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ラスボスと空想好きのユア 2 Precious Bonds  作者: ReseraN
第1章 新たな脅威
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第6話「退職」

 養護施設で仲良しだったアヨが変わってしまってから、ユアの交友関係はリビムだけとなった。

 彼女は同じ施設内の人間で、友人と言うより家族のような存在だった。

 それでも話せる相手がいるだけでもユアには充分だった。ましてやリビムは周りが聞こうとしない空想世界の話を信じてくれた。


 だが養護施設は高校を卒業したユアがいつまでもいられず、職員補助の仕事を辞める時は出なければいけなかった。

 ユアにとってはリビムとの別れが一番辛かった。



 アクセプト寮に来て、その寂しさはすぐに和らいだ。空想組がイマストの大ファンで、毎日話していて楽しめるからだ。

 彼女たちと過ごす時間が、今のユアにとっては一番の至福となっていた。


 それでも、空想世界へ行ける話はしなかった。

 過去のトラウマから、信じてもらえなかったり変な人扱いされるのではないかと思い、話すことが出来なかったのだ。


 イマストのファンには申し訳ないが、このままフィーヴェの世界を独占しようと考えていた。



 翌朝。ユアが食堂へ行くと、アヨがギャル組に囲まれていた。


(アヨって、ギャルが嫌いだったはず……?)


 小、中学校とクラスにギャルがおり、アヨは「メイクがケバい」だの「バカっぽい」と彼女たちについて愚痴っていた。


 昨日来たばかりなので、挨拶代わりで絡まれているのだろうと思った。

 ユアも入寮した時、同じように絡まれ根掘り葉掘り聞かれた。特にリマネスが上げた動画について。

 寮母が止めてくれたおかげで聞かれなくなったが、ギャル組は目新しいことを見つけるとすぐに絡む癖があった。


 リーダーのソウカは意地悪ではなく、単に人と仲良くしたいだけだった。

 だが、ユアたちのようにギャルに苦手意識を持つ者にとっては恐怖心がある。


 ユアが心配していると、突然ギャル組が悲鳴のような雄叫びを上げ始めた。

 中央のアヨも嫌な顔一つせず、笑顔で接していた。


「アヨって、GAL(ギャル) ONE(ワン)で働いてんの?!」


「GAL ONE」とは、リアリティアのギャルたちが愛用するブランドだ。

 アヨは得意げに頷き、その支店で働いていることを付け加えた。

 再びギャル組が歓声を上げる。


「そこの常連なんだけど! ポーチも鬼リピだし!」

「あたしも! ねえねえ。友達割引とか出来ない?!」


 ヒースとズノも好奇心たっぷりに尋ねた。


「ごめんね、友達割引とかは無いな。でも、取り置きとかは出来るかも」


 アヨは謝った後で別の提案をした。

 嫌がっている様子も見られないので、ギャル組と絡むのはまんざらでもないようだ。


 ギャル組が彼女と連絡先を交換した後で去って行くと、ユアに気付いたアヨの方から話しかけて来た。


「久しぶり」

「ひ、久しぶり……」


 話すのは高校一年にケンカした時以来。

 妙に冷静なアヨに対してユアの方が怯えていた。


 それだけ言葉を交わした後でどちらも何も言わず。

 沈黙に耐えられなくなったアヨが食器を持って席を立つと、今度はユアの方から話を切り出した。


「ギ、ギャルの店で働いてるんだね?」


 アヨはその場に立ったまま会話を続けた。


「悪い? 大学の授業料を払うには働かないといけないでしょ。私たちはみんなと違って親家族がいないんだから。働く場所を選り好みしてる場合じゃないし」


 アヨの両親は彼女が施設に入った後に離婚し、引き取った母親も育児放棄して施設に預けたまま行方不明になってしまった。

 家族がいない不安からか、アヨは遊んでいる時でも現実的な話を出すことがあった。


 棘のある言い方にユアは返事が出来なかった。

 黙っていると、再びアヨの方から言い始めた。


「人のことより自分の心配したら? 寮母さんから聞いたわよ。来年の大学入試に向けて勉強しながら弁当屋で働いていること。変なことしなかったら、リマネスと同じダーク大に通えてたのにね」


 リマネスの名前を出され、ユアは目を見開いた。

 ディンフルが彼女を退けていなければ、ダーク大学に進学する羽目になっていたのだ。


 進学先は「ロイヤルダーク高校」(通称・ダーク高)の姉妹校「プラチナダーク大学」(通称・ダーク大)で偏差値が高く、リマネスのような貴族や優等生が行くところだった。

 ユアはダーク高も楽しめなかったので、あのまま進学していれば再び地獄を味わっていただろう。


 さらにアヨは続けた。


「知ってるのよ。生配信でリマネスを吊るし上げにしたこと。リマネスはあんたのためを想って里親として引き取ってくれたのに恩を仇で返した。大人気のミカネを使って……!」


 リマネスの悪事を晒した生配信には、リアリティアで大人気の歌手・ミカネも参加していた。

 その配信は彼女とその秘書・サモレンとディンフルがユアを救うために考えた作戦だったのだ。


「どうやってミカネを味方にしたのかわからないけど、そこまでしてリマネスと離れたかったの? 私はあんたが羨ましかった。何なら私が引き取られたかったわよ! あんたのこと一生許さないから!」


 アヨはユアに対してまだ怒っていた。

 それに動画のことや里親のことまで既知だった。


 里親の件は学園の園長から聞き、動画は世界中にバズったので知らないわけがなかった。知っているユアが出ていたから余計に。

 配信者のリマネス本人は自分だけ顔を隠していたので、生配信で顔がバレるまでわからなかった。


 アヨは食器を持って数歩歩くと立ち止まった。


「リマネスに謝ってくれたら、また仲良くしてあげる」


 前を向いたままで言うと再び歩き始め、返却口へ食器を置くとそのまま食堂から出て行った。



 ユアはあまりにもショックが大きく、話す元気を無くしてしまった。

 心配してタハナたちが「どうしたの?」と聞いて来たが、今は誰ともしゃべりたくなかった。


「話せるようになるまで待つよ。一人で抱え込まないでね」


 優しい言葉を掛けてもらい、少しだけ元気が出た。

 彼女たちを見て、ユアは改めて自分にアヨは必要ないことがわかった。


 それ以降もアヨはギャル組と絡むようになり、ユアには一切近付いて来なくなった。



 弁当屋では、相変わらず例のカップルがやって来た。

 しかし、ユアが現れないので店先に立つ店員に「ユアちゃんは?」と聞いていた。

 出て来る気配が感じられないとわかると、不満な顔をして帰って行った。



 店長たちは「守る」と言ってくれているが、ユアは昨日厨房で彼とベテラン店員の会話が気になっていた。

 カップルに怯えて新人アルバイトが辞めて行ったことだ。


 今日も急に新人が辞めた。しかも仕事には来ないで欠勤の電話連絡だけで縁を切った。

 店に来られないほど二人に怯えたのだろう。ユアはこれも自分のせいだと思った。

 そしてこの電話で、怖れていたことが起きていることを知るのであった。



 仕事を終えたユアが帰宅しようと店長たちへ挨拶しに厨房へ来た時のことだった。

 店長もベテラン店員もいなかった。

 机にはノートパソコンが開いたままになっていた。


 チラッと見ると動画のページが開かれており、サムネにはユアの姿があった。


「これって……?」


 画面に釘付けになるユア。

 嫌な予感がし、マウスでスクロールしてみるとその動画には「令嬢系リアチューバーの妹の今」というタイトルがついていた。


(“今”ってことは、ここ数日の映像ってこと……?)


 投稿日を見てみると、今から数時間前に上げられていた。

 さらに再生すると、弁当屋で働くユアの姿が終始映っていた。

 テロップもついていた。「あのままお姉さんと暮らしていれば、こんな庶民的な店で働かなくて済んだのに。かわいそう」と。


(“かわいそう”って何? 私は進んでこの店で働いているのに……。あのまま屋敷に居続けた方がよっぽどきつかったし、何よりこの店にも失礼だよ!)



 厨房に店長とベテラン店員が入って来た。

 パソコンの前に立つユアに驚くと、相手が動画を見ていることを察して話し始めた。


「辞めた子が教えてくれたんだ。犯人は間違いなくあのカップルだよ。今、警察へ行ってきたところだ。今日はもう閉めるよ」


 店長もさすがに苦笑いをした。

 この弁当屋は本来は十九時までの営業だが、今日は続けられそうにないのでユアが帰る十七時で切り上げることにした。


「ごめんなさい。私のせいで……」

「謝らないで。ユアちゃんは一つも悪くないわ。被害者じゃないの」


 ベテラン店員がユアを庇った。


「カップルが逮捕されたら動画も消してもらうように頼むよ。それから、店に警備員も雇うから安心してこれからも働いてよ」


 続けて店長が言った。彼は本当にユアに働き続けて欲しいと思っていたのだ。

 しかし本人の決意は固まっていた。


「ありがとうございます。でも辞めさせて頂きます」


 店長とベテラン店員は息をのんだ。


「これ以上私がいると、動画で知った人たちが見に来ると思います。短い間でしたがここで働かせていただき、ありがとうございました。この店が好きだからこその判断です。どうかお許し下さい」


 言い終えてから二人へ向かって頭を下げた。


 ユアはこの日を最後に弁当屋を退職した。

 自分自身と店を守るための決断だった。

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