第22話 パスタが美味しいJK
心がわかるDKとわからないJK
第2章 体育祭前~合コン後
第22話 パスタが美味しいJK
さっき、パスタが運ばれたときに、飲み物は2人分届いていたので、藤くんは自分が頼んだ飲み物を一口飲んだ。
「あ、さきにどうぞ」
「まだ食べない。ちょっと熱いんだよね」
「猫舌?」
「ううん。熱いものを食べる気分じゃないだけ」
少し待てば藤くんのハンバーグも運ばれるだろう。嘘ではないが、自分が先に食べているのはあまり気分が良くない。家族相手だったら全然食べるけど。
「そういえばさ、2組でもスポーツ大会の競技決めた?」
「うん。バレーに出る」
「あたしはドッジボール」
「卓球だと思ってた」
期末テストの後、夏休みが始まる前に行われるスポーツ大会。3つの競技に分かれ、クラス単位で競うそうだ。バレーボール、ドッジボール、卓球。全競技優勝なんて意気込んでいるが、それに乗るつもりは一切ない。
「卓球やったことないもん。中学の体育くらい。で、バレーはトス?が上手くできない。だったら逃げ回るだけでどうにかなるドッジボールでしょ」
「そういうことか。あんまり動き回らなくていいからって理由で卓球だと思ってた」
「1対1の競技じゃん。大勢に紛れられる方がいいです」
「納得できた。ふふ」
何を笑っている。愛想笑いするんだ、とか言っているが、こちらからすれば藤くんの方は案外笑う。ちゃんと、心から笑っている。
「お待たせしましたぁ、ハンバーグです。ご注文は以上でしょうか」
「はい、ありがとうございます」
「では、ごゆっくりぃ」
そんなに待たなくても大丈夫だったな。早めにカフェに来たことも功を奏したんだろう。
「じゃあ、いただきます」
「い、いただきます」
ちゃんと手を合わせる人だ。前にポテトを食べるだけの時もちゃんと声に出していた。ないがしろになってもおかしくない年頃だろうに。あたしが言うのも変か。藤くんにつられて手を合わせた。
「カフェってあんまり来ないけど、ちゃんと量があるんだね」
「物足りない?」
「うーん。昼ごはんにしては早い時間だから、これくらいで充分かな」
男子高校生が日々どれくらい食べているかなんて想像がつかない。たくさん食べるイメージはある。お弁当を2回食べているクラスメイトを見たことがあるからだ。
「ん、おいしい!」
「ハンバーグも美味しいんだ。いつもパスタなんだよな」
「パスタも美味しそうだね」
他愛のない会話。傍から見ればカップルだろう。だが、あたしたちの間にあるものは、協力関係の4文字。表すならそれが一番近いと思う。
「食べながらでいいから、最近感じたこととか、分かったこと考えてよ。腹ごなしにしよ」
「腹ごなし……?」
頭の運動も糖分を使うんだから、エネルギー消費ってことでいいでしょ。
「前提として聞きたいんだけど、顔を認識したら分かるの?」
「基本はそう。でも今回みたいにちゃんと顔を認識していないのに分かることも少なくない。個人の顔のパーツを認識してなくても、眼がこっちも向いているとか、口が開いているくらいの情報が分かっているからじゃないかなって、推測」
「具体的。そんなに試したの?」
「うん。小学校のときは、楽しかったから」
小学校のときは、ね。思春期も反抗期よりも前ってことは、純粋に楽しんでいたときはそう簡単に戻ってこないんだろうな。
「全身を視ても分かるときはある。でも結局、顔が視えてることには変わりないし、どこかに行きたいって考えの補足になるとか、身長が足りないからできないんだなとか、そういうことが多いかな」
「あくまで情報の補完ってわけね」
「うん。首から下だけ視てもわかることは少ないよ」
重要なのは顔ということか。表情という可能性もあるけど。人を視界に入れる場合、顔だけが入らない状況というのは難しい。自分より背が高い人だって、触れるくらいに至近距離だったら見えないだろうけど、そんな距離でいること自体そうそうない。
『目は口程に物を言う』なんて言うくらいだから、視線とか顔の筋肉の動き?みたいなものでおおまかな予測が立ったとしても、藤くんはばっちり言い当てて来る。怖いくらいに。
「……感じたことで言えば、ひとつあって」
「うん」
情報だ。しっかり聞こう。
「体育祭のときに、中学からの友達を“視た”って話をしたの覚えてる?」
「もちろん」
その件も不思議だ。みることができるなら信頼できる人を選ぶことだって簡単なはずだ。あたしみたいに。ましてやお人よし疑惑があり、天然である藤くんが、中学からの友達に言わない理由も気になる。
「この視えることを、そいつに言えない状況が、すごく苦しかった」
「……」
「言えたらいいのにって、柏原さんみたいに、馬鹿にしないって。たぶんそいつも馬鹿にはしてこないはずなんだよ。嘘だとか、冗談やめろよとか。でも言えなかった。今思えば、チャンスだったんじゃないかって」
「……逃したことが苦しいの?」
藤くんは、自分を変えようとしてあたしに話してきた。その勇気は称えよう。でも、1度勇気を振り絞ることができても、もう1度できるとは限らない。2度目に絞っても、そんなに量が出てこないかもしれない。
「そのときに言えなかったことが。だから熱中症疑惑をかけられたんだろうね。上手く口が回らなかったし」
「勇気がでなかったことの方が、苦しかったと」
「うん。後から『あれはチャンスだったんじゃ?』とか考えても、結果論でしょ?」
「それはそう」
冷静だな。気分が落ち込んでいたのは事実だろうけど、体育祭当日は見つけたこととか、リレーで走ったとかで、お友達さんくらいしか変だと思わなかったんだろうな。
あれから1週間は経っているし、本人も落ち着いている。話を聞き逃すな。
「自分でもびっくりしたんだ。高校生になったんだし変わんなきゃって決心して、行動してるけど、あいつに言えないんだって」
「……そうだね」
パスタを食べる手が止まる。
どっちかによるな。「伝えたほうがいい」と考えているか、「伝えたい」と思っているか。
現状の感想は後者寄り。でも前者の可能性も捨てきれない。選択肢を絞る方法は……。
「……」
「……ふふ」
「なに?こっちは真剣なんですけど?」
「ごめん。食べてるから、続けてください」
向こうはハンバーグを食べている。
選択肢を絞る方法。前者と後者の違いは、最良の選択を取るか願望を優先するか。話している感じ、ただの友達だったらそこまで考えていない気がする。そのお友達だから苦しくなっている。……お友達の特定をしてみるか。
「あのさ、ちょっと話が変わるんだけど」
「え、はい」
「その、中学からの友達って……なんだっけ?たか?たか……」
「なんで、知ってるの?」
ハンバーグを食べる手が止まった。こっちはオレンジのフレーバーティーを一口。
「合コン」
「……あ、そういえば呼ばれてるんだよね!?」
「うん。なんか、藤くんともう一人確定したって話を聞いたの」
「柏原さん、そういうの参加するんだね」
「流れと、主催がテキトウな性格しているせいと、コレが始まる前だったから、チャンスかもしれないって思ってたんだよ」
人差し指であたしと藤くんを交互に指さす。2往復はした。
「あー……」
そっちもか。そうだよな。あの2人だもんな。
「本題はね、もう1人って、その中学からのお友達さん?」
「はい。そうです」
「名前、たかであってる?」
「高倉。前からたかって呼ばれることは多いよ」
そういう情報もすんなり出てくるってことは、あたしみたいに中学では接点なかったけど高校から話し出したケースではないってことだ。
「この話、保留にしていい?判断材料が足らない」
「……途中経過を聞いてもいい?」
「えっと、1つがそのお友達と実際に会話しているところを見て、どういう友人関係かをはっきりさせたい。これは藤くんの主観じゃなくて、第三者の視点で」
「うん、わかった。他にもあるの?」
「お友達さん以外との会話の仕方も見たいかな。あたしたちって言っちゃえば利害の一致で話しているでしょ?あたしに向けた話し方と、友達への話し方があると思うの」
柏原壱華は分かってくれる。柏原壱華は藤くんにお願いをしている。
だからあたしには話してくれる。今はそう仮定しておこう。
「で、ここで提案です」
「はい」
「お友達さんとの会話、その他の友達との会話も、突然隣のクラスのやつが聞きにきたらとても不自然でしょ?」
「まあ?そうだね」
カノジョの方が遊びに行ってるが、そこについていく気などない。
「ただ、幸か不幸か、あたしが聞ける自然な状況が、すでに用意されています」
「?」
「合コンって、あたしたちとたかくら?くん以外も来るでしょ?」
「あ!」
まだ他のメンバーが決まったわけではないが、恐らくあのカップルの人脈から選ばれる。なら、仲が良い友達と、見知ったクラスメイトと、初対面の人という条件が成立する。初対面の人がいるかは定かではないけど、最低条件は揃う。
「というわけで、期末がんばろうね」
「うん!……うん?」
「期末で悪い結果になります。1学期の成績が悪くなります。そうすると?」
「……夏休みに夏期補習が入る」
成績が振るわなかった人向けに補習が行われることは、全校生徒に周知されている。そんな面倒ごとを回避するためにも頑張るわけだが。
「補習が入れば、部活も、合コンにも支障をきたすかもね?」
「合コンのために、期末がんばらないといけないのか……」
「そうじゃなくても嫌でしょ、補習なんて」
「そうなんだけど!」
あたしが考えている間笑いをこらえていた藤くんは、今眉間に皺を寄せて苦しんでる。
おもしろ。パスタ食べよ。
「わかった……」
「苦虫噛みしめてないで、ハンバーグ食べたら?」
「はい……」
一口でかいな。口に運ばれたハンバーグに思った感想だ。
「あと、スポーツ大会は頑張らない方向で」
「え?」
「あたしたちが参加する競技がバラバラだし、最有力候補の人が参加する競技を知れる機会すらない。事前にできる打ち合わせもなにもないので、頑張らないってことで」
「いいの?」
「うん。藤くんのことを保留にするからね。これ以上藤くんに功績をあげられても、お礼に困ります」
正直、今日だって収穫はないようなものだ。保留にした分、合コンのときは頑張るけど。
「部長さん以外にもいるかもしれないから、視るだけならやるよ?同じ中学の先輩とか」
「あたしがその先輩の顔を覚えているとでも?今日の藤くんのことを忘れたわけ?」
「すみません」
あたしの顔を認識できない力を舐めないでいただきたい。
「あと、藤くん自身がどう思っているかってのが一番気になるところだろうけど、分かんないね」
「それこそ、すぐに分かるものでもないんじゃ?」
「ね。こっちも藤くんの普段の様子を見たら分かるかもしれないけど、クラス変えるわけにもいかないでしょ」
「そんなことしたら、目立っちゃうよね」
実現不可能なアイディアを出してるんだから、本気で返事しないでよ。
「今考えられるのは、こういう風に定期的に話す時間を設けること。定期的じゃなくても、藤くんが何か変化というか、言語化できることがあればその度に聞く機会を作る」
「それが効率的ではあるよね」
「これの問題点は、ちょうどよく話せる場を作れるか、藤くんが自分で自分の気持ちを話してもらわないと成立しないので、恥ずかしくないか、かな」
「……恥ずかしいとは思ったことないな」
今まで話し合ったときって、だいぶ恥ずかしいことやってたよね?主に藤くんが。
思春期の男子高校生が、同い年の女子高校生に、自分の感情を吐露するって、勇気がいると思うけど?恥ずかしくなったわけ?わかんねぇな。
「じゃ、じゃあ、場所の問題だけ考えておこう。期末テストを乗り切ってからね」
「あ、はいぃ」
合コンのためにテストを頑張らなきゃいけないのはいやみたいだな。
ゆっくり食べていたパスタ、途中でスピードが落ちてあたしと同タイミングでなくなったハンバーグは、こちらを注意し続けていた人によってお皿を回収された。
それからは真面目だった。主に数学を進めて、一緒に化学基礎も進めた。かなりの時間を使ってしまったため、帰り際に丁寧に挨拶をして家に帰る前、藤くんが情報をくれた。
「3年もたないよ、たぶん」
とてもありがたい忠告だった。




