第33話「森の修業」
インベクル王国付近の森。
ソールネムとチェリテットは故郷の仕事で不在だったため、今日はティミレッジとオプダットがユアの修業に付き合ってくれた。
「ユアちゃん、すごいよ! 新しいモンスターと戦ったけど、もう怖がらなくなったね。レベルもまた上がったし!」
「うん。今日のモンスターは、スライムと違って気持ち悪くなかったし、怖くなかったからね」
昨晩は3だったレベルも、5に上がっていた。
邪龍と戦うにはまだまだだが、元々戦えなかったユアを知っている二人は、彼女の成長を喜んでいた。
「でも、いいのか? いきなり森に行っても?」
インベクル王国付近には森があり、ゲームでは最初の中ボスが出る地点だった。
そこへ行きたいと、ユアが自ら希望したのだ。
「もちろん! むしろ、難しいところに挑戦して、どんどんレベルを上げないと!」
ユアはチアーズ・ワンドを握りながら、力強く言った。
「朝から気合十分だけど、昨日の晩、ディンフルさんから何か言われたの?」
ティミレッジに指摘され、ユアはぎょっとした。
図星だった。
固まる彼女を見た二人は「やっぱりな……」と察するのであった。
◇
リアリティアの炭酸飲料・ニュードリを飲みながら、ディンフルはユアが持って来てくれた漫画に目を通していた。
フィーヴェには漫画の文化はないので、彼にとっては生まれて初めてだった。
しかし、内容が頭に入って来なかった。何故なら……。
「今はどこにいる?」
漫画本をベッドサイドテーブルに置くと、ディンフルは水晶玉に魔法を掛けた。
ユアたちが森へ入って行く映像が映し出された。
ディンフルはユアたちが心配で、漫画を読み進められなかったのだ。
漫画は中断し、水晶玉を眺め始めた。
◇
森に入って行くと、人食い花や派手な色のキノコのモンスターが襲ってきた。
「これが、ディン様が言ってた人食い花か!」
ユアはスライムの時ほどではないが、鳥肌を立たせながらも、チアーズ・ワンドからビームを出して戦った。
さらに、人食い花のツタを、チアーズ・ワンドで剣のように切り払っていく。
「すごい! まるで剣だ!」
「いいぞ、ユア~!」
奥へ行くにつれて、魔物の数が増えてきた。
さすがにユア一人に戦わせるわけにはいかないので、ティミレッジとオプダットも加勢に入った。
レベルが低い序盤の敵なので、倒す分には苦労しなかったが、今日はやけに数が多かった。
「ここ、こんな数の魔物いたっけ……?」
「さあ? でも、ユアのレベル上げには、うっけうけだぞ!」
「“うってつけ”ね! それじゃあ、ものすごくウケている人みたいだから!」
言い間違えたオプダットが言うように、倒す魔物が増えるほど、ユアの経験値も溜まっていった。
ところが、動き回ったせいか三人に疲れの色が見えて来た。
「ちょっと休憩しようか。僕も疲れたよ……」
ティミレッジの提案で、切り株に座って休憩することになった。
力が自慢のオプダットも、少しバテていた。
「いや~、多いな。これもヴィヘイトルの仕業かな?」
「たぶん、そうだよ。邪龍を召喚してるって言うから、魔物だって……」
ユアはクルエグムから聞いたことを思い出していた。
彼からの告白を受けなければディンフルの城を返さず、フィーヴェはもっと邪龍が増えることになっていた。
直接関係あるかはわからないが、魔物が増えたのがヴィヘイトルのせいだとすれば、一刻も早く彼らを止めなければならない。
そのためにもユアは、すぐにでも邪龍と戦えるレベルになりたかった。
「休憩している場合じゃないよ! 行こう!」
突然立ち上がるユアを、二人が驚いた目で見た。
「どうしたの? 疲れているなら休みは取った方がいいよ」
「休んでいる間にもフィーヴェは邪龍が増えていってるんだよ。だったら、休まずにレベル上げを頑張った方がいいよ!」
「気持ちはわかるが、ユアだって修行中の身だろ? 初めから無理しない方がいいぜ!」
「修行中だろうが関係ないよ! 早くレベルを上げないと、ヴィヘイトル一味も、いつ襲って来るかわからないんだよ! フィットは婚約者さんのことで忙しいし、ディン様もダウンしてるから、今が一番危ない時だよ!」
ユアはミラーレにいた頃を思い出していた。
せっかく新しい仕事を見つけた矢先にクルエグムが来たので、働きにくくなってしまった。
あの時のように、一味が突然やって来ることもある。
「じゃあ、なおさら、慎重に行った方がいいよ」
奮起するユアへティミレッジが冷静に言った。
「一味がいつ、どう来るかはわからないけど、無理して動き回っても体を壊すだけだよ。そうでなくても、ユアちゃんはまだ戦いに慣れていないんだから」
チアーズ・ワンドでの戦い方は、ある程度わかってきた。
だが、戦闘自体にはまだ慣れておらず、またスライムみたいな気持ち悪い魔物に出くわしたら、真っ先に逃げる可能性もあった。
「朝、言ってたじゃねぇか? “筋肉痛が痛い”って」
さらに、オプダットからも指摘された。
普通は「筋肉痛がある」と言うところを言い間違えていた。
確かにユアは今朝起きた時から、全身の筋肉痛に悩まされていた。
弁当屋で働いていた時も動き回っていたが、フィーヴェでの戦闘はもっと激しく動かなければならない。
そのため、普段使っていない筋肉が悲鳴を上げたのだ。
ユアは言い返せなかった。
「無理して進むより、休み休み行った方が効率的にも良いよ。休み過ぎるのはダメだけどね」
「あと、俺らもいるだろ! 今日はいないが、ソールネムやチェリーも手を貸してくれる。フィットとディンフルがいなくても、五人でジュエルを探してもいいんだぜ!」
彼らの意見に、ユアは冷静を取り戻しつつあった。
その時、三人の前に突然、巨大な人食い花が現れた。
ハエトリグサのような見た目をしていた。
「こ、こいつ、見たことある! イマストV初めての中ボスだ!」
「僕も覚えてる! 初めて戦った大きな敵だから、忘れもしないよ!」
「……お、俺も覚えてるぜ! 強かったな~!」
「忘れてたでしょ?」
三人は、イマストV初の中ボスに興奮していた。
オプダットのみ記憶から抜けている疑惑が立ち、ティミレッジからツッコまれた。
しかし、三人に緊張の色はなかった。
森の中で敵を倒し続け、経験値もたくさん得ていた。
今なら中ボスでも、すぐに倒せそうだった。
超龍と戦ったティミレッジとオプダットはもちろん、徐々にレベルを上げて来たユアですら、余裕で構えていた。
ユアは自信満々でチアーズ・ワンドを握るのであった。




