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ラスボスと空想好きのユア 2 Precious Bonds  作者: ReseraN
第1章 新たな脅威
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第10話「無差別襲撃事件」

 その頃、ディンフルはひたすら邪龍退治に専念していた。

 特に最近は数が激増したせいで、休む間もなくフィーヴェ中を飛び回っていた。国王の依頼で行くこともあれば、その行き帰りに新たな邪龍を見つけ、倒しに行くこともあった。


 このことからディンフルを「魔王」から「英雄」へ言い換える者も少なくなかった。


 特に若い女性の間では、彼がイケメンなのもあり、ファンクラブまで作り出す者も出て来た。

 元々、魔物退治はディンフルにとってディファートの信頼回復も兼ねていたが、それ以上にユア以外の新たなファンまで獲得したのであった。


 ソールネムからの通信に出られなかったのは、これらによる多忙のせいだった。

 フィーヴェで使用されている通信機には着信履歴が無いため、誰から連絡があったのかも知る由がなかった。


 そしてここ数日、フィーヴェ中を飛んでいるのと戦いっぱなしで、彼の疲労が溜まっていた。

 手伝ってくれる人間の戦士も増えて来たが、責任感が強いディンフルはどうしてもさらなる信頼回復のためにその身を捧げようとしていた。

「我々が行くので休んで下さい」という声もあったが、彼は常にそれを跳ね除けた。



 今日もディンフルは自身の体に鞭打って、邪龍と魔物を倒していた。

 次の場所へ飛んでいると、下から若い男性の悲鳴が聞こえた。


「あそこか!」


 悲鳴がした場所へ行くと、邪龍が人を襲っていた。

 ディンフルは男性を背に降り立ち、邪龍が噴いた火をマントで防いだ。

 彼のマントには魔法が込められており、物理攻撃から身を守れるのだ。過去には何発もの銃弾を防いだこともある。


「シャッテン・グリーフ!!」


 必殺技である黒と紫の衝撃波が、一撃で邪龍を仕留めた。

 倒された邪龍は黒いモヤとなって消えてしまった。


「大丈夫か?」


 ディンフルが男性へ振り返った瞬間、彼は目を見開いた。


「お前は……?!」

「……ご無沙汰しております、ディンフル様」


 男性は弱った体で跪き、ディンフルに敬意を払った。


「サーヴラスではないか! 無事だったか!」

「はい。ディンフル様こそ、ご無事で何よりです……」


 ディンフルが助けたその男性は、短く整えられた黒髪に小さな眼鏡を鼻に掛けていた。着ていた黒い燕尾風の服は薄汚れており、綺麗な状態なら高貴に見えたはずだった。

 彼はディンフルが魔王だった時の側近だった。

 サーヴラスは今にも泣き出しそうで、消え入るような声で言った。


 話によると、フィトラグス一行が王の間に向かっても「ディンフル様なら大丈夫だ」と思い、元の位置で次の勇者を待ち続けていた。


 ところが、彼らが竜巻に吸い込まれる音を聞いて、急いで見に行った。

 そこには後から追いついたソールネムとチェリテットもおり、彼女らも仲間たちの安否を心配していた。

 サーヴラスも大切な魔王がいなくなったのでお互いに戦意喪失し、仲間を探しに出た彼女たちを見送ったのであった。

 それからディンフル一味のアジト・古城に残り、魔王の帰りを待ったが一向に戻って来ない。


「申し訳なかった。私も未知の力の前に何も出来なくてな……」

「あ、謝らないで下さい! ディンフル様も被害者ではないですか!」

「私がいない間、城を守っていてくれたのか?」

「いえ……」


 サーヴラスは話し続けた。

 しばらくは古城にいたが、ある日「自称・老師」と名乗る男が現れたそうだ。

 老師はサーヴラスにディンフルが無事だと伝えると「古城にいても無駄だ」と教えてくれた。


「どこの誰かは存じませんが、ディンフル様が無事だと聞いて安心しました。でも”城にいても無駄だ”と言うのはおそらく、“もう戻らない”という意味だったのだと思います」

「確かに色々あり過ぎて、城の存在すら忘れていたからな……。なら、しばらくはその老師と一緒にいたのか?」

「はい。自分の家に置いて下さるなどして、お世話になりっぱなしです。しかし、最近家を空けることが多いので心配しておりました。それで探しに出たら邪龍に襲われました。たくさん相手をし過ぎたので、体力も魔力も残っていなくて……」

「そうだったか。老師がどうしているかはわからぬが、心配を掛けてしまったな」


 サーヴラスはかつての主の無事を喜ぶと心から安心すると、その場で倒れてしまった。


                 ◇


 チャロナグ・タウン。

 オプダットとチェリテットは、今日も名医・アティントスの知り合いの引っ越しを手伝っていた。

 それが終わり、帰路についていた。


「今回もありかとう。彼は転勤族だから、また頼むかもしれないよ」

「それなら……」

「全然大丈夫です! 私たち火の中、水の中、どこにでも行きますから!」


 言おうとしていたオプダットをチェリテットが遮った。


「そうそう! 俺ら二人いれば……」

「百人力……いや、千人力はあるかもね!」

「そ、そうだな!」


 割ってしゃべるチェリテットを、アティントスが不思議に思った。


「どうしたんだい、チェリーちゃん? やけに元気じゃないか」

「こうやって先に言わないと、誰かさんが言い間違えますから。訂正も面倒くさいし!」

「誰だ? その言い間違える奴は?!」

「あんたでしょ! 私がどれだけ直して来たと思ってるの?! ……ん?」


 人気のない薄暗い場所に来ると、三人の眼前で中年の男性がうつ伏せに倒れていた。


「どうしたんですか?!」


 チェリテットが駆け付け、オプダットとアティントスも続いた。

 町人であるその男性は気を失っている上、うなされていた。

 よく見ると服のあちこちが破れ、傷が見えていた。


「ケガしてる! アティントス先生、手当てを!」

「まず安全な場所に運ぼう! オプダット、頼む!」


 チェリテットが言うと、アティントスがオプダットへ指示を出した。

 オプダットは町人を優しく抱き上げ、別の場所へ移動させた。

 アティントスは持っていた救急箱から道具を取り出し、町人の手当てをし始めた。


「ア、アティントス先生……?」


 手当ての最中に町人が目を覚ました。


「大丈夫か?」


 オプダットが尋ねると、町人は彼とチェリテットの名前も呼んだ。

 三人を知っているようだ。


「これは事故じゃないね。誰にやられたんだい?」


 ケガの具合を見たアティントスが尋ねると、町人は怯えながら答えた。


「子供だよ。十歳過ぎぐらいの……」

「子供?!」


 まさかの犯人が子供でオプダットら三人は驚きの声を上げた。


「子供の力でこんな傷になるのか?」

「魔法を使った。それも、かなりの威力だったよ……」


 魔法なら力が弱くても相手を傷つけることが可能だ。それなら犯人が子供でも納得がいく。

 ところがアティントスは疑問に思った。


「いくら子供でも、こんな重傷を負わせられるかな? 魔導士は子供にはあまり高等な魔法は教えないそうだよ。元々、魔力が高いならディファートの可能性があるな」


 彼の言葉にオプダットとチェリテットは言葉が出なかった。

 もしディファートの犯行ならば、せっかくディンフルが邪龍と魔物退治で取り戻した信頼が、水の泡になるからだ。


 しかし、相手がディファートだとまだ決まったわけではない。

 二人は犯人がそうでないことを祈るしかなかった。


                 ◇


 その頃のビラーレル村。

 ティミレッジもソールネムも邪龍研究を終え、帰路についていた。


「結局、今日も通信できなかったわね」


 ソールネムは、相変わらずディンフルと連絡が取れないことを残念に思っていた。


「仕方ありませんよ。ディンフルさんも忙しいんですから」

「いくら忙しくても音が鳴ったら普通出るでしょ? 私と話したくなくて、わざと居留守を使っているのかしら?」


 ソールネムが冗談ぽく言った。

「そんなことありませんよ!」と、信じたティミレッジが慌てて否定する。


「無いことは無いわ。一度、彼とディファートをこの世から消そうとしたんだから」


 イマスト(ファイブ)の戦いが始まる前、ソールネムはビラーレル村の魔導士たちと協力して魔法のジェムを作り、それでディンフルと全てのディファートを葬ろうとした。

 結局ティミレッジがジェムの一つを破壊したことで失敗に終わり、ディンフルもディファートも九死に一生を得た。

 ディンフルが邪龍退治に勤しみ、ディファートが保護される今となってはティミレッジの行為をソールネムは心から感謝するのであった。


「あれはもういいじゃないですか。ディンフルさんもディファートも、みんな無事だったんですから」

「あなたのおかげでね。でも、私自身は嫌われても仕方がないと思っているわ」

「今さら嫌いますかね? ディンフルさんも邪龍退治には積極的で、ソールネムさんのことも頼りにしていますし。本当に忙しいだけだと思いますよ」



 ティミレッジがフォローをしていると、前方から三十代ほどの男性が走ってやって来た。ビラーレル村の住民だった。

「こんばんは」と言い掛けるティミレッジを相手は遮った。


「助けてくれ!」


 男性は切羽詰まった様子で救いを求めた。


「お、追われているんだ……! 身に覚えのない奴らに!」


 すると男性を追うように、二つの人影がこちらへ向かって来るのが見えた。


 時刻は夜。顔はよく見えなかった。

 ただ、追手の怒りを交えた叫びが聞こえて来た。


「待ちやがれ!」


 只事じゃないと睨んだソールネムが男性の前に立ち、追手に向かって魔法を唱えた。


「エクスプロージョン!!」


 彼女の手から巨大な炎が弾け飛び、暗かった景色に光が灯った。

 追って来た二人は思わず足を止めた。


「引き返すぞ!」


 最初の乱暴なセリフを吐いた者が、もう一人の追手に声を掛けた。

 そしてこちらを睨みつけて舌打ちをすると、踵を返して行ってしまった。


 敵がいなくなるとソールネムは魔法を消し、村に静けさが戻った。


「あ、ありがとう! やっぱりソールネムの魔法は最強だな!」


 安心した男性は彼女にお礼を言った。


「今のお二人、誰なんですか?」

「わからない。見ない顔だから、よその人じゃないかな。とにかく急に襲われて大変だったよ……」


 ティミレッジに尋ねられた男性は脱力しながら答えた。

 命拾いをしたので、体の力がすっかり抜けてしまった。


「初対面なのに襲って来たの? また問題が増えたわね……」


 ソールネムはため息をつくと、起こり始めた無差別襲撃事件を呪うのであった。

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