第20話 謝って困ってかしこまるJK
心がわかるDKとわからないJK
第2章 体育祭前~合コン後
第20話 謝って困ってかしこまるJK
疲れた。今日は疲れた。同級生からも先輩からも、褒める形をしてはいるだけの、ただのイジリだった。
明日も同じことされるのは嫌だな。落ち着いてほしいな。
「お疲れ様でした」
「おぉ、藤。おつかれー」
部室の施錠を担当する先輩に声をかけ、玄関に向かう。外で部活をしているとはいえ、部活中に履く靴でそのまま帰るわけにはいかない。登下校のときに履く靴に履き替えて、閉校時間までに自転車を運んでこなければ。
「このままコンビニ行く?」
「え?バスは?」
「いつものより1本遅く帰るつもりだったもん。付き合わせてよぉ」
女子の声だ。気のせいかな?柏原さんの声が聞こえたような?
「あ」
「あ」
本当に柏原さんがいた!え!?この時間に会うことってある!?
「どした、かじわら」
「あ、その、ぶつかりそうになって」
柏原さんがぼくのことめっちゃ見てる。話を合わせろってことかな?
「ん?……ねぇ」
ぼくに声をかけている?柏原さんと一緒ってことは、写真部の人かな。
「リレー出てた?」
「え」
「ほら、さっきの写真の人じゃない?」
「え、マジじゃね?」
何の話だ?写真部の人なのは確定かな?
「あ、はい。リレー、出ました」
「黄軍でしょ?めっちゃ良い写真撮れたんだよ、この子がね」
僕がリレーに出場していたことに気づいた女子生徒は、柏原さんの肩を掴んでいた。
「あ、えっと」
「素材提供ありがとうございましたー」
柏原さんが、ぼくを撮ったってことかな。そっか。ぼくを避けて撮るのは難しいって言ってたもんな。それにしても、柏原さんの顔がどんどん険しくなっていく。
「ほら、時間!コンビニついてくるんでしょ?」
「はーい、おじゃましましたー」
嵐とまではいかないけど、突風くらいの騒がしさだったな。
あとで、柏原さんが撮ったっていう写真を見せてもらおうかな。帰ったらメッセ送ってみよう。
たかに見つからないように自転車の鍵を外し、そのまま逃げるように帰宅した。あいつからメッセが飛んできているような気がするが、家に帰るまで気づかなかったと言っても嘘にならないと思うことにした。
予想を裏切って、たかからのメッセは来なかった。帰宅して、荷物をバラして、シャワーまで浴びて、現在は自分の部屋にいるというのに。
部活してて忘れたんだろ。ぼくにカノジョはいない。女子とのメッセを見てはいた。それを追及されたらボロが出るだろう。隠し通せない自分を信じられる。
夕飯ができるのを待っている間に、柏原さんにメッセ送ってみよう。先週はあれだけ悩んでいたのに、今は緊張していない。
『玄関先で会ったのびっくりした』
『写真撮ったんだね』
素直な感想を送ってみよう。撮られたことには驚いたけど、不思議と不快感はない。目立つことは嫌なはずなのに、良い写真を撮れたのなら、それはそれで柏原さんのためになったんじゃないかな。
「え、返事きた」
『色々説明したいから、夜空いてる?まだ帰ってない』
まだ家にいないんだ。あ、なんかコンビニって聞こえたな。友達とコンビニに買い物してるってことかな。
『大丈夫です』
『帰ってから、連絡できそうな時間を教えてください』
何があったんだろう。例の部長さんは見つかってないし、ぼくが視ることが難しいことは柏原さんも分かっているはずだ。また何かアイディアでもあるのかな。
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『本当にごめんなさい』
夜。夕飯も済んで、シャワーは帰宅してすぐ浴びてるから、柏原さんのことを待つだけだった。明日の授業の下準備をしていたら、メッセが来て、通話をしないかと提案された。
特に問題はなかったし、イヤホンをつけて両手が空いている状態を作って、通話に答えた。
向こうの開口一番、謝罪されたのが今。
「どうしたの?いきなり」
『色々、謝りたくて』
体育祭のときから柏原さんは謝ってるけど、別に謝ってほしいことがないんだよな。
『まず、玄関先で会ったときのやつなんだけど』
「うん。帰る時間遅かったんだね」
『今日は特例。で、その、写真』
「あ、なんか、僕撮られたんだよね?」
『そうです。で、今日帰りが遅くなった理由なんだけど、品評会って言って、体育祭のときに撮った写真をみんなで見て、良い写真を一枚選ぼうって部活したの』
撮るだけじゃないんだ。まあ、良い写真を撮るっていう目標があった方がモチベーションが上がるのかな。
『そこで選ばれた写真って、なんか、部室がある廊下に飾るのね』
「うん。……うん?」
『で、あたしの写真っていうのが、その、話題になった藤くんが写ったものでして』
どんどん柏原さんの声がかしこまっていく。声に対して抱く印象ではないんだろうけど、いつもの調子とは外れている。
『その、藤くんがばっちり写ったものが、たぶん来週とかには、廊下に飾られることになりました、ごめんなさい』
「それでか。あぁ、なるほどね」
『断りたかったんだけど、絶対1枚選ばないといけないし、部長と2年の先輩のお墨付きになっちゃって、上手く回避できなかった。気分良くないよね?』
体育祭の前々日に、写真を撮らないでほしいとお願いしたのはぼくだ。そのときはあんまり証拠というか、ぼくが活動している証明はあまり残したくなかった。リレー選手であるという理由だと、はっきり分かっていても、自分の変な特徴のせいで目立っているんだと、いい気分はしないから。
「……下げられるなら、そうしたい気持ちはあるよ」
『そうだよね。もう決まっちゃったから、飾るときに目立たないようにできないか試しておくよ』
「でも」
『でも?』
「柏原さんのためになったなら、それもいいかなって思ってる」
撮られたくなかった、それは事実。柏原さんのためになったのなら良かったというのも事実。二律背反というやつなのかな。
『……今までも思ってたんだけどさ』
「うん」
『なんでそんなにお人好しなわけ?』
「……うん?」
お人好し?ぼくが?おひとよし?そんな特別優しいわけではなかったと思うけど。
『まあ藤くんの場合、天然が入ってるっぽいから、全部の行動がお人好しってわけでもなさそうだけどね』
「ん?うん」
ぼくが天然だと思っているらしいけど、どこが天然だと思われているのか分かっていないし、説明されても理解できる気がしない。
『ま、どうする?飾り方でどうにかしてみようか?』
「頑張ってどうにかなるもの?」
『分からない。初めてだし、明日は部活ないし、なんか、2年の先輩と1年たちに写真自体を気に入られているしで』
「ぼくを見て、写真の人だって言ってくるくらいだもんね」
そんなにきれい撮られたのか。なおさら気になるな。
「折衷案っていうわけでもないんだけどさ」
『はい?』
「その飾られる写真ももらえたりする?」
『……えぇ』
困ってる。柏原さんの顔が思い浮かんだ気がする。
柏原さんの笑顔より困った顔が真っ先に出てくるのおかしくないか?
『わ、わかった』
「納得できてる?」
『折衷案になるなら……』
「無理しなくて、大丈夫ですよ?」
思わず敬語になってしまった。本当に困っているんだろうな。開口一番で謝ってくるくらいだし。
『いや。飾られる前に被写体本人に写真の確認ができるのは別にいいんだけど、そのまま藤くんのスマホに保存されるんだなって思うと、ちょっと』
「え?そこなんだ」
『あたしが撮った特別きれいでもない写真が、他人の手元にあるって状況がちょっとってだけ。でも、それで藤くんが納得できるのなら、うーん』
困っている、というより苦しんでいるの方が似合っている声だな。
「送るだけ送ってもらってもいい?確認はしたいな」
『あ、それはやる。少々お待ちを』
少しの間無言の時間ができた。正確に言えば、柏原さんが「どこだっけ」とか「行き過ぎた」とか、小声で話しているけど、ぼくに向けた言葉ではない。
『はい、送った』
「確認します」
通話の画面からメッセージが見れる画面に切り替えると、1枚の写真が送られていた。タップして、ローディングのマークが出ているが、すぐにぼくの顔が現れた。
「……ぼくって走っているとき、こんな真剣な顔してるんだ」
『そりゃ、1位とったくらいなんだから、必死だったんじゃないの?』
「うーん。別に勝ちたいみたいな気持ちはなかったと思うけどな」
『運動できる人の気持ちはわかりませんよ』
別に運動神経は普通くらいだと思うけどな。足早い順で人を呼ぶってなったときに、ぼくが呼ばれるなんて思ってなかったし。
「アイコンとかにはしないから、ダウンロードしていい?」
『ど、どうぞ』
ひねり出した声で許可を出されたけど、別に何かに使う気は一切ないんだよ。でも、ぼくの手元にあることが嫌なんだろうな。
「はい、いただきました」
『はいぃ……』
ひねり出した声パート2。
『ま、というわけで、部室がある廊下はあんま通らない方がいいかと』
「写真部の部室ってどこ?」
『あの、1年生棟から職員室に行ける廊下あるでしょ?あの通りにある、なんの用途でここに教室があるんだろ、て感じの教室』
「え?教室あったっけ?」
『みんなに忘れられるくらいの教室ってこと。まあ、近寄らない方がいいと思う』
入学して3ヶ月目だし、各教室への行き方を覚えて迷わなくなったと思っていたけど、意識していない場所は覚えていないものなんだな。
「わかった。明日にでも確認して、しばらくは近寄らないようにする」
『それがいい』
昼休みのときにでも行ってみるか。飲み物買うとか言って教室を離れた時にでも見ればいいよね。
『で、まだ話が終わってないんだけど、時間は大丈夫?』
「うん。時間は大丈夫だけど、まだ問題があるの?」
『はい』
今日は、柏原さんの声がかしこまっている。ずっと、かしこまっている。
『体育祭で見つけてくれたでしょ?』
「うん。最有力候補だね」
『そう。それで』
真剣に聞こう。たぶん、次の作戦のことだから。
『あたし、藤くんに何もできてないじゃない?』
「……ん?」
『藤くんは、頑張って見つけてくれたし、分かりやすく成果を出してくれてるでしょ?でも、あたしは藤くんの気持ちの言語化みたいなことができてないから』
かしこまっているのはそういうことか。柏原さんは、この体育祭の期間中に何もできていない、と思っているからなんだ。「分かりやすく成果を出してくれてる」そうかもしれない。
『だから、なにかできないかなって。改めて藤くんの考えを整理する時間っていうか、お礼みたいなものがしたいんだけど、なにをしていいか分かんないから、本人に聞いちゃえばいいのかなって』
かしこまっているんじゃなくて、弱っているんだ。自分がちゃんと役割を果たせていないって、立場が危うくなっているって思ったんだ。対等でいたいんだもんね。
まあ、そこで本人に直接聞く決断を取れるだけ、柏原さんは強いと思う。
「言いたいことは分かった。でもそもそも、ぼくがやってほしいこと自体が曖昧なものだと思うし、そう簡単につり合いがとれることでもないんじゃない?」
『じゃあいつ、あたしが成果を出せるっていうの?このままじゃ、お世話になりっぱなしで、作戦なんて名ばかりの搾取じゃない?』
「搾取されてるとは思ってないけど」
『だから、搾取になるんでしょ。気づかない内に利用されてるなんて、嫌でしょ』
そういうものかな?
『で、なにかありますか?』
「いやぁ、すぐには思いつかないよ」
『期末テストがあるから、その前か終わってからの方が時間を確保しやすいと思う。どうする?』
「……前かな」
『決断はやいね』
決断できるだけの根拠があるから。
「ほら、期末テスト後の、夏休み入る直前くらいにさ、スポーツ大会あるじゃん?あれって、体育祭みたいに席を用意するんじゃなくて、生徒は自由に行動できるから、先生の目を盗んでコンビニとか行けるらしいよ」
『え?ありなんだ?』
「全員がやってるわけではないだろうけど。クラスごとにトーナメント形式でやるから、早くに負けちゃった人はやることなくなるんだって」
『……部長との接触のチャンス?』




