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ラスボスと空想好きのユア 2 Precious Bonds  作者: レセラン
第2章 ジュエルを求めて

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第34話「裏面へようこそ」

 インベクル王国近くの森。

 早速現れた魔物に、ユアがチアーズ・ワンドからビームを放った。


 ところが、魔物は大きな口を開けて飲み込んでしまった。


「な、何で?!」


 今度はチアーズ・ワンドで宙に円を描くと、ピンク色の球体が出てきた。

 それを数個、魔物へ投げていった。


 これもすべて、魔物の口の中へ消えてしまった。


「もしかして、フィーヴェの魔物には効かないの……?」


「そんなことないよ。そしたら、スライムとかも倒せなかったじゃん」


 絶望するユアをティミレッジが励ました。

 確かに、チアーズ・ワンドの力が効かなければ、ユアもここまでレベルを上げられなかった。


 魔物が、口から粘液をあちこちに吐き出した。

 こちらにも降りかかってきたので、急いでティミレッジが白魔法のバリアを張った。


 ユアたち三人は無事だったが、粘液が掛かった草や木はドロドロに溶けてしまった。

 三人は「ひぃぃぃ~?!」と声を上げ、戦慄した。


「こいつ、こんな技持ってたか?!」


「僕の記憶が正しければ、なかったよ! 序盤だから、そんなに危険じゃなかったはず……!」


「も、もしかしたら、裏面仕様かも……?」


 ユアがつぶやくと、「うらめん?」と、ティミレッジとオプダットが声をそろえた。


「一回、ゲームをクリアすると、それまでクリアしたところが難しくなる仕様だよ。敵が強くなったり、罠が解きにくくなっていたり。クリアした前提で戦うから、もしかしたら表面のディン様並みに強くなってるかも……?」


「そんなシステムがあるの?!」


「よ、よくはわからねぇが、経験値が山ほどもらえるってことだな?!」


「ポジティブ過ぎない?! 経験値の前に、僕らが死んじゃうよ!」


 ラスボスのディンフルから世界を取り戻したため、ゲームとしてはクリア扱い。

 なので今のフィーヴェは、キャラクターたちからすると裏面だったのだ。


「うわーーーーー!!」


 ユアはまだ序盤のレベルで、ティミレッジとオプダットも心の準備が出来ていない。さらに、仲間も不足している。

 逃げるしかなかった。


 魔物は足代わりのツタを素早く動かしながら、追い掛けてきた。


◇


 インベクル王国。

 部屋から水晶玉で見ていたディンフルは、居ても立っても居られなかった。


「世話が焼ける……。待っていろ!」


 ディンフルはベッドから出て、マントを身に包んだ。

 すると服装が寝間着から、いつもの戦闘服であるナポレオンジャケットに変わっていた。


「どこへ行かれるのです?!」


 窓から出ようとすると、サーヴラスが大声で呼び止めた。


「ユアたちがピンチなのだ! 私でなければ助けられぬ!」


「これは、ユア様の修業です。ご心配なのはわかりますが、今は堪えて下さい」


「アクシデントだ! 弱いはずの敵が、裏面仕様とやらになっているのだ!」


 水晶玉から聞こえた言葉をディンフルはそのまま使った。

 もちろん、サーヴラスは口をぽかんと開けるしか出来なかった。

 サーヴラスはもちろん、ディンフルでさえも「裏面」の意味を理解しておらず、説明も出来ない。


「よ、よくはわかりませんが、今は安静にお願いします! でないと、私がイポンダートさんから怒られるのです!」


「何故、お前が?」


「“ディンフルのことだから、無理をしてでも筋トレやら脳トレに励むかもしれん。今、休ませなければ、近い将来、また倒れるぞい”とのことです」


「筋トレはわかるが、脳トレはしない! 自慢ではないが、充分、頭は良い!」


 ディンフルがさりげなく自慢する間に、水晶玉の映像に異変が起こった。

 ユアたちの前に岩壁が立ち塞がり、モンスターに追い詰められていた。


「いかん……!」ディンフルは舌打ちをした。

 だが、状況を理解していないサーヴラスが行かせてくれるとは思えない。

 とりあえず、深呼吸をして気分を落ち着けた。


「……わかった、今は休もう。コーヒーを買って来てくれ」


 ディンフルは窓辺から離れると、外へ出ない素振りをして見せた。


「買わなくとも、城にあります。入れて参ります」


「すまぬが、新しいものが飲みたい。置いてもらっておいて何だが、インベクルのものは口に合わぬ。そうだ。チャロナグにしよう。ビラーレルでは立ち寄るたびに飲んでいたが、チャロナグのものは飲んだことがない」


「チャロナグですか……? 少し遠いですが、かしこまりました。私が不在の間、絶対に出てはいけませんよ!」


「わかっている。休むのも、体調管理の一つだからな」


 ディンフルがそう言うと、サーヴラスは部屋から出て行った。


 閉まるドアの向こうで聞こえる足音が遠ざかると、ディンフルは真っ先に窓辺に行き、森方面へ紫色の魔法弾を投げた。


◇


 インベクルの森では、ユアたちが行き止まりで追い詰められていた。

 疲れている状態で走ったので、岩壁を登る力もなかった。

 大きな人食い花の魔物が、大口を開けて迫って来た。


 その時、ツタが地面を割って現れ、ユアの足首を持ち上げた。


「ユア?!」

「ユアちゃん!!」


 叫ぶオプダットとティミレッジ。

 持ち上げられたユアを、魔物が口の中へ取り込もうとした。


「やりたいこと、まだたくさんあるのにぃ~!」


 すかさずティミレッジがバリアを張る。

 ユアの体が、白い光の膜に包まれた。


 同時に、魔物へ魔法弾が命中した。

 ディンフルが、遠くからひそかに放ったものだ。


 魔法弾が当たると、魔物は一発でパリパリに枯れ、黒いモヤとなって消えていった。


「た、助かったの……?」


 バリアに包まれたままのユアは、地面に降り立った。

 彼女の元へ、ティミレッジとオプダットが駆け寄った。


「この状況……、僕たちが勝ったんだよ!」


 フィーヴェの魔物は、倒される時に黒いモヤに変化してから消えるので、死骸は残らない。

 つまり、ユアたちの勝利である。


「やったぜ~! これで経験値大量だ~!」


「ちょっと待ってよ! 何で、急に倒せたの? 誰も攻撃してないのに……」


 喜ぶオプダットの横で、ティミレッジが疑問に思った。


「そうだよね。ティミーの白魔法じゃ、絶対に倒せないはずなのに……」


「何か、攻撃系のアイテムでも持ってたんじゃねーの?」


「持ってないよ。ユアちゃんの修行だから、なるべく戦わないように、回復用しか持って来てないし」


「う~ん……」


 腕を組み、考え込む三人だが、答えは出ない。


 そのうち考えるのをやめたオプダットが「まぁ、勝ったからいいんじゃね?」と言ったところで落ち着いた。

 ここにフィトラグスやディンフルがいれば疑問は続いたが、ユアも考えなくなり、ティミレッジも二人につられて一緒に喜ぶことにした。


◇


 インベクル王国の一室。

 水晶玉でユアたちの無事を確認したディンフルは、安堵のため息を漏らしながら、ガッツポーズを決めた。


「間に合ったな……」


「何がですか?」


 驚いて、のけぞるディンフル。

 いつの間にか、サーヴラスが小袋を抱えて立っていた。


「入る時はノックをしろ!」


「しましたよ、何度も。ですが、返事がなかったので入らせていただきました。おっしゃっていたチャロナグのコーヒーですが、城内にありました。使用人に聞いたところ、フィーヴェ中のコーヒーを仕入れているそうで、“必要な時はいつでもおっしゃって下さい”とのことでした」


「あ、あったのか……」


「ええ。インベクルは今やフィーヴェの代表国。世界中からお客様がいらっしゃるため、各地域のコーヒーを用意しているとのことです。……それで、何が間に合ったのですか?」


「……別に。眠くなったから寝る」


 ディンフルはそれだけ言うと、再びマントで身を包んだ。すると、元の寝間着姿に戻った。

 急いでベッドに入り、頭から布団をかぶった。


 サーヴラスはそれ以上追及しなかったが、ごまかされていることは薄々と感じ取っていた。

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