95話 執着の片鱗1
あの後はゆっくりとして帰った。帰り道は恥ずかしくてお互いに何も喋らずにただ横に並んで歩いて帰った。その時間が不思議と嫌じゃなかった。僕が雪菜さんのことは好きだと分かっているけど、彼女がどう思っているかまでは分からない。
ただのご褒美としてやってくれたのか、僕だからという理由なのかは分からないが、今はすごくふわふわしている。雪菜さんは僕が好きって思っていいのか? 違った場合はすごく恥ずかしい。
「サキおかえり」
「ただいま」
「・・・大丈夫なの?」
「問題ないよ。少し仰向けになっているだけ」
「お父さん〜サキを見ていてくれる?」
「分かったよ」
もう父さんも帰って来ていたのか。何故僕は玄関にまだいるんだろう。靴も脱がずに仰向けになって冷たい廊下にいる。雪菜さんとはキスするのは二回目ではあるが、ドキドキ具合が全く違う。
他の人にもしたことがあるとしたらモヤモヤと嫉妬にも似た感情が出てくる。だけど彼女は僕のってわけではないから本人の自由だと頭では理解しているのにそれを心が否定している。
「一体どうしたのかな?」
「父さん……人を好きになるってしんどいね」
「サキはどうしたい?」
「・・・」
本当にどうしたいのかは分からない。いや……分かっているけどそれを見たくないって言った方が正確かな。どうしたいって答えは分かっているのにそれを見たくないってどうしてなんだろう。
「お母さんと一緒の表情をするな」
「母さんと?」
「そうだよ。あの家から逃げる為に“どうしたい”って聞いたらサキと同じ顔をしたんだよ」
「へぇ〜母さんがね」
「いっぱい悩みなさい。その前に飯を食おうか」
いっぱい悩みなさいか……父さんらしいかもしれないけど、それっていいことなのかな? まぁいっか。僕は悩みに悩んで答えを見つければ良いわけだしね。その前に父さんが言った通り晩ご飯を食べて、今ある問題を全て終わらせよう。
その前にこの足をどうにかしないとうまいこと動けないからねぇ。まぁそれに関しては時間が経てば治るからいいんだよね。僕の記憶についても調べないといけないことが色々とあるんだよな。よくよく考えればおかしい点があるからどうしたものか。
父さんや母さん、他の奴らに知られないようにしておかないとな。僕を心配して止めに来る可能性があるからそれをどうにか阻止しないといけない。足が治るまではスマホで調べるとして、治ったら図書館や何か情報を知っていそうな場所を回るか。
監視が多分付いていると思うからソイツらを見つけて拷も、じゃなかった。お話するってのもいいがそれだと面倒なことになるから気絶させてどこかに放りこんでおくか。はぁ……やることが多いのはヒドイと思うぞ。神様なんてクソくらえだ。
◇◇◇
[桜木雪菜視点]
私は今自室のベッドの上で”サブマッリン“の時のことを思い出していた。姐さんに試されたらしいけど私自身はそうだったんだとしか思わなかった。サキくんのことは昔から好きだったし、釣り合ってないってことも知っている。
サキくんは昔から特別で私なんかが隣に居れる訳がないってことは痛いほど分かっていたつもりだった。演劇会の時にたぬちゃんとサキくんが主役に選ばれていた。私はただの木役だったんだけど、二人の演技はその場にいた人々を魅せていた。
私はそんな二人を見て胸がひどく痛んだのを今でも覚えている。だって二人を見ていたら
〈サキくんの隣はたぬちゃんが似合ってる〉
って自然と思えてしまった。だから胸が痛かったんだと思う。
私よりも隣に相応しい人がサキくんにはいるんだって。演劇会の後はあまり覚えていないのはショックだったからだと私は思っているんだけど、もしかしたら違うかもしれない。
「サキくんを諦めれたらどれほど良かったのかな?」
諦める理由はいくらでもあったけど、そんなのは無理だった。どれだけ魅力的な人がサキくんの近くに居たって、私よりも優秀で頼られていても絶対に諦めなかった。心が折れそうになった時もあったけど、イマジナリーサキくんで持ちこたえた。
だけどやっぱり忘れられているのはツライよ。私のことも認識してくれなかった時もツラかったけど、サキくんは相変わらず優しかった。不器用にその優しさを周りに与えているところも光に照らされたら青くなるところも何も変わってなかった。
「サキくんが何も変わっていないのなら諦める理由にはならないよね」
私はサキくんにキスしたわけだし、膝枕だってした。だから私は夜夢さんよりもリードしているし親しくなっている筈……大丈夫なのかな。サキくんに相談した方がいいのかな? いや夜夢さんのことだからもう知っているかもしれない。
「・・・絶対にサキくんを巻き込まないように私が何とかしないと」
もういいと思う。サキくんは自分が傷つくことを知らないフリをする癖があるんだから私がそんなことないようにすればいい。サキくんは自身が傷つくことで悲しむ人がいることを知っているのに向かうからなぁ。
「私がそれを止めればいい」
そう止めればいい。例え私に傷が増えたとしてもサキくんを守る。守られるだけの存在じゃないってことを見せてやるから覚悟しておいてね。サキくん♡
「お姉ちゃーん、ご飯できたよ」
「はーい」
晩御飯が出来たみたいだからリビングへ行こうと思ったが、パソコンを開いているのを忘れていた。危ない危ない。みんなにバレないようにしないといけないのに。
「パソコンよし! 壁紙よし! クローゼットよし!」
パソコンはサキくんの部屋を盗撮しているところが映っているし盗聴もしている。壁紙はサキくんの今までの写真が貼ってあるのを隠している。クローゼットにある鍵付きの箱には【サキくん使用済み】がある。家族にバレたら全て没収されるから必死にかくしている。
「ぜっったいに結婚しようね。サキくん♡」
今日撮った写真にキスをしてリビングへ向かった。




