女子っぽくってなんだ?
あんまり足音立てずに、走ろう。みんなを待たせてしまった。




