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ラスボスと空想好きのユア 2 Precious Bonds  作者: ReseraN
第2章 ジュエルを求めて
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第39話「ジュエルの力」

 インベクル城・中庭。

 クルエグムの必殺技に押され、フィトラグスは膝を付いてしまった。足もたくさん斬られ、立つことも難しかった。


 苦痛に顔を歪める彼を、クルエグムは楽しそうに見下ろすのであった。


                 ◇


 遠くから二人を見つけたユアたちは思わず足を止めた。


「あれって、ヴィヘイトル一味?!」

「早く行かないと、フィットが危ないわ!」


 チェリテットとソールネムは初めてクルエグムを目にした。

 傷だらけになったフィトラグスを助けるため急ごうとすると、ティミレッジが止めに入った。


「待って。僕とユアちゃんはここから援護する。ユアちゃんをあの人に近づけるのは危ないと思うんだ」

「もしかして、ユアに告白したのって……?」


 四人は思い出していた。先日、ユアはクルエグムから「付き合え」と詰め寄られた。

 断ればディンフルの城を乗っ取ったままで、フィーヴェに蔓延(はびこ)る邪龍を激増させ、ミラーレの弁当屋を潰すと言われていた。

 彼女も修行を始めたばかりで、クルエグムと戦えるほどの力はまだ備わっていなかった。対峙させると危険だと、ティミレッジは判断したのだ。


「わかったわ。ティミーはここから白魔法を使いつつ、ユアをしっかり守ってね」


 ソールネムはティミレッジに指示をすると、オプダット、チェリテットと共にフィトラグスの元へ走って行った。


                 ◇


「そこまでだ!」


 オプダットが怒鳴ると、クルエグムは振り返ってこちらを睨みつけた。

 彼が視線を反らしている間にソールネムとチェリテットがフィトラグスへ駆けつけた。


「フィット、大丈夫?!」

「来てくれたんだな……」


 フィトラグスは仲間の顔を見て安堵した。

 庇われている間に体中の傷が見る見るうちに塞がっていった。遠くからティミレッジが白魔法で回復してくれたのだ。


「ティミーはどこにいるんだ?」


 ティミレッジのおかげだとすぐに気付くフィトラグスだが、姿が見えないので疑問を抱いた。

 ソールネムはティミレッジがいる方向を顎で指した。


「よくもフィットを傷つけやがったな! 許さねぇぞ! ……クルエグア? クルエグアル?」

「クルエグムだ!!」


 自身の敵が増えたのと、オプダットから名前を間違われたためにクルエグムは不機嫌になった。


「何人増えても一緒だ! 来やがれ!!」


 相手が挑発すると、オプダットは必殺技の「リアン・エスペランサ」で地面を殴って地形を隆起させたが、クルエグムの必殺技「フューリアス・ヴェンデッタ」による黒と赤紫色の刃で突破されてしまった。



「トレランス・サンクション!!」



 続いて、チェリテットが必殺技を繰り出した。

 パンチを出すと同時に出た衝撃波が何発もの黄緑色の弾丸に変わり、相手へ向かっていく。

 しかし、これもクルエグムの剣の一振りでかき消されてしまった。


「アステラス・ジャッジメント!!」


 次にソールネムが超龍戦でも使った必殺技を繰り出した。

 地上から出た光の柱がクルエグムを包み、その中に空から無数の隕石が降り注いだ。


「人相手に使いたくはなかったけど……」

「さすがにこれは効くでしょ?!」


 少し後ろめたいソールネムと対照的にチェリテットは期待で声を弾ませた。



 ところが次の瞬間、光の柱も隕石も黒と赤紫色の刃で切り裂かれてしまった。


「そんな?!」


 中にいたクルエグムは傷一つなかった。

 駆け付けた仲間たちの必殺技がどれも効いておらず、三人はなす術もなく絶望した。


「この程度で俺を倒せると思ったか?!」


 クルエグムは怒鳴ると、一行に向かって青紫色の魔法弾を無数に放った。

 剣や拳、黒魔法などで相殺を試みたが、フィトラグス、オプダット、ソールネム、チェリテットは敵わずに倒れてしまった。


「みんな!!」


 遠くで見ていたティミレッジとユアが叫ぶと、クルエグムの尖った耳がその声を拾い、そちらへ向いた。


「やめろ!!」


 その時、クルエグムの周囲にインベクル城の兵士が数人集まって来た。

 中庭の騒音を聞きつけて来たのだ。最後尾にはダトリンドもいた。


「これ以上、我が息子と仲間たちは傷つけさせん!」


 クルエグムは国王をチラッと睨むと、フィトラグスたちとは逆方向へ歩き始めた。


「もう、そいつらに用はねぇよ」


 あっけに取られる兵士たちとダトリンドを背に、クルエグムは歩みを進めた。

 その向かった先は……。


「こっちへ来る?!」


 警戒したティミレッジが急いで白魔法のバリアを張った。

 ユアたちの体が白いドーム型の光に包まれた。


 クルエグムは瞬間移動の魔法で、二人の目の前に突然現れた。

 ティミレッジが感じた嫌な予感は見事に当たるのであった。


「お前もいたんだな」


 機嫌は直ったようで、怪しい笑みを浮かべてユアへ視線を注いだ。

 クルエグムがバリアに触れると白色の電撃が走り、彼の頬をかすめた。敵が攻撃した際に自動で攻撃を返してくれる「カウンターバリア」を張ったのだ。


 クルエグムの頬から少量の血が流れると、彼は再び剣を握り、バリアを思いきり斬りつけた。

 すると、ユアたちを覆っていたバリアは一発で粉々に壊れてしまった。


「そんな……?!」

「俺に壊せねぇと思ったか?!」


 バリアが無くなるとクルエグムはティミレッジの前髪を掴むと、無理矢理、横へ押し倒した。


「ティミー!」


 ティミレッジが倒れると、クルエグムはすぐさま距離を詰めて来た。

 ユアは逃げようと走り出すが、腕を掴まれ、近くの木に押し付けられてしまった。


「前の返事、聞かせてくれねぇかな?」


 クルエグムは片方の手で相手の腕を掴み、もう片方の手は木についてユアが逃げられないように追い詰めた。その表情は、やはり怪しさと喜びで満ち溢れていた。


「考える時間、たっぷりあっただろ?」


 ユアは顔を横へ向け、正面から見つめてくる相手を必死に見ないようにした。

 だが、木についていた手で顎を掴まれ、強引に彼の方へ向けられた。


「断ったら、わかってるよなぁ?」


 不敵に笑いながらも、低いトーンの声で脅しを掛けるクルエグム。


 相手の顔がどんどん近くなると、ユアの腰にしまっていたチアーズ・ワンドが突如光り出した。

 思わず手に取るとライト部分から、ユアの必殺技の一つ・ビームが発射された。


「あぶねっ!」


 クルエグムは急いでユアから離れ、ビームを避けた。

 彼はその戦法に覚えがあった。自身が崇拝するヴィヘイトルに一撃を食らわせたものと同じだ。

 あの時は怒りを露わにしたが、今日の彼は目を見開き、さらに邪悪に笑い出した。


「俺と戦うのか?! ますます面白ぇ!!」


 テンションが上がると、今度は仲間たちを襲った剣でユアへ斬り掛かった。



 寸前のところで、駆け付けたフィトラグスが自身の剣で受け止めた。


「フィット!」

「無茶するな……。俺らでも敵わねぇこいつに、ユアが戦えるわけないだろ。早く逃げろ!」


 ユアとの間にフィトラグスが入ったことで、クルエグムは再び機嫌を損ね始めた。


「邪魔すんじゃねぇ! どけぇ!!」


 クルエグムの剣が黒色と赤紫色のオーラに包まれた。

 必殺技が来る前兆だ。


「フィトラグス様! 今、お助けします!」


 背後から城の兵士たちが一斉に駆けて来た。


「邪魔すんなって言ってんだろ!!」


 クルエグムは剣でフィトラグスを押さえながら、もう片方の手で青紫色の魔法弾を兵士たちへ投げ付けた。大勢の兵士があっという間に吹き飛ばされてしまった。


 大切な兵士たちを傷つけられ、フィトラグスは腸が煮えくり返った。


「よくもみんなを……。許さねぇ!!」



 その時、彼の怒りの声に反応するように、ユアが背負っていたリュックから赤い光が漏れ始めた。

 取り出して見ると、先ほどダトリンドから授かったインベクルの国宝の赤いジュエルが光り輝いていた。


「な、何でジュエルが?」


 ユアの疑問を置き去りにするようにジュエルはまっすぐフィトラグスの元へ飛んで行き、彼の剣の鍔の中央にピッタリとはまった。

 すると赤い光と同時に衝撃波が起こり、クルエグムをはじき返した。


「こ、この力は……?」

「ジュエルが力を貸してくれるのだ! フィトラグス! チャンスを無駄にするでない!」


 後方にいたダトリンドがいつの間にか近くまで来ており、驚くフィトラグスへ助言した。

 父へ頷くと、フィトラグスは再び斬り掛かりに来るクルエグムへ向かい合った。


「俺の大切な人たちを傷つけたこと、後悔させてやる!」


 きっと睨むと、相手へ向かって思いきり剣を振り始めた。



「ルークス・ツォルン・バーニング!!」



 剣先から衝撃波と白い光に加えて、赤い炎が繰り出された。

 クルエグムも「無駄だ!」と自身の剣で相殺しようとするが、新しく加わった赤い炎と威力を増した白い光を食らい、吹き飛ばされてしまった。

 地面に手をつき、身を翻したことで不時着は免れたが、相手は初めて苦痛に顔を歪めていた。


「つ、強くなってやがる……! 覚えてろ!」


 クルエグムは吐き捨てると剣をしまい、魔法で消えて行った。


 敵が去り、皆は肩の力を抜いて安堵のため息をついた。

 ユアも心からホッとしていた。



 だが安心し始めたその時、ユアの真後ろにクルエグムは再び現れ、耳元でささやいた。


「いつでも待ってるぜ、()()


 前と同じように最後に名前を強調するクルエグム。

 ユアが驚いて振り返った時には、彼はもう消えていた。


 今度こそ、城内に平穏が戻るのであった。

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