第48話「友情」
裏山の祠の前。
レジメルスによって壊された祠は、ティミレッジの浄化技「リリーヴ・プリフィケーション」で元通りになった。
神様が祀られている祠が戻り、皆は安堵した。
その祠の前で、オプダットとクロウズは向かい合った。
「クロウズ。お前がジュエルを投げてくれなかったら、勝てなかった。ありがとな」
オプダットはいつもより落ち着いた声で言った。
「パールが祠に行くきっかけを作ったのは俺だ。俺がお前からパールを奪ってしまった。だから……」
「お前のせいじゃねぇ」
これから謝ろうとした時にクロウズが冷静に遮った。
「パールが死んだのはお前のせいじゃない。昼間、ここで会った時に“パールが死ぬきっかけ”とか言っちまったが、全部俺が悪いんだ。俺が池に落ちていなければ……初めにちゃんとパールを止めていれば、死なせることは無かった。なのに、お前に当たってしまって……ごめんな……」
彼は頭を下げて謝った。
「なあ、クロウズ……。これからも友達でいてくれないか?」
オプダットの頼みに、相手は驚きながら顔を上げた。
反応にビックリしたものの、クロウズはすぐに笑顔を見せた。
「ああ。パールが会わせてくれた仲だからな」
クロウズが差し出した手をオプダットはしっかりと握った。
二人は握手をして友情を誓い合うのであった。
「でも……」握手の途中で、オプダットが切り出した。
「チェリーにも謝ってほしい」
「私?!」声高に驚くチェリテット。
クロウズは、オプダットから彼女を奪うつもりだった。しかしそれは彼を困らせるためのウソで、付き合うことが決まっても自分から振ることにしていた。
「チェリーは俺らが学校を卒業した翌年にこの町へ来た。町に慣れて来た頃に、学校の卒業生に“最強な奴がいる”って聞いてからお前を気にしてたんだ。初めて会って話せた時も嬉しそうだったんだぞ。それなのに俺を困らせるために利用するなんて、いくらクロウズでも許さねぇ」
まさかクロウズを説教するとは思わず、チェリテットだけでなくユアたちも開いた口が塞がらなかった。
「……そうだな」クロウズは頷いてからつぶやくとチェリテットへ向かい合い、「申し訳なかった!」と、再び頭を下げて謝った。
「い、いえ。もう、いいですから……」
チェリテットはクロウズへの怒りがもうすっかり消えていた。今は自分のために怒ってくれたオプダットで頭がいっぱいだったのだ。
最後にクロウズは改めて自身の不甲斐なさを呪うのであった。
「俺、こんな性格だから、友達出来ないんだよな……」
「気付けただけ良かったじゃないか」
「本当に性格悪い人は認めませんからね」
「オープンやチェリーにもちゃんと謝れたじゃん。それだけで充分だよ」
後ろで聞いていたフィトラグス、ティミレッジ、ユアがクロウズを励ました。
彼はユアが言った呼び名が気になり出した。
「オープンって?」
「オプダットの愛称です。魔王ディンフルを倒す旅の序盤で、そういう呼び名に決まったんです」
クロウズが首を傾げていると、チェリテットが説明した。
彼は感心し、オプダットへ提案した。
「なあ。俺も“オープン”って呼んでもいいか?」
この質問に他の者は目を輝かせた。
特にオプダットは心から喜び、「いくらでも呼んでくれ!」とはしゃぎ始めた。
「じゃあよろしくな、オープン。俺、お前みたいにダチが作れるように、一からやり直すよ」
「“ダチが作れるように”って、一緒にいたあの二人もダチじゃねぇか」
「いや、あいつらは戻って来ねぇ。俺がその子を振る話でドン引きしたからさ……」
クロウズはチェリテットを指しながら言った。
彼ははっきりと覚えていた。自分がレジメルスに襲われた時、サークズとムジーロはそろって逃げ出したことを。
オプダットは得意のプラス思考で励ました。
「本当に見捨てる奴はお前のピンチを教えたりしねぇよ。俺、あの二人からクロウズのことを聞いたから急いでここまで来たんだ」
クロウズは息をのむと、明日サークズとムジーロにもこれまでのことを謝ろうと決めるのであった。
(オープン、よかったね。クロウズさんと仲良くなれて……)
ユアは心の中でオプダットたちの友情を祝福していた。
同時に固く結ばれる二人を見て、自身の元友人・アヨを思い出していた。
彼女とは中学の頃まで仲が良く、グループでよく遊びに出かけていたが高校からは一切無くなった。(ユアの中では、高校に一度遊んだことは回数に含まれていなかった)
幼少期以来に仲良くするオプダットたちを見て、「アヨともう一度、友達同士に戻れたら……」ユアの頭にそんな思いが過ぎるのであった。
◇
翌日、チャロナグタウン前。
支度を終えたユアたちは次のジュエルの場所へ向かおうとしていた。
今日はチェリテットが別件で行けないため、ここでお別れだった。見送りにはクロウズも来てくれていた。
「みんな、がんばってね!」
「うん。早く次のジュエルを見つけて、もっと強くなるよ!」
ユアがチェリテットへ返事をした後で、オプダットもエールを送った。
「お前も別件がんばれよ!」
すると、彼に応援されたチェリテットは何故か身を強張らせた。
「う、うん。ありがと……」
「どうしたの、チェリー?」
「いや、別に……」
いち早くユアが彼女の異変に気が付いた。
チェリテットは何もないように装ったが、昨日の戦いからオプダットの目をまともに見られなかった。
次にクロウズがオプダットへ声を掛けた。
「ジュエルの件、俺から町長に話したら”世界の危機なら仕方ない”って、許可してくれたぞ」
「本当か!? ありがとうな、クロウズ!」
「友達だからな! 今回、オープンと話せて良かったよ。たぶんお前が戻る頃には、俺は修行の旅に出ているだろう。次に会う時まで元気でいろよ」
「ああ! これが、がんじょうの別れじゃないからな!」
「今生だろ……。昨日の黒マスクも言ってたが、マジで勉強しろよな」
呆れながら訂正するクロウズだが、最後は少しだけ笑いながら言った。
インベクルから乗って来た馬車に乗り込むと、ユアがチアーズ・ワンドを光らせた。
ライトの先端がインベクル王国とは逆の方角を照らし出した。
「よし、行くぞ!」
チェリテットとクロウズに手を振り、ユアたちは次の目的地へ出発した。
「ところで、何でずっと顔が赤いんだ?」
馬車が見えなくなると、クロウズがチェリテットに尋ねた。
「わ、わからないです……」
本人にも理由がわからなかった。
とにかく今チェリテットは、オプダットとまともに話せる自信が持てないため、今日は旅に参加できなくて良かったと思うのであった。




