第47話「激しい怒り」
チャロナグ裏山にある祠。
レジメルスへ立ち向かうクロウズとチェリテットだったが、なす術もなくやられてしまった。
ティミレッジの白魔法すら、彼には通用しない。
レジメルスは、主にクロウズへ怒りを向けていた。
「やめろ!!」
山頂に声が響く。
ユア、フィトラグス、オプダットの三人が到着したのだ。
「あぁ、君たちも来たんだ……?」
レジメルスは、相変わらず気だるく言った。
「お前、クロウズやチェリーたちに何をした?! 三人を傷つけたら許さねぇぞ! レジ……レジメネル? レジメルネス!」
「レジメルスだけど……」
クルエグムの時と同じくオプダットが相手の名前を言い間違えると、レジメルス本人はため息まじりに訂正した。
「女の子はそこまで傷つけてないよ。ただ、こっちの茶髪はだいぶ痛い目を見た方がいい」
「俺が何したって言うんだよ?! いきなり襲ってきやがって!」
クロウズが文句を垂れると、レジメルスは彼を睨みつけ、声を低くした。
「とぼけんなよ。相手を困らせるためだけに、彼女を奪って捨てようと考えたくせに」
「聞いてたのかよ……」
クロウズが言い返せずにいると、ユアたちが驚きの声を上げた。
「どういうこと? ”相手”って、オープンのことだよね?」
「”彼女”はチェリーだよな? ”奪い取る”って言うのは、クロウズとの勝負に負けた時のことか? じゃあ、”捨てようとした”って言うのは?」
ユアとフィトラグスが疑問をぶつけていると、クロウズがチェリテットを指しながら暴露し始めた。
「オプダットが負けたら、そいつを俺の彼女にするって言っただろ? でも、本気で付き合う気はねぇ。オプダットを困らせたかっただけだ。だから勝負して勝っても、思いっきり振ろうと思ってたんだ!」
ユアたちは戦慄した。
特に、チェリテット本人はクロウズに憧れていただけあって、そのショックは相当なものだった。
彼女の中で、信じていたものが一気に崩れ落ちた。
「オープンを困らせるためだけに、私を振る? 最低……」
そこへ、レジメルスの蹴りが再びクロウズを襲った。
クロウズは急いで避けるが、先ほどから疑問が拭えなかった。
「だ、だからって、何でお前が怒ってるんだよ……?! 関係ないだろ!」
「五月蠅い」
レジメルスは冷たく言うと、クロウズから距離を取り、蹴る動作をした。
「グルーム・フレイユール」
すると、レジメルスの足から弓型をした青緑色の衝撃波が、何発も発射された。
「危ねぇ!」
オプダットがクロウズの前に出て、自身の拳と蹴りで衝撃波を打ち消して行った。
しかし一撃が重く、すべてを消し終えた時には体力を消耗していた。
「オプダット?!」
「ケ、ケガはないか……?」
名前を呼ばれ、首だけ振り返り笑顔で尋ねるオプダット。
当然、クロウズとレジメルスは理解ができなかった。
「君、バカなの……? 今の話、聞いてた? そいつは君だけじゃく、彼女まで傷つけようとしたんだよ。何で庇うの?」
レジメルスが呆れながら聞く中、クロウズは悔しさから舌打ちをした。
何故なら、今のセリフは自分が言いたかったが、急に自身を襲って来た者に先を越されたからだ。
「そうだよ。俺はお前を困らせるために彼女を奪って、捨てようとしたんだぞ! ダチでいる価値ねぇだろ!」
思わず口を挟むが、二番煎じ感が否めない上に敵へ同調する形となり、クロウズにさらなる悔しさが募った。
それでも、オプダットはきっぱりと言った。
「言っただろ? お前は友達だって」
「だから、違うっつってんだろうが!! お前が木から落ちたせいでパールがジュエルを取りに行くことになったこと、今も恨んでるからな! 俺だって池で溺れて、病人のあいつに助けられたんだぞ。お前だって、俺のこと恨んでもいいはずだ!」
クロウズがパールの名前を出すと、オプダットの表情が曇った。
「恨めねぇよ……。だって俺たちは、パールが会わせてくれたから友達になれたんだぞ。仲良くしねぇと、あいつだって浮かばれねぇだろ! 友達同士のケンカは嫌いな奴だったんだから!!」
オプダットの言葉に、クロウズは息をのんだ。
そんな時に、レジメルスはよりだるそうに言った。
「状況が読めないから、僕の知らない話やめてくれる……? どく気ないなら、君から殺してあげるよ」
次にレジメルスはオプダットへ蹴りを繰り出した。
オプダットも拳で受け止めるが、やはり一撃が強いので立っていられなくなり、膝から崩れ落ちてしまった。
「オープン、クロウズを連れて逃げろ!」
敵の後ろからフィトラグスが叫ぶと、自分の剣を振った。
「ルークス・ツォルン・バーニング!!」
インベクルの中庭でジュエルを手にした時に編み出した必殺技だ。
クルエグムを退けた技なので、同じヴィヘイトル一味に効くと思っていた。
ところが、レジメルスは軽い身のこなしで新しい必殺技を避けた上、木から木へと簡単に移動していった。
最後の木から飛ぶと、フィトラグスへ回し蹴りを食らわせた。
「邪魔しないでくれる? 偽善の王子様」
侮辱した後で、彼は再び跳び上がった。
「グルーム・フレイユール」
レジメルスが宙を蹴ると、青緑色の弓型の衝撃波がフィトラグスへ襲いかかった。
寸前のところで、ティミレッジが張った白魔法のバリアが守ってくれた。
だが、それは一撃を受けると壊れてしまった。
レジメルスは、今度は青紫色の魔法弾をティミレッジにぶつけた。
「ど、どうしよう? このままじゃ……」
あまりの激戦でユアは参戦できずにいた。
仲間たちも次々と倒れ、明らかにクルエグム並みに強く、自身の力も通用するか自信がなかった。
ふと、ユアは祠へ目を向けた。
今なら見張りはなく、自由に入れる。
ジュエルを取れば、フィトラグスの時のように力を得られるかもしれない。
ユアはまっすぐ、祠へ向かって駆け始めた。
レジメルスがすぐに気づき、また「グルーム・フレイユール」を撃ってきた。
「ユア、危ない!」
とっさにチェリテットが押し倒したおかげで、ユアは間一髪助かった。
ところが……。
ドォン!!
二人の頭上を通過した衝撃波が当たり、爆音と共に、祠が崩壊してしまった。
「ほ、祠が?!」
「ウソだろ……?」
「これじゃあ、ジュエルを探せないよ!」
オプダット、フィトラグス、ティミレッジは絶望した。
崩壊した祠はがれきの山と化し、大量の砂煙が出ていた。
ジュエルが下敷きになって、壊れた可能性もある。
「安心して。ユアに当てるつもりはなかったから」
ジュエルが壊れたことを確信したレジメルスは、得意げに言った。
初めから、祠ごと壊すつもりだったのだ。
「さて、続きをしようか」
彼は、再びオプダットたちへ歩み始めた。
ユアとチェリテットが、がれきの前で途方に暮れていると……。
「どいてくれ!」
いつの間にか、背後にクロウズが来ていた。
二人が道を譲ると、クロウズは壊れた祠へ渾身のパンチを繰り出した。
がれきは飛び上がり、その中に黄色く光る宝石も跳ね上がった。次のジュエルだ。
それを、クロウズが片手で素早く取った。
「オプダット、受け取れ!!」
クロウズは叫び、オプダットへ向かって黄色のジュエルを思いきり投げた。
「させない」
渡すまいとレジメルスが掛かって行くが、チェリテットが彼の腹部へタックルした。
初めてのダメージに、彼は苦痛で顔を歪めた。
「くっ……」
ジュエルは無事にオプダットの手に渡ると、彼の手袋の右手の甲部分にはまった。
フィトラグスの剣の鍔にひとりでに収まった時と同じだ。
「サンキュー、クロウズ! おかげで、力がみなぎって来たぜぇ!」
レジメルスはチェリテットから離れると、ジュエルを奪うためオプダットへまっすぐに走り始めた。
向かってくる敵を迎え撃つように、オプダットは足元の地面を思いきり殴る。
「リアン・エスペランサ・スパークル!!」
パンチが当たった地面が衝撃波で割れながら、レジメルスへ向かって行った。
さらに、衝撃波にまじって黄色い稲妻も帯びていた。
だがレジメルスは、フィトラグスの技の時のように身軽にかわしていった。
しかし今回の技には電撃も加わり、割れた地面から溢れる黄色い稲妻が次々とレジメルスを襲った。
これらもかわされるが、細い稲妻が顔付近をかすめると、彼がしていた黒マスクの紐が切れ、顔から外れてしまった。
「何っ……?!」
マスクの下の素顔は、十代半ばを思わせるほどの童顔だった。
レジメルスはあわてて紐部分を耳辺りで押さえ、再びマスクで口元を覆った。
「だる……。ジュエル壊し、失敗だね」
マスクを手で支え、戦いにくくなったため、彼は一行に背を向けた。
「待て!!」
退散しようとするレジメルスを、オプダットが呼び止めた。
「今度、クロウズやチェリーたちに何かしたら、絶対に許さねぇ! みんな、俺の大切な友達なんだ! 今、へそで茶を沸かしてるんだからな!」
今の言い間違いにレジメルスは思わず振り向き、ユアたちも唖然とした。
「怒ってるんだよね? “はらわたが煮えくり返る”の方が良くない……?」
敵から呆れた目で訂正されてしまった。
せっかく格好よく決めるはずが、完全に台無しである。
さらに、ティミレッジやチェリテットからも指摘があった。
「“へそで茶を沸かす”って、“面白くてしょうがない”って意味だよ……」
「“ばかばかしい”って意味もあるけどね」
「本当にばかばかしいね。次に会う時までに勉強しときな」
レジメルスはため息をつき、再びユアたちへ背を向けた。
今度は、フィトラグスが「待て」と声をかけた。
「今度は何……?」
レジメルスは、天を仰ぎながら嫌そうに言った。
そろそろ帰らせて欲しかったのだ。
「何で、チェリーが騙されそうになった時にキレたんだ? あんたはオープンやチェリーと関係ないだろ?」
フィトラグスの問いに、一同が思い出すように声を上げた。
あまりに激戦だったので、クロウズがチェリテットを騙そうとしていたことを忘れていたのだ。
レジメルスは首だけ振り向いて答えた。
「その子に限らず、女性への侮辱はムカつくんだ。それだけ」
淡々と言うと皆の反応を待たずに、彼は魔法で消え去って行った。




