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ラスボスと空想好きのユア 2 Precious Bonds  作者: ReseraN
第1章 新たな脅威
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第13話「新たな敵」

 モヤモヤを抱えたまま、ユアはリアリティアからフィーヴェへ飛んだ。

 場所は特定できないがどこを見ても真っ暗で、遠くに町の小さな灯りが見えた。


 リアリティアでは、寮から少し歩いた先にある街は夜も明るいので暗がりは殆どなかった。

 しかしフィーヴェには、街のネオンなどの光は無い。以前ディンフルが話してくれていたので、この暗闇は予想できた。


「これだけ暗かったら、盗撮される心配とか無いよね……」


 スマホのライトを点けて歩き出したユアは怯えながらも暗がりを前向きに捉えた。

 おそるおそる歩いていると……。


「誰だ?!」


 暗闇から男性の怒鳴り声が聞こえた。

 どこから聞こえたのか特定できない。


「ひゃっ! ご、ごめんなさい! 怪しい者ではありません! ただ、フィットやティミー、オープンたちに会いに来ただけなんです! あっ! 本命はディン様です!!」


 驚いた拍子に思わず早口で言ってしまった。

 相手が誰なのかもわからずに……。


 その時ユアの姿を、やって来た白く丸い光が照らし出した。

 彼女はまた短く悲鳴を上げた。


「ユアちゃん?!」


 聞き覚えのある声へ振り向くと、ランタンを手に提げたティミレッジとオプダットが並んで立っていた。


「ティミー、オープン!!」

「ユア! 久しぶりだな~!」


 驚くユアに対し、オプダットは突然の再会に心から喜んだ。

 そして、白い光はティミレッジの白魔法によるものだとわかった。


「どうしたんだ?」


 さらに声がした。

 同じようにランタンを提げたフィトラグスがやって来た。


「ユア?!」

「フィットまで!? こんな短時間でみんなに会えるなんて~!」


 ユアが感激したのもつかの間、ティミレッジが険しい顔で聞き出した。


「何しに来たの?」

「“何しに”って、みんなに会いに……」


 もう少し歓迎してくれるかと期待していたユアはおずおずと答えた。


「悪いな。今フィーヴェは大変で、相手をしている暇がないんだ」


 オプダットが申し訳無さそうに言った。


「何かあったの?」

「無差別襲撃事件だ。ティミーの村とオープンの町で人が襲われたんだ」フィトラグスが事情を説明した。

「無差別襲撃事件……? 攻略本にはそんなこと書いてなかったよ。追加コンテンツかな?」


 ユアは思わずイマスト(ファイブ)の攻略本を取り出し、ゲーム内容を振り返った。

 この本は毎日穴が空くほど見つめて読みあさっていたので、未プレイなのにもう何周もしたかのように暗記していた。

 そんなユアでも「無差別襲撃事件」は初耳だった。

 なので、インターネットに繋ぐとダウンロード出来る追加コンテンツかと思った。それなら、今現在の攻略本に載っていないからだ。


「兵士が見回りに出てくれているが、俺たちもパトロールしているんだ」

「だから、ゆっくり話している暇が無いんだ。本当に(わり)ぃ」

「こ、こっちこそ、ごめんね。大変な時に来て」

「知らなかったならしょうがないよ。今度、またゆっくり話そうよ。長いこと会えてなかったし、リアリティアのことも聞きたいからさ」


 最後にティミレッジがわくわくしながら言った。リアリティアの楽しさを思い出したのか、険しさがすっかり消えていた。

 ユアは「う、うん……」と苦笑いするしかなかった。今のリアリティア事情は、はっきり言って幸せとは言えなかったからだ。


「じゃあ、また……」



 ユアがイマスト(ファイブ)の攻略本を手にリアリティアへ帰ろうとすると、四人を強い突風が襲った。


「な、何?!」


 思わず風から守るために手で顔を覆った。

 目を開けて手をどかすと、ユアの手から攻略本が無くなっていた。


「本が?!」


 驚愕するユア、ティミレッジ、オプダット。

 フィトラグスだけ呆然と過去を振り返っていた。


「前もこんなこと無かったか……? 砂漠で砂嵐が起きて、気が付いたらアイテムが無くなってたっていう……」

「それより、本はどこ?!」


 辺りを見回すが、本は見つからない。すると……。


「でっかい本、持ってるねぇ」


 真上から子供の声がした。

 四人が上を向いた瞬間、声の主は彼らの前方へ移動した。ティミレッジの白魔法の光で相手の顔がはっきりと見えた。


 子供は魔法で出した三日月のような形の乗り物に座っており、得意げに笑っていた。

 オレンジ色の天然パーマに茶色のロング丈の上着、手にはイマスト(ファイブ)の攻略本があった。


「その本はこのお姉さんのものだ! 勝手に取って行くなんて良くないぞ、君!」


 地上からフィトラグスが子供をたしなめると、ティミレッジが止めに入った。


「待って、フィット! オレンジ色の天然パーマの子供って……もしかして、オープンの町の人を襲った子じゃ……? それに、あの乗り物も魔法で出しているんじゃ?」

「ピンポーン♪ さすが、白魔道士は魔法に詳しいねぇ!」


 子供はティミレッジの意見を肯定した。

 降りてくる気も本を返す気も無さそうだ。


「”ピンポーン”じゃねぇ! その本をこの姉ちゃんに返してやれ! それはとっても大事なものなんだぞ!」


 今度はオプダットが子供に怒鳴ると……。


「何してんの……?」

「暗い中で耳障りだな」


 気だるい声と、静かだが微かな怒りを感じる声と共に、二つの人影が近づいて来た。


 一人は青緑色のはねた髪に、黒マスクをつけ、青緑色のジャケットを着た青年。

 もう一人は赤紫色の長い髪をハーフアップに結び、丈が短い紫色のジャケットを着た青年。さらに彼の耳は尖っていた。

 二人共、リアリティアのような現代風の衣装を身に着けており、ファンタジー世界にはふさわしくなかった。

 彼らの外見にティミレッジは見覚えがあった。


「き、君たち……昨日、ビラーレル村に来てたよね……?!」


 彼の質問にフィトラグスとオプダットは一瞬、顔を見合わせた。


「てことは、お前たちが無差別襲撃事件の犯人だな?!」


 フィトラグスが二人へ怒りを向けると、黒マスクの男は気だるそうに言った。


「“無差別襲撃事件”……? へ~え、そんな名前がついてるんだ。だる……」


 続いて尖った耳の男がわずかな怒りを見せた。


「だったら何だ? 言っておくが俺たち、謝らねぇからな」

「そうそう。誰が人間相手に!」


 最後に、宙に浮いていた少年が言った。

「人間相手に」という発言がフィトラグスたちは引っ掛かった。


「お前ら、ディファートか?!」


 オプダットが聞いた途端、黒マスクの男がいきなり蹴りを入れてきた。

 相手の足をオプダットはすかさず手で受け止めた。


「だから?」言い方は気だるいままだが、黒マスクの男のオレンジ色の目が少しだけ見開いたように見えた。


「き、聞いただけじゃねぇか! 急に蹴って来る奴がいるか!」

「君たち、人間でしょ? 僕ら、人間は大嫌いだから」


 黒マスクの男の台詞は淡々としていた。

 マスクで覆われているせいか表情もわかりにくかった。


「その台詞……やっぱり、ディファートなんだね?」


 次にティミレッジが尋ねると、今度は尖った耳の青年がギザギザの刃の剣を出した。


「だから、何なんだよ?!」


 怒号を上げ、ティミレッジへ斬り掛かって行く。

 フィトラグスがその間に入り、自身の剣で受け止めた。


「聞いてるだけじゃねぇか! 何でいきなり怒るんだ?!」

「どうせお前らも、俺らディファートを意味なく傷つけるんだろ?! わかってんだよ!!」


 フィトラグスが押され始めた。

 余裕が無くなり、ティミレッジへ呼び掛けた。


「ティミー! ユアを連れて逃げろ!」


 ティミレッジがユアの手を引き、その場から離れ始めた。

 すると今度は乗り物に乗った少年が、二人の前へ先回りして来た。


「逃がさないよ。オイラたちと出会った人間は誰一人、生きて帰さないから!」


 少年は怪し気な笑みを浮かべると、青紫色の球体を出し二人へ投げ付けた。

 ティミレッジがすかさず白魔法のバリアを張った。

 しかし球体が一度当たっただけで、バリアは粉々に消えてしまった。


「そんな弱い白魔法で守れるの~?!」


 少年はイタズラに笑いながら、再び青紫色の球体を投げた。

 一発で割れたバリアへ気を取られたティミレッジに直撃した。


「ティミー!」

「ユアちゃん……元の世界に帰るんだ……」


 ユアが彼に駆け寄っている間にオプダットとフィトラグスの悲鳴が聞こえた。

 その二人も犯人であるディファートたちに負かされ、うつ伏せに倒れていた。


 ユアは彼らがやられる様子を見ていることしか出来なかった。

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