第21話 デートではないと主張したいJKとDK
心がわかるDKとわからないJK
第2章 体育祭前~合コン後
第21話 デートではないと主張したいJKとDK
「全員がやってるわけではないだろうけど。クラスごとにトーナメント形式でやるから、早くに負けちゃった人はやることなくなるんだって」
『……部長との接触のチャンス?』
「まあ、クラスが違うし、参加する競技もまだ分かんないから、上手く動けるかは保証できないけど」
サッカー部の先輩から聞いた話はこうだ。
年に2回、夏休み前と春休み前に開催するスポーツ大会。競技はその時々で変わるらしい。
生徒は参加する競技に集中すること、とあるが観戦は自由。各競技を行う会場の移動はもちろん、校内にある自販機で飲み物の購入、教室への出入りも自由。教室で休めるくらいには、生徒たちに移動制限が設けられていない。たまに先生が見回っているらしいが頻繁には来ないらしい。
流石に、スポーツ大会に関係のない化学室とか美術室には鍵がかけられていると思うけど、要は、想像以上に自由である、ということだ。
「これを活用することは確定しなくていいと思うけど、動けるようにするんだったら。期末テストより前に、お礼?をした方がいいんじゃないかな」
『そうだね。まあ、何をするかは藤くんの一存って感じだけど』
「してほしいこと?うーん」
正直いって、急な提案すぎて何もアイディアはない。前提として、柏原さんが何もできていないなんて微塵も考えていなかった。たまたま、ぼくが見つけることができただけというか、それも最有力候補にはなっているが確定ではない。
「難しいな。そもそも、ぼくのお願いって、柏原さんと会話する必要があると思うんだよね。ぼくが話して、柏原さんが聞きながら、こう、分析?判断する手間というか」
『じゃあ、前みたいに1対1で話せる機会を作る?』
「……抵抗ないの?」
『何に抵抗する必要があるの?』
ぼくが言ったことも、柏原さんの言ったことも正しい。ただ、これは……。
「前から思ってたんだけど、男子と行動するのに抵抗ないんだね」
『藤くんは例外すぎるでしょ。他の人から勘違いされるかも、の意味が違うじゃん。付き合ってると思われたくないんじゃなくて、接点すら隠そうって動いてるでしょ?』
余計な詮索はいやだ。柏原さんのことがなくても、ぼくのこの面倒なもののせいで、みんなの視線が変わるなんて、想像でも嫌だ。だから隠してる。それもあって、2人で話す時間や場所には慎重になってしまう。それが原因で1週間も連絡することに足踏みしてしまったわけだけど。
「うーん、場所はどこがいいかな」
『藤くんって、放課後は疲れてる感じ?部活大変でしょ?』
「そうでもないよ。まあ、あんまり遊ばないで家に帰って、友達から借りた本読んだりとか、今はあれ、英語の単語を調べてた」
『あたしと似たようなもんか。家に帰る時間が違うくらいだね』
写真部って毎日やってるわけじゃないんだよね。柏原さんも、遊びに行くタイプではないのかな。自発的ってより、友達に連れられてみたいな。
「放課後に集まるなら、期末のテスト期間は?部活休止になるし」
『勉強しないでいいの?』
「ま、したいけど、集まりやすいていう意味で」
『……案外悪くないかも』
なにかひらめいたのかな。
『勉強会をしよう』
「……あ、なるほど」
勉強をする名目で集まるのか。実際に教科書とか問題集を広げていれば、誰かに見つかってもある程度誤魔化せる。
『どう?にしたって、場所はちゃんと選ばないといけないけど』
「いいね!あ、数学教えてほしい!」
『なんで覚えてるの?あたしの得意教科の情報なんて』
「勝手に視てたときの情報だから、言わないように気をつけるため」
視えてしまったときは大変だ。ぼくが知りたくて“視た”ときは、少し情報を出しても驚かれるだけで済むことが多い。それでも、全部を喋ったことはない。会話をスムーズに、問題を回避するために活用できるからだ。でも、思わず“視えて”しまった情報を誰かに話すのはとても危険だ。やらかしたこともある。あれは面倒だった。
『たいへんですね』
「心こもってる?」
『社交辞令』
高校生の会話で社交辞令って必要なのかな。あと社交辞令って言っていいのかな。
『勉強会の件はいい?そのときに話し合い……ちょうどいいから作戦の途中会議にでもしようか』
「うん。あとは何かある?まだ、謝りたいことはないよね?」
『ないです。じゃあ、良さそうな場所見つけたら連絡して』
「はい。また」
『またね』
通話は終わった。通話を提案されたときからそんな予感はしていた。柏原さんは手短にテキストをまとめるタイプだろう。絵文字もスタンプも使わない。とても簡潔。
そんな柏原さんが通話をしようなんて、何かあったのではないかと身構えていた。実際、柏原さんに何か起こっていた。ちょっと面白かったな。
柏原さんって、あんなに動揺するんだ。
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6月の最後の日曜日。午前11時。今あたしは、待ち合わせをしている。
「お待たせ!」
「さっき来たから大丈夫」
気遣いではなく本当にさっきこの場所に到着した。待ち合わせ相手である藤くんは自転車で来たから、大変だったのはそちらの方では?
「……」
「なに?ぼく、なにかついてる?」
「いや、私服で会うのは初めてでしょ?ちゃんと藤くんだって認識できるか少し不安だっただけ。案外すぐにわかったけど」
「そろそろ、ぼくのことくらいは覚えてる自信をもってほしいな」
まったくもってその通りである。
「自転車おけるかな」
「大丈夫だと思う。駐車場はそれなりにあったはずだから」
今日は、勉強会をするために集合した。嘘ではない。カバンの中には財布とスマホみたいな、外に出かけるときに必要なもの以外に、教科書と問題集とノート、筆記用具も入っている。カフェに行くにしては大荷物なんだよね。
「ここ」
「へぇ、きれいなところだね」
あたしと藤くんの2人で勉強会をするのに最適な場所として、ここを選んだ。このカフェは母の友達が経営していて、子育てがひと段落ついたのをきっかけに始めたそうだ。何度か母に連れられて来たことがある。
「本当に、大丈夫なんだ?」
「母経由で予約とったし、大丈夫でしょ。基本的にあたしがメインで話すから」
藤くんの自転車に鍵がかかった。入り口のドアをくぐると、チリンと音が鳴る。
「いらっしゃいませ~、あら、壱華ちゃんじゃない」
「こんにちは。予約した柏原です」
「もうそんな時間だったのね。ゆっくり使ってもらってだいじょうぶよ」
「忙しいのにすみません」
「いいのぉ。お母さんにはお世話になってるからね」
あたしが顔を覚えているくらいには接点があり、小さい頃からこの人はこの喋り方である。
「予約席にご案内します」
「おねがいします」
ここまで藤くんは喋っていない。その方がありがたい。今は、勘違いをしてもらおう。
「では、ごゆっくり~」
お水とカトラリーを置いてもらい、メニューが目の前に置かれた状態で、あたしたちは2人になった。
「みた?」
「うん。いいの?放置して」
「いいよ。どうせ、壱華ちゃんも高校生だもんね、お母さんには内緒にしておくからね、とか考えてたんじゃない?」
「当たりです」
母には「友達と行きたいんだけど、予約をしてもらえる?」と言い、実際に「娘が友達と2人で利用するの」と話しているところを見ている。
実際にその娘は、同じ年頃の男の子を連れてきた。余計な勘が働くのは目に見えている。ちゃんと勉強会をしていれば、本当に友達なのかもと考え直すかもしれないが、その可能性は低いと思う。わざわざ2人で来ているのだから、特別な関係だと考えるのが多数派の意見だ。まあ、特別な関係であることは否定できない。
「たぶんあの人、しばらくは黙ってくれると思うよ」
「しばらく?」
「3年後とかに、実は~とか言って話すタイプ」
本当に3年後にやってくれれば問題はない。今をどうにかできれば、お咎めもしない。
「噂好き、恋バナ好きの奥様って感じだね」
「それ。今日はなるべく教科書やら開いたままにしよう。ごはん食べる時以外は」
「わかった。勉強会だもんね」
「ごはんはどうする?先に決めとく?」
そう言いながらメニューを開き、藤くんにも文字が読みやすいように置いてみる。
「……ハンバーグおいしそう」
「あ、ここ紅茶が売りなんだけど、飲める?」
「うん。コーヒーも紅茶も飲めるよ」
事前に確認しとくべきだった。紅茶のストックがない家があるんだと、同級生の会話で知った。うちは断然紅茶派だ。それもあって、このカフェにもお世話になっている。
「あたしは……今月のパスタってやつにしようかな」
「ふつうにおいしそうでびっくりした。帰ったら教えようかな」
「ただでさえ、あたしの母が来る可能性があるのに、自分の親も巻き込むわけ?」
「止めておきます」
バレたくなかったら、ここのことは教えないほうがいい。これからもここを使うつもりならなおさらだ。
食べたいものはあっという間に決まったので注文を済ませた。あの人の顔がいつもより笑っていたような気がしたが、藤くんも同じ感想を言ってきたので勘は当たったようだ。
「どうする?先に勉強する?」
「話し合い中に運ばれて、内容聞かれるのマズいんじゃない?」
「たしかにそう。じゃあ、勉強しますか」
バッグから数学の問題集と授業中の板書用ノート、筆記用具を取り出す。
それから15分程度は普通に勉強をした。藤くんもあたしも、そこそこに問題集をこなしていた。「勉強してないよぉ」と言うが、努力はする。その努力が実るかは定かではない。教えてほしいと言われたが助けが欲しい状況には思えなかった。
「これで分かった?」
「うん、大丈夫!ありがとう」
「藤くんって2組だよね?」
「うん。隣のクラスだよ」
あの噂が本当だとすれば、2組も理系よりのクラスであると推測できる。藤くんは化学が得意なのかな。
「ちなみに得意科目は?」
「……中間は、現代文が1番高かったよ」
「え?」
「え?」
まさかの文系?噂は結局噂だったってことか。
「いや、あの、2組も理系クラスなのかなって思って」
「あ、なんか言われてるよね。たぶんだけど、入試の時は理系が高かっただけなんだと思う。現代文ってほら、そんなに頑張らなくてもなんとなくで点数取れそうじゃない?」
「あー……」
その理由は納得できる。日本人なんだし、という謎の自信でテストに挑んだ生徒を何人か見ている。顔なんて覚えてないが。
「数学、そこまで重く捉えなくても、なんとかなるレベルだと思う。あたしが言うのもなんだけど」
「そうかな。別に、理系が得意って自覚はないよ」
「ゆうてあたしも自信はないよ。期末難しそうじゃん」
「範囲広いよね」
そんな学生の話をしていたら、パスタが届いた。一緒に頼んだ紅茶も来て、勉強会は一時中断になってしまう。
「勉強してるのぉ?」
「はい、期末テストが近いので」
「あぁ、もうそんな時期なのね」
「休日のお昼時に占領しちゃってすみません」
「いいのよぉ。頑張ってねぇ」
向こうが勝手に気を利かせて、食事を運んでくるのはここの経営者になっている。
「……」
「ハンバーグはまだみたいだね」
「あ、うん。そうだね」
「?……なに」
藤くんが、分の悪そうな顔をした。あれか?またみたのか?
「なに?正直に言ってくれないと、藤くんの方が進まないんだけど?」
「いや、それとは直接関係ないから!」
「なんで藤くんが判断できるの。自分のことが分からないから、相談してるんでしょ?」
あたしは間違ったことは言ってない。
「……お、怒らないでほしいんだけど」
「はい?」
「すでに怒ってるよ」
「わかった、聞くから」
何を言いただすつもりだ?
「柏原さんって、愛想笑いする人だったなぁって」
「……はい?」
いや、最低限はしますが?余計なトラブルに巻き込まれるかもしれないって判断できるんなら、避ける一択でしょ。そのために笑うことだってするよ。満面の笑みができてるとは思わない。ただ笑ってると認識されても、これは愛想笑いだと悟られてもどちらでもいい。
あたしは避けられるならどちらでもいい。
「いや、あの、この前の通話のときもさ、思ってたんだけど」
「なに?」
「ぼく、柏原さんが笑った顔より、困った顔の方が想像しやすいんだなって」
「自業自得では?」
藤くんに対して愛想笑いをしていた時間は短い。中間テスト前の勉強会中と、その後の奇妙な打ち明けをしたまでの、本当に短い時間。放課後から家に帰るまでの1日にも満たない。あたしから愛想笑いという行動を排除させたのはそちらでしょ。
「このカフェに入って、あのオーナーさん?と話している間は笑っているよなぁって」
「そりゃ、ここではよそ行き顔してますとも。藤くんには笑ってないから、その顔を見せないように今はキッチンに背を向けているでしょ」
「そういうことだったの!?」
声がでかい。そんなに驚くことか?
「バレないようにしてね。一応、良い子で通ってるから」
「は、はい……」




